「『ソードアート・オンライン』×リアルダンジョン攻略施設」……ああ、なんと魅力的な文字列なのでしょう。VRMMORPG「ソードアート・オンライン」からの脱出を目指すあの『SAO』の世界を、リアルダンジョン攻略施設で体験できるんですって?
これは行くしかない。そしてそんな『SAO』コラボを実施するリアルダンジョン施設が「THE TOKYO MATRIX」。東京は新宿の東急歌舞伎町タワーにオープンする施設で、「2人~3人のパーティで力を合わせてリアルダンジョンに挑む」ことをコンセプトにした“新宿ダンジョン攻略体験施設”なんだとか。
しかもこの施設、「ダンジョン攻略型の無理ゲーを作ってみよう」というアイデアから作り始められたそう。なんで?
そんな新宿無理ゲーダンジョンこと「THE TOKYO MATRIX」の記念すべき初陣が、この『SAO』コラボこと「ソードアート・オンライン -アノマリークエスト-」なのです。まさかのオープンの初手から「キリトくんとアスナが敵としてプレイヤーを待ち構えている」という激尖りコラボをぶち込んでくる辺りが気概としては結構好きです。
しかし、この『SAO』コラボ……普通に難易度がメチャクチャ高く、クリア率はたったの1%なんだそうです。先ほども書いた通り、「施設そのもののコンセプトがダンジョン攻略型の無理ゲー」となっているので、ある意味『SAO』とは相性バッチリなのかもしれません。
そしてボスのキリトくんとアスナはダンジョンの深奥で待ち構えているので、「SAOコラボに来たのにキリトとアスナに会えない」という事態が頻発しているらしいです。なんでだよ。
割と由々しき事態だろ。ディズニーランドに来たのにミッキーに会えないとかユニバに来たのにミニオンに会えないとかそういうレベルでしょ。別に難易度まで『(作中ゲームの)SAO』再現しなくてよくない!? これがリアルアインクラッド攻略戦ってか! ガハハ!!
……まぁ、これから私がその1%の踏破者になればいいだけの話です。任せなさい。オープン前に来た私こそがベータテスターにしてチーターならぬビーターになればいいだけなのですから。
そして記事の最後に、今回の「ソードアート・オンライン -アノマリー・クエスト-」の企画や開発に携わった松崎氏にお話を伺っています。そもそもなぜ『SAO』とのコラボなのか? 「キリトとアスナが敵になる」というアイデアはどこから出てきたのか? ここまで難易度を激ムズにした理由とは?
間違いなくみなさんの「ソードアート・オンライン -アノマリー・クエスト-」に対する疑問や謎が解消されるインタビューとなっています。ぜひ最後まで読んでいってください。それでは……リンク・スタート!
リアルに「リンク・スタート」!?ソードスキルで戦うQUEST1
「THE TOKYO MATRIX」に到着した我々を待ち構えていたのは……このブリーフィングスペース。なんと今回の『SAO』コラボでは、実際にこのスターティングピットの中に乗り込んでお馴染みの「リンク・スタート!」ができちゃうんですって。
まぁ、具体的にどういうコトなのかというと……あのカプセルみたいなやつに入ると、事前に登録しておいた自分のアバターが呼び出されるのです。そしてアバターを呼び出したらダンジョンの中に侵入開始!……って感じです。夢がありますね。
ちょっとメタ的な話をすると、「紗幕(舞台で霧がかかった効果を出すために使う幕)」と「内部縦型プロジェクション」の連携によって、外からアバターを確認できるこのスターティングピットは実現されているそうです。
新しくオープンする施設なだけあって、凄まじい最新技術が投入されているのもこの「THE TOKYO MATRIX」の魅力のひとつ。
そしてダンジョン内に突入した我々を待ち受けている第1ステージこと「QUEST1」は……ソードスキルによるモンスター討伐! なんか……SAOっぽいやん?
