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『アンチャーテッド』の没入感はどこから来るのか? 現在の目的も行くべき場所も地図さえも表示がない「不親切なUI」と、ロードタイムのない徹底的な「シームレス化」が唯一無二の没入感を生み出している

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 コンピューターゲームが生まれてから一世紀近く経とうかという今日この頃、ゲームは様々な方面で進化してきた。ゲームデザイン、音楽、コントローラー……そんななか最も分かりやすい形で、あるいは最も急速に進化してきたものがある。「グラフィック」だ。

 各プラットフォームの世代間に見るグラフィックの進化には目を見張るインパクトがある。グラフィックが美麗になるにつれて「もはや実写だ」という言説がいくつ生まれてきたことだろう。グラフィックの進化は私たちプレイヤーにとって、ゲームの進化というものを最もわかりやすい形で提示してきた。

 もちろん、グラフィックだけで良いゲームが生まれるわけではなく、グラフィックの良し悪しがゲームの良し悪しを左右するというのは間違いだろう。しかし、グラフィックの美しさそれ自体がゲーム体験の質に大きく関わっているタイトルも存在する。その代表的なタイトルこそ、『アンチャーテッド』シリーズだ。

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 今回は、日本国内に向けて2022年10月20日(木)よりSteamおよびEpic Games Storeで発売中のPC 用ソフトウェア『アンチャーテッド トレジャーハンターコレクション』のゲーム内スクリーンショットを紹介しつつ、本作の持つ魅力について深堀りしていこう。

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文/植田亮平


『アンチャーテッド』の画作りが生む没入感

 「遊べる映画」と称されることもある『アンチャーテッド』シリーズだが、実際のところ本作のゲーム性は実にシンプルだ。移動とジャンプを織り交ぜながら足場をかけ渡り、敵が現れれば銃で倒す、ゲームとしてはたったこれだけである。

 物語全体を通してほとんどがこの二つのゲームプレイの組み合わせで出来ており(ときにはQTEなども挟まるが比重としては少ない)、チュートリアルなどを除けば物語の途中で新たなアクションを覚えていくことも基本的にはない。

 ロープに掴まったり傾斜を滑り落ちるという即興の上手さもときに求められるが、一度失敗すればほとんどはすぐに学習できる。戦闘の難易度もカジュアルで、敵への照準も設定によってオートエイムに切り替えることができるし、そもそも難易度自体を大幅に下げることだってできる。

 つまり、本作はアクションゲームとして見た場合、そこまで複雑な作りをしていないのだ。

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操作自体はそこまで難しくなく、万人向けと言える。

 では本作はカジュアルゲーマー向けのヌルゲーなのかというと、実はそういうわけでもない。逆に私は、カジュアルゲーマーほど実は『アンチャーテッド』を難しく感じるのではないかと思う。その理由は、UIにある。

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 『アンチャーテッド』の画面は意図的にほとんどのUIを表示しておらず、ある意味で洗練されている。現在の目的も、行くべき場所も、そして地図さえ表示されない。それらは物語の中で明示され、プレイヤーが発見していくものだからだ。まさしく「Uncharted(未踏)」である。読者の中にも、プレイ中道に迷ってしまった経験があるプレイヤーは少なくないはずだ。

 もちろん全く進むべき道が分からないというわけではなく、掴まれるくぼみや足場はしっかりそれと認識できるデザインになっているし、とっさのアクションが必要なポイントでは補助的なUIがちゃんと表示される。しかしゲーム全体を通してみれば、表示されるものというのはやはり少ない。

 かように、ともすれば不親切でさえあるUIを持った本作なのだが、むしろこの不親切さこそが、『アンチャーテッド』の真髄とも言える。キャラクターを自在に動かしたり、難しいステージを攻略したりといったものとは違った方向性の楽しさが『アンチャーテッド』にはある。そう、「圧倒的な没入感」という唯一無二の魅力だ。

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これらは全て実際のゲームプレイ画面である。

 UIは確かに便利なものだが、考え方によってはプレイヤーとゲーム内世界の間に表示される壁のようなものでもある。その壁をあえて取り除いたからこそ、『アンチャーテッド』では他のゲームとは比べ物にならないほどの没入感が生まれている。

 グラフィックの美しさそれ自体が、ゲーム体験の質に大きく関わっているというのもこれが理由だ。美麗なグラフィックが画面全体に目いっぱい表示され、カメラワークの妙によって本作のプレイ画面は絵画や、映画のワンシーンのような迫力を持つに至っている。

 見せ場となるポイントではカメラ制御をゲーム側が行うことも多い。カメラの遠近も場面ごとによって変化し、広い場所では遠景も捉えられる引きの画に、狭い場所ではヒントをカメラで探させるため主人公に寄った画に、という具合だ。

 カメラが固定されているシーンもあれば、カメラを回して360度見回すためのシーンも存在する。「ゲームのカメラワーク」というのは普段意識されにくい部分だが、このゲームは画面構成がカメラに依存する分、とても意識させられる。『アンチャーテッド』が映画的だとされる所以の一つだ。

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緻密に計算されたカメラワークが見るものに印象を与える。

 こうした映画的な画作りから生まれるダイナミックな映像はプレイヤーを嫌でも物語に、あるいはゲームプレイに没入させる。この部分に関して本作の右に出るゲームは無いんじゃないかというほどのクオリティであり、数々の賞を受賞したのも納得と言えるだろう。

