みなさん、バットマンの相棒であるロビンは4代目までいることをご存じですか?
『バットマン』シリーズのコミックやアニメをチェックしている方であれば「こんなの常識じゃん!」と思うかもしれませんが、「バットマンっていいよね、結構好きだよ」という人でもロビンが4代目までいることを知っている方は少ないのではないでしょうか。
恐らく国内での『バットマン』関連作品のイメージは『ダークナイト』をはじめとするクリストファー・ノーラン監督の3部作、『ジョーカー』あたりでしょう。
ただ、これらの作品は比較的知名度の高い初代ロビンどころか、他のサイドキック(相棒)が登場しないのです(それっぽいやつはいるけどロビンだと明確に示されることはない)。なので、ロビンが4代目までいることを知らないなんてことは、ごくごく自然なことなのです。
となると、みんなが知っているキャラクターと言えば「バットマン(ブルースウェイン)」「ジェームズ・ゴードン」「ジョーカー」あたり……
しかし!この記事で紹介する『ゴッサム・ナイツ』では、その知名度の高い3人は全員登場しません!なんなら、バットマンとゴードンは死んでるし、ジョーカーも全然言及されない!
どうしよう!『バットマン』関連の大型ゲームがでるからみんなに布教しようと思ったのに、みんなが知っているような有名なキャラクターがぜんぜんいない!どうやって魅力を伝えればいいのだろう!
You’ll never know if you can fly unless you take the risk of falling
落ちるリスクを負わなければ、飛べるかわからないSecret Origins Vol 2 #13より
分かったよナイトウィング。俺はリスクにビビらず飛ぶよ。
文/tnhr
編集/実存
バットマンが居なくなってもっと治安が終わるゴッサムシティ
『ゴッサム・ナイツ』はWB Games Montréalが開発したオープンワールドアクションRPG。WB Games Montréalといえば『バットマン アーカム・シティ』『バットマン アーカム・ビギンズ』といった名作を生み出した会社としても知られています。
過去の『アーカム』シリーズから設定を一新した本作の舞台は、引き続き最悪治安都市である「ゴッサム・シティ」。ここは、とにかく犯罪が多発しており、ずっと曇っていて暗く、その上じめじめしているため、ここの住人はいつ洗濯物を干しているのかと疑問に思ってしまいます。
そんなゴッサム・シティの闇に紛れながら、犯罪者を脅かし、治安を守ってたバットマン(ブルース・ウェイン)がヴィランであるラーズ・アル・グールとの戦いの末、本作の冒頭で死にます。
ちなみにラーズ・アル・グールというヴィランはだいたい600歳だとされており、なぜこんなに長生きしているかというと「ラザラス・ピット」という若返ったり、怪我が治ったり、死者が蘇ったりする不思議な泉を利用することによって不滅の肉体を手に入れているからなのです。
本作ではバットマンが死んでいる上に、ゴッサム市警察の本部長であるジェームズ・ゴードンも死んでいます。ゴッサム・シティとしてはもちろん最悪の事態で、治安が悪くなるのはもちろんのこと、警察の汚職も凄まじいほどに進行しています。
残されたのはバットマン・ファミリーであるナイトウィング、レッドフード、ロビン、バットガールの4人と、執事のアルフレッド。バットマンの意志を受け継いだ若いヒーローたちは一体どのようにゴッサム・シティで認められるヒーローへと成長していくのか。というのが本作のあらすじとなっています。
また、ヒーローも重要ですがヴィランもそれと同じくらい重要です。本作のメインヴィランとなるのが「梟の法廷」という、ゴッサム・シティの富裕層だけで構成された秘密結社。ヴィラン単体ではなく組織として脅威を与えるやり方が『バットマン』シリーズでは少し珍しい上、コミックでの初出が2011年とかなり新しいもので新鮮さがあります。
日本では2013年に『バットマン:梟の法廷』という「梟の法廷」をメインヴィランにしたはじめての翻訳コミックが発売されています。この作品は長い『バットマン』の歴史の中でも入門編として最適な部類で、「アメコミぜんぜん知らないけど読んでみたいな」と思っている方にとてもオススメすることができます。
また、日本で視聴できるアニメ映画『バットマン vs. ロビン』でも「梟の法廷」が登場し、このふたつの作品は、『ゴッサム・ナイツ』をより楽しむための手助けをしてくれるはずです。
めちゃくちゃ魅力的なバットマン・ファミリー
『ゴッサム・ナイツ』の主人公は先ほど述べたバットマン・ファミリーである、ナイトウィング、レッドフード、ロビン、バットガールの4人。
