かつてカプコンから発売された『ストリートファイターII(以下、ストII)』のことを知らない人はいないだろう。今日の対戦格闘ゲームの基礎を築き上げた作品であり、未だに最新ハードなどにも移植されることがあるほどの名作だ。まさに対戦格闘ゲームブームの火付け役、といった感のあった『ストII』だが、そんなタイトルを手掛けたのが、当時カプコンに所属していたゲームクリエイター・西谷 亮氏である。
西谷氏の作ったタイトルは『ストII』以外にも、ローリングスイッチを採用したシューティングゲーム『ロストワールド』や、これまた国内外でヒットしたベルトアクション『ファイナルファイト』など、今も名作と語り継がれるゲームが多い。また、西谷氏がARIKAを創業してからは『ストリートファイター』シリーズを初めてポリゴン化した対戦格闘ゲーム『ストリートファイターEX(以下、ストEX)』シリーズや『FIGHTING EX LAYER(以下、FEXL)』シリーズなども手掛けている。
そんなヒットメーカーである西谷氏監修のもと、この度、ARIKAより『FEXL』の続編『FIGHTING EX LAYER -ANOTHER DASH-(以下、FEXL AD)』がNintendo Switchにてリリースされた。なお、この『FEXL AD』は『FEXL』のシステムをリセットして新たに再構築されたものであり、そのゲームバランスはまったく別の作品というレベルにまで変貌を遂げているのが特徴だ。
前作『FEXL』では斬新すぎるシステムについていけず脱落した筆者だが、今回、気持ちも新たに『FEXL AD』をじっくりとプレイしてみたので、早速その魅力についてお伝えしていきたい。
(※当記事は2021年4月1日にリリースされたVer.2.0.0をもとに執筆されています)
文/泊 裕一郎
地道な地上戦とワンチャンスからの強力コンボ。静と動の落差が面白い!
かつて『ストII』シリーズなど古い対戦格闘ゲームで育ってきた格ゲーマーには「地上戦こそ至高!」といった考え方を持つプレイヤーが少なくない。いわゆる「地上戦」や「差し合い」と呼ばれる要素は、相手との間合いを調整ながらお互いの技がギリギリ届くか届かないかの位置で相手の攻撃を見切り、チャンスと見れば自分の攻撃を叩き込む、といったもの。はた目には地味な戦いともとれるが、その実、両者の思考が激しくぶつかるやり取りであり、それを楽しみたいがためにずっと『ストII』シリーズをプレイしている、という人もいるほどだ。
ARIKAの過去作品においては『ストEX』シリーズなどで熱い地上戦が味わえたのだが、この最新作『FEXL AD』においても、それらと同様に、じっくりとした地上戦を楽しむことができる。前作『FEXL』がダッシュを使った攻撃の応酬がメインだっただけに、『FEXL』プレイヤーはこの差を物足りなく思えるかもしれないが、『ストII』や『ストEX』にハマっていた身としては『FEXL AD』の地上戦の方が断然、好みの仕上がりではある。
もう一点、筆者に刺さったのが「スーパーキャンセル」と「EX-システム」の存在だ。スーパーキャンセルとは、通常技や必殺技、スーパーコンボなどをスーパーコンボでキャンセルするシステムのこと。普段はコンボをダメージアップするための手段として利用できるが、一方でわざとスキが大きい技をガードさせ、そこに相手が差し返してくるならスーパーキャンセルを、そうでないなら何もしない……といった駆け引きが発生。そのため相手がスーパーコンボゲージを蓄積しているときは読み合いの要素も増え、より緊張感ある戦いが楽しめるのである。
また、オリジナル要素であるEX-システムは『FEXL AD』における対戦のキモとも言うべき重要なもので「EX-DASH」「EX-ARROW」「EX-ILLUSION」の3種類が存在。それぞれスーパーコンボゲージを消費して出す技だが、そのうちEX-DASHは地上で、EX-ARROWはジャンプ後に空中でチェーンコンボを出すことのできるいわばコンボパーツに近い使い方が可能だ。『ストリートファイターEX2』をご存知であればわかるだろうが「エクセル」に近いシステムだと言える。
なかでも特筆すべきはEX-DASHがらみのコンボによる破壊力。EX-DASHは地上判定の技すべてにキャンセルがかけられることから、使い方次第でスーパーコンボゲージのつづく限りコンボをループさせることも可能となる。これが本作で最高に気持ちよくなれる瞬間で、それまでの地味な差し合いが一転、ワンチャンスからのループコンボで一気に相手の体力を奪って倒せたときの爽快感は非常に高い。もちろん要練習のテクニックではあるが、これをマスターしておくだけで『FEXL AD』の楽しさが1ランクは上がるはずだ。
バランス調整待ったなし!? でも、こんな『FEXL AD』が遊べるのは今だけ!
対戦格闘ゲームで楽しいのはやはりなんと言っても対人戦に尽きる。昨今の対戦格闘ゲームの例にもれず本作もオンライン対戦に対応しているため(※有料版のみ)、いつでも対戦相手を探すことができる。対人戦は勝てば嬉しいし、相手が自分の想像を上回れば緊張感が増し、敗北すれば悔しく、対策を構築しているときは楽しい、それこそいくらでも遊べるコンテンツだと言えるだろう。
ちなみに、現状のバージョン2.0.0においては一部のキャラクターのバランスや、システムそのものの存在がかなり尖った調整で採用されている。そこにはガード不能技、永久コンボ、EX-DASHの強力さの問題などが含まれており、それらを使いこなす猛者がうずまくオンライン対戦はちょっとした魔境のごとしだ。
とは言うものの、本作には自分と同程度の腕前を持った相手と戦えるランク制限機能が備わっているため、無駄に恐れる必要もない。それに、こんな混沌とした状況下で対戦できる面白い状況は今しかない、とも筆者は考えている。一部の例外を除けばそんなバランスのもとでも対戦が成立しているのだから、まずは恐れず対人対戦を味わってみてほしいところだ。
なお、上述したキャラ性能のバランスについては修正対応中とのことで、ARIKAよりコメントをいただいている。
「ROM作成の手続きのミスで問題のある技、キャラクター性能が混在しているため、現在修正と承認作業を行っております。必ず皆様の納得してもらえる調整になりますので、お待ち下さい」
FEXL_ADディレクタ 氏家 2021/4/10
これが適切な例かはさておき往年の名作『ストII』も1発の弱攻撃が入っただけで終わりが見えるゲームバランスではあったが、それでもみんな泣かずに(泣いていた人もいたかもしれないが)100円を投入しつづけていたものである。当時の対戦格闘ゲームは続編はあってもアップデート対応というのは今ほど多くなかったし、それに比べれば次回以降のアップデートでバランス調整が約束されているぶん『FEXL AD』の未来はすこぶる明るいと言える。ともあれ、ひとまずは現在のバージョンを楽しみながら新生『FEXL AD』登場の時を楽しみに待つことにしたい。
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