「視覚障害者もビデオゲームで遊んでいる」と聞くと驚くだろうか。
まだまだ多様な人たちが社会参加しているとは言えない日本では、視覚障害者がパソコンやスマホを使いこなして生活し、仕事をしていることはあまり認知されていないように思う。
「視覚障害者=点字を読む」というイメージが強いが、実は視覚障害者の半数は点字を読めないと云われている。生まれ持って視覚に障害がある人よりも中途で視覚障害を得る人が多いのだが、大人になってからだと点字を習得するのは難しいからだ。
となると主な情報収集は耳になるわけで、パソコンやスマホも、視覚障害者にとっては大事な情報源だ。こうした電子機器を使いこなすというのも、晴眼者にはなかなか想像しづらい。
どうやって画面を使わずにパソコンやスマホを使いこなすかというと、画面の文字を音声で読ませるのだ。パソコンなら「NVDA」「PC-Talker」といったスクリーンリーダーを使い、スマホならアクセシビリティ機能を設定する。すると画面上のテキストが自動音声で読み上げられるのだ。テキストになっていれば読み上げが可能で、アクセシビリティを意識したWEBサイトや、文字の大きさを自由に変えられるリフロー型の電子書籍なら読み上げてくれる。
ではゲームはどうか。本稿では、あまり知られていない、「視覚障害者がどうやってゲームを遊んでいるのか」をお伝えしたい。
文/和久井 香菜子
視覚障害者は「ゲームを遊びたいのに遊べない」
結論から言うと、視覚障害者が遊べるゲームはかなり少なく、ゲームを遊ぶことは容易いことではない。イギリスの視覚障害者団体(RNIB)の調査によると「視覚障害者のゲームプレイヤーのうち70%はプレイに支障がある」と云われており、誰かに画面を見てもらったり、画面の文字を認識するOCRで読み上げさせたりする必要がある。そうした手間が原因でゲームをしなくなる人もいる」という。
また、意外かもしれないが、同団体の調査によると「視覚障害者と晴眼者で、ゲームを遊びたい欲求の度合いは変わらない」というデータもある。
視覚障害者は「ゲームを遊びたいのに遊べない」のだ。
視覚をまったく使わずに完全に遊ぶことができる、アクセシビリティ対応のタイトルは今のところ『The Last of Us Part II』くらいだ。その他のゲームは、実際に遊んでみて「できる」「できない」を判断する。
それでは視覚障害者は、スクリーンを見ることを前提に作られたゲームを、視覚情報なしでどうやってプレイするのだろうか。
ソフトウエアエンジニアの野澤幸男さんは生まれつき弱視で、3歳になる頃、全盲になった。SEだけあって機器に詳しい。IT知識を駆使してゲームをしているというので、実際にどうプレイしているのか見せてもらった。
ポケモンは泣き声で暗記し、ボヨンというSEでマップを把握する
まず『ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール』。
ちなみに最新作の『アルセウス』ではない理由は、後ほど説明しよう。
Nintendo Switchのゲームをプレイする前に、ゲーム画面を読み上げさせるために準備が必要だ。本体をドックに挿し、HDMIケーブルでキャプチャーボードを介してパソコン本体へ繋ぐ。OBS Studioの「全画面プロジェクター」という機能で画面を映し、それをNVDAで読み上げさせる。NVDAはテキスト読み上げのほか、OCR機能もある。
ソフトを立ち上げてからのメニュー画面は、最初に友だちと画面を共有し、教えてもらったとのこと。右、右、上、などのボタン操作を暗記しておき、ゲームをスタートさせる。
見学したときはすでにバッジ4つ獲得したところだった。ゲームが立ち上がったら、まず町の外へ。自分がどこにいるのかわからないため、まずは一旦村の外に出て、居場所を認識する必要があるのだそうだ。村の外に出るとBGMが変わるので、居場所がわかる。
何をすべきかの手順は攻略サイトで確認。それによると次は「東に進んで通路前にいるギンガ団に話しかける」とある。では東に向かってギンガ団に話しかけよう。
しかし「東」とひとくちに言っても、まっすぐ右に行けばいいというわけではない。ギンガ団のいる場所まで、地図を観ると下からS字に登っていかなければいけない。画面を見れば、家や木々、人がいることがわかるが、ゲーム内情報をOCRに頼っているため、地図の読み取りは不可能だ。右に行ってみて、突き当たったら上や下に移動してみる、というトライを繰り返す。意図せず建物に入ってしまうこともザラだ。もちろん、自分が入った建物がなんなのかは外観を見ていないのでわからない。流れてくるBGMで判断するという。
家の上にある柵の細い間をすり抜けて上の通路へ向かうのは、至難の業。隙間が見つからず、またもとの道に戻って周囲をうろつくことが何度もあった。
それでもこのタイトルが「遊べる」のは、障害物に当たると「ボヨン」という効果音が出ること。その合図で「これより先に行けない」ことがわかる。逆に壁に突き当たっても、ヌルリとキャラが滑るだけでなんとなく進めてしまうと、まったく地図が頭に入らず、自分のいる場所がわからないのだそうだ。「RPGが2Dだった頃は自分の居場所がわかったので遊べたが、カメラがぐるぐる回る3Dマップになってから遊べなくなった」というのは視覚障害者からよく聞く話だ。
試しに、戦闘中のコマンド入力画面を読ませてみる。ちなみに自分はレントラーLv34、相手はムックルLv26だ。
Lv. 26
レントラー
81 / 106
Lv. 34
ムツクル
ホケモン
たたかうわさせつめい
20 / 20
24 / 25
20 / 20
(原文ママ)