冒頭で説明した通り、ロビンという存在は4代目までいて、本作では1代目から3代目とバットガールが協力していくという形になっています。
ロビンはバットマンの相棒枠なのですが、とはいえタッグを組んでから死ぬまでずっと一緒にゴッサム・シティを守っていたわけではありません。彼らも人間なので方向性の違いが生まれたり、ミスによってその関係が崩れてしまいます。
バットマンとロビンの関係は、いわば親子関係のようなもの(実際に養子にしているので親子関係でもあります)。
バットマンというヒーローはヴィラン退治に関しては超一流なのですが、幼いころに両親を失い、それからずっと復讐のために人生を割いてしまっているため、家庭の愛情のようなものをほとんど知りません。
家族というテーマに関しては不器用どころか、かなり酷い親として振る舞ってしまうこともしばしばで、ロビンとの関係を経てバットマンも精神的に成長していきます。そんなバットマンの存在は、完全無欠なヒーローは存在しないということを教えてくれるのです。
そんな背景がある中で、バットマンとそのサイドキックたちはどのような葛藤を抱いていたのか。それを理解していくのが本作の魅力となっているのです。
ではまずは、初代ロビンだったナイトウィング(ディック・グレイソン)から説明を。
恐らく、ロビンのイメージと言えばサーカス一家に生まれて、幼少期からサーカスで働いて、サーカス中の事故で両親を失って、バットマンに引き取られて……といった具合だと思います。それがまさに初代ロビンのディック・グレイソンです。
ディックはバットマン・ファミリーの中でも特に正義感、責任感が強いヒーローで、後にナイトウィングとしてティーン・タイタンズというヒーロー集団を結成します。日本でも比較的知名度の高いアニメ『ティーン・タイタンズ』『ティーン・タイタンズGO!』に登場するロビンもこの人です。
最近の作品ですとドラマ『Titans(タイタンズ)』の主人公として活躍しており、シーズン1では親(バットマン)に虐待された子どもの如く、酷いフラッシュバックに悩まされており、いかにバットマンが身勝手な親であったかということが描写されています。
ゲームではサーカス仕込みのアクロバット技術を駆使しながら、メインウェポンである2本のエスクリマ・スティックを駆使してヴィラン達と戦います。
お次は2代目ロビンだったレッドフード(ジェイソン・トッド)。
ジェイソン・トッドはバットマンのサイドキックの中でも時に気性の荒い性格を持っているヒーロー。バットマンとの出会いが「バットモービルのタイヤを盗もうとした」というエピソードから分かるように、彼はストリート出身の子どもでブルース・ウェイン同様に両親を亡くしています。
バットマンに拾われた後、修行を経て2代目ロビンとなり活躍するのですが、バットマンのミスによって、なんとジョーカーに殺されてしまいます。
じゃあなぜ、「今生きてるの?」と思うかもしれませんが、それはラーズ・アル・グールが彼を「ラザラス・ピット」という先ほど紹介した泉にぶち込んだからです。しかし、泉の副作用のようなものによってさらに気性が荒くなり、決して殺しを行わないというバットマンの教えを破り、人を殺しまくってしまうレッドフードへと生まれ変わってしまうのです。
けど、最終的にはバットマンがセラピーに通わせまくったり、バットマン・ファミリーのサポートによって復帰。今こうして、みんなと一緒にヒーロー活動しているということなのです。
ちなみに、ジェイソン・トッドが死んだのは1988年に「生死を決めるイベント」という名目で電話投票に命がゆだねられたためです。投票の結果「生き延びない」が上回ってしまい、ジョーカーによって殺害されたのでした。なので「読者のせいで死んだヒーロー」だと覚えておいてください。
ゲームでは、このデカい身体からわかるように攻撃力を活かした戦いをみせます。さらに、バットマンには無かった銃による戦術が特徴となっており、この銃での戦闘がいままでのシリーズになかった新鮮さにも繋がっております。一応、弾丸には殺傷能力はないということは作中で説明されています。
お次は3代目ロビン(ティム・ドレイク)。
ティム・ドレイクはバットマン・ファミリーの中で最年少。ロビンになる前に独自の調査によってバットマンとナイトウィングの正体を突き止めることに成功したキャラクターです。
私たちからすると、ヒーローたちの正体は一瞬で分かるだろうという感覚ですが、この世界では正体が分かる人物は身内のごくごく僅かな人間だけ。そう考えると、ティムの推理能力はバットマンのもとで修行する前から非常に長けていたということが分かります。
