PlayStation VR初代が発売された2016年はVR元年と呼ばれた。
それから6年半経過した現在に至るまでVRゲームには多くの失敗と成功があったが、それらの大半はいまだVR未経験のゲーマーに知られていないのが実情だ。
2023年2月22日、VRゲームの節目の一つとなるPlayStation VR2の発売に合わせて「この6年半でVRゲームがどう変わったのか」と「それをPS VR2でどう体験できるのか」を合わせてご紹介しよう。
文/MyDearest 渋谷宣亮
※本稿は、電ファミニコゲーマーとMyDearestによるPS VR2特集の一環です。
セットアップが楽になった
2016年ごろのVRデバイスはとにかくセットアップがめんどうだった。現在を持ち上げるために過去を貶めるような言い方はよくないが、こればかりは事実なのでしょうがない。複数本のUSBケーブルやHDMIケーブル変換タップ、DisplayPortをどこに繋げるのか、複数個の外部センサーを部屋のどこに設置するのか悪戦苦闘した覚えの方もいることだろう。
現在の主流VRデバイスであるMeta Quest 2はゲーミングPCがなくてもVRヘッドセットだけでVRが体験できるようになったし、PS VR2はVRヘッドセットをUSBケーブルでPS5に繋げば動くようになった。セットアップの敷居の高さはプレイヤーのモチベーションに直結するので、こういう進化はとても大事なのだ。
たとえば今のちゃんとしたPCは電源ボタンを押してから10秒未満で動くのが当たり前になっているので、2023年にはPCの起動で1分や5分も待っていられないのと同じである(もし今あなたが使っているPCの起動に1分以上かかるようであればPCの構成を見なおした方がいい)。
なお、現在でも外部センサーなどを使うVRデバイス(HTC VIVEシリーズやVALVE INDEXなど)も一定のシェアを獲得しているが、それらはVRゲームよりもモーションキャプチャーやVRChatのプロフェッショナルが主なユーザー層となっている。VRゲームをプレイする分には今のVRデバイスは簡単にセッティングができる。
見るVRから動くVRへの変遷
2016年ごろのVRはプレイヤーも開発者も「VRってどこまでやってもいいのか?」を手探りで実験していたため、海の中で魚群を眺めてリラックスするとか、魅力的なキャラクターと自分が同じ空間にいると嬉しいとか、360度映像を見て観光気分になるとか、そういうVRがたくさん出ていた。なにせVR黎明期はコントローラが同梱していないVRデバイスも珍しくなかったので、見る以外にすることがないことも部分的には仕方のない面もあった。
2018年から2019年にかけてVR元年ブームが落ち着いて実験的なVRゲーム(言いかえると一発ネタ)が出尽くしたあともVRゲームは作り続けけられたし、この7年のあいだに「VRでプレイすると楽しいゲームとはなんなのか?」をVRゲームの開発者もプレイヤーも少しずつ学んでいった。
その結果は「手と腕を動かすVRゲーム」だ。プレイヤーが右手と左手にモーションコントローラーを握って「フィールドに手で触れたり、腕を振り回したり、アイテムを掴んだり、剣を握って振るったり、銃を構えて引き金を引いたり、キャラクターに触ったりする」ことがVRゲームのアドバンテージだと気が付いたのだ。とはいえ、この「手と腕を動かす」には三つの方向性がある。
「所作のロールプレイ」
一つ目は「現実の所作のロールプレイ」だ。通常のビデオゲームならワンボタンで済むアクションも、VRゲームでは実際に手を動かして行うことに愉しみを覚える。この傾向が特に顕著なのはシューター系のVRゲームで、「銃をリロードして撃つ」というアクションに「空になったマガジンを銃から抜き出し」「ポーチから替えのマガジンを取り出し」「マガジンを銃に差し込み」「銃のスライドを引き」「照準を覗いて狙いを定め」「引き金を引く」というそれぞれの工程が必要だ(とはいえゲームによってデフォルメ度合は異なる)。これはただ単に手数が増えて面倒というわけではなく、所作の一つ一つに慣れていくことでプレイヤー自身の動き方がだんだんと洗練されていくのも楽しい。一方でスターウォーズのライトセーバーがVRリズムアクション『Beat Saber』だったり、映画マトリックスがスローモーションアクション『SUPERHOT VR』になったり、現実だけでなくフィクションを身体で模倣することもできる。
「身体を活かしたゲームプレイの自由度」
二つ目は「身体を活かしたゲームプレイの自由度」で、プレイヤーが現実と同じように動けることでゲームプレイの意味があること意義がある。例えば通常のFPSだと「攻撃を食らわないように壁の向こう側を確認する」ときはゲーム側で「リーン」アクションが用意されていないと実行できないが、VRではプレイヤーが自分でリーンする動きをすればリーンができる。また、VRゲームは物理演算と相性が良く、「ブロックを積み上げて壁を越える」とか「パイプを伝って天井を進んでパズルを無視して進む」といった、プレイヤーの身体と物理演算が組み合わさって幅の広い攻略でイマーシブシム的な愉しみができるVRゲーム『Boneworks』もカルト的な人気を誇る(ただPSVR2は物理演算系アクションゲームのリース予定が現時点で存在しないので、将来的に『Bonelab』や『Blade and Sorcery』がリリースされることに期待したい)。