「読む順番が違っていますが、脳内補完します。技の順番はわかりました。技の残り回数はどれがどれだかわからないので、ちゃんと知りたい場合は、技の最大PPを攻略wikiで調べます」
ところがプレイしてから、技の順番も間違っていたことが判明した。
「ボルトチェンジ、かみつく、スパーク、じゅうでんという順番が正解ですね。このへんは暗記してないといけない。OCRの読み上げ順番は信用できません」
文字自体の判別が正しくない場合も多い。
「濁点が落ちるのはよくあることですが、“いまひとつ”が“いまひとっ”、“ムクバード”が“ムワバード”になったりすることもあります。なので、結構お察し能力がいるんです」
戦闘では、HPなどのゲージは見えない。どのくらいヒットし、どのくらいダメージを受けたかは勘だ。自分のポケモンのレベルと、相手レベル、種類を鑑みて予測する。自分のポケモンのHPが瀕死になると、警告音が鳴るので、それで危険を判断するという。
もうひとつの問題は、選択しているコマンドがわからないことだ。WEBサイトなら、テキスト情報と画像、リンクはサイト側が情報として持っているので読み上げソフトが対応してくれる。しかしOCRでは「文字らしいもの」を認識するだけだからだ。
そのためポケモンを入れ替えたい場合も、どのポケモンを選択しているのか確認する必要がある。ひとつずつポケモンを選択し「つよさをみる」を選び、ポケモンの鳴き声で種類を判別するという。筆者にはどれも「パオピギャー」にしか聞こえないが、自分の持っているポケモンくらいはすべて鳴き声を暗記しているらしい。
街の上部にいるギンガ団のメンバーとようやく会話できた。ここまで来るのに30分。
画面には水色の髪のキャラがずっと映っていたので、「見れば」すぐわかる。しかしどこになにがあるか、地図の形すら分からないため、一歩進めては上ボタンを押し、行けないことを確認したらAボタンと、一歩一歩確認しながら歩く。常時、隠しアイテムを探すローリング作戦を行うようなものだ。フィールドに落ちているアイテムもわからないのでもちろんスルーだ。人に当たってセリフが表示されたら、OCRで読み込ませる。戦闘が始まったら、また戦闘画面をOCRで読ませる。これで文字情報はなんとなく把握できるという。
一目瞭然の地図でも、上に進めるかどうかは、一歩進んでは上ボタンでチェックしながら進む。
『Pokémon LEGENDS アルセウス』は、残念ながら視覚障害者が遊ぶのは難しい。移動が3Dになっていて場所の把握ができないこと、ポケボールを投げなければいけないなど、リアルさがゲームプレイの難易度を上げているようだ。
とにかくボタン連打で話が進む『戦国無双4-II』
次は「遊べる」と視覚障害仲間から聞いた『戦国無双4-II』。
映像部分はすべて音声のセリフが入るので問題なく楽しめる。PS4は全盲だとゲームを選択するまでのメニュー選択が難しいのだが、それはPS5ですべて(すべて!)解決済だ。PS5では画面の文字をすべて読み上げ、上、下などどう選択したらいいかまで指示してくれる。ここに関しては、また別の記事で詳しくお伝えする。
シナリオ選択は「やさしい」を選ぶ。
「難易度は一番上が“やさしい”のはずなので、上を選びます」
プレイの難易度選択は、ハンデを補ってくれるため実はバリアフリー機能のひとつと言える。
キャラを選ぶ際は、誰を選択しているのかわからないので、喋らせて声で判断する。セリフが音声になっていることの多い最近のゲームは、こういう時に実は便利なのだ。
戦闘中、どこから敵が来ているかは、音で判断する。ヘッドホンをつけて音が鳴る方へ技を出す。あとはひたすらボタンを連打だ。ゲージはわからないので誰もいないところで技が出ることもあるが、とにかく打つべし!
画面右上に地図が表示されているが、OCRでは読めない。しかしNPCキャラが自動で敵のいる場所へ向かって敵を倒してくれる。ある程度プレイしてコントロールするキャラをスイッチすれば、地図がわからなくても標的に近づくことができるのだ。HPが少なくなって瀕死になると、効果音がすべて籠もった音になるので、キャラをスイッチし、またひたすらボタン連打だ。
問題はボスキャラ。
画面上では、キャラの頭の上に矢印が立っているので誰が敵将なのかがわかる。しかしそれが見えないと、敵将がどこにいるのか、それが誰なのかわからないので、とにかくひたすら打ちまくる。目の前にキャラがいても違う方向に技を出すことも多く、見ているほうはじれったさに悶えてしまった。
しかし戦っているうちに、少しずつ自陣を増やしていっている。1時間ほどで敵将を倒した……!
キャラがレベルアップして技を覚えたらしい。表のようなものが画面に表示されている。
OCRではボタンのアイコンを「ゼロ」「マイナス」などと読んでしまい、ちょっと何を言っているのか素人にはよくわからなかった。
「これはあとで攻略wikiで確認します」
HPなどのゲージを細かいことを気にしなければ、少しずつ自陣を増やして敵を倒すことができた。これはシステムのつくりが偶然バリアフリーになっていた例だろう。
『ポケモン』でも『戦国無双4II』でも難しかったのは、地図が読めないこと、敵やターゲットの場所がわかりづらいことだった。多くのゲームでは、地図上にマークが表示されていて自分の行くべき方向やアイテムのある場所がわかる。こうした視覚情報を音に変換すると、視覚障害者のゲームプレイの大きな手助けになる。例えば敵将のいる方向から音がしたり、アイテムがある場所には特定の音が鳴るといったふうだ。
視覚情報のすべてを音に変換して遜色なく遊べるようにするのは難しいが、ほんのちょっとのプラスで視覚障害者が遊べることもある。こうした配慮が少しずつ認知されてほしいと思う。