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『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』スクラビルドのテーマは「面白いことがおきる仕組みを作る」。12万通りもの組み合わせチェック問題を解決し、実現へ導いたのは「準備のための準備」があった【CEDEC2024】

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2024年8月21日~23日に開催された「CEDEC 2024」にて、任天堂の藤林秀麿氏と廣瀬賢一氏による講演「『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』のスクラビルドができるまで ~準備のために準備する~」が行われた。

ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』(以下、『ティアーズ オブ ザ キングダム』)の特徴のひとつとなっているスクラビルドは、武器や盾、弓にさまざまな素材をくっつけて、性能を強化したり別の効果を付加できる能力だ。

今回の講演では、「スクラビルドを発案する人」として、同作ディレクターの藤林秀麿氏が、「サービス・インフラを作る人」として同作のゲーム開発インフラ担当の廣瀬賢一氏が、それぞれのセクションを代表して登壇し、スクラビルド実現の裏側について詳細に語った。

両氏の講演を通じて浮かび上がったのは、単なるアイデアの発案だけでなく、それを実現するための「準備」、さらにはその準備を支える「準備のための準備」の重要性だ。

開発を進める中で、チーム関係者内に渦巻いていた「ムリでは?」という空気をどのようにして変えたのか。そして、スクラビルドで生まれた12万通りもの組み合わせのチェック作業をいかにして可能としたのか。本稿ではその講演の内容をレポートしていきたい。

文/Grezzz
編集/久田晴

※本記事は「CEDEC 2024」運営事務局の方針を順守し、9月2日以降の掲載としております。


テーマは「面白いことがおきる仕組みを作る」。『ゼルダの伝説』とは推理→実行→結果を楽しむゲーム

藤林氏によると、スクラビルドの発想は前作『ブレス オブ ザ ワイルド』の開発中に生まれていたという。とあるほこらのパズルで、鉄格子の向こうのスイッチを槍で突いてオンにするという仕組みを作った際、「もっと遠くにスイッチがあり、槍を2本つなげたら届くというのがやれたら面白いだろうな」と思ったのが始まりだったそうだ。

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』スクラビルドを実現へ導いた「準備のための準備」【CEC2024】_001
オクタ風船をくっつけたものは宙に浮かぶ。

同じく『ブレス オブ ザ ワイルド』に登場したオクタ風船もその片鱗だといい、「何かをくっつける」という遊びには高いポテンシャルを感じていたという。

これらの発想の背景には、「面白いことが起きる仕組みを作る、という『ティアーズ オブ ザ キングダム』開発のテーマがあった」と藤林氏は話す。ゲームの中に自然と面白いことが起こるような仕組みをたくさん作っておき、それらが掛け合わされることで思いもよらないことが起こり、新しい体験を生み出せると考えたそうだ。こうした仕組みをさらに伸ばすものとして発想したのが「スクラビルド」だった。

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次に、スクラビルドという発想を形にすることについて語られた。ここで藤林氏は「そもそも『ゼルダの伝説』とは、どのようなゲームなのでしょうか」と、シリーズの本質を問う。氏によれば、その答えは「推理して実行して、結果を楽しむゲーム」だという。

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そして、前作『ブレス オブ ザ ワイルド』の開発中の検証映像を例に挙げ、「矢に火がつき木箱が燃える」「火が付いた木の枝で木に着火できる」「木を切って丸太にし、それを川に流して渡る」など、様々な相互作用を示した。これらはすべて、プレイヤーが「こうなるんじゃないか」と推理し、実行して進むゲームプレイの例である。

藤林氏は、この工程が豊かなほど、ゲームが面白くなる構造を持っていると指摘した。そのため、新作では実行のターンでできることの幅をプレイヤーの自由な発想で広げられるようにすることで、より豊かで楽しいゼルダができると考え、「くっつける」というアイデアを突き詰めることにしたという。

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「棒と岩をくっつけたら破壊力のある武器ができそう」という例。