……と、ここでひとつ説明を。アトラクション全体を通して必要になってくるのが、この剣の持ち手を模した形のデバイスです。先ほどのブリーフィングスペースでもこのデバイスをかざしてログインしたりします。
そして話を戻してQUEST1では実際にこのアイテムを剣に見立てて迫りくるモンスターを攻撃します! QUEST1のステージには全身モーションキャプチャーが用意されているので、実際の動きと画面上のアバターの動きがしっかり連動してくれます!
そして「ソードスキルで撃退」と言われている通り、特定のモーションに合わせて必殺技も発動します。剣を横向き(水平)に構えてチャージすることで「ホリゾンタル」が発動! 剣を縦向き(垂直)に構えてチャージすることで「バーチカル」が発動!!
モーションキャプチャーを導入することによって「所定の準備動作を行うことによって発動する」あのソードスキルをかなり実現できているのがこのQUEST1のすごいところ。フフ、「ダンジョン探索施設って言ったってどうせ大掛かりなリアル脱出ゲームみたいな感じでしょ?」と思っていたそこのアナタ、意外と最新技術が使われていてビビるでしょう。体験当日の私はビビってました。
もうキツい!体力勝負のQUEST2
そして待ち受けるQUEST2なのですが……この辺りからクリア率1%の難易度が牙を剥いてきます。
そのチャレンジ内容は「長い廊下の壁面に表示された数字群から、指示された数字を制限時間以内に探し出す」というもの。
たとえば、「40000~50000の間の数字を見つけ出せ!」と言われた場合、「コ」の字型になっている巨大通路のどこかの壁面にある40000~50000の間の数字を見つけ出してタッチすれば完了です。これを3回クリアすればQUEST2は終了となります。
……一見簡単そうに見えるかもしれませんが、このQUEST2の本当の恐ろしさは「絶妙にプレイヤーの体力を削ってくる」ところなのです。
まず、「コ」の字型の通路が普通に大きい上にそんなに簡単には正解の数字が見つからないので、とにかく通路を駆け回る必要があります。しかも、正解の数字は一定時間が経過すると勝手に移動したりする。だから、とにかく素早く見つけなければなりません!
……普通にキツイ!!!
しかも通路のあちこちにはしゃがんだり屈んだりしなければ通れない障害物が配置されていたり、そもそも壁面に表示されている数字が「(数字)+(数字)」「(数字)×(数字)」といったように一度脳内で計算を挟まなければ本来の数字がわからない数式状態になっていたり……とにかく頭脳と体力の両方に攻撃してくるのがQUEST2なのです。
普段ゲームばかりしている私の体力が異常に低いのか、それともQUEST2自体が過酷なのかはもうわかりませんが、第2ステージの時点で既に体力が底をつきそうになっています。そう、このダンジョン……「プレイヤーのスタミナへのダイレクトアタック」という観点から考えても難易度が高いのです!
おかしい、私は楽しいダンジョン体験型施設にやってきたはずなのに体力テストばりに消耗している。なんて……なんて過酷な職業なんだ……。
高校以来に綱引きやりました。体力と頭脳を同時に削られるQUEST3
そしてここからはQUEST3。キャラクターがスタンバイしてる8部屋のうちから3つの部屋のミッションをクリアする……という内容です。ここからが本当にキツい!
まず最初に突入したのはエギルの部屋。QUEST3は基本的に1部屋の中に体力勝負の「フィジカルゲーム」と頭脳勝負の「デジタルゲーム」の2つのゲームが用意されています。
この2つのゲームをクリアすることで一部屋分をクリアした判定になるのですが……どちらかひとつでも失敗すると即ゲームオーバーで退場です。嘘やろ?
そしてエギルのフィジカルゲームは……「綱引き」!
マジでキツい!!!!!
なぜ!? なぜ私は『SAO』コラボで綱引きをしているのか!? 私は綱引きをするためにライターになったのか!? 綱引きなんかやったの高校の体育祭以来だよ!!
いや、これは多分私が運動不足とかそういう問題じゃないんですよ。ダンジョンの扉を開けるためにエギルと一緒に綱引きをするのですが……「完全に扉が開き切るまで」綱を引っ張らなければならないので、結構長い間全力で綱引きをする必要があるのです。これこそ本当の持久力勝負です!
