8月23日から25日の3日間にわたり、ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2022」が今年もオンラインで開催されている。
今回は3日目に行われたセッション『Pokémon LEGENDS アルセウス』(以下、『アルセウス』)と『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』(以下、『スカーレット・バイオレット』)において、「ポケモン2つを同時に作る、ポケモンモデル制作環境」についてレポートしていく。
本セッションには、株式会社ゲームフリークのCGテクノロジーディレクターである前澤圭一氏が登壇。
『アルセウス』と『スカーレット・バイオレット』はゲーム性もルックの方向性も異なる2つのタイトル。本セッションでは同時に開発するにあたって取り組んだ、環境・フローの見直しについて語られた。
文/柳本マリエ
ポケモンモデルの総数が1000種を超え、限界を迎える
株式会社ゲームフリークはゲームソフトの企画、開発、販売を行っており、『ポケットモンスター』シリーズを開発している会社である。
上記すべて3Dのゲームとなっているため、キャラクターとなるポケモンの「3Dモデル」が存在する。
同社におけるポケモンモデル制作の体制は下記のとおり。
本セッションでは、R&D(研究開発部)の部分を中心に解説された。R&Dにはアニメーション関係のエンジニアが集約されているという。
『ソード・シールド』までの仕様・環境は、タイトルごとに分かれていたとのこと。
タイトルごとに「どのような要素が必要なのか」、「どのような表現をするのだろうか」という点をもとに仕様や環境を決め、それぞれ開発されている。
しかしながら『赤・緑』から『ソード・シールド』まで、ポケモンモデルの総数は1000種類を超えている。タイトルごとに仕様から練り直して揃えていくのはそろそろ厳しい。それが2018年くらいのことだったという。
1タイトルでも厳しいという状況の中で、ルックの異なる2つのタイトル『アルセウス』と『スカーレット・バイオレット』が2022年に発売されることとなり、いよいよ課題解決が急務となった。
そこで、ポケモンモデル制作体制の環境・フローの見直しが行われることとなった。
納品仕様の共通化
環境・フローの見直しによって、納品物の共通化が行われた。
これまでタイトルごとに納品してきたのであれば、共通の仕様・環境にすればいいのではないか、という発想だ。
標準マテリアル・基本骨格にて納品し、各タイトルの開発チームに引き渡す。納品後、後工程で手を加え、タイトルごとのグラフィックに整える。
また、ライティングもプリセットを用意することで時間や天候に応じて変えていく。
このように納品することで、これまでかかっていた工数を削減することができる。
検品については、自動チェックと目視チェックの2段構えになっているとのこと。見た目や負荷をチェックしていく。
足の付け根や耳の付け根などはポリゴンが重なり負荷がかかりやすく、必要であれば削減しているという。
グラフィックスライブラリの一新
では、共通マテリアル・基本骨格を引き渡したあとの「後工程」ではどのようなことを行っているのか。
すべてのポケモンに一括して設定するものと、各ポケモンに個別で調整するものがあるとのこと。
たとえば、後光の出方、食べ物の配置、ZLで注目したときにどこを見るか、などはゲームのルールに基づいているためタイトル側で設定していく。
そのほか、IK(インバース・キネマティクス)などの動的な処理やルックなどもタイトル依存で後付け設定をする。
下記画像の左は納品データのピカチュウ、右は『アルセウス』のピカチュウである。人物や背景はタイトルに合わせて制作されているため、もとの納品データとタイトルのイメージを埋めるため色合わせや質感の調整を行っている。
版画風の『アルセウス』では淡い色味、リアル寄りの『スカーレット・バイオレット』ではハッキリとした色味になっている。
また、『スカーレット・バイオレット』のピカチュウはポケモン史上最高のふさふさ感を出しているという。ピカチュウファンにはたまらないのではないだろうか。
そのほかにも、ジェル状の部位や発光粒子、新しい「テラスタイル」など『スカーレット・バイオレット』ではさまざまな質感が施されている。
アニメーションも「モーションコピー」で共通化する
アニメーションについても、本当に作るべきものが精査された。というのも、体型の似たポケモンが複数存在しているからだ。すると、「ベースの動きは共通化できるのではないか」という仮説が生まれる。
まずは「人型」、「犬猫型」、「ヘビ型」、「ドラゴン型」などポケモンの体型分類を行う。そこで分類されたポケモン同士を「モーションコピー」してみると、共通化ができるという。
基本的には骨と骨をマッピングして同じ部位に該当するものをコピーするシンプルなものとなっている。
大きさや骨構造が異なっていても、似ていれば対応ができるとのこと。
実際にモーションコピーを使った例は下記のとおり。ドラゴン型の歩き方やしっぽの動かし方、ヘビ型のうねうね感などがコピーできる。
このようにポケモンからポケモンへモーションの流し込みをすることで工数を減らすことができる。
しかし、もととなるポケモンがいない場合はコピーが使えない。
その場合は社内のモーションキャプチャを導入しているという。撮影したデータをポケモンに流しこむことでイメージをつかみやすくなり、工数を減らすことができるとのこと。
こうした仕組みの導入によってアニメーションの効率化を図ることに成功している。
ポケモン2タイトルを同時に作るため、納品物を共通化するという抜本的な見直しが行われていた。
個人的には、これまでのポケモンモデル1000種類以上がタイトルごとに作られていたことにも驚いている。
共通化の仕組みが導入されたことにより工数を減らすことができたということは、今後の『ポケモン』シリーズの発売スパン短縮にも繋がるかもしれない。 もしそうであればファンにとっては朗報となるだろう。
そして、ポケモン史上最高のふさふさ感を出したという『バイオレット・スカーレット』のピカチュウが楽しみでならない。