カニがバンドを組んで塔を登り、ヤドカリをぶっ倒すローグライトアクションゲーム。
意味不明に思われるかもしれない。確かに筆者も奇妙キテレツなゲームだと思う。だが、実は「カニゲー」というジャンルに心惹かれるプレイヤーは少なくない数が実在する……ようなのだ。そして本作『Crab Rhapsody Vol.1』(蟹蟹狂想曲 Vol.1)はその発想もさることながら、非常に丁寧にローグライトアクションとして作り込まれていた“期待のカニゲー”である。
かわいい絵柄で描かれたカニは両のハサミに武器を取り、立ちはだかる敵たちをぶっ飛ばしていく。その背景を彩るのはあまりにもイカしたBGMの数々。やっていること自体はシンプルなのに、なぜか動かしているだけで楽しくなってくる魅力が本作にはあった。
本稿では中国・上海で行われた大規模インディーゲームイベント「WePlay Expo 2023」での試遊体験をベースに、『Crab Rhapsody』のカオスながら完成度の高いゲームプレイの模様をお届けしていく。
カニが両手に武器を持つ摩訶不思議ゲーム、でもアクションはちゃんと良い
『Crab Rhapsody』は、カニが両手のハサミに武器をもってヤドカリたちを蹴散らし、バンドメンバーを集めつつ、謎の塔を上へ上へと登っていくローグライトアクションゲームだ。あらためて文字にすると意味不明なほどカオスだが……実際にこの通りのゲームなので仕方がない。
両手に握る武器は「ギターチェーンソー」や「フルートの槍」、「ラッパのショットガン」など、どれも楽器をモチーフにしたユニークなデザイン。右のハサミの武器を右クリック、左のハサミの武器を左クリックで放つことができ、それぞれの武器はいつでも捨てて新しいものへ変更できる。
使用感はどれもこれもクセが強く、例えば「ギターチェーンソー」は発動すると狙っている方向に一心不乱に高速で突撃していき、しばらくの間は止まらない。「ラッパのショットガン」は撃ったときに自分も大きくノックバックするので、危うく足場から落下しそうになるケースもあった。
そして武器の多くが使い捨て、あるいは数回の使用で失われてしまうので、どんどん新しいものを拾っては使うというアグレッシブなゲーム性も魅力のひとつ。ちなみに素手の状態のパンチでは敵をスタンさせることができ、スタン中の敵は持ち上げて投げつける武器にもなる。
そして少し珍しいのが体力制ではなく、ステージ外へ落下してしまったときにゲームオーバーになるというシステム。ダメージが加算されていくと吹っ飛びやすくなるという『スマブラ』形式を採用している。ただし多少の落下であれば塔を登り直すだけですむ。
ステージにはやたらと爆発するドラム缶が配置してあるので、自然と画面が大迫力でカオスな絵面になりやすい。もちろん自分も吹っ飛ばされるとゲームオーバーになってしまうことには注意が必要だ。
一見するとカオスなだけの“バカゲー”にも映る本作だが、意外にもそのゲームプレイは硬派な出来栄え。すぐに手持ち武器が失われてしまうので、常に動き回り、次々と変わる武器を巧みに使い分けて戦闘を組み立てていく必要がある。今回の試遊では巨大なボスとのバトルもあり、にぎやかな画面とスリリングなバトルを楽しめた。
「カニのバンドメンバー」を集めるシュールな体験と最高のBGM
「Rhapsody」(狂詩曲)とタイトル、そして楽器をモチーフにした武器の数々を見ても分かるように『Crab Rhapsody』は音楽面に非常に力を入れている。
その最たる要素が「バンドメンバー」を集めていくゲームプレイ。今回の試遊の段階でもギター、ベース、ドラム、トロンボーン、トランペット、シンセサイザー……などなど、手に手に楽器を持ったカニたちが次々と仲間に加わる。それぞれ「ロック」や「ジャズ」などジャンルも分かれているうえ、どれもデザインが秀逸で見ているだけでも楽しい。
そしてこのバンドメンバーに応じてBGMは変化していき、例えばベーシストを加えればベースが鳴り響き、トランぺッターを加えればジャズっぽくなる。メンバーは最大6人までが登録できるので、好みのサウンドを目指してメンツをそろえよう。
試遊版では基本的にBGMが変わる以上の効果は無かった模様だが、開発スタッフによると今後はメンバーの構成によって何かしらのボーナスが得られるような要素も考えているとのこと。「誰をバンドに加えるか」という、なかなか珍しいローグライト要素になることも期待したい。
「カニがバンドメンバーを集めながら塔を登る」という摩訶不思議な設定が目を惹く『Crab Rhapsody』。そのアイデアもさることながら、爽快なゲームプレイとカッコよすぎるサウンドはまさに“期待のカニゲー”と呼ぶのにふさわしいクオリティだったように思う。
実は本作は南カリフォルニア大学のゲームレーベルプロジェクトを通じた作品のひとつで、今回の「WePlay Expo 2023」に紐づいたインディーゲームアワード「IndiePlay」における、ベストオーディオ部門、学生作品部門でノミネートされていた。
そしてイベントの最後に行われた「IndiePlay」の表彰式では、なんと本作が学生作品部門で第1位に輝いている。記事執筆時点で発売時期や日本での展開については不明であるが、次代を担うカニゲーのひとつとして、大いに期待を寄せたいところだ。