『FF』を脱してオリジナルRPGへと変貌を遂げた『ファンタジアン』が面白すぎたのでちょっと解説してみた。『ファイナルファンタジー』生みの親の坂口博信氏が牙をむく

 『FΛNTΛSIΛ‪N‬』(以下、ファンタジアン)後編が面白すぎてヤバい。完全に、坂口博信さんがプレイヤーに牙をむいている

 おっと、少し焦りすぎてしまった。
 『ファンタジアン』とは、iPhoneなどを発売するAppleの定額ゲームサービス「Apple Arcade」のキラーソフトとされる大作RPGのことだ。

 『ファイナルファンタジー』(以下、FF)の生みの親である坂口博信さんの率いるミストウォーカーが制作し、同じく『FF』の音楽を担当した植松伸夫さんが全楽曲を手がけるRPGで、いわばジェネリック『FF』的なものとして話題になった。

 実際、坂口さん自身も「『FF6』を意識した作りで、『FF6.5』だと思っている」というような発言をしていて、大作と言われるにふさわしい優等生な、悪く言えば大衆向けなRPGだと思っていたのだが……蓋を開けてみたら、これが思った以上に難しい

 何が難しいって、ボス敵が最近のRPGにないほど強い。
 RPGの長所は、誰でもレベル上げで難易度調整して攻略できることと言われるが、ご丁寧にも『ファンタジアン』後編はレベル上げで攻略する方法をシステム的に塞いでいる。

 ボス敵が超強くて、しかもレベルに頼らず倒さなければならない。だからこそ面白く、尖っていて、近代『FF』にはないオリジナリティを感じる。
 そんな『ファンタジアン』を本日は紹介したい。


「これが遊びたかった」優等生、ファンタジアン前編

 さて、最初にゲームの紹介もかねて『ファンタジアン』前編から紹介していこう。

 『ファンタジアン』前編は、重要なミッション中に記憶を失った青年レオアが、自らの記憶の手がかりを探しながらさまざまな人と出会い、世界を浸食する死械球の謎、世界の危機に立ち向かう王道RPGだ。

 本作に関してはApple Arcadeの発表時から目玉作品として紹介され、なかでもジオラマを作ってからゲーム内に3Dデータから取り込む手法を使っていることが大々的に宣伝されていた。

 筆者は当初、「ジオラマだからなんだ」と内心で思っていたが、実際にプレイして見て意見は完全に変わった。

 ジオラマ取り込みの映像は、『ファンタジアン』のゲームを不思議世界の旅として演出していた
 ジオラマ模型は現実に存在する品物で作っているから、材質自体にはリアル感がある。しかし、偽物だから現実とはどこか違う。その不思議さが画面からあふれていた。

 とくに小物の多い小屋の中などは興味深く、画面に顔を近づけて細かく何度も見まわしたものだ。ジオラマグラフィックは、見ること自体をゲーム目的にしてしまうほどの存在感を発揮していた。

 ゲームプレイ面でも『ファンタジアン』前編は良くできていた。
 ターン制バトルを採用し、一本道のストーリーを追う馴染みの仕組みで、雑魚はサクサクと、それこそスマートフォンのハイパーカジュアルゲームかのように気持ちよく倒せる。

 要所で登場するボスには、必ず適度に苦戦するようになっていて、バトル中も緩急がある。

 操作性もタッチパネル向けに設計されていて無理なく、ストーリーも適度に盛り上がり、「そうそう、こんなRPGが遊びたかったんだ」と唸ってしまう作り。

 人間は欲張りなもので、独自性の高い尖ったゲームが好きな人間でも、ときには慣れたゲームも遊びたくなる。実際、「あの頃のRPGのような体験を!」という意味のキャッチフレーズはよく見られる。

 そんな人が求める「あの頃のRPG」を、現代基準の快適さで提供する優等生が『ファンタジアン』前編だった。

 補足しておくが『ファンタジアン』前編は単なる過去の焼き直しではない。緻密なバランス設計、プレイヤーのストレスを軽減する目立たない裏方の仕組みで成立している職人の技で成立しているゲームだ。

 筆者はプライベートで1回前編を遊び、本稿の執筆にあたって前編と後編を通してプレイし、累計で前編を2度プレイしている。
 1回目は力押し気味にボスを攻略し、2度目のプレイでは細かいバトルテクニックを駆使してスムーズにゲームを進めたが、驚くべきことにケースでもボス攻略には苦戦と達成感があった。