「ソードアート・オンライン -アノマリー・クエスト-」の完全踏破を目指す方、割とマジで筋トレ必須だと思います。
そして綱引きで疲労困憊状態の我々に追い打ちをかけるかの如く始まる「デジタルゲーム」。
ちなみにこのフィジカルゲームとデジタルゲームで共通しているのは「タイムリミット」……つまり、「デジタルゲームに集中するためにフィジカルゲームは多少のんびりやろう」なんて考えていると、デジタルゲーム攻略時の残り時間が足りずにあっさりゲームオーバー……なんてパターンも普通にあります。
エギルのデジタルゲームは「パネルのどこかに隠されている強化アイテムを探し当てる」というもの。パネルの中にはトラップも配置されているので、うっかりトラップパネルをオープンすると制限時間が削られてしまいます。まぁ……ざっくり言っちゃえばマインスイーパーみたいなゲームですね。
格闘技が「マラソンとチェスを同時にやるようなものだ」と例えられているのをどこかで聞いたような気がするのですが……同時とまでは言わずともマラソンとチェスを交互にやるとはこういうことなのかもしれませんね。
こんな感じで、制限時間が共有された体力勝負と頭脳勝負の2つのゲームに挑むのがQUEST3ってわけです。今回はエギルも含めて5つの部屋に挑戦できたので、それぞれ紹介していきましょう。
お次はシノンの部屋。射撃を得手とする彼女のエリアなので、もちろんフィジカルゲームもスナイプスキルが必要になってきます。次々と迫りくるワスプ型のモンスターに向かってダーツを投げつけて撃破します!
シノンのフィジカルゲームにおいて必要になってくるのは「狙ったところに当てるコントロール力」と「投げ続けられる肩力」のふたつなので……佐々木朗希か大谷翔平か野球経験のある友達を連れていくとクリアしやすいかもしれません。
ガチ綱引きをやらされに挑戦したエギルの部屋とは打って変わって、このシノンのフィジカルゲームは結構カンタンな印象を受けました。ところがどっこい、こっちはデジタルゲームが難しい!
「参加しているプレイヤー全員で自機を操作して、フィールドのどこかに用意されているゴールに参加プレイヤー全員が辿り着けばクリア(どこかで障害物に接触すれば全員やり直し)」というマルチプレイのイライラ棒的なゲームなのですが……これが難しい!
多分読者の方は「いや、そんなムズそうに見えないけど……?」と思うかもしれませんが、「外周から障害物が飛んできたりする中で」、「3人とも障害物に接触せず」、「制限時間内に全員でゴールする」この条件の厳しさがクリアの門を狭めているのです! とにかく根気と集中力が必要!!
ちなみに体験当日は普通にゲームオーバーになりました。
みなさん、シノンの部屋には気をつけてください。
続いてはアリス・シンセシス・サーティの部屋。
アリスは「アリス・シンセシス・サーティ」ってフルネームで書いた方がカッコいいのでフルネームで書きます。上記の画像を見てもらえばわかるように(?)、バラバラに配置されているブロックをピッタリ納まるように動かしていくパズルゲームです。ペントミノみたいな感じですね。これも結構落ち着いて遊べます。綱引きはなんだったんだ?
ちなみに設定上は「こういう細々とした作業が苦手なアリスがプレイヤーにパズルの解除をお願いしている」というストーリーだそうです。萌えキャラです。
そしてデジタルゲームは神経衰弱。これも結構カンタンです。良かった……全部SASUKEみたいな部屋じゃないんだ……やっぱアリス・シンセシス・サーティなんだよなぁ………
続いてはシリカの部屋。部屋に入ると既にシリカが植物型エネミーに酷い目に遭わされています。
ちゃんとこのシーンやるんだ…………
あのシーンのインパクトが強すぎてコラボの度にこんな目に遭わされているシリカさんの気持ちを考えるとなんだかいたたまれない感じになりますが、まぁそれはそれとしてこのフィジカルゲームは「石(を模したボール)をモニターに投げて植物エネミーを撃退する」というもの。感覚的には植物モンスターに向かって玉入れをする感じですね。……また運動会みたいになってない!?
