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『Kanon』『AIR』『CLANNAD』はなぜ長く愛されるのか? 創業者・馬場隆博氏が語る“息の長い推し”を生むための仕掛けは、ファンを疑わないことだった【IMART2023】

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「マンガ・アニメーションの未来を作る」をテーマに、2019年に誕生した日本初のボーダーレス・カンファレンス「国際マンガ・アニメ祭 Reiwa Toshima (IMART)」。本イベントは、マンガやアニメ業界で活躍するイノベーターや実務家を集めて基調講演やセッションなどが実施されているが、その第4回目となる「IMART2023」が、2023年11月24日から26日に掛けて開催された。

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今回は、池袋サンシャインシティからの生配信と事前収録のトークセッションという形式で行われており、全22のセッションが行われている。その初日に現地から配信が行われたのが、馬場隆博氏中山淳雄氏によるセッション「“息の長い推し”を生み出す仕掛け」だ。

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エンタメ学者として活躍する中山氏は、バンダイナムコスタジオやDeloitteでゲームの海外展開をサポートしてきたほか、大学で教鞭を執るなど、様々な経歴を持っている。中でも注目を浴びたのが、2021年に出版した『推しエコノミー』である。

一方の馬場氏は、『AIR』『CLANNAD』など、息の長い人気タイトルを次々と生み出していったゲームブランド「Key」を擁するビジュアルアーツの創業者として長年ゲーム業界を牽引してきた。このふたりは「息の長い推し」を生み出すためにどのような仕掛けが必要だと考えているのだろうか? 今回のセッションではその答えが語られていたので、是非ともご覧頂きたい。

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文/高島おしゃむ


SNSで多く語られるようになってきた「推し」

中谷氏から紹介されたのが、X(旧Twitter)で「推し」についてどれだけつぶやかれているのかという検索総数だ。この「推し」については、AKB48の指原莉乃さんが1位を取ったあたりから出始めていたが、2017年にインタラクティブになってきた。

なかでも数字が大きく伸びてきたのが2020年だ。コロナ禍に入りあらゆるリアルが封鎖された世界の中で、SNS上では「推し」についての話題が増えていった。ここ2~3年は成熟してきたということもあり少し下り坂になっていたのだが、2023年の4~6月には過去に例がないぐらい爆発的に伸びている。

実はこれは言葉の誤差で、ちょうどアニメの『推しの子』が話題になったことが影響している。そうしたこともあり、1日に20~25万件ほど「推し」についてつぶやかれている投稿が増えた。このときは『推しの子』について語っているものが多かったのだが、ユニークな点はそこからほとんど件数が下がっていないことである。『推しの子』自体が「推し」について再燃させており、中山氏自身もインタビューで「2024年の推しはどうなりますか?」といった感じで聞かれることが多いという。

「推し」という言葉自体がファンと共にあり、トレンドとしてもここ4~5年で強くなっていった中で、コロナ禍で下駄を履いた状態にはなったものの、2024年は顕著に推していくと中山氏は解釈している。

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ビジュアルアーツが出す作品は本当に息が長いのか?

ビジュアルアーツを1990年に創業し、33年間社長を務めてきた馬場氏。元々はPCゲームで、ビジュアルノベルという物語系のコンテンツの制作を行っていたが、そこからコンシューマーゲームやモバイルゲーム、アニメキャラクターの版権、グッズ許諾などに加えて、音楽ライブやイベントなども実施している。

そのビジュアルアーツの代表的なブランドのひとつが「Key」だ。その代表作には、『Kanon』、『AIR』、『CLANNAD』、『リトルバスターズ!』といったゲームや、スマートフォン向けゲームの『ヘブンバーンズレッド』、アニメの『Angel Beats!』といったものが並ぶ。

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『Kanon』(画像はKanon|Key Official HomePageより)