ジェイソン・トッドの死後、バットマンは人が変わったかのように活動が過激化していきます。それを心配した執事のアルフレッドやティムは、「バットマンにはロビンが必要だ」と説得。そうして3代目ロビンとなったティムは、バットマンのヒーロー活動を支えるだけではなく、精神面も支えるヒーローとなったのです。
ゲームでは折り畳み式のクォータースタッフを武器とし、スニーキング能力が非常に高くまさに忍者のようにさまざまな道具や技で相手を翻弄しながら戦っていきます。
最後はバットガール(バーバラ・ゴードン)。
バーバラ・ゴードンは名前からわかるようにジェームズ・ゴードンの娘。『バットマン: キリングジョーク』において銃で撃たれたシーンが衝撃的で、その時の脊椎の損傷によって車いす生活を余儀なくされていました。
しかし、持ち前のハッキングスキルを活かし、新たなヒーロー「オラクル」としてバットマンを支えるべく積極的に活動。『アーカム』シリーズでもたびたびバットマンに情報を与えて、事件解決に大きく貢献しました。
本作では、苦しい手術やリハビリに何年も耐えた末に回復を果たした後の姿が描かれ、バットガールというヒーローとしてゴッサムシティに返り咲きます。
バーバラは主にトンファーを武器として戦い、コンピューターやシステムのハッキングやコーディングといった技術にも優れているため、それらを駆使した戦いが特徴となっております。
それで、4代目は…?と思っている方もいるかもしれないので、本作には登場しないが4代目であるダミアン・ウェインについても少し解説します。
4代目ロビンであるダミアン・ウェインはなんとバットマンと、タリア・アル・グールという、ヒーローとヴィランの間に生まれた子ども。バットマンは何年も息子の存在を知らず、ずっと隠されながら暗殺者として育てられます。
長らく黒歴史や、トリビア的存在として扱われてきたキャラクターですが2012年に邦訳版が発売された『バットマン・アンド・サン』でこの設定が復活します。
ちなみに本作にはタリア・アル・グールも登場するのですが、プレイした限りでは子どもがいるそぶりは見せませんでした。続編があったら期待といったところでしょう。
上手に差別化されたヒーローたちでゴッサムシティを駆け回る
と、前提知識を共有したところで本編についての感想に少し触れていきます。
まず、気になるところは戦闘の要素だと思います。本作の戦闘はとにかくゴッサムシティのごろつきを倒して倒しまくるのがメインとなっています。
とにかくごろつきを倒して、情報を獲得して、大型ヴィランの情報を集めるというのが本作の大きな流れとなっています。
また、本作のコンセプトから分かるように、プレイヤーは4人のヒーローのうち、ひとりを選択してゴッサムシティの治安を守っていくことになります。
じゃあ他のヒーローは何してるの?と思うかもしれませんが、マルチプレイで他のヒーローを招集し協力プレイすることが可能です。また、近いうちに4人でのマルチプレイが実装されるらしく、バットマン・ファミリー全員でヴィラン退治に励むことができるそうです。
ヒーローは拠点である「ベルフライ」に戻れば、いつでも変更可能。その上、誰かのレベルが上がれば他のヒーローのレベルも上がるので、誰かを育てれば他も育つという形になっています。
4人のヒーローの戦い方は非常によく差別化が行われており、交互に使っていくことによって、戦闘の単調さは緩和されます。
レベルが上がるとスキルが解放されてやれることが増える上、「ナイトの称号」というチャレンジをクリアすると、より戦闘と移動の幅が広がり、ヴィラン退治が一層楽しくなるはずです。
また、DCファンにとっては、さまざまな小ネタがちりばめられてるのが非常にうれしいところです。
以下の画像はクラーク・ケント(スーパーマン)が心配のメールを送っている様子。他にも拠点であるベルフライにはブラックキャナリーのポスターが貼ってあったりと、知っていれば嬉しい要素が満載です。
さらに、コスチュームもたくさん用意されており、自分好みの見た目でゴッサムシティに向かうことも可能。
武器やコスチュームは素材を集めることによってクラフトができ、属性や攻撃力が強化されていきます。本作のボスは結構固めに設定されていますが、相性さえ噛み合えば案外あっさりと戦闘を終わらせることができます。
最後に
本作はもともと『バットマン』シリーズを好きな方はもちろんのこと、これから『バットマン』シリーズのことを知りたいという方にとってはかなり入門しやすい作品になっているかと思います。
4人のヒーローについて集中的に解説していきましたが、もちろん他にも魅力的なキャラクターがたくさん登場します。
例えば、みんなお馴染みのハーレイクインも本作には登場します。
好きなキャラクターを見つけ、そのキャラクターの関連コミックを買って、みんながゴッサムシティの話をしまくってる未来が訪れることを願っています。