シノンの部屋で行ったゲームと大体同じようにコントロール力が求められるゲームではあるんですが、ゲーム中は現在進行形でシリカが酷い目に遭わされているので緊張感が段違いです。『SAO』ってすぐこういうことするよね!
続いてはユイの部屋。この「ソードアート・オンライン -アノマリークエスト-」では参加プレイヤーのナビゲーターを務めているユイさんですが、もちろん彼女専用の部屋も用意されています。
ユイのフィジカルゲームは「床に表示されるパネルのセーフエリアを通って部屋の奥まで移動する」というもので、上記の画像に表示されている六角形のセーフエリアは徐々に狭まったり、一定時間で消滅したりします。とにかく素早く、そして足を踏み外さないように部屋の奥を目指す!
そして部屋の奥に到達すると流れるようにデジタルゲームがスタート! なんと「ゲージが溜まり切るまで笑顔を維持し続ける」という表情感知技術を投入したゲームが用意されています。とにかくモニターに向かって笑顔を見せましょう! 何これ? 精神攻撃? 体力と頭脳に飽き足らず心まで削るのか?
……といったような感じで、今回の「ソードアート・オンライン -アノマリークエスト-」の体験会はここで終了です。えっ、何? 結局キリトくんとアスナに会えてない? そう、何を隠そうキリトくんとアスナはこの先のQUEST5で待ち受けているそうなのですが……QUEST3の時点で私たちはもう疲労困憊!
確かに撮れ高とか考えたらQUEST4とQUEST5もやらせてくれよって感じではあるんですが……綱引きしたり廊下を走り回ったりした後にこれ以上ハードな戦いを要求されたらリアルに倒れてしまうかもしれません。てか実際QUEST3で4回ゲームオーバーになってますからね。普通にやってたら4回は退場するハメになってます。
結果的に冒頭であんだけかましてた「クリア率1%」と「SAOコラボなのにキリトくんとアスナに会えない」を証明する記事になってるじゃないか!?
こ、これがクリア率1%……。
……と、読者のみなさんもそろそろ「キリトとアスナのステージを見せろ!」「時間返せ!!」と吹き上がっているタイミングだと思いますので、ここで今回の「ソードアート・オンライン -アノマリークエスト-」の企画と制作を担当した松崎氏のインタビューに移りましょう。
なぜここまでハードなアトラクションになったのか? 結局キリトとアスナとはどうやって戦うのか? 最新技術が惜しみなく注ぎ込まれた「ソードアート・オンライン -アノマリークエスト-」の舞台裏はどうなっているのか? ……などなど、結構技術面での面白い話がバンバン出るインタビューです。ぜひご覧ください。
SAOコラボの経緯、企画意図、「キリトとアスナが敵になる」案はどこから?技術企画担当松崎氏インタビュー
──まず最初に、「THE TOKYO MATRIX」にて『SAO』とのコラボを実施することに決めた経緯や企画の始まりなどをお聞かせください。
松崎氏:
ちょっと話がズレてしまうんですけど、まず「THE TOKYO MATRIX」という施設自体が「ダンジョン攻略型の無理ゲーを作ってみよう」というコンセプトでスタートしているんです。
実際「ソードアート・オンライン -アノマリークエスト-」もかなり無理ゲーだったと思うんですけど……(笑)。
──なるほど、施設自体が激ムズコンセプトなのですね。いや、めちゃくちゃ難しかったです!(笑)
松崎氏:
そうですよね(笑)。
とはいえ、「ただプレイヤーを落とすために難しくするのではなく、そこに社会性を落とし込もう」ということはもうひとりの企画ディレクターと話し合っていました。特に最近の若い方の中には、世の中に色々な不満を抱えていたり、現実で中々上手くいかないことに直面する機会が多いと思います。
ですが、私たちが若年層の方を対象にアンケートを取った結果として、「どこかで自分の力を発揮できる箇所があるなら発揮したい」「自分には難しいことに立ち向かえる自信がある」とおっしゃってくれる方が多かったんです。