馬場氏はビジュアルアーツの初期3作品である『Kanon』、『AIR』、『CLANNAD』について、「本当に息が長いのか」を改めて振り返る。『Kanon』は今から14年前の1999年6月4日に、PCの18禁ゲームとしてリリースされている。その後、ドリームキャストやPlayStation 2、PSP、PCメモリアルエディションなど、約10年にわたり移植をされ続けた。

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作品の人気が高まったことから、アニメ化も2回行われているほか、ラノベやコミックス、スマホ版など関連作品も多数リリース。今現在も、こうした商品の多くがショップでも売られている。また、2023年4月20日にはNintendo Switch版としてもリリースされている。

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Nintendo Switch版『Kanon』(画像はMy Nintendo Store(マイニンテンドーストア)より)

『AIR』も『Kanon』同様に、最初は2000年9月8日にPCの18禁ゲームとしてリリースされている。その後、多くの機種に移植されているほか、アニメ化やライトノベルなどのマルチなメディアで展開。2023年11月11日には、京都アニメーションイベントで、本作の収録曲である「鳥の詩」と「Farewell song」がアーティストのLiaさんによって歌唱され、こちらも大きな話題を呼んだ。

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『CLANNAD』は、2004年4月28日にPC版がリリース。AndroidやPS Vitaなど様々な機種でもリリースされてきたほか、スピンオフ作品として発売されているビジュアルサウンドノベルの『光見守る坂道で』だけでも、10年以上に渡りリリースされ続けてきている。

注目すべきポイントは、PCゲームとしてリリースされているSteam版だ。こちらは世界に向けて英語版と中国版で発売されているものだが、直近の2023年9月に売れた販売本数が、なんと1万4580本であった。20年も前に誕生した作品が、単月でこれだけ売れているのは希有な例だと馬場氏はいう。ちなみに現在は日本語には対応していないため、高解像度の日本語版のリリースも検討中であるとのことだ。

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名作を生み出す秘訣はクリエイターを信じていいものができあがるまで待つこと

上記のように、ビジュアルアーツの作品はいずれも息が長くコンテンツが作り続けられていることはたしかだ。では、その秘訣はどこにあるのだろうか? そこで馬場氏は息の長い推しを生むためのポイントを5つピックアップしている。これらは、コンテンツメーカーとしての経験に基づいた、局地的な見解であると馬場氏は語る。

ポイントのひとつ目は「名作を作る」だ。それが簡単に作ることができれば苦労はしないのだが、コンテンツメーカーとしてはやはり名作がないと始まらない。名作の対局には駄作があるが、駄作をいくら頑張ったところで何にもならない。

じつはこの「名作を生み出すこと」にもポイントがある。それが「待つ」ことだ。つい最近になり社長を引退した馬場氏だが、そのときのパーティーで社員が感謝していたのは「よく待ってくれました」ということであった。ゲームコンテンツには、工業製品の側面もある。工業製品には、当然のことながら納期もあり発売日も決められている。業界関係者ともユーザーとも約束をして、プロモーションが開始され、一斉に様々なことが動き出していく。

そうしたことを無駄にすることができないため、どうしても制作者としては「納期を重視する」か「完成度を重視する」かの二択に迫られることが多くなってしまうのだ。そうしたときに、同社ではいたしかたなくではあるが、「いいものができあがるまで待つ」という選択肢を選んでいる。そうしてクリエイターを信じて待ったということが、結果的に息の長いコンテンツに繋がっている。また、これも結果的に利益の最大化にも繋がるのだ。

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クリエイターを大切にして良好な関係を保つことが息の長いコンテンツには必要不可欠

ふたつ目のポイントは、「クリエイターを大切にする」である。これは会社の風土や精神的なものも含まれているが、実務的なことも含まれている。名作を生み出したクリエイターを大切にしなければ、様々な移植や展開をしていくことはそもそも無理な話だ。そうしたことに対処できるクリエイターがいるということが安心感に繋がり、その上でコンテンツは新たな展開をしていくことができるのである。

