2022年4月20日(水)、『ファイアーエムブレム』シリーズが32周年を迎える。
記念すべきシリーズ第1作は、ファミリーコンピュータ(以下、ファミコン)向けに1990年4月20日に発売された『ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣』(以下、暗黒竜と光の剣)だ。「アリティア王国」の王子「マルス」を主人公としたシミュレーションRPGで、味方ユニットの「クラスチェンジ」や特定のユニット3体で囲むと発生する「トライアングルアタック」などの要素はこの初代作から採用されている。
また、それまでのシミュレーションゲームでは「駒」にすぎなかったユニットを個性あるキャラクターとし、ひとりひとりに感情移入するといった楽しみを創造。そして死亡してしまったキャラクターは復活できない、という原則が仲間の重みを強く感じさせ「ユニットを失わずにクリアするにはどうしたらいいか」など、新たな戦略性を作りあげることに成功した。
第2作は、同じくファミコン向けに1992年3月14日発売の『ファイアーエムブレム 外伝』。ストーリー面において前作との直接的なつながりはないが、世界設定や年代は共有している。
ワールドマップを自由に移動し、敵と遭遇すると戦闘に移行するというシステムを採用。戦闘マップ以外にも村や修道院、神殿といったロケーションが用意されていた。ほかのシリーズ作品と異なり資金の概念がなく、武器の使用回数制限も存在しない。
続いて1994年1月21日に、『ファイアーエムブレム 紋章の謎』(以下、紋章の謎)が発売された。シリーズではじめてスーパーファミコンに向けて展開したタイトルであり、『暗黒竜と光の剣』のリファインとなる「暗黒戦争編」と、その続編となる「英雄戦争編」の二部構成の作品である。
システム面では命中率や回避率などが上がる支援効果が導入され、より戦略の幅が広げられた。行動を終了したユニットを再行動させる「踊り子」など、新職業も複数登場している。
2年ほどの時を経た1996年5月14日、同じくスーパーファミコン向けに『ファイアーエムブレム 聖戦の系譜』(以下、 聖戦の系譜)が発売。4作目にして世界設定を一新し、主人公は「シグルド」に。国家間における戦争が物語の中心となっている。
ユニット同士の好感度が上がることで発生する結婚イベントや、子ども世代のユニットが変化する恋愛システムなど、のちのシリーズに影響を与えた要素が多数搭載された。ユニットの個性を際立たせるスキルシステムや武器の三すくみ、騎馬ユニットの再移動なども、本作ではじめて実装された仕様である。
1999年9月1日には最後のスーパーファミコン向け作品として『ファイアーエムブレム トラキア776』がリリース。前作『 聖戦の系譜』の外伝作品にあたるが、シナリオ進行には異なる部分もある。
システム面では「体格」のパラメータがはじめて登場。高いユニットほど重い武器を扱いやすく、「かつぐ」、「捕獲」といったアクションも可能となった。一定確率で行動済みのユニットが再度動ける「再行動」や蓄積すると出撃不能に陥ってしまう「疲労」など、本作特有のシステムも見られる。
その後、ハードウェアがゲームボーイアドバンスへと変わり、2002年3月29日に『ファイアーエムブレム 封印の剣』が登場した。主人公は、のちに『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズにも登場する「ロイ」。シリーズで初めて携帯機向けに発売された作品でもある。
『聖戦の系譜』の支援効果システムをアレンジした「支援会話システム」が特徴で、キャラクター同士の絆の深まりがゲームプレイの中でより感じやすくなった。支援会話イベントでは彼らの意外な一面を見る機会も生まれるほか、ユニット同士の好感度はエピローグにも変化を与えていく。
続いて2003年4月25日に、同じくゲームボーイアドバンス向けに発売されたのが『ファイアーエムブレム 烈火の剣』。前作の20年前を舞台に、少女剣士「リン」とロイの父親である「エリウッド」が主人公として登場した。
今作ではプレイヤー自身の分身が「軍師」としてゲーム中に登場し、主人公たちの戦いを補佐することができる。誕生日や血液型といった簡単なプロフィールを登録でき、それらに依存して属性が決定。同属性のキャラクターにはプレイヤーの戦績に応じたボーナスがつくといった特典が用意されていた。
2004年10月7日には、最後のゲームボーイアドバンス向け作品『ファイアーエムブレム 聖魔の光石』が発売。ストーリー的には他作品と直接の関係性はなく、北欧神話風の雰囲気を放つ作品である。「エフラム」と「エイリーク」のふたりから主人公を選び、その選択によって物語が分岐する。
上位クラスにクラスチェンジする際、2種類の兵種から選ぶことができるようになり、より幅広い戦略を実現した。くわえて、何度でも敵と戦える「エクストラマップ」によってユニットのレベル上げが好きなだけ行えるため、育成の自由度が高い。
半年ほどの時間を空けて、ゲームキューブ向けに『ファイアーエムブレム 蒼炎の軌跡』(以下、蒼炎の軌跡)が2005年4月20日に発売された。よりスペックの向上した据え置き型ハードの作品ということもあり、3Dグラフィックや声優の起用など、シリーズで初の試みも数多く行われている。
命中と回避に補正のかかる「バイオリズム」といった新システムにくわえ、「獣牙族」、「鳥翼族」、「竜鱗族」といった新ユニットが導入。さらに『聖戦の系譜』などで好評だったスキルシステムがリメイクがされて復活、敵味方を問わず1マス分押し出す「体当たり」コマンドなども実装された。
そして2007年2月22日、Wii向けに『ファイアーエムブレム 暁の女神』が登場。『蒼炎の軌跡』の直接の続編であり、システム面でも同作をベースとしている。物語は4部構成となっており、複数の主人公の視点で物語を進めていく。