その「力を発揮したり、発散したりする場所がないような人」に向けて「THE TOKYO MATRIX」を作り始めました。
そういった人たちに向けているからこそ難易度がハードになっているんですが……この施設での「困難に打ち勝った」という成功体験を通して、どんどん人として成長してほしいと考えています。
松崎氏:
そんなコンセプトの「THE TOKYO MATRIX」とコラボする作品を探していく中でいくつかの候補があったんですが、『ソードアート・オンライン』の「高難易度のデスゲーム」「パーティーで力を合わせて立ち向かっていく」といった要素が、すごくこの施設のコンセプトと親和性があると考えていました。それが今回の企画の始まりですね。
加えて、「THE TOKYO MATRIX」の運営に携わっているソニー・ミュージックソリューションズが普段からアニプレックスさんとお仕事をさせていただく機会が多かったのも、今回のコラボの実現に繋がった理由のひとつだと思います。
そういった制作側とのご縁や、施設と作品が持っているテーマ性の一致なども含めて、今回の「ソードアート・オンライン -アノマリークエスト-」は実現しました。
──確かに難しい内容ではあったんですが、「『SAO』ならある意味原作再現かな……」とも思えました。それ以外にもリンク・スタートができるブリーフィングスペースや、原作のシーンを再現したエリアが用意されていたり、「『SAO』への愛」がひしひしと伝わってきました。
『ソードアート・オンライン』という作品をダンジョン攻略型アトラクションに落とし込むにあたって、何か意識されたことなどはありますか?
松崎氏:
やはり「『SAO』でやるからには本気でやりたい」とも思いましたし……『SAO』ファンである以上はやっぱりみんなリンク・スタートしたいじゃないですか(笑)。
一同:
(笑)。
松崎氏:
元々私たち制作チームにもすごく『SAO』ファンが多いですし、そういった原作の要素やシーンなどはしっかり再現させていただくことを制作中は心掛けていました。
──個人的に驚いたのが、QUEST3でシリカが植物モンスターに吊るされている原作シーンが再現されているところでした。正直、「このシーン再現してくれるんだ……」と思いました(笑)。原作シーンを落とし込んだりするそれぞれのシチュエーションは一発で決まっていったのでしょうか?
松崎氏:
シリカを登場させること自体は企画段階から決まっていましたし、「シリカを出すならこのシーンだよね!」ということはすぐに決まっていきましたね(笑)。
企画段階では今回のコラボ内で再現されているシーン以外にも膨大なネタを用意していましたし、「どのキャラに、どんな部屋を用意して、どんなストーリーがあったらいいか」ということは制作チーム全体で議論を重ねていました。
そのネタの中から技術的に再現可能なものを考えていき、最終的にQUEST3は8つの部屋になりました。
──そうなのですね。もし技術的な面で「この部屋を作るのはかなり大変だった」などのエピソードがあればぜひ教えていただきたいです。
松崎氏:
一番苦労したのはクラインとアリスの部屋ですかね……。両方とも最終的には面白いアトラクションにできたんですが、技術的なところも含めた「このゲームをどうやってクエストとして成立させればいいのだろう」という点で、アリスとクラインは最後まで色々なアイデアを重ねていきました。
「クラインらしさ」「アリスらしさ」をゲームに落とし込むのが大変でしたね。
──他の脱出ゲームやこういったアトラクションに比べて「THE TOKYO MATRIX」はかなり最新技術が導入されている施設だと感じました。技術的な面の「ソードアート・オンライン -アノマリークエスト-」の強みなどはありますでしょうか?
