ネコは必ず、足を下にして着地する。
バターを塗ったトーストは必ず、バターの面を下にして着地する。
ではネコの背中にバタートーストを括り付けて落下させたら、どちら向きに着地するのだろうか……? この問いが、かの有名な“バター猫のパラドックス”である。
今回ご紹介するパズルゲーム『CATO』は、このパラドックスにひとつの解答を叩きつけた。その解とはすなわち、バター猫はぐるぐると回転しながら空中を浮遊するというものである。
とはいえ、ただバター猫が空を飛ぶだけのゲームではない。なんとトーストも単体でジャンプできるからだ。あとネコが流体化したりもする。
そんなワケの分からないシュールすぎるパズルゲームな本作だが、意外というべきか肝心のパズル部分は思考力や発想力を試される本格的なもの。本稿では中国の大規模インディーゲームイベント「WePlay Expo 2023」で試遊できた『CATO』の魅力をお伝えしていきたい。
取材・文/久田晴
バター猫は空を飛ぶ。ぐるぐるぐるぐる空を飛ぶ
まず本作で一番大事なシステムを紹介しよう。それは「バター猫」(本稿では背中にバターを塗った面を上にしたトーストを括り付けた猫と定義する)は空を飛べる、というものだ。
バター猫はジャンプボタンを連打すると、ぐるぐると回りながら空を舞う。ぐるぐるぐるぐると回転しながら、左右へ自由に移動できる。きっとこのネコは「空を自由に飛びたいな」などとは言わないであろう。
本作はパズルゲームであるが、ステージを進んでいく中ではところどころに「パズルを解く必要がなく、ただ道を進むだけの空間」が設けられている。これは一見すると何の意味もないように思えるが、ゲームを遊んでいると、こうした空間では自然にぐるぐる飛行をやってしまう。
やはりバター猫になってぐるぐると空を飛ぶのは楽しい。楽しく、見栄えも面白いからこそ、これだけでもパズルを解いた“ご褒美”として機能しているのかもしれない……と感じた。
そんな爽快感を持つ『CATO』だが、ゲーム中ではさまざまなギミックが立ちふさがるため、多くの場合ネコとトーストは分離して動く。トーストも自力でジャンプして動く。2キャラクター(?)を並行して動かし、ギミックを攻略していくというのが『CATO』の主軸となるゲームプレイだ。
まず、ネコは歩いて左右に移動できるが、ジャンプはできない。またネコは液体であるため、パイプの中もぬるりと動くことができる。かわいい。
トーストは自ら左右にジャンプすることにより、多少の高低差や床の隙間を超えて移動できる。さらに壁ジャンプも可能だが、氷の床や壁では身動きが取れなくなってしまう。やはり、バターが冷めてしまうからだろうか。
代表的なギミックとしては、トーストを挿すとゲートを開けてくれるトースター、ネコが踏んでいる間だけ作動するスイッチ、トーストを置くと起動するスイッチなどが挙げられる。トーストをスイッチに置いてネコを動かしたり、逆にネコにスイッチを踏んでおいてもらってトーストを動かしたり……と、その攻略方法はさまざまだ。
トーストが2枚になる、それだけで求められる発想力が段違い
序盤のステージでは、1ステージにつき登場するトーストは1枚だけだった。なので必然的に解法のパターンも限られ、クリアへの道筋を見つけることもたやすい。
ところが中盤以降、ひとつのステージに2枚のトーストが出現するようになる。面白いのは、ネコとトーストが分離しているとき、動かせるのは「ネコが最後に触れたトースト」だけとなる点だ。つまり目の前にあるトーストに触れるか、触れないかも重要な選択となるのである。
このようにトーストが1枚増えるだけで考えうる行動の幅が一気に増え、途端に発想力が求められるようになってくる。一方で頭がねじ切れるような試行錯誤の末、クリアへの道筋が見えたときの喜び、「やってやったぜ!」という達成感は計り知れなかった。まさかネコとトーストでこんなに嬉しくなることがあるなんて。
このスタイルが優れている点は、今回の試遊では2枚までであったものの、登場するトーストを3枚、4枚と増やしていけばどんどんパズルの幅を拡張できる点だ。もちろん難しくなればなるほど良いというものではないが、シンプルながら高い拡張性を感じさせるのは素晴らしいアイデアと言うほかない。
また「ここからトーストをジャンプさせて……」とか、「ここでバター猫になれば空を飛べるから……」とか、攻略の過程はあらためて文章化すると非常にシュールである。大真面目にならないと解けないパズルと、シュールさ抜群の設定から生まれる温度差も『CATO』ならではの魅力と言える部分だろう。
『CATO』は“バター猫のパラドックス”に着目し、それをパズルゲームにしてしまうというとてもユニークなアイデアが光る作品だ。そして“バター猫のパラドックス”が持つシュールさに、「自力でジャンプするトースト」や「流体状になってパイプを伝うネコ」といった表現で磨きをかけ、独自の世界を描き出している。
同時に、頭を悩ませ、解けた瞬間には「こういうことだったのか!」となるパズルゲームとしての完成度も高い。今回の試遊ではチュートリアルもふくめて10数ステージほどのプレイに留まったが、きっとさらにたくさんのアイデアが宝石箱のように詰め込まれた作品になるだろう。
そんな予感を抱かせてくれた『CATO』の発売を、いまはバタートーストでも食べながら楽しみに待ちたい。どうかこのトーストが、いきなり手元からジャンプすることのありませんように。