そうはいっても2016年から2023年に至るまでずっと売れ続けているクラシックなVRゲームも多数存在するので「動くゲームが偉い」なんてことはないが、2023年時点以降でヒットしているVRゲームは動くものの方が主流である。
PS VR初代は本体にモーションコントローラーが同梱せずDUAL SHOCK 4が基本操作になっていたため、「体を動かして遊ぶ」というVRゲームが体験しにくかった(正確にはPS Moveを2本別途すればモーションコントロールを体験できたが、そこまで揃える人は多くなかった)。PS VR2はPS VR2本体と一緒に右手と左手用のモーションコントローラがついてくるので、買ったその日からモーションコントロールのVRゲームがプレイできる。
実際は「いちいち2mx2mのスペースで立ってプレイするのはめんどくさい」と感じるプレイヤーも多いので、大抵のVRゲームは立ってプレイするか座りながらプレイするか選べるようになっている(『Beat Saber』みたいにゲームシステム的に座りながらプレイするのが不可能なものもあるといえばあるが)。「部屋が狭いからVRゲームができない」とか「いちいち立ってゲームをプレイするのがだるそう」と悩む必要はないのでご安心を。
「身体性による人間味の反映」
三つ目は「身体性による”人間味”の反映」である。日本でVRと聞くと『VRChat』を想像する人が多いのではなかろうか。VRChatに限らず、VRゲームはマルチプレイの需要も根強い。ほとんどのVRデバイスはプレイヤーの頭と左手と右手の動きをトラッキングしている。人間の身体は様々あるので完全な再現からはほど遠いものの、実際のところは頭と右手と左手の動きがCGに反映されるだけで他プレイヤーの人間らしさ、別の言い方をすると「生っぽさ」が強くにじみ出る。
ただ、現実の人間はモーションアーティストが作った滑らかでカッコイイ動きができないので傍から見ると泥臭く鈍重に見えることもあるが、やりあっている当事者たちの熱量は”本物”なのだ。極めたプレイヤーは所作自体がカッコよくなる側面もある。
7年ぶりのVR元年をPS VR2で体験しよう
PS VR2のセッティングは「USBケーブル1本」や「瞳孔間距離の測定機能」、「PS5本体のスペックによる拘束な動作」が相まって「快適なVRゲーミング体験」は保障されている。そして、PSVR2はモーションコントローラが標準搭載されたことでPC VRやQuest 2と遜色のないVRのアクションができるようになった。また、ゲーム業界におけるクロスプレイ(異なるゲーム機・PCプラットフォーム間でもマルチプレイができる機能)が普及したことで「ゲームを買ったはいいけど人口がいない」状態が起きにくくなった。ハードウェアもプレイ環境もPSVR初代と比べて「安定した」と言えるだろう。筆者としてオススメしたいPSVR2タイトルは以下の3本だ。
オススメのPS VR2ゲーム1:『Pavlov』
『Pavlov』はVR専用PvPシューターとして運営7年目のベテランVRゲーム。いわゆるカウンターストライク方式(日本ではVALORANTでおなじみ)のVRシューターで、PC VRの鉄板タイトルだ(厳密にはMeta Quest版もリリースされているが、ややこしい事情がある)。人が多いので「買ったはいいけど全然マッチングしない」ことは起こりません。PS VR2で戦場に潜りたいなら『Pavlov』をプレイすれば問題ない。マルチプレイシューターではあるものの、一人でも射撃場モードで心行くまで銃を撃ちっぱなしできるぞ。現代武器と一次大戦の武器の両方が使えるのも嬉しいところだ。
オススメのPS VR2ゲーム2:『DEMEO』
『DEMEO』はVRで4人のプレイヤーが集まってプレイするテーブルトーク風のSRPGだ。プレイヤーが一人につきSRPGのユニット(戦士や僧侶、盗賊など)を1体ずつ操作することができ、ターン時のアクションはカードを消費して選択する。ユニットから離れた場所は見えないので、様子を伺いながら進んでトラブルに見舞われることがしばしば。4人で卓を突っつき合いながらぺちゃくちゃ喋るのが楽しい。
「VRで複数のプレイヤーで卓を囲んでゲームをプレイする」ことがほとんどDEMEO以外に真似するタイトルも出ておらず、非常にユニーク性が高い。とはいえ、試合が長丁場すぎてマルチプレイでキャンペーンを最後までプレイしにくいのが難点であり、ぶっつづけでプレイすると2~3時間はかかるだろう。一人で3つのユニットを操作する一人プレイモードもある。プレイヤーが大きくなったり小さくなったりしてユニットの駒と同じ視点になれるのも地味にGOOD。
オススメのPS VR2ゲーム3:『Pistol Whip』
『Pistol Whip』はジョン・ウィックに影響を受けたVRリズムシューターだ。BGMに合わせてビジュアルが波打つステージでスーツ姿の敵キャラクターをリズムに合わせて射ち倒そう!ステージは音楽に合わせて自動で移動しつづけるのでVR酔いのリスクも低く、VR初心者にオススメのVRシューターでもある。