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重機・農機の「ヤンマー」による新作ロボットアニメ『未ル』先行試写会レポートに参加したら、ヤンマーの抱える危機感とアニメに掛ける本気っぷりが“未”えてきた

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♪ ぼくのなまえはヤン坊 ぼくのなまえはマー坊
  ふたりあわせてヤンマーだ 君と僕とでヤンマーだ

「ヤン坊マー坊天気予報」。30代以上の方なら、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。とても覚えやすいCMソングで、今でもそらで歌える人も多いかと思います。かつてテレビで頻繁に流れていたこの歌が「ヤンマー」という企業の知名度を高めていたのは、誰もが認めることでしょう。

そんなヤンマーが、ロボットアニメを作る。2022年の衝撃的な発表以来、「ヤンマーのロボットアニメ」は様々な新情報を報じ、たびたびネット上で大きな話題となってきました。

今回、筆者はヤンマーが制作し、2025年4月より放送予定のアニメ『未ル わたしのみらい』(以下、『未ル』)の先行上映イベントに行ってきました。

イベントでは1話や5話の上映、関係者のトークセッションなども催されたのですが、そこから伝わってきたのは、ヤンマーのアニメ制作への「本気度」と──「危機感」でした。

本稿では、知名度の低下に悩んできたヤンマーが打開策として『未ル』を打ち出すに至るまでの経緯や、イベントで実施された声優の依田菜津さん朴璐美さんのトークセッションの様子などをお届けします。

取材・文/サッポロ・ハジメ
編集/うきゅう


そもそもヤンマーってどういう企業? 1912年創立、一世紀に渡って重機や農機の製造を手掛ける老舗で、年間の売上高はなんと“一兆円”

ヤンマーは1912年に設立され、農業用機械、漁船のエンジン、エネルギー事業や建設機械の製造などを主に手掛けています。

驚くべきはその会社の規模です。2024年3月期の売上高はなんと1兆814億円。ゲーム関連業界でいうと、バンダイナムコHD(2024年3月期 約1兆502億円)と同じ規模なのです。その大企業が、アニメ業界に新規参入し、新しいことをするというのです。

そう聞くと、今回のアニメ事業への参入が華々しく聞こえるかもしれません。でも実はそうではなく、ヤンマーには「危機感」があるというのです。

実は「ヤン坊マー坊天気予報」って、2014年で放送が終わっているんですよ。

重機・農機の「ヤンマー」が“本気”でつくったロボットアニメ『未ル』先行試写会レポート_001
(画像は公式YouTube動画より)

つまりは、ヤンマーの社名、そして歌の中にある、

♪ 農家の機械はみなヤンマー 漁船のエンジンみなヤンマー
  ディーゼル発電 ディーゼルポンプ 建設工事もみなヤンマー

という事業内容についても知られなくなりつつある、という認識なのだそうです。

事実として、今作のプロデューサーである長屋(ながや)CBOが2024年の北米で行われた「アニメ・エキスポ」のイベント会場において「ヤンマーを知っているか」と訪ねたところ、300人ほどのお客さんのうち、ヤンマーを知っていたのはわずか2人でした。

300人中、2人──それが今のヤンマーの知名度なのです。

もちろん会場が北米ということもありますが、日本のアニメイベントでも若年層からは同じような反応があったとのこと。そんな状況を打破すべく、ヤンマーが本気で取り組んだプロジェクトが、このアニメ『未ル』の制作なのです。

ちなみに、ヤンマーが大切にしているフレーズとして、「HANASAKA」という概念があります。

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(画像はヤンマー公式サイトより)

「人の可能性を信じ挑戦を後押しする。そして未来へ向けて、大きな可能性の花を咲かせていこう」ということが、同社の基礎的な価値観となっているほか、この価値観は『未ル』という作品を考えていくうえでも重要となっています。

