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「都市伝説」に含まれる栄養素をすべて摂取できるゲーム『都市伝説解体センター』は現代のオカルトオタクの完全栄養食だ!!

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都市伝説は聞いて終わりじゃない。解体を通じて「都市伝説の一生」を目撃できるゲーム体験

『都市伝説解体センター』でフォーカスされている大きなテーマのひとつに、「都市伝説の一生」がある……と筆者は思っています。

火のない所に煙は立たぬというように、無から生まれる都市伝説も存在しません。都市伝説が生まれるとき、そこには必ず「火種」が存在します。しかし、都市伝説が都市伝説である所以は、不特定多数の口を経て広まることにより、その「火種」の特定が非常に困難になる、という点にあるのです。

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『都市伝説解体センター』に話を戻すと、本作はタイトルの通り、都市伝説の調査を行う「都市伝説解体センター」の活動を通じて、さまざまな都市伝説の正体を“解体”していくというゲームです。

プレイヤーはセンターの新人調査員・福来あざみとして、オカルトマニアのセンター長・廻屋渉やダウナーな現地調査員・ジャスミンと共に、様々な都市伝説の調査に挑んでいくことになります。この調査の過程で、プレイヤーは都市伝説が「生まれて」「広がって」「影響を及ぼし」「忘れられていく」までの一生を体験することができるのです。

たとえば、あざみが現地調査で向き合うことになるのは、怪奇現象や呪いのアイテムといった、まさに都市伝説の「火種」になりそうなものばかりです。しかしあくまでもこの時点では事件は事件であり、誰かが見聞きした奇妙な現象の体験談にすぎません。

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調査を通じて怪奇現象などの特徴を見極め、それがどんな都市伝説かを「特定」し、名前を与えることで、あざみの体験した事件は初めて「都市伝説」としての形を得る

プレイヤーはあざみと共に、ひとつの都市伝説の「火種」が誕生する瞬間に立ち会っているといえるでしょう。

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▲都市伝説の特徴を元に、その正体を「特定」。特定の瞬間は「あれか?あれかな?」「あれだ──!!」と毎回興奮してしまいます

さらに、調査における特徴的なシステムのひとつに「SNS調査」があります。SNSに広がる無数の投稿の中から必要なキーワードを検索し、情報を集めるというシステムで、“嫌なインターネット”の解像度が妙に高い投稿の数々はかなり読み応えがあって面白いです。

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▲毒にも薬にもならない投稿があふれまくっているのが妙にリアルで面白い。あまりに酷い投稿が並んでいると、ジャスミンがやんわりと気遣ってくれます

このシステムの特徴的なところは、ゲーム中の時間経過に伴う情報の変化を追うことができるという点です。あざみの出会う事件のようなショッキングなエピソードは、1~2日もすればSNSの匿名の発信を通じて瞬く間に拡散されていきます。

そして、無責任な匿名の投稿者たちの口を経由した情報は、広がる過程で確実性を失っていく。人を介すたびに情報のキャッチーな部分だけが強調され、詳細はどんどんと削ぎ落されることで、事件の情報は不安定な都市伝説へと変わっていくのです。

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▲矛盾する情報がどちらも正しいかのように並んでいることも……

一度情報が広がってしまえば、それが人々に影響を及ぼしはじめるのは時間の問題です。ゲーム中では拡散された情報に影響された人々が事件の関係者を叩いたり、あざみ自身が確実性のない情報に振り回されたりと、様々な形でこの噂の影響に悩まされることになります。

そして、極限まで広がって薄められた都市伝説の噂は、最後にはやがて忘れられていきます。単純に時間が経って飽きられたことが原因の場合もあれば、あざみたち都市伝説解体センターによって真相が明らかにされたことによって人々の興味を失った場合もあるかもしれません。

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どちらにせよ、センターが行う都市伝説の「解体」は、曖昧で不安定な都市伝説を具体的で現実的な事件へと引き戻す作業であり、事件から生まれた都市伝説の噂にひとつの終わりを突きつける行為であるのには間違いありません。こうして、プレイヤーはあざみと共に都市伝説の一生を見届けることになるのです。

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我々はふだん、都市伝説が最も栄えている瞬間ばかりを目にします。都市伝説をコンテンツとして消費している限り、その発生と結末に興味を向けることは(そういった事柄に興味のある人でなければ)ほとんどないのかもしれません。

そんな都市伝説の一生を丁寧に描いた本作は、都市伝説を興味深いエピソードとして取り上げるだけに留まらず、「都市伝説というコンテンツ」の在り方について深く掘り下げた作品であると言えます。『都市伝説解体センター』をプレイした後には、今もなお様々に存在する都市伝説をまた違った目線で見ることができるのではないでしょうか。

「都市伝説」という概念の原点に立ち戻り、そこに含まれる“すべて”に向き合った作品

最後に改めて、「都市伝説」とは何なのでしょうか。

信憑性のある記録や報道ではなく、曖昧で不確実な口承によって広まる噂。根拠が不明、または根拠から著しく逸脱してしまった話。出所が分からない体験談。どうにも、「不確実性」や「不安定性」というのが、都市伝説を都市伝説たらしめる重要な要素のように思えます。