「バイオリズム」システムはステータスの変動の幅が広がり、スキルの発動率などにも影響するようになったため存在感が増している。スキルシステムは自由に着脱ができるようになり、複数のユニットにスキルを使いまわすことが可能となった。
2008年8月7日、初のニンテンドーDS(以下、DS)向け作品として『ファイアーエムブレム 新・暗黒竜と光の剣』(以下、新・暗黒竜と光の剣)が登場。タイトルの通りシリーズ第1作『暗黒竜と光の剣』のリメイク版であり、『紋章の謎』では削除されてしまっていたキャラクターやステージも復活。「序章」や「外伝」などの新マップも多数追加され、初心者にもやさしいデザインになっている。
クラスチェンジ以外で兵種自体を変更したり、章攻略の途中でのセーブが可能になったりと、新たなシステムも複数導入。また、Wi-Fiコネクションを用いてほかのプレイヤーから味方ユニットをレンタルしたり、通信対戦を行ったりというオンライン要素も取り入れられた。
続いて2010年7月15日には『ファイアーエムブレム 新・紋章の謎 〜光と影の英雄〜』が発売された。『紋章の謎』の第2部をリニューアルした内容で、プレイヤーキャラクターとして名前や性別を自由にカスタマイズできる「マイユニット」が登場している。
シリーズとしては初めて戦闘不能になったキャラクターが復活する「カジュアルモード」を搭載。モード選択とは別に難易度も4段階にわたって用意されており、好みのプレイスタイルにあわせて調整できる。
さらに、1997年にスーパーファミコン向けの衛星データ放送「サテラビュー」にて放送された『BSファイアーエムブレム アカネイア戦記』が『新・アカネイア戦記』としてプレイ可能に。『新・暗黒竜と光の剣』の前日譚を楽しむことができた。
2012年4月19日、ハードウェアはニンテンドー3DS(以下、3DS)に移り『ファイアーエムブレム 覚醒』がリリース。フリーマップやスキル、マイユニットなど、過去の作品で好評を博した要素を積極的に取り込んだ作品だ。
初の要素としては、ユニット同士を隣接、または同一マスに入れることで特殊な連携が発動する「デュアル」システムを搭載。常にデュアル状態になれる「ダブル」を活用することで、ユニットの移動力の低さを補ったり、成長しきっていない弱い仲間を安全に育成するなどといった戦略が生まれた。
3年ほどの月日を経た2015年6月25日、同じく3DS向けに『ファイアーエムブレム if 白夜王国/暗夜王国』が発売。大型追加コンテンツとして配信された「インビジブルキングダム」をあわせた3本で構成された作品だ。
「if」(もしも)の名の示す通り、プレイヤーの選択によってシナリオやマップ、キャラクターの異なる物語が展開。拠点となる「マイキャッスル」にはさまざまな施設が設置でき、すれちがい通信やインターネット通信を利用してほかのプレイヤーと交流を行うこともできた。
戦闘システムにはユニットふたりで力を合わせて戦う「攻陣」、「防陣」や、主人公をふくむ王族ユニットによってマップの地形を変化させられる「竜脈」といった要素が導入されている。
このほか3DSに向けては、2017年4月20日に『ファイアーエムブレム Echoes もうひとりの英雄王』が登場。ファミコン向けの『ファイアーエムブレム 外伝』をベースにストーリーを大幅に強化したリメイク作品となる。
「amiibo」によって特別なダンジョンに挑戦が可能なほか、成長したキャラクターのステータスをamiiboに書き込み、特殊な「幻影兵士」を召喚することもできる。のちにダウンロードコンテンツによって、通常の最高職より上の「オーバークラス」へとクラスチェンジが可能になった。
少し時期をさかのぼり、2017年2月2日には初のスマートフォン向けアプリである『ファイアーエムブレム ヒーローズ』が配信開始した。シリーズの人気キャラクターが英雄として多数登場し、彼らを率いて戦いに挑む。
スマートフォン向けということもありマップはコンパクトにまとめられながらも、地形要素や兵種、支援といったシリーズおなじみの要素はそろえられ、戦略や駆け引きを存分に味わえる。「闘技場」や「飛空城」といったコンテンツでは、ほかのプレイヤーが編成したチームと戦う対戦要素も用意されている。
このほかアトラスが手がけた『幻影異聞録♯FE』シリーズやコーエーテクモゲームスとコラボレーションした『ファイアーエムブレム無双』、カードゲーム『TCGファイアーエムブレム0(サイファ)』といった作品も展開されてきた。
そして、記事執筆時点での最新作『ファイアーエムブレム 風花雪月』(以下、風花雪月)がNintendo Switch向けに2019年7月26日に発売。プレイヤーは3つの大国の中央に位置する士官学校の教師となり、個性豊かな生徒たちを導いていく。
第1部でどの学級を担任するかを選ぶことで第2部の物語は3つに分岐するという、プレイヤーの選択で未来が変わるシステムが特徴。2019年に任天堂から発表された「平均プレイ時間が長かったゲーム30本」にも登場し、そのやり込みがいを証明している。
また、6月24日(金)には『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』が発売予定。そちらには『風花雪月』の主人公が宿敵・灰色の悪魔として登場するという。
30年以上の月日の中で、さまざまな要素を取り入れ進化し続けてきた『ファイアーエムブレム』シリーズ。「戦略性」を軸に据えつつ、ひとりひとりのキャラクターを人物として描くことでプレイヤーの共感や感情移入を誘う、単なるシミュレーションRPGに終わらない新たな楽しみを生み出した。32周年を迎えたシリーズの今後にも期待したい。