あなたが最近耳にした、「最も新しい都市伝説」は何ですか?
2025年7月5日に発生する大災害の予言?
巨大ターミナル駅の地下に海があるという体験談?
テレビ局の不祥事?芸能人のゴシップ?
通販サイトに「人殺し」の交換日記が出品されているという噂?

「きさらぎ駅」などのネット怪談が流行して以来、「都市伝説」という言葉は「ホラー」と紐付けて扱われることが増えました。ここ数年で公開されている現代日本を舞台にしたホラーゲームには、「都市伝説」を取り上げたものも多く存在します。
しかし、今こそ声を大にして言いたい。ホラーだけが都市伝説ではないのだと。
陰謀論、ゴシップ、予言、怪談……誰が話し始めたのかも分からない、不確実で魅力的な話の数々。アメリカの民俗学者・ブルンヴァンが広めた「都市伝説」という概念は日本でも広く知られているものの、そこに含まれる物語はあまりに多岐に渡り、「何が都市伝説で、何がそうではないのか」という基準は未だ明確になっていません。
そんな「都市伝説」を、あるゲームはこのように説明しました。
「都市伝説とは、現代社会において口承で広がる噂話のことである」
そのゲームこそ、『都市伝説解体センター』。インディーゲーム開発チーム・墓場文庫によって開発され、2月13日に集英社ゲームズからリリースされたばかりのアドベンチャーゲームです。
自称都市伝説マニアの筆者は発売日に買ってプレイしたのですが、このゲームには都市伝説のホラーの部分に含まれる怖さや不気味さだけでなく、都市伝説そのものが持つ胡乱さ、理不尽さ、危険さ、そしてなにより面白さがふんだんに含まれていました。「都市伝説」という広い概念に求めていた栄養素を、余すところなく味わうことができるゲームだったのです。
いうなれば、これまでネットサーフィンやSNS検索で細々とかき集めていた必須栄養素を数年分まとめて摂取したような気分。1本で満足感がすごい。
今回は、そんな『都市伝説解体センター』に含まれる栄養素がいかに豊富であり、いかに効率的に摂取できるように設計されているのか、このゲームのすごさについて語っていきたいと思います。
※本記事は『都市伝説解体センター』の配信ガイドラインに則って執筆しています。各エピソードの核心に触れる内容は避けていますが、第一話~第五話の内容についてのネタバレが含まれますので、閲覧の際はご注意ください。
こういうのでいいんだよこういうので!秘密組織、ダークウェブ、未解決事件……ホラーじゃないけど「都市伝説っぽい」要素のあれこれ
これはサビなので何度でも言うのですが、ホラーだけが都市伝説ではありません。冒頭でも挙げたように、陰謀論や予言なども広義の都市伝説の一部であり、「都市伝説」という概念の魅力を支える重要なファクターのひとつです。

インターネットの普及によって情報の検証が容易になったことで姿を消した都市伝説も多くありますが、一方では情報の拡散に検証が追いつかないことも少なくありません。「友達の友達」ならぬ「フォロワーのフォロワー」から回ってくる出所不明の噂話は、今なお様々な場所で飛び交っています。
都市伝説とは、不確実だからこそ魅力的なもの。ジャンルすら問わないその雑多さも都市伝説の魅力のひとつではあるのですが……いざ意図的に都市伝説を摂取しようとすると、この雑多さが意外と大きな壁になってきます。
というのも、今は「見たいものを見る」時代。コンテンツは細分化され、ラベル分けされ、異なる指向を持つ界隈の隔離が進んでいます。「都市伝説」だけで検索するとホラーばかりが出てくるので「陰謀論」や「予言」は個別に検索する必要があるし、ホラーにもさらに「怪談」「ネットロア」「クリーピーパスタ」と細かいジャンルがあったりして……。

