8月23日から25日の3日間にわたり「CEDEC 2023」が開催された。本稿では講演「遠隔空間を目の前にリアルに再現できる時代」についてレポートしていく。
本セッションにはソニー株式会社の技術開発研究所 コンテンツ技術研究開発部門 知的映像技術開発部より高橋紀晃氏と小林優斗氏が登壇。眼鏡やゴーグルなどを装着せずに3D体験ができる「空間再現ディスプレイ」は、距離の制約を超え “空間と空間を繋ぐ” 役割を果たすという。
果たしてそんな、どこにでも行けるドアのようなことが可能なのだろうか。結果を先に書いておくと、距離感をぶっ壊された。
文/柳本マリエ
デジタルにおいての “距離感” が覆る「空間再現ディスプレイ」
「CEDEC 2023」の会場にはソニーが開発する「空間再現ディスプレイ」のデモが展示されており、実際に体験することができた。
このディスプレイ技術の驚くべきところは、デジタルっぽさを感じないところ。肉質や髪の毛など、本当に相手が目の前にいるように見える。
筆者はこのとき「3Dを体験する」という気持ちで挑んでいるため相手が目の前にいないことは理解しているが、事前情報がなくパッと目を開けてこの状態になっていたとしたら、特に疑うことなく「目の前に人がいる」と思ってしまうだろう。それくらい自然に3Dが表示されていた。
そんな、圧倒的にリアルに表示された相手が自分に向けて手を伸ばしてきたらどうなるか。
デジタルにおいての「距離感」が覆る。
とにかく距離が近い。本当に近い。近すぎて恥ずかしい。なんなら直接会うよりも恥ずかしい。ソニーが目指す「距離の制約を超え “空間と空間を繋ぐ”」という目標はもう完成しているのでは……? と思ってしまうほどだ。
「空間再現ディスプレイ」で目指すふたつのこと
ひととおりデモを体験したので、ここからはセッションの内容をお届けしていく。
高橋氏と小林氏が開発している技術は「3Dテレプレゼンスシステム」という、撮影から伝達・表示にいたる空間映像技術。
この「空間再現ディスプレイ」で目指していることは大きくふたつあるという。ひとつは、距離の制約を超えて空間と空間を繋ぐこと。もうひとつは、遠隔空間を目の前にリアルに再現すること。
「距離の制約を超えて空間と空間を繋ぐこと」とは、まるで相手がこちら側にいるかのような自然なコミュニケーション。これは先ほどのデモのように、圧倒的な実在感で距離感をぶっ壊すもの。
「遠隔空間を目の前にリアルに再現すること」とは、まるで自分が向こう側にいるかのような自然なコミュニケーション。たとえば、3Dディスプレイを見ながらリモート操作でショベルカーを動かし工事を行うというようなもの。
この3Dディスプレイがなぜ遠隔空間を再現することに優れているかというと、「ものの大きさを把握できる」という特徴があるため。2Dの場合はものが手前にくると大きく映ってしまうため、大きさを伝えることが意外と難しい、と小林氏は語る。
また、ディスプレイを複数並べることで広い空間の再現も可能になるという。
「空間再現ディスプレイ」は、どんな用途にせよ眼鏡やHMDの装着なしで3Dを体験できるため疲れにくく、「同じ空間にいる臨場感」を味わうことができる。
眼鏡を装着する3D映画や、HMDを装着するVRとは異なる見え方が特徴だ。
オンラインを活性化することでオフラインも盛り上げたい
ここからは、「空間再現ディスプレイ」を使った活用例が紹介された。
・「ミート & グリート」イベント
・遠隔コンサルティング
・遠隔診療
・重機の遠隔操作
・遠隔運転
・ロボット操作
・バーチャル内見
・ミュージアム など
なかでも「ミート & グリート」などの対人イベントは運営をするうえでのメリットが多いとのこと。移動が必要ないため国内外のアーティストを呼ぶことができ、「剥がし」と呼ばれる案内もスムーズに行うことが可能だという。
そういったオンラインのイベントに参加しながら交流を深めることで、オフラインのイベントに参加するきっかけにつながるのではないかと高橋氏は語る。
また、遠隔診療については診療所がない地域はもちろん都内でも駅の構内などに設置することで利用者が見込まれるとのこと。重機などの遠隔操作についても危険な場所での安全確保や作業効率の向上が大きなメリットとなっている。
さまざまな活用例が紹介されたあと、最後は「技術の活用についてこれからたくさんの方とディスカッションをしていきたい」と締めくくられた。
「空間再現ディスプレイ」はデジタルにおいての距離感が覆る。
ハイタッチや握手などのアクションを行っても触れ合うことはできないが、実際の触れ合いとは異なる “別の味わい” があった。それはリアルでは気軽に実現できない距離感だったからかもしれない。
目の前にいる “実在感” は肉眼でしか体験できないため、どこかで機会があるならば、ぜひ体験してほしい。