映画にロードは挟まれない

 もう一つの魅力は「没入感が途切れないこと」にある。『アンチャーテッド トレジャーハンターコレクション』には『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』『アンチャーテッド 古代神の秘宝』が収録されているのだが、このどちらも、物語開始からエンディングまでロードタイムが挟まれることがない。カットシーンからゲームプレイに、そしてゲームプレイからカットシーンへシームレスに繋がっている。つまりゲームとして途切れるポイントがなく、まさに一本の映画のような作りになっている。

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ゲームプレイとムービーは全て間断なく繋がっている。

 プレイ中、あるいはカットシーンごとにバックグラウンドで読み込みをしているのだろうが、この読み込みの進化には驚かされる。特に顕著なのが場面転換のタイミングである。ある場所からある場所に瞬時にカットが切り替わる場合、プリレンダであれば、もとから用意していたムービーを持ってこればよいだけなので比較的容易だ。

 しかし本作の場合であればムービーからシームレスにゲームプレイに繋がる必要があるので、ムービーを全てリアルタイムで読み込まなければならない。

 私はエンジニアではないので技術的なことについて詳しくは知らないが、ひと昔前であればこのような技術は夢物語であったのだろうと思う。一つの場所を表示させつつ別の場所を瞬時に読み込んだり、ムービーからゲームプレイへシームレスに繋がるこのゲームフローにも、ゲームの進化というものが見て取れる。

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 技術的なことはさておき、この「シームレス」という要素は、本作をより「映画的」たらしめている大きな要因だ。もう少し詳しく掘り下げると、このシームレス化が行っているのは「ゲームとしての節目をできるだけ無くす」ことではないかと私は考えている。

 ゲームにはプレイする上で何かしら「節目」が存在するものだ。例えばアクションゲームであれば、ステージクリア型のものはスタートとゴールがあり、その二つを節目とすることで1ゲームが構成されている。ハンティングアクションの場合はこれが「クエスト」となり、RPGになればこれが「新しい街や村」になったり「セーブポイント」になったりする。

 さてこの節目だが、本作にもゲームプレイ上の節目は一応存在する。例えばストーリーは各章ごとに分かれており、章が変わると章タイトルが画面上部に表示されるようになっている。あるいは場面転換によって背景がガラリと変わる場合なども節目と言えるかもしれない。

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 しかし、それだけなのである。

 章が変わっても画面に表示されるだけで、「次の章へ進みますか?」とも「章が変わったのでセーブしますか?」とも聞かれない。章の変わり目も暗転などせずシームレスに繋がるので、ゲームプレイ的にも中断されるタイミングがそもそも存在しない

 場面転換は常に物語上の必然性があるので、ゲーム的というよりはむしろ映画的な節目と言える。脚本自体が非常に映画的な作りとなっている分、むしろ3幕構成の節目として上手く成立していると見るべきだろう。

 こうした所謂「ゲーム的」な節目が極端に少ないと、ゲームでありながら作品全体のテンポは映像作品のように感じられてくる。映画のようなゲームではなく、遊べる部分のある映画を視聴しているような感覚に陥る。没入感を持続させる素晴らしい仕組みと言えるだろう。

映画を「撮る」感覚

 面白いことに、このゲームで遊んでいるとき、私はむしろ映画を見ているというよりも「撮っている」ような感覚になることがたまにある。雑踏の中を進むシーンであえて歩いてみたり、いい感じのカメラワークを探してから移動してみたり、いい場面でミスすると心底自分にガッカリしたりする。その時の私は主人公ネイサン・ドレイクを演じる主演俳優であり、そして最適な画角を探さんとするカメラマンでもある。

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PC版ではウルトラワイドモニターにも対応。

 ゲームに没入するというのはまさにこのことではないだろうか。ムービー中に思わずコントローラーのスティックを傾けたり、プレイが始まっていてもムービー中だと錯覚したり、そのような体験が『アンチャーテッド』には詰まっている。

 最高のグラフィックと最高の画作り、そしてシームレスにつながる体験が生む没入感。本作はシリーズの集大成でもあると同時に、一つのエポックメイキングでもある。

 やや分析的な内容になってしまったが、最後に本作のストーリーについても少し触れたい。本作は主人公ネイサンの最後の物語であり、最初の物語でもある。過去と現在が巧みに混ざりあったストーリーテリングは、アドベンチャーゲームとして素晴らしい物語になっている。

 実写映画化も果たしたシリーズだが、映画を見てから本作を遊ぶというのもまた一興だろう。そこにはまさにハリウッド級の体験が待っているに違いない。

 『アンチャーテッド トレジャーハンターコレクション』はPS5、Steam、Epic Games Storeで発売中だ。ゲーマーなら遊ぶべき一作である。

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©2022 Sony Interactive Entertainment LLC. Created and developed by Naughty Dog LLC. アンチャーテッド および アンチャーテッド トレジャーハンターコレクション は、株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの商標です。

ライター
大阪在住のゲーマー。ゲームに限らずアニメ、映画など気になったものは何でも取り込む雑食系。オープンワールドのゲームやウォーキングシミュレーターなどが大好き。最近はオンラインゲーム『League of Legends』にドハマりしているが、プレイの腕はイマイチ。

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