そして様々な組み合わせで検証を進める中で、スクラビルドの本質が明確になってきた。その本質とは「絵が機能を表す」ということ。スクラビルドで作られたものの見た目が、その機能を直感的に説明している必要があるということである。

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A + B = C ではなく、A + B = AB のタイプでなければならない

実は「くっつけた結果、別のものに変化する」というパターンも選択肢としてはあったという。ただ、この仕様だとその結果を事前に想像し、推理することが困難となるため、今回のスクラビルドの遊びには向いていないと判断された。

「絵が機能を表す」という方針が明確になった上で、さらに3つ4つとくっつけたら面白くなりそうだとアイデアは膨らんでいったが、ここには大きな問題があった。組み合わせの数が膨大になるということである。

問題を分解して「やらない事」を決める

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スクラビルドの実現においては、無限のような組み合わせに対して各セクションからさまざまな問題提起が行われた。総じて「数が膨大」という問題で共通し、「ムリでは?」という漠然とした空気がチーム関係者内に渦巻き始めたという。

藤林氏は、この状況に対して「ここで落ち着かないといけません」と強調する。「この段階では各セクションスタッフがただ、膨大な数になりそうな組み合わせに対し、漠然と問題視している状態です」と語り、そもそもスクラビルドの仕様自体がまだ検証段階で、「ふわっとした仕様」であるが故の、仕方のないことであると説明した。

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ウィッシュリストの一例。

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そこで藤林氏が取った行動は、「問題を分解する」というアプローチだった。まず、スクラビルドの仕様を明確にするため、膨らんだ構想を「こういうのがあったらいいな」という希望・願望の類(ウィッシュリスト)と、推理→実行に不可欠な仕様(プランリスト)の2つに分解することから始めた。

そして、ウィッシュリストは必須の条件ではないとして優先作業から外し、プランリストの中で「数が膨大になる問題」に焦点を当て、検証をしていくことになった。

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そうした検証の中で、「槍を3本、4本と繋げても扱いづらい」「くっつける角度は、ゲームの仕様や絵が機能を表す点であまり意味がない」「いろいろな種類をつけると、結果や機能が推理できない」ということが判明した。

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一方で「名前も機能を表す」ように命名するのは、分かりやすく非常に有効であることが分かったり、「なんでもくっつけられる」要素は、見た目からさまざまな結果を想像する、「推理→実行」を地で行く仕組みであると確信したという。

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これらの検証結果を踏まえ、次に藤林氏たちが行ったことは「やらないことを決める」ということだった。厳密にはここに列挙されるものに限らないそうだが、「ふたつ以上のくっつけ」はやらない「つく場所が自在は」やらない「名前をひとつひとつユニークに」はやらない、という3つが重要な項目として挙げられた。

そして、これら「やらないこと」をプランリストに反映した結果、「絵が機能を表す」「なんでもくっつけられる」は基本コンセプトとして変わらず残り、「くっつけられるのはひとつ」「くっつくパターンは固定」に変更。そして新たに「名前も機能を表す」ことがプランリストに追加された。

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プランリストを更新したことにより、各セクションでも変化があった。組み合わせの数が限定されたことや、「名前も機能を表す」という項目の追加によって、おおむね問題への対処が可能となったのだ。

こうして、当初あった「ムリでは?」という漠然とした空気は、問題を分解して考え、検証や対処を考えたことにより、「行けそう!」という前向きな雰囲気に変わっていった。

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ただし、ここにはアーティストセクションの「12万通りの見た目の不具合チェック」という大きな問題が残されたままである。

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ライター
物心ついたころからFFとドラクエと共に育ち、The Elder Scrolls IV: オブリビオンで洋ゲーの沼にハマる。 ゲームのやりすぎでセミより長い地下生活を送っていたが、最近社会にリスポーンした。 ローグライクTCG「Slay the Spire」の有志翻訳者。
Twitter:@Gre_zzz

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