全5話、オムニバス形式で構成されたアニメ『未ル』。イベントでは第1話「EP079 スターダストメモリー」と第5話「EP926 待ってて、今行く」がお披露目

本作『未ル』は全5話で構成されており、世界観は同じくするものの各話にキャラクターやストーリーのつながりを持たせない、いわゆる「オムニバス」形式を取っています。しかも、5つのアニメスタジオを起用して製作しているというのですから、その力の入れっぷりが伝わってきます。

今回のイベントでは第1話「EP079 スターダストメモリー」と、第5話「EP926 待ってて、今行く」のダイジェスト映像がお披露目されました。

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(画像は『未ル』公式サイトより)

「EP079 スターダストメモリー」は、3DCGアニメーション制作会社「LinQ」が制作を担当。アニメ『ダーティペア』監督や『ゆるキャン△ SEASON3』演出として知られる鹿島典夫氏が監督を、『シティーハンター』シリーズの脚本を手掛けた平野靖士氏が脚本を、それぞれ務めています。

宇宙で働く昔気質の頑固なおじさん・ヨシムラ(CV:山寺宏一)の仕事は、重機を使ってスペースデブリを除去することです。そこへ新人・ウミ(CV:早見沙織)が赴任してきて、事件が起こるのですが──ここで、今回の5作品に共通して登場する「MIRU」というロボットが登場し、事件に関わってくるのです。

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(画像はメインPV第2弾より)

詳細は見てのお楽しみですが、ヨシムラが今までやってきたことがバタフライ・エフェクトを起こし、そして思いを未来へ繋いでいく──という、ヤンマーの「HANASAKA」にも通じる今回のプロジェクトのテーマを、ダイレクトに描写しています。

続いてイベントで上映されたのは、5話として放映される予定の「EP926 待ってて、今行く」のダイジェスト映像です。

制作はLARX×スタジオ雲雀、ディレクターの仲敷沙織氏はアニメ『ぷにるはかわいいスライム』で作画監督をされていた方。脚本の隅沢克之氏『新機動戦記ガンダムW』『ゾイド -ZOIDS-』のシリーズ構成を担った、ロボットアニメの大ベテランです。

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(画像は『未ル』公式サイトより)

病気で亡くなった母の意思を受け継ぐ少女・アイル(CV:依田菜津)は、謎の科学者・イズミフ(CV:朴璐美)と出会うが──という話で、こちらはうってかわって女性主人公の話になっています。

そしてこちらにも「MIRU」が登場するのですが、1話とはまた違った存在として、アイルたちの前に現れます。どのような存在となっているのか、こちらも本放送をぜひお楽しみに!

今回上映された2作品、そして残りの3作品は、

・製作委員会方式ではなく、単独でアニメを作る
製作委員会を作りスポンサーになるのではなく、自社主導でアニメを作ること

・日本の優秀なアニメスタジオに光を当てる
「HANASAKA」の概念に基づき、アニメを作る「人」に焦点をあてるため、オリジナル企画で、制作スタジオの特色が出る単独話のオムニバス形式にしたこと

・「戦わない」ロボットアニメ
ヤンマーらしく「人」をサポートするロボットをメインにしたいということ

・重機メーカーであるヤンマーがロボットを工業的な観点から設計する
工業メーカーならではの、今までにない「アニメのロボット」を作ること

といった、さまざまなコンセプトを掲げたうえで、アニメ制作が進められたそうです。

そして、何よりもヤンマーが大切にしたのは、「未来は自分の手で変えることができる(=バタフライ・エフェクト)」ということ。「このアニメをきっかけとして、世界が少しでも明るくなれたら」ということを世界に訴えたい。そういったコンセプトで制作は進められました。

トーク・セッションでは、声優の依田菜津さんと朴璐美さんが登壇。『未ル』がヤンマー制作アニメだと知ったのは「オーディションに合格した後だった」など驚きの裏話が続出

イベントでは先行上映が行われたあと、5話の主要人物を演じた声優の依田菜津さんと朴璐美さんが登壇されました。お二人とも、やはり「ヤンマーがアニメを作る」ことに驚いたといいます。

