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『Kanon』『AIR』『CLANNAD』はなぜ長く愛されるのか? 創業者・馬場隆博氏が語る“息の長い推し”を生むための仕掛けは、ファンを疑わないことだった【IMART2023】

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PCからドライブがなくなってしまったときが大変だった

じつはここまでが自己紹介の範疇で紹介されたものだが、十分に濃い内容となっていた。ここから先は、中山氏と馬場氏によるトークセッション形式でディスカッションが進められていた。こちらではその一部をピックアップしてご紹介していく。

ビジュアルノベルの時代から始まり、現在スマホで配信されているモバイルゲームは10年前とは異なる作りになってきているなかで、「これだけ長い間ファンが残っているのか」というところに関心がある中山氏。それに対して馬場氏は、釣り竿が1本1500円だった時代に何年も掛けて作ってきたコンテンツが1500円で全然売れなかった時代を経験しているため、ソーシャルゲームにはショックを受けたという。これは、そのビジネスモデルが優秀だったことにほかならないのからだ。

ビジネスモデルが進化していくなかで、物語系のコンテンツのいいところを組み合わせ、パズルゲームのような飽きやすいものでも物語があることで飽きることがない。そのため、ソーシャルゲームとビジュアルノベルは親和性が高かったのだ。

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馬場氏が社長を務めてきたなかで、一番大変だったのは、PCからドライブがなくなったときだという。それまでPCゲームを作ってきたため、何を売ればいいのかわからなくなってしまったのだ。USBメモリーやSDカード、ダウンロードカードなどを入れてみても結局ダメだった。盤(ディスク)に対する進行がいまだにユーザーの間にはあり、ひとつのキャラクターアイテム的な位置づけになっているのである。

PCショップでゲームを買ってPCの中にディスクを入れて立ち上げるという、一連の流れが崩れてしまったときが大きかったと馬場氏はいう。

『Angel Beats!』のアニメ化で自ら原作権を持つことができたのはプロデューサーの懐が大きかったから

『Angel Beats!』のアニメ化をするときに、通常はアニメ制作会社が原作権を取得することが多いが、原作権を渡さず自ら所有していた。受託型になりがちなところが、自らの権利を主張して取りにいった形になるが、それは思想の問題だと馬場氏はいう。

元々ゲームがあったものに対して「アニメ化することについての許諾」をしているというスタンスなのだ。だからこそ、作品自体が自分たちのものである考えに基づいて、いろいろなことを展開していけるのである。このアニメ化のときに、世界観とシナリオだけを担当するという、ひとつの部署になってしまう可能性もあった。しかし、それでは自分たちがやりたいことには繋がっていかない。

ゲーム自体は作っていなかったのだが、麻枝 准氏の頭の中には存在しており、それをあくまでも版権許諾という形でアニメ化するという契約にしているのだ。しかし、通常はそうしたお願いはなかなか聞いてもらえないことが普通である。そこを聞いてもらえたのは、アニプレックスのプロデューサーであった鳥羽洋典氏の懐の大きさからだ。

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アニメ化のときは何も変えてほしくないと意地を張って通した

いわゆるエロゲーと呼ばれる18禁ゲームの始まりは、スキャナーを作ったメーカーが宣伝のために付けた付録からだ。それがめちゃくちゃ売れたため、独立して売ったところさらに売れたことから多くの人が作り始めた。何を作っても売れる時代ではあったのだが、そうした中でアニメに特化していったということもあれば、ビジュアルアーツのようにビジュアルのベルに特化していったという流れもその中にあった。

1990年代と2000年代とでもまったく状況が異なるが、ゲームとアニメでは作り手も異なっていた。それがだんだん近づいていったのは、ガイナックスがゲームなども手掛けるようになってからだ。当初はゲームをアニメ化した場合でも、全く異なるものを作ることが流行っていた。そうした流れがあったなか、それはダメだと行ったのがビジュアルアーツである。