 ただ漫然とゲームを進めても、苦戦した手応えと共にボス敵を攻略できる。
 駆け引きが得意なプレイヤーや2周目のプレイヤーは低レベルでゲームが進行し、やはり苦戦とテクニックによる攻略の達成感が得られる。
 誰もが「良い手応え」と感じられるようにコントロールされていて、「こんなRPGで良いんだよ」と満足げに語ってしまう。

 緻密なバランス設計で誰にでも「あの頃の面白さ」を提供していることが『ファンタジアン』前編のすさまじさだった。

そして、オープンワールドRPGの後編へ

 そんな『ファンタジアン』後編は、一本道だった前編から一転し、ラストで散り散りになった仲間を探し、合流していくオープンワールドRPGになる。
 情報を元に仲間を探しても良いし、気になる場所に移動してただ探索をしても良いし、好きな場所を好きな順番で探索できる。

 ジオラマを取り込んだ風景は相変わらず素晴らしいし、前編で探索した町も進行に合わせてメッセージが変化し、新しいクエストなどが追加され、また探索を楽しめる。

死械球で覆われた城。メッセージはもちろん、風景も前編とはがらりと変わる場所も
前編で消し飛んだ機械王国の秘密基地を復興させるクエストも

 システム的にもポイントを振り分けて能力を成長させ新スキルを覚えるスキルツリーシステム“成長マップ”と、武器や防具を強化する仕組みが加わって自由度が増す。

 本作のベースとして語られる『FF6』は、シナリオを楽しむ前半、オープンワールドでの仲間さがしや育成を楽しむ後半に分かれていた。『ファンタジアン』も前編と後編で同じように遊びが変化するわけだ。

 前編は2021年4月にリリースされたが、後編についてはこういった情報だけが明かされていた。
 これなら優等生な『FF6』っぽいもの……つまり、『FF6.5』が遊べるだろう

 そう思って遊んだ『ファンタジアン』後編、その最初数時間は期待通りの内容だった。『FF6』の構造を踏襲しながらシステム面、とくに仲間キャラクターに関する問題点を解決していたからだ。

「これが、FF6に対する回答だよ」

 『FF6』の仲間問題とは、多数のキャラクターがいるのに結局は4人しか使わないパターンが多いという問題だ。

 『FF6』でも散り散りとなった仲間を探すが、後から合流する仲間ほどレベルが低くて弱い。育成したければパーティーに加えて戦わせる必要があり、しばらく戦力が下がってしまう。

 そこまでして育てても戦闘では4人しか使用できないから、すでに強いキャラクターを差し置いて後から仲間にしたキャラクターを育成するモチベーションもかきたてられず、結局同じ4人を使い続けることになる。

 『ファンタジアン』は、その問題を明確に意識し、解決した。

 仲間になるときにキャラクターレベルが低いのは変わらないが、パーティにいないキャラクターも戦闘のたび経験値が手に入るので、低レベルキャラクターを育てやすい。さらに、敵よりもレベルが高いキャラクターは経験値の入手量が激減するため、合流してしばらくすると同レベルまで容易に追いつく。

 「全キャラ使えるようにしておいたからな」という坂口さんの声が聞こえてくるようだ。最高すぎる。

 さらに、バトルでは行動順が来たキャラクターと控えキャラクターをいつでも入れ替えが可能で、入れ替え後にすぐ行動もできる”チェンジ”システムが後編から加わる。
 これによって、全キャラクターを1回の戦闘で活躍させられるようになり、たくさんキャラクターがいるのに結局一部しか使わない問題は解消。ボス戦などは全員が入れ替わり戦う総力戦を味わえる。

「キャラ育成だけでなく、システムも整備しておいた、好きなだけ使っていいぞ」

 うま、うま。そんな坂口さんの声が聞こえるような、パーフェクトな『FF6』への回答。

 神か。

 これを知ったとき、『ファンタジアン』後編は無難だけど優等生で面白い『FF6』系RPGになるのだと考えていたわけだ。

坂口博信、プレイヤーに牙をむく

 そして、話はやっと記事冒頭の「ボス敵が強すぎてヤバい」という話に戻る。ゲームを進めること10時間、初期の優等生ゲームになるだろう、という予想は完全に外れていた。

 もう1度強調しておくが、『ファンタジアン』後編のボス敵は最近のRPGにないほどに強い。強すぎる。最初にボス戦で3回ぐらい負けたとき、思わず「まじかよ」と声に出して呟いてしまった。

 本作ではダンジョンに挑むとき推奨レベルが表示される。
 多くのRPGでは、推奨レベルに達していれば問題なく攻略できることを示すが、本作では推奨レベルで力任せにボス敵に挑むと普通に敗北するのだ。
 そう、『ファンタジアン』後編において推奨レベルの意味は「ボスを倒せるかもしれない最低レベル」でしかない。

地名の下に「推奨レベル:LV44」とあるが、推奨レベルでそのままクリアできることは半分ぐらいしかなかった。

 え、RPGなんだからレベルを上げて物理で殴ればいいって?

