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『星のカービィ ディスカバリー』のアートディレクションで立ちはだかった壁とは? シリーズ初の3Dアクションで「カービィ」ワールドに現実世界を融合するという新しい挑戦【CEDEC 2022】

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8月23日から25日の3日間にわたり、ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2022」が今年もオンラインで開催されている。

 今回は2日目に行われたセッション『星のカービィ ディスカバリー』において、シリーズ初の挑戦となる「カービィの3Dアクションと現実世界の融合」についてレポートしていく。

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 本セッションには、多数の『カービィ』シリーズにてアートディレクターを担当しているファーマン 力氏と、背景グラフィックデザインを担当している森下大輔氏が登壇。

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 『星のカービィ ディスカバリー』は、シリーズ初となる3Dアクションと現実世界の融合という新しい挑戦に溢れたタイトル。アートディレクションを行う上で立ちはだかった壁と、それを乗り越えるための工夫が語られた。

文/柳本マリエ


『星のカービィ ディスカバリー』の舞台が決まるまで

 『星のカービィ』シリーズは「カービィ」を主人公としたアクションゲーム。第1作『星のカービィ』発売から今年で30周年を迎え、任天堂とともにハル研究所が開発をしている。

 3Dについては過去作から部分的に挑戦していたという。

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 『カービィのエアライド』では初めて3D空間を歩き、『カービィのすいこみ大作戦』では吸い込みと吐き出しに絞り3Dアクションの単独ゲームとして開発。『星のカービィ スターアライズ』ではラスボス戦でボスに注目したカメラの3Dアクション戦闘など、さまざまなタイトルでノウハウを蓄積。

 そしてついに、本編カービィ初の完全3Dアクションを採用したのが『星のカービィ ディスカバリー』である。

 3Dアクションと現実世界が融合するという本作は、舞台が先に決まっていたわけではなかったとのこと。本作は「ほおばりヘンケイ」という遊びの魅力を最大限に活かすために、舞台とビジュアルが決められている。

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 しかし、ただほおばっても驚きは少ない。「ほおばりヘンケイ」の魅力を最大限に引き出すには、なにをほおばったらおもしろいのだろう。

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 魔法のアイテムをほおばって四角くなるよりも日常生活の身近なもの、たとえば自動販売機をほおばって四角くなったほうが、カービィのすごさが最大限に伝わるのではないか。

 こうしてカービィのファンタジー世界と現実世界を融合させるという挑戦をすることになったという。

「ほおばり感」は「はみ出ちゃってる」ことが大事

 しかしカービィに現実世界のものをほおばらせると、カービィらしさが失われるという問題が起こる。目と口が離れてしまうと、カービィであることがわかりにくい

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 そこで、カービィらしさを残しながら「ほおばり感」を出すための試行錯誤が行われた。

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 大事なことは、ほおばったものが「はみ出ちゃってる」こと。
 そして、顔のバランスを保持することと同じく、手足もそのまま残しておくことがカービィらしさを残すポイントだという。

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 しかし顔のバランスや手足をそのまま残していても、それらをどこに配置するかで印象は大きく変わってしまう。下記、三角コーンの例が非常にわかりやすい。

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 さらに、ほおばったあとのデザインだけでなく、ほおばる瞬間の演出も試行錯誤を繰り返す。

 こうした試行錯誤によって、カービィらしさを残しながら「ほおばりヘンケイ」の遊びが可能となった。

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背景制作においての大きな課題

 カービィ自体に「らしさ」を出せても、リアリティを帯びた背景と合わせたときに「なにをもってカービィらしさを出すか」が課題となる。

 現実世界に存在するようなオブジェクトをただ配置するだけでは単純にシリアスで怖いビジュアルになってしまう。

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 その問題を解決するために下記のルールが設けられた。

背景制作における大枠のルール

・背景全体を草や花といった自然物で覆う
・建築物は破壊ではなく風化によって崩れた表現にする
・褪せた色ではなく、できる限り鮮やかな配色にする
・被写界深度を強めに入れることでミニチュア感を出す

 本作におけるプレイヤーの期待は「人が住んでいた現実感とカービィの愛らしさのギャップ」と考え、背景装飾において可能な限りの説得力を持たせているという。

 たとえば人が住んでいた現実感を出すために、遊園地の小部屋を荷物が乱雑に置かれている「電気室」にしたり、広大な砂漠を「もともとは港だった場所」にしている。

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 このように人の生活感を残すことで、カービィのファンタジー世界と現実世界を融合させ、キャラクターにも背景にも「カービィらしさ」を表現した。

3Dアクションになって発生した課題

 前作までのモーションは2D向けに調整されていたため、本作では3D向けにすべて作り直す必要があったという。2Dでは必要のなかった後頭部の装飾なども新たに施している。

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 カービィが丸すぎて向きがわかりにくいため「おしりをつけたかった」とファーマン氏は語る。

 敵についても変更が施された。従来の一頭身のままでは3D空間において目線や体でカービィを追うことが困難なため、関節が多く頭身が高めのデザインになっている。

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  また、カービィは地面から離れることが多いため位置がわかりにくいという問題もある。そこで、カービィや敵には「わかりやすさを重視」して真下に影を出している

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本来であれば斜めに影が入るところを真下に出すことで位置を把握できる

 さらに、空間に溶け込みしすてしまう問題も発生した。これはキャラクターやアイテムのライト値を補正することでメリハリを出している。

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 また、単純にライト値を補正するだけでなく「色」も大事にしているという。

 カービィの外周彩度を高く、内側彩度を低くすることで、背景にも馴染みながら「キャラの印象の色」を出すことに成功している。

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 こういったひとつひとつの丁寧な調整が、これまでのカービィのイメージを崩さずに3Dでの遊びを成立させている。

「スクショ映え」を意識した「魅せマップ」

 本作は企画実験と同時進行でビジュアルの検証が行われたため、コンセプトアートが豊富だったという。完成された遊びを埋めるビジュアルだけでなく、ビジュアルから遊びを作る流れも増えたとのこと。

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 カメラを固定させることで、一枚絵としてのビジュアルを重視。プレイヤーの記憶に残りやすいシーン作りを意識している。

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 しかし、スクショ映えを意識して背景を豪華にしてしまうと、進むべきメインルートがわかりにくくなるという問題が発生する。
 
 そこで、下記の方法でメインルートへの誘導を行っている。

・ルート上に遮つものを配置しない
・頂点カラー機能を使って道を描く
・物の影やアンビエント表現を使うことで道を表現する
・道の脇であってもふと気になってしまうものを配置しない
・反応のあるオブジェクトでフォローする

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 このように、スクショ映えを意識しながらもプレイヤーを迷わせないための工夫が施されていた。

 そのほか、質感の変化や濡れた体が上からだんだん乾いていくなど、シンプルな見た目のカービィにもさまざまなビジュアルの進化が見られる。

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 最後には、既存の装飾パーツを組み合わせて新たなパーツを生み出すDIYのような手法の装飾も紹介された。「背景装飾大喜利」と書かれているように、このあたりは制作陣のユーモアが色濃く反映されているのではないだろうか。

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 セッション内容は以上となる。

 カービィのようなシンプルなキャラクターだからこそ顔や手足のバランスの少しの変化で印象が大きく変わってしまうことを改めて実感した。

 冒頭で紹介された目と口が離れたカービィは味があり、その制作過程を見ることができただけでも大きな収穫ではないだろうか。
 そういった制作の裏側の話を聞くと、より一層カービィが愛らしく見える。

編集者
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちで、レベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著『デブからの脱却』(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto

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