では、『都市伝説解体センター』のストーリーを通じて「解体」された都市伝説たちは、その時点で都市伝説ではなくなってしまうのでしょうか?いえいえ、そんなことはありません。なぜなら、都市伝説にはもう一つ、都市伝説であるための重要な要素があるからです。

それは「面白いこと」です。

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▲ひとたび聞けば目を輝かせ、話が止まらなくなる……とまではいかずとも、聞いたら覚えていられるくらいの面白さは都市伝説の必須要件です

口承を通じて広がる都市伝説は、語られることで初めて存在することができます。いまある都市伝説は語られるだけの面白さを備えていたからこそ存在できているのであり、逆に言えば人々に語ってもらえない「面白くない都市伝説」は、生まれることすらできないのです。

そして、都市伝説は語られるほどに「面白い」方向へと変化していきます。有名な都市伝説はいわば無数の人の校正とアレンジを経た「面白い話」の生え抜きなわけです。考えてみれば、そんな都市伝説をこれほどまでに追及したゲームが面白くないわけがありません。

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▲思い出したら話さずにはいられない、それが都市伝説

とはいえ、何を「面白い」と感じるかは人によって違うもの。『都市伝説解体センター』の作中にも、様々な方向で都市伝説と向き合うキャラクターが登場します。

都市伝説のことになると急に早口になるセンター長はもとより、都市伝説の拡散力を利用する人、本気で都市伝説を信じる人、逆に都市伝説をまったく信じず馬鹿にすらしている人、などなど。彼らは一見バラバラな方向を向いていますが、「都市伝説に何かしらの興味を持ち、拡散している」という点では共通しています。

同じ都市伝説でも、語る人によって違う姿が見えたり、場合によってはまったくの別物になってしまうことも。そんな都市伝説の「人の口を経由するからこその不安定性の魅力」をキャラクターを通じて味わえるのも、本作の醍醐味でしょう。

都市伝説には、参照すべき「元」がありません。だからこそ、広がった噂のすべてが都市伝説になってしまいます。都市伝説は広がる過程も含めて「都市伝説」なのです。

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そういった意味では、都市伝説を語り、広め、消費する我々もまた、都市伝説を構成している要素の一部なのかもしれない。『都市伝説解体センター』はそんな気付きを、プレイヤーを思いっきり巻き込む形で与えてくれるゲームでした。


都市伝説の凝縮した面白さを味わえるいっぽう、『都市伝説解体センター』のストーリーでは、幾度も「人々はなぜ噂を広めるのか」という疑問と向き合うことになります。人々はなぜ不確実な話の根拠を確かめもせず、次から次へと噂を広めてしまうのか。

この疑問はストーリーの大きなテーマであると同時に、プレイヤーに投げかけられた課題でもあります。

インターネットの普及によって、「都市伝説を語る」という行為は以前よりも遥かに簡単になり、同時により大きな影響を及ぼすようになりました。対面の会話ではなくネットの投稿を通じて伝わる都市伝説は、一度広がってしまったら消しても消えません

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▲ネット越しに、現場で起きている事件を見ることはできません。同時に、現場から噂を広める人々の顔も見えないのです

そんな現代で、我々は都市伝説とどのように向き合っていくべきなのか。ただ面白いだけでなく、都市伝説の陰と陽の両面を徹底的に掘り下げた本作は、都市伝説に対する「本気度」がものすごく伝わってきました。

……と、真面目な話をしてしまいましたが、それでもやっぱり面白い話を聞けば誰かに言いたくなるのが人というもの。それは都市伝説であっても、面白いゲームの話題であっても同じです。

難しいことを考えなくても、手軽にお得にたっぷりと都市伝説を楽しめるのが『都市伝説解体センター』のすごいところなので、もしまだ遊んでいない人がいたらこれ以上のネタバレを踏む前にぜひ遊んでみてください。すでに遊んだ人はもう一回遊びましょう。そして都市伝説マニア仲間になりましょう。

『都市伝説解体センター』はNintendo Switch、Steam(PC)、PS5向けに配信中です。ゲームの他にも様々な企画が進行中のようなので、気になる人は公式Xアカウントをフォローして新たな情報に備えてはいかがでしょうか。

……あ、そうそう。これはフォロワーのフォロワーに聞いた話なんですが、メガネをかけたあざみをよく見ていると、大きなメガネが動きに合わせてズレちゃうのがかわいいとかなんとか……。

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ライター
なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『ドラゴンクエスト』シリーズで育ち、『The Stanley Parable』でインディーゲームに目覚めた。作った人のやりたいことが滲み出るゲームが好きです。
デスク
電ファミニコゲーマーのデスク。主に企画記事を担当。 ローグライクやシミュレーションなど中毒性のあるゲーム、世界観の濃いゲームが好き。特に『風来のシレン2』と『Civlization IV』には1000時間超を費やしました。最も影響を受けたゲームは『夜明けの口笛吹き』。
Twitter:@ex1stent1a

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