 たしかに、RPGの戦闘で行き詰まったときはレベルアップすれば解決することは多い。が、先に書いたとおり、本作では敵よりもレベルが高いキャラクターは経験値の入手量が少なくなる。
 「レベルアップは逃げだよ」と言わんばかりに成長を抑制し、強制的に適正レベルでボスとの戦闘を行わせる仕組み。
 もちろん、レベル上げで難易度を緩和することもできるが、普通にプレイしていると適正レベルでボス敵と対峙するように作られているのだ。

 ボスに用意されたユニークな行動パターンや、その戦闘で使い切りのギミックを覚えてやっとスタート地点。
 さらに、それにあわせて成長マップのスキル割り振りを修正し、装備を修正し、試行錯誤を重ねてやっと勝てる。
 正しい攻略方法を見つけられなければ、適正レベルを超えていても負ける。

単体でも凶悪なのに、体力が減ると攻撃が全体攻撃で実質2回攻撃になるボスも。行動パターンを完全に把握してさばかなければならない。

 その遊びは、もはやパズルゲームの領域。
 なんとまあ、尖ったゲームに仕上げたものだ

 多彩なキャラクターが集い、バトル中も自由にパーティー変更でき、成長マップシステムや装備変更で育成にもかなり幅が仕組みを用意した。システムを作ったら、使って欲しいのがクリエイターの人情か。
 私の脳内では、「ここまでシステムを作ったのだから、フルに活用させなければなぁ……?」と、坂口さん(※先ほどから登場しているが、あくまで脳内で作り上げた幻想)の声すら聞こえていた。

 わりと、悪の大魔王的なイメージで。

強すぎるボスが、『FF6』改造を意味あるものにしていた

 とは言え、そのままゲームの負けっぱなしなのも悔しいのでボスを放置して別のダンジョンの攻略を始めた。

 本作では、多数のワープポイントが用意されていて、1度行った場所であれば自由に瞬間移動できる。
 ほとんどのボス的の直前にワープポイントが設定されているため、ボスを倒せなければ即座に別の場所に行けばいい。

 ギリギリ倒せなければ適正レベルが高い場所に行ってレベル上げしても良い(とは言え時間はかかるし、最終的に適正レベルが高い場所のボスは工夫で倒さなければならない)し、別のダンジョンを探索しているときに宝箱から対ボスで有効なアイテムが出てくるかもしれない。

 ほとんどのダンジョンには物語があり、ボス敵を倒せないと物語が中断してしまう、というのは惜しい点だが、ダンジョンですぐにボスを倒すことを諦め、「ボスを倒すために冒険する」と考え始めてからてから『ファンタジアン』後編はがぜん面白くなった

最後の試練を攻略できず、かなりたってから戻ってくるとバツが悪い(笑)

 オープンワールドで自由に好きな場所を冒険している最中も、倒し損ねていたボスのことが頭に残っていて、どこかで攻略に足りないピースが埋まった瞬間に「これだ!」とひらめく。

 その瞬間の面白さが私を虜にしたのだ

 さまざまな場所を訪れてアイテムを得て、「これがあれば、倒せなかったボス敵も行けるか!?」と感じ、試し、成し遂げる達成感は抜群。そして、ボス敵を倒せばほぼ必ず報酬があり、それが他の場所の攻略にも続いていく。
 最終的にボス敵を倒すパズルのために冒険するまでになっていた。

 もちろん、気になった点だってある

 1度探索した場所は、ジオラマを見ても感動が薄れているから早歩きしたいとか、ボス敵、雑魚敵ともに前編より強くなった結果として戦闘時間が長くなりすぎているなど、おとなしくてスラスラ進む前編にはなかった問題が出てきている。