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お二人のお話を聞いていて驚いたのが、なんと依田さんも朴さんも、本作がヤンマー制作のアニメだと知ったのは「オーディションの合格後」だったという点です。

依田さんは公式サイトを見て知ったそうですが、朴さんは収録まで済んだうえでコメントを求められて初めて「今回のアニメを制作しているのがヤンマーということを知った」とのこと。

アニメ制作の裏話にも色々ありますが、こういうのはなかなか珍しいのではないでしょうか。

お二人ともアニメ番組の年間レギュラー経験が豊富ですが、役作りに関してはレギュラーも年間も関係なく、現場の空気を感じ、それに応えてキャラクターを表現する「ライブ感」が必要であるということをトークでおっしゃっていました。

また、メディア限定のトークセッションではさらに深い話もあり──

・宇宙を舞台にロボが活躍する「スターダストメモリー」のエピソードナンバーが「EP079」なのは”偶然”(鹿島監督)
・プロジェクト着手から放映までは2年半かかった。大変だった(長屋CBO)
・続編を作りたい。ヤンマーは『未ル』やヤン坊マー坊といったコンテンツのIP価値を高める会社を設立したし、新会社ではグッズや玩具などへの展開にも取り組む。そのくらい本気なので、視聴者の皆さんに応援してほしい(長屋CBO)

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グッズの展開や、反響によっては「MIRU」のフィギュアの展開なども……?

などなど、プロジェクトに参加された方々の熱い意気込みが聞けるイベントでした。

イベント全体を通じて、筆者にはヤンマーの「本気」が伝わってきました。その根本にあるのはヤンマーの知名度の低下に対する危機感と、ヤンマーの「人の可能性を信じ挑戦を後押しする」という信条を日本や世界に伝えたいという熱い思いでした。

そのためにお金をかけて製作委員会ではなく単独でアニメを作り、豪華スタッフを集めているわけで、日本を代表する企業の新たな挑戦、その心意気、応援したくなりますよね。

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プロデューサーの長屋CBO、声優の依田菜津さん、朴璐美さん

最後に、試写会にいらっしゃっていた脚本家の兵頭一歩さん(第3話「Episode 217この世の波風さわぎ」担当)から意気込みを伺えましたので、紹介させていただきます。

「いやー、今回久しぶりに脚本家としては僕が一番若いんですよねー、そのくらいすごいメンバーで作ってますので、ぜひ見てください」

兵頭さんと言えば、『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』『出撃! マシンロボレスキュー』から脚本を書いているベテランですよ。その兵頭さんがシリーズ内で最年少とは驚きですし、スタッフの豪華さがうかがえますね。

ヤンマーと重厚なスタッフ陣が手掛ける新作ロボットアニメ『未ル わたしのみらい』は2025年4月2日(水)よりテレビ放送がスタートし、4月3日(木)より各種配信サービスにて公開される予定です。

ライター
シナリオライター。ゲーム業界歴17年。変身ヒーロー・変身巨大ヒーロー・パンが活躍するヒーローなどのキャラゲーをすごいたくさん作りました。心のキャラゲーは『北斗の拳 世紀末救世主伝説』(死あたぁのやつ)『スーパーロボット大戦F』(初めてエヴァが出たから)。尊敬するライターはスタパ斎藤さんとジスロマックさん。SNSの本拠地はmixi2。
編集者
小説の虜だった子供がソードワールドの洗礼を受けて以来、TRPGを遊び続けて20年。途中FEZとLoLで対人要素の光と闇を学び、steamの格安タイトルからジャンルの多様性を味わいつつ、ゲームの奥深さを日々勉強中。最近はオープンワールドの面白さに目覚めつつある。
Twitter:@reUQest

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