屋台やフードトラックで買う食べ物って、不思議な魅力がありますよね……! 「外でご飯を食べる」というのがそもそも楽しい行為ではあるんですが、なんとなく目の前で作ってもらったやつを買うというのが嬉しい。あと車の中にキッチンがある、というのもちょっとしたロマンなのかもしれません。
そんな「フードトラック」の魅力と、かわいい動物たちとの交流を楽しむ『どうぶつの森』的な魅力をトッピングしたのが『フルーツバス』。オープンワールドで表現された島を自分のトラックで自由に走り回り、果物やレシピを集めていくキュートな料理アドベンチャーです。
本作を手がけるのはノルウェーのゲームスタジオ「Krillbite Studio」。過去作としては幼児を主人公にした独特のホラーゲーム『Among the Sleep』も日本で人気を集めましたが、今回は大幅に路線を変更してハッピーな雰囲気になっています。
また開発元はノルウェーのスタジオながら、なんとすでに日本語の字幕と音声に対応することが決定しているという豪華ぶり。今回は「東京ゲームショウ2023」で展示された試遊版のインプレッションとともに、日本向け展開の決断についてKrillbite StudioのCEO・Tobias Fossheim氏にお聞きしてきました。
文・取材/久田晴
※記事中の操作はプレイステーション版に準拠した表記としています。
料理の“手作り”感が楽しい!
『フルーツバス』はタイトルの通り、自分のフードトラックで島中を巡り、材料の果物やレシピを集め、作った料理を販売して得たお金でさらに設備を拡張していく……というゲームになっています。擬人化されたかわいい動物たちと、やわらかいアニメ風のグラフィックで表現された島には非常に癒されるものがありました。
試遊にあたって、まず印象に残ったのが独特の操作性。本作では主人公の右手・左手を使ったアクションがR1・L1ボタンに割り振られており、それぞれひとつずつのアイテムを所持することができます。
持っているのが果物やお金ならば「持つ・置く」といったシンプルなアクションのみとなりますが、例えば果物ナイフを持った状態なら「切る」ことができるように。この他にも車でドライブするため運転席に着いたり、店を開けるためにシャッターを開くなど、大半の操作が“両手”に集約される仕組みになっています。
この操作性によって生まれているのが“手作り感”。果物を集めて、料理して、お皿に盛ってお客さんに出して……という作業を、まさに自分の手で行っているような没入感を味わえます。調理の操作自体は決して複雑なものではないのですが、実際にプレイしてみると不思議と「料理をしている感じ」が伝わってきました。
ゲーム全体がまったりとしているのも大事なポイントで、本作ではノルマや時間制限といったプレイヤーを急かすような要素がありません。調理に時間をかけても文句も言わず待っていてくれますし、お客さんが並んでいても面倒になったらいつでも店を閉めてOK。非常にマイペースに遊べる仕様となっています。
上述した操作性は、次々に訪れるオーダーを素早くこなしていくような料理ゲームであればストレスになっていたかもしれませんが、リラックスしてのんびりプレイできる本作ではそのデメリットが自然と消え去っています。「手作り料理でお客さんに喜んでもらう」というシンプルに心温まる体験を、存分に味わえるデザインだと感じました。
また上ではナイフのみを挙げましたが、このほかにも地面を掘るシャベル、手の届かない果物を引っかけて取れる釣り竿などのアイテムが手に入るそうです。同時にふたつしか運べないのでは? と思われるかもしれませんが、最序盤に荷物を持ち運ぶ用のカバンが手に入るので安心。既報の映像ではフリスビーを投げて果物を落としている様子も見られます。
キーになるのは“おばあちゃん”。温かみあるストーリーの空気感が心地良い
さて、本作の主人公にはおばあちゃんから託されたフードトラックでレシピを再現し、彼女との思い出の地を巡っていく……というちょっと切ないストーリーがあります。
おばあちゃんが運営していたころのフードトラックは非常に人気を集めていたらしく、何人ものお客さんが「おばあちゃんの味はサイコーだったよ!」と思い出を語るとともに、新人の主人公はちょっと実力を疑われる場面も。彼らを納得させるためにも、おばあちゃんが得意としてきたレシピを手に入れ、実力を証明しなくてはいけません。
今回の試遊では町から少し離れたところにある山へ足を運び、新レシピに必要な材料を探したり、おばあちゃんと一緒に埋めたタイムカプセルを探したりといった探し物クエストを体験。山登りは簡単なプラットフォームアクションのようになっていますが、落下ダメージのようなものはないので肩に力を入れず楽しめます。
みごとレシピを入手し、お客さんのオーダーを完成させると目をハートにして喜んでくれることも。一部のお客さんには好感度のようなものが設定されているらしく、固有のストーリーを楽しめる模様です。何より、嫌味の無いキャラクターデザインがとにかくキュート! 車を降りて歩くのも本作の楽しみのひとつと言えるでしょう。
またゲームを進める中では時おり、おばあちゃんの残したメッセージが読めるのですが、冒頭でも紹介したように本作は日本語音声にまで対応。翻訳のクオリティも小規模作品とは思えないほど高く、“おばあちゃんっぽさ”がきちんと再現されていました。こういった細かいところからも温かみを感じられるのも嬉しいところですね。
Krillbite Studio CEO・Tobias Fossheim氏:ミニインタビュー
──本日は試遊のご機会をいただき、ありがとうございました。あらためてお聞きしてみたいのですが、本作ではなぜ、最初から日本語の音声にまで対応したのでしょうか?
Tobias Fossheim氏(以下、Tobias氏):
開発当初から本作は日本で良い反応をいただけるんじゃないかなと思っていまして。事実、Steamのウィッシュリスト登録者のうち、8分の1ほどは日本人のユーザーさんなんです。それで音声までふくめ、完全なローカライズを行おうと決断しました。
──Krillbite Studioさんと言えば『Among the Sleep』【※】の開発元としてのイメージが強いですが、同作がホラーゲームだったのに対して『フルーツバス』はすごくかわいらしいゲームになっていますよね。
※『Among the Sleep』:『フルーツバス』と同じくKrillbite Studioが開発したホラーゲーム。2歳の幼児を操作する作品で、走る、高いところに登るといった一般的なアクションにも制限がかかる独特の仕様を特徴としている。
Tobias氏:
Krillbiteとしては、ひとつのゲームジャンルにだけ固執したくありませんでしたので。今回は『Among the Sleep』の経験から得た一人称視点のノウハウを、明るくてハッピーな『フルーツバス』に活かすような形にしています。とはいえ、またホラーゲームを作りたいという想いも決して失ってはいませんよ。
──今回はずいぶんキュートな作品になっていたので、少しびっくりしました(笑)。
Tobias氏:
本作のアイデアはコロナ禍で生まれたものなんです。コロナの影響でリモートワークに転換したら、スタッフのみんなが料理やパン焼きを趣味にしはじめて……。お互いにその趣味の話をするうちに、「これはゲームにできるんじゃないか?」というアイデアが出てきたんですね。
とはいえ、やはりコロナの時期は色々なイベントもできなくなってしまった寂しい時期でしたので、そんな中でも心が励まされるようなハッピーなテイストを目指しました。外で楽しく食べられる「フードトラック」という設定の源泉も、ひとりで料理を作って食べるだけでは寂しいから……というところにあるんです。
──なるほど。すごくかわいくて面白いゲームになりそうで、楽しみにしております。本日はありがとうございました。
Tobias氏:
ありがとうございました。(了)