もちろんそれぞれはそれぞれで面白さがあるんですが、もっとこう、包括的な概念としての都市伝説を食べたいんですよ。専門店の手の込んだ一品料理ではなく、町食堂の定食みたいに、安くていいから色んなものを全部食べたい!と無性に思うときがあるんです。
そこに救世主のごとく現れたタイトルこそ、『都市伝説解体センター』でした。このゲーム、本当にすごいんですよ。定食どころか高級ホテルのバイキングレベルです。以下、いくつか具体的な例を挙げて興奮したポイントをご紹介していきたいと思います。
まずは、第1話の中心的な都市伝説である「ベッドの下の男」。これは一般的な怪談のように見えますが、「海外の話が元ネタである」「どのパターンもオチが現実的な恐怖を描いている」という点ではなかなか特殊なチョイスではないでしょうか。要は、この話は「きさらぎ駅」や「八尺様」のような怪異系とは違い、明確に“ヒトコワ”のお話なのです。
都市伝説という曖昧で不安定なジャンルにおいて、「ベッドの下の男」ははっきりと説明可能な「真相」を持っています。しかし、現実的に説明可能な内容であるにも関わらず、その話のパターンは多岐に渡り、元ネタも真偽も不明。そんな不安定性の多段構えがこの話の特徴です。
この「説明可能なのによく分からない」という特徴は第1話のストーリーにもしっかりと反映されており、プレイヤーはその怖さともどかしさに翻弄されることになります。「もしも自分が遭遇したら」という、都市伝説を聞いたら一度は思い浮かべるであろう想像をゲームを通じて実際に突きつけられる体験は、現実に想像しやすいヒトコワ都市伝説ならではの楽しさです。
続いて第2話冒頭で登場するのは、ダークウェブに存在するサイト「SAMEJIMA」。このサイト名の元ネタについては諸事情で詳しく語ることはできないのですが、都市伝説マニアなら思わず手を打って喜ぶネーミングではないでしょうか。
このサイトでは「イルミナカード」という、未来を予言するカードが紹介されているそうなのですが、こちらはおそらく、世界的な大事件を予言していると話題になったカードゲーム「イルミナティカード」が元ネタでしょう。
ホラーを都市伝説の主菜とするならば、予言は都市伝説の主食とでも言うべき存在。ノストラダムスの大予言やマヤのカレンダー、ある漫画家の予知夢など、破滅の予言と都市伝説は切っても切り離せません。こういった予言は他の都市伝説を生む土台となることもあり、ゲームのストーリーでは「破滅の予言」に振り回される人々の姿も描かれていきます。
個人的にアツかったのは、ストーリー中盤以降に語られる、とある「未解決事件」の話題です。不謹慎ではありますが、未解決の事件というのは都市伝説の中でもとくに陰謀論の対象となりやすく、こちらも予言と同様根強いコンテンツのひとつです。

解決しなかったのは有力者が事件をもみ消したから?犯人は実は被害者の身内だった?事件は巨大な組織の陰謀だった?実は被害者は死んでおらず、密かに生きている?などなど……どれだけ勝手な推測が広まっても、未解決だから誰も否定できない。「言ったもん勝ち」の魅力と脅威は、ストーリーを通じてプレイヤーも痛感することになるかもしれません。
細かいネタで言えば、「AI生成の女」や「ナターシャ・サイン」といった、まだ新しい都市伝説が積極的に取り入れられていたのも驚きでした。とくにAI生成の女は、自分も噂が流行った当時にあれこれと検証した思い出があります。まさかこんな所で巡り合えるとは……。

ところで今更な話ではありますが、そもそも「都市伝説解体センター」という存在自体、かなり都市伝説めいていますよね。優秀な少人数で運営される、オカルトめいた事象の対応組織。これが都市伝説でなくて何なんでしょうか。

もっと言うと、そのセンターの主であるセンター長・廻屋渉もかなり都市伝説に近いキャラクターだと思っています。Steamストアページなどの紹介文には「千里眼によって怪異の正体を見抜くことができる」とありますが……それはもう超能力者の説明なんですよね。

ホラー、予言、未解決事件、異様に色気のあるセンター長。彼らに共通する魅力の根源は「未知」でしょう。そこに自分の知らない事実がありそうなのに、その中身は分からない。「まったくない」のではなく「ありそうで見えない」からこそ、人々の想像力は掻き立てられるのです。
と、このように、ホラーでなくとも多岐に渡る要素を含むのが都市伝説であり、『都市伝説解体センター』でもあります。が、ひとつ補足しておきたいのは、「ホラーだけが都市伝説ではない」だけで、「ホラーもまた都市伝説である」という点です。
ひとつの凄惨な事件から「未練を持った幽霊」「事件にまつわる陰謀」「次の被害者の予想」の噂が同時に生まれ得るように、見る向きによって姿を変えるのもまた都市伝説の魅力であり、危険な部分のひとつ。そしてその根本にいるのは、いつだって人間です。
『都市伝説解体センター』では、語る人間によって如何様にも姿を変える都市伝説の「広がり」が様々な角度から描かれています。カバーしている都市伝説の広さもさることながら、同時に都市伝説の懐の広さを存分に生かしたストーリーこそ、マニアとしては最もうれしかったポイントかもしれません。