当然のことながらクリエイターといっても社員でもあるため、退職してしまうこともある。これには、結婚退職や他社に引き抜かれるなど、様々なケースがある。しかし、馬場氏は退職することと関係を途絶することはイコールではなくてもいいと考えているのだ。

クリエイターが退職したとしても、関係が良好ならば新たな素材を依頼することができたり、あるいは意見を求めたりといったことができるようになる。そのため、クリエイターを大切にすることは、息の長いコンテンツを目指すためにはどうしても避けることができないポイントでもあるのだ。

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名作を多くの人の耳に届かせるために積極的に版権許諾を行う

3つ目のポイントは、「社会化のために版権特許を積極的に行う」だ。特定のジャンルの中で名作を生み出したとしても、なかなかそれが一般の人たちの耳まで届かないことが多い。つまり、息の長いコンテンツを目指すためには「有名化=社会化」が重要になってくるのだ。つまり社会化のためには、版権許諾を積極的に行っていく必要があるのである。

ここでポイントとなるのは単独版権であるということだ。ビジュアルアーツのようなコンテンツメーカーは、自分たちだけで版権を持っている。これにより、ダイナミックに勇気を持って展開していくことができたことが大きかった。

しかし、アニメなどの場合は制作委員会方式で10社ぐらいが参加して出資されている場合が多い。その方式では、たとえばパチンコに展開したいといったときなどは、全員が賛成する必要がある。聞いた話によると、それではなかなかうまくいかないこともあるのだと馬場氏は語る。それに伴い、おおらかでわかりやすい版権許諾ルールを作って、積極的な版権許諾を行った方がいいという。

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ファンの意見は常に正しい

馬場氏がもっとも大事だと語るのは、4つ目のポイントである「ファンコミュニティに耳を澄ませる」である。自身が社長を務めていた間、様々なイベントに積極的に参加してユーザーと対話してきた。コンテンツを愛しているファンは、コンテンツとの長い付き合いの中で自分なりの想いを持っている。そこには、もっとこうして欲しかったといった想いが溜まっている。

それがクリエイターや責任者に会ったときに、ポロッと飛び出してくるのだ。溜まりに溜まった想いの、ポロッと出てきたひと言には重要なヒントが含まれているので、しっかりと耳を澄ませて汲み取っていく必要がある。そして、それが次の展開や続編、新作企画には非常に役に立つのである。

もうひとつ、馬場氏が常にスタッフに言い続けてきたことに「ファンは常に正しい。ファンの意見を疑ってはいけない」というものがある。クリエイターは、批評を受けたときなどに得てして独善的になってしまうことがある。そうした場合でも、必ずどこかに原因があるのだ。近い原因のこともあれば、遠い原因の場合もある。それが回り回って批判に繋がることもあるため、ファンは常に正しいということを馬場氏はスタッフには言い続けてきている。

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ブランドを輝かせるために新作も作る

5つ目のポイントは「新作も作る」だ。これは息の長いコンテンツを作るとは、少し異なる話でもある。ブランドが輝いていないと、コンテンツ自体も輝くことはできない。馬場氏が販売店に訪問したときに言われたことが、「制作期間は長いけど、必ず次の作品を出してくれる。だから安心してお客さんに前作を勧めることができるし、旧作を安心してしいれることができる」ということだった。

息の長いブランド作りは、究極の推しブランドとして成立しなければならない。それが結果的に息の長いコンテンツに繋がっていくのだ。また、新作を作ることで、センスや技術、市場対応のアップデートも常に行われていくのである。

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ライター
ライター/編集者。コンピューターホビー雑誌「ログイン」の編集者を経て、1999年よりフリーに。 現在はゲームやホビー、IT、XR系のメディアを中心に、イベント取材やインタビュー、レビュー、コラム記事などを執筆しています。

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