松崎氏:
今回の企画を担当しているソニーグループ自体が、ソニーのテクノロジーを使って何か新しいエンターテインメントを表現できないか……という取り組みを5~6年前から始めていたんです。
そこで上がっていた話が、「アニメの世界で起きることを、テクノロジーを使って現実で再現できないか?」というものでした。今回の『SAO』コラボで例を挙げるとすれば、モーションキャプチャーを使ったソードスキルの再現などですね。
これまでいくつかの期間限定イベントでそういったアトラクションを作ってきたのですが、「THE TOKYO MATRIX」はそれを常設で楽しめるように作り上げた施設でもあります。今後もまだまだ施設としては長く続けていく予定ですので、ソニーの新しいテクノロジーを活かした体験を作っていきたいと考えています。
──テクノロジーの面で、「ここの実装は相当頑張った」「ここは大変だったから注目してほしい!」といったポイントはありますか?
松崎氏:
ダンジョン内に突入するにあたって、剣を模したデバイスを持っていただいたと思うんですが……あれにはチップが内蔵されているんです。あのチップでドアを認証して開けたり、プレイヤー名を判別したりしているんですが……一見カンタンそうに見えて、あれは結構難しい技術なんです(笑)。
ちゃんとチップのソフトウェアに専用のプログラミングを施した上で、ゲーム全体の進行状況や難易度のコントロールを行っています。ハードウェアの技術だけではなくて、「ソフトウェアのプログラミング」という点でもすごく新しいものが作れたんじゃないかなと思います。
もうひとつ挙げるとすれば、ガイド役で登場するフルボイスのユイちゃんは全て音声合成で作られているんです。企画中に「ここのガイドは少しわかりづらいかな」と感じたら、すぐに音声合成で説明を追加したりすることもできました。
今回からソニーの音声合成を使い始めているんですが、非常に高いクオリティーのユイちゃんのボイスを作れている自信があります。多分全然わからなかったと思います(笑)。
──音声合成だったんですか!? 普通に伊藤かな恵さんがしゃべってると思い込んでました……!
──ぶっちゃけ聞いてみたいんですけど……制作チームの方は今回の「ソードアート・オンライン -アノマリークエスト-」はクリアできましたか?
松崎氏:
あの~……できてないです(笑)。
一同:
(笑)。
松崎氏:
一応「ソードアート・オンライン -アノマリークエスト-」にはレベル調整のシステムが用意されているので、私たち制作チームがプレイしながら難易度調整を行っています。ただ、若い子にデバッグをお願いしたら、デフォルトよりさらに高い難易度も楽々とクリアされてしまったんです。
その姿を見ていく中で、「私たち年寄りがカンタンにクリアできるくらいじゃダメだ!!」と思い、難易度調整を進めていきました……(笑)。開発者でもクリアは中々難しいですね。
──その難易度の高さがあるから「『SAO』のコラボなのにキリトとアスナに中々会えない」というのは面白い状況だと思うんですが……(笑)。実際、「ソードアート・オンライン -アノマリークエスト-」内でキリトとアスナとはどんなバトルが展開されるのかはお聞きしてもよいでしょうか?
松崎氏:
そう、『SAO』コラボなのに中々会えないんですよね……(笑)。
最終的にはキリトとアスナと直接対決するクエストが始まるのですが、1対1のデュエルをイメージしています。『SAO』ファンの方にはお馴染みの「デュエル」ですね。プレイヤーの方には最終的にあのデュエルのスタイルでキリトかアスナと戦ってもらいます。
もちろん超絶強いです!
──ただでさえ難しいのに、最後も難しいんですか!?
松崎氏:
もちろんです。1番最後に1番強いキリトとアスナが待っています(笑)。
──先ほどから何度かお話しいただいている「施設自体が激ムズ」というコンセプトが面白いと感じているのですが……今後もし「THE TOKYO MATRIX」で『SAO』以外とのコラボを実施する場合も、難しめに作っていく感じになるのでしょうか?