 とくに終盤に出てくるある1つの長いダンジョンは雑魚が面倒だった……成長マップをいじって雑魚敵特化キャラクターを製作して乗り切った。

 それでも、この「ボス敵を倒すためにオープンワールドを旅する」感覚はそれを超える良さを提供してくれた。前編は1本道でストーリー主導、ジオラマを見たい気持ち主導の2本軸で遊んでいた。後半はストーリーとジオラマ、さらにはボス敵攻略の3重の動機でプレイできるようになり、前編にはないプレイの軸がある。

 強敵は、本作のオープンワールドにおいて必要なパーツで、終盤までボスを倒す楽しさは続き、最後はストーリーの盛り上がりに引き込まれて一気にプレイし、全体としてはとても満足できた。
 後編クリア時のプレイ時間は、およそ50時間。よくもまあ、一気に遊べたものだと思う。このゲームにそれだけの魅力があったからこそ遊べたのは間違いない。

 クリア後、私の脳内にいた坂口さんは「なあ、ゲームってのは攻略して打ち勝つものなんだよ。楽しかっただろう?」と語り、去っていった気がする。

やっぱりこれ、『FF6.5』じゃなくてミストウォーカーオリジナルRPGだ

 さて、プレイの流れにそって本作の魅力を筆者なりに語ってきたが、最後までプレイした今になって「これは『FF6.5』じゃなくて開発チームオリジナルRPGだった」と感じるようになった。

 プレイ中……とくに本作の前編は『FF6.5』といっても差し支えない、『FF6』の不満点を無難につぶしたRPGだったように思う。物語りを途切れさせる雑魚戦闘が少なくなり、移動が快適になり、後戻りできない育成要素がなくなり、システム的な不満が解消された快適な一本道RPGだった。

 後編でも似たアプローチで、『FF6』に存在した多彩な仲間を使い切れない欠点を解消したが、『ファンタジアン』制作チームは、先まで作ってしまった。
 『FF6』を踏襲するのであれば、特別に強いボス敵を用意する必要はない。好きな仲間が使えるように改良しただけで、好きなメンバーでゲームを攻略できる楽しさが加わるし、メンバー厳選が必要な隠しボスと戦うときの攻略が楽しくなるメリットが享受でき、そのままでも楽しいはずだ。

 が、『ファンタジアン』後編ではそこから一歩踏み込んで、「多彩な仲間を使えるようになったら、それを使った手強い遊びをメインストーリーに組み込む」ところまで挑戦した。

 普通のRPGでは、ボス敵が登場しても多くはパターン化した最強戦術のようなもので倒せてしまう。しかし、『ファンタジアン』のボス敵は、同じパターンで倒せないように、どれも個性的な行動をとるので戦術に毎回変更を加える必要がある。ボス敵が登場するたびにパズル的な攻略を楽しめるよう、それはもう作り込まれている。

 パズル性が崩れないよう、システム的にもプレイヤーのレベル制御までしており、これがゲームの柱としているのは明確だ。前編からボス戦の面白さはあったが、後編になって仲間システムの改良と育成システムを絡めたボス戦は『ファンタジアン』独自の楽しさ、と言えるところまで昇華されている。

 実際、終わった今になって思い返してみると素晴らしいジオラマ風景、音楽、物語、それに並んでボス敵に苦戦したことが浮かぶ。
 始めたときは『FF6.5』を遊んでいる気分なのに、終わったときは手強いボスを倒し、『ファンタジアン』という新しいオリジナルRPGを遊んだな、という感覚がある。

 本作は、『FF6.5』のような顔をしてプレイヤーの懐に入り込み、遊びつづけるといつの間にかバトル重視のRPGに変化し、プレイヤーを新しい遊びに引き込むオリジナルRPGだ。遊んでみると、懐かしいだけのRPGを遊んでいたつもりが、新しい遊びに引き込まれていることに驚くだろう。

 『FF』の父、坂口博信さんの新しいゲーム『ファンタジアン』は、オールドファッションなシステムにジオラマという新奇な要素を加えたRPGと見せかけて、それで終わらない。

 昔ながらのRPG好きも、そうでない人も手を出す価値があるオリジナルRPGだ。

ライター
ゲームキャスト
スマートフォンゲームを中心に扱うブログ、ゲームキャストを運営しているライター。ガラケー、iPhone 3G時代から携帯ゲームを中心に遊んできた、たたき上げの携帯ゲームライター。
最近のイチオシはSwitchの『ジャック・ジャンヌ』。
Twitter:@gamecast_blog
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