たとえばゲームの主題歌は、アニメ化されるときは必ず変えられていたものであった。しかし、それは馬場氏にとっては我慢できないことだったのだ。同じクリエイターとしてシナリオやキャラクターは使ってもらうことができるのにも関わらず、音楽家はなぜ使ってもらえないのかということに不満を感じていたのである。そこで、『Kanon』では何も変えないでほしいと実現している。

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美少女ゲームぐらいしかなかったジュブナイルが翻訳のレベルが上がり世界に広がっていった

現在はSteamで海外のユーザー向けに売られている『CLANNAD』だが、そのきっかけとなったのは海外で出展したときだった。会場にファンが多く来場し、それが日本のファンとも変わりない熱量であったのだ。同社の作品はそれまで日本のファンに向けてだけ作ってきたものではあったのだが、コンテンツの本質として世界で受け入れられていくものがあると感じ、Steamで英語版をリリースしたあと、中国版も発売している。

これまで文章量の多い作品を英語にすると誤差が大きいということもあり、そうした作品が海外でヒットしたという例はあまりなかった。その質が高まってきている要因のひとつとして、ローカライズのレベルが上がってきていることが影響している。また、翻訳のみならず、声優のレベルもかなり上がってきており、海外でアニメがヒットしていることの要因のひとつにも吹き替えのレベルが上がってきているからだ。

また、主人公の青年が内的世界を広げていく中で、女の子と知り合ったり瑞々しい恋愛を経験したりといった、いわゆる「ジュブナイル」と呼ばれるようなものは、当時、美少女ゲームぐらいでしか存在しなかった。だからこそ、そうしたものを求めていたファンが飛びついたということもある。

その後、ライトノベルから始まり、アニメやゲーム化され広がっていったものの、世界的にみるとやはりそうしたコンテンツは日本にしかなかったのだ。だからこそ、世界でもそうしたコンテンツが受けていたのである。日本の表現能力の高さは異常なレベルであるため、内的世界の切なさや感動が的確に伝わるのである。「俺の物語」と「僕の物語」は異なり、後者がジュブナイルだ。日本語の表現能力の高さがいい感動を生み出し、それがさらに翻訳にも繋がっていったのだ。

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ファンの声に耳を澄ませるのはどこの会社もできる

いろいろと興味深い話題が飛び出したが、あっという間に時間が過ぎていった。残り時間もわずかということで最後に締めくくりとして、今後IPを作っていきたいと思っている人に向けて中山氏と馬場氏からメッセージが語られ、本セッションが締めくくられた。

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中山氏:
日本では、「作家と併走しながら待っている、作れる」という会社は意外と少ないと思うことが多いです。最近すごいと感じたのは、出版社と音楽レーベルです。ほぼひとりに近く、「これ大丈夫?」みたいな状態から、「こいつは何か違う気がする」と併走しています。一方でゲーム会社は割と遠いんですよね。すごい人たちが作っているようで、外注文化が一般化している。そのため「育てながら作っている」ということをちゃんとやっているのは出版社と音楽レーベルかもしれません。

これは大手とは真逆の世界です。大手では、3年目、5年目、10年目ぐらいに当てたりする人は当然いて、育ててきたときの凄さみたいなものがあります。いかに日本のマジカルな部分を保存しながら、外注するべきところはする。この両輪をやっていかなかいといけないのではないかと思います。

馬場氏:
いろんな会社があって組織があって、資金繰りやスタッフの問題があるなど、さまざまな事情があるなかでで正解は一概に言えません。だから、「私はこうでした」というだけですね。

すべての会社に同じことをお勧めすることはできませんが、たったひとつだけ言えるとすれば、「ファンの声に耳を澄ませる」ことはどこの会社でもできるのかなと思います。そこを意識してみると、何かが始まるのではないかなと思います。(了)

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ライター
ライター/編集者。コンピューターホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。 現在はゲームやホビー、IT、XR系のメディアを中心に、イベント取材やインタビュー、レビュー、コラム記事などを執筆しています。

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