松崎氏:
基本的にそうなるかと思いますね。
施設自体のコンセプトは崩したくないと考えています。
ただ、「全然歯が立たない、全く無理」な難易度というわけではなくて、2~3回ほど繰り返し遊んでいくことで、徐々に攻略の糸口が掴めてくるような難易度設定を目指しています。何度か遊んでいくうちに、必ずクリアできるように作っています。
「ソードアート・オンライン -アノマリークエスト-」で例を挙げるとすれば、8つの部屋の中から3部屋に挑戦するQUEST3はひとつの部屋をクリアするごとにレベルが上がって行ってしまうので、「最初にどの部屋に挑めばいいか」といったような戦略性も周回時のやり込み要素として用意しています。
──なんかもう本当にアインクラッド攻略戦みたいな感じなんですね。さきほどスタッフさんから入場料が比較的安いというようなお話を聞いたのですが、入場料の安さもある程度周回を見越した価格設定なのでしょうか?
松崎氏:
そうですね。ひとりにつき大体2000円から2400円くらいでワンプレイできるようにはなっています。さらに、今はオープン記念特別価格で1500円~1750円でプレイできます!
繰り返し遊んでもらいたい設計なのに価格が高いと大変なことになってしまうので……割と価格設定もお財布に優しい感じを心がけました。
──「ソードアート・オンライン -アノマリークエスト-」のウリのひとつでもある「キリトとアスナが敵として待ち構えている」という要素は初期段階で決まっていったものなのでしょうか? 外伝作品でもキリトやアスナが敵に回る展開は中々なかったと思います。
松崎氏:
いや、そこはすぐに決まったわけではなかったです。ちょっと話は遡るんですが、「THE TOKYO MATRIX」と『SAO』のコラボが決まった時に、「アトラクション自体をどんなストーリーにするか」という問題に直面しました。
もちろん、SAO編やGGO編といった特定のストーリーをピックアップしたり、歴代のボスキャラを登場させるような方法もあったと思うのですが、キリトやアスナと一緒にパーティーを組んだらこの2人が強すぎて敵を全部倒しちゃうじゃないですか(笑)。
確かに「キャラクターと一緒にパーティーを組む」という体験はファンの方々にとっても満足度が高いとは思ったんですが……キリトとアスナがいると設定上強くなきゃおかしいし、アトラクション内の敵を2人だけで全部倒せちゃいます。
そこから原作元のストレートエッジさんと打ち合わせさせていただく中で、「キリトとアスナが敵になるのはどうだろう」というアイデアが出て、ストーリーラインを固めていきました。この「キリトとアスナが敵」というコンセプトがビシッと決まったおかげで、そこに向けて色々なものを作っていくとこができましたね。ストレートエッジさんとは案出しの頃からご一緒させていただきました。
──なるほど、原作元と作ったプロットだったんですね。最後になりますが、制作チームの視点から見て、今回の「ソードアート・オンライン -アノマリークエスト-」をプレイヤーの方にはどうやって楽しんでいただきたいか……についてお聞かせください。
松崎氏:
ストレートエッジさんからも素敵な設定をいただきましたし、やはり「キリトとアスナが敵として待っている」というラスボス戦を楽しみにしてほしいですね。
もちろん、ボス戦手前のQUEST3にも人気のキャラクターがたくさん出てきますし、それぞれのキャラクターに合わせたアトラクションやゲームを用意しています。『SAO』ファンの方にはひとつひとつの要素を楽しんでいただきたいですね。
──ありがとうございました!(了)
さて、いかがだったでしょうか。インタビュー中、松崎氏が言ってくれたことで個人的に念押ししておきたいのは、やはり「入場料が比較的お手頃」という点です。
正直、「最新技術も詰め込まれてるらしいし、1回5000円くらいは行くかもしれん……」と思っていたのですが、かなり手の届きやすい値段でこのダンジョン攻略を楽しめちゃうわけです。まぁ、お財布をあまり気にしない周回前提とした場合、あとはもう体力との戦いですね! みんな、怪我には気ぃつけや!!
「ソードアート・オンライン -アノマリークエスト-」は新宿・東急歌舞伎町タワーの「THE TOKYO MATRIX」にて2023年4月14日よりオープン開始! これは、ゲームであっても遊びではない!!