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『塊魂』高橋慶太氏の新作『to a T』は、クリア後に “心が洗われるような感情” が胸いっぱいに広がる、あったか~い作品だった。「常にTポーズ」な主人公が、その一風変わった個性と向き合い、成長していく物語

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──あなたはあなた、私たちはそのままで完璧。

ほかの子たちとはちょっと違う “アルファベットの「T」の形をした主人公” が、自身の個性と向き合い、成長していくアドベンチャーゲームが、今回ご紹介させていただく『to a T』です。

本作を手がけるのは『塊魂』の生みの親・高橋慶太氏。「T」の形をした主人公と、その身の回りのサポートをする愛犬が織りなす生活は、どこか不思議でどこか変です。

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しかし、その奥底には「個性」に対する確かな優しさがあり、プレイヤーの心を捉えて離しません。

ゲームをクリアしたあとに、「ひとつのゲームをプレイした」というよりも、「ひとつの上質な映画を鑑賞した」という感情で胸がいっぱいになる『to a T』。今回はそんな本作の魅力について、お届けいたします。

文/DuckHead
編集/柳本マリエ


みんなどこか変で、みんなすごく優しい

本作をプレイして真っ先に目に飛び込んでくるのは、優しさに包まれながらも少し不思議でなにかがおかしい、独自の世界。

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主人公は、アルファベットの「T」の形をした少し不思議な13歳。「T」の状態でいるのは、なにかしらの信念があるからとか、このポーズが好きだからとかいうわけではなく、純然たる生まれつき。

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……そうなってくると、「じゃあ、なにがあって生まれつきこの形をしているんだ?」という疑問が自ずと浮かび上がってきてしまいますが、なんと、その答えは主人公自身もいっさい知りません

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主人公が「T」の形で生まれてきた理由はわかりませんが、両腕が常に水平に伸び切ったままであるというのは紛れもない事実。

「T」の形であるということは、常に両手が真横に真っ直ぐ伸び切った状態というわけですから、食事をしたり歯を磨いたりといった、私たちが日常生活で特別な苦労なくしている行動でさえも、主人公にとっては難しいものばかり。

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特に、服を着替えたりトイレを済ませたりといった作業は主人公ひとりだけの力ではどうすることもできないため、愛犬が毎日の生活をサポートしてくれています。

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……で、この愛犬ちゃんが、メチャクチャかわいいんです。

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この『to a T』というゲーム、愛犬以外にもペンギンやら鳩やらモグラやら、かわいいもの好きにとってはたまらないキャラクターが大量に登場するということが非常に大きな魅力のひとつなのですが、それでも愛犬ちゃんのかわいさは別格。

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かわいさの権化、化身といっても過言ではありません。しかも、プレイを進めていくにしたがって、そのかわいさが加速度的に上昇していくのが愛犬ちゃんの恐ろしいところ。モフモフ最高!

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特に、「飼い主である主人公の言葉はほとんど理解できていないのに自分の名前だけはしっかりと聞き取れている」というところが、犬を飼っているひとりの人間としてものすごく刺さりました。

我が家のワンコたちもこういうところがあるので、ここで一気にゲーム内の愛犬ちゃんに対する愛着が増します。

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また、主人公以外にも『to a T』の世界では一風変わった住人たちが生活をしています。

サンドウィッチ屋さんを営むキリンさんがわかりやすい例で、主人公が「T」である理由についての説明がほとんどないまま物語がスタートするのと同じように、このキリンさんも特になんの説明もなく普通に登場します。

この世界ではお店を開く二足歩行のキリンさんもいるし、

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チョンマゲ頭の海パン野郎もいるし、

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DJ鳩もいるし、

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しゃべる一輪車だっているのです。

そんな住人たちが織りなす日々の物語は、こちらの世界の常識で考えると、どこか不思議なことばかり。

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しかし、それらの不思議な出来事に関して深く言及されることはほとんどなく、サラリサラリと流されていきながら、何事もなかったかのようにこの世界の日常は進んでいきます。

どう考えても変なことが起きているのにも関わらず、そのことについてはほとんど触れられることなく淡々とストーリーが進行していくこの感じは、『塊魂』のころから続く独特の空気感であるように思いました。

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そして、『塊魂』のときもそうでしたが、ゲームを始めた直後は「なにこれ?」と気になることばかりでも、プレイを続けていくうちに、いつの間にか そういったことはほとんど気にならなくなっていきます

そもそも、常識というやつは、環境や考え方が変われば大きく変容していく形のないもの。「T」の主人公がいたり、キリンさんがいたりといった程度の小さな形の違いや些細なおかしさを気にして指摘しているようではいけません。

『to a T』の世界は、私にそんなことを語りかけてくれているように思えました。

主人公の “何気なくない日常生活”

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そんな優しく静かにぶっ飛んでいる世界の中で繰り広げられるのは、主人公の “何気なくない日常生活”。

本作は、連続アニメやドラマのように、第1話・第2話といった形のエピソード形式で物語が進行していくアドベンチャーゲームとなっています。

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個人的には、エピソードの終わりで見られる、丸い枠がキャラクターにフォーカスしてすぼまっていく演出がお気に入り。どこか昭和のアニメのような懐かしさを感じるこのテイストは、エピソード形式で進む物語ならではと言えるでしょう。

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少々話が脱線してしまいましたが、13歳を迎えたばかりで思春期真っ只中の主人公が直面している悩みは、「T」の形をしたこの体。

なにか悪いことをしたわけでもないのに、「T」であることをからかわれるような嫌がらせを受ける毎日に、「学校へ行きたくない」という思いを抱えています。

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そういった中で、主人公の個性である「T」を肯定してくれる先生との出会いや、予想だにしない出来事、 “何気なくない日常生活”を過ごすことで成長していく……というのが、『to a T』のストーリー。

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本作のお話は、主人公の視点をベースに語られ、プレイヤーは、着替え・洗顔・朝食・歯磨きといった、毎朝のルーティーンを体験しながら物語を進行させていくことになります。

「T」の形をした主人公の日常生活は、私たちがするそれらの行動とは異なるもの。ゲームを始めた当初は、主人公がなにをしようとしているのか、どういう流れで作業が進んでいくのか、その手順の認識でさえも上手くいかず、なにをするにも四苦八苦。

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洗顔で目ヤニを落としている

しかし、何度かこの一連の流れを繰り返しているうちに「T」の生活というものにも慣れてきて、操作に澱みがなくなり、スムーズにルーティーンが進んでいくようになります。

そうした先に感じたことは、「主人公の生活はほかの子たちとは違うかもしれないけれど、慣れてしまえばそこまで大きな違いではないかもしれないな」ということ。

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確かに、主人公の個性的な体の形では、メジャーな体形に合わせられた世界の中で不便なことはたくさんあります。

しかし、そのことに慣れさえすれば、主人公の日常は「T」でない私となんら変わりはないということに気がつき、次第に「T」であることのメリットも目立ってくるようになっていきます

思い返してみれば、ストーリーの冒頭で、主人公の「T」のポーズをからかういじめっ子たちに嫌悪感を感じていましたが、本作の情報を最初に見たときに、「なにが楽しくてTのポーズしてんの(笑)」と思っていたと言う意味では、私も同じ穴の狢。今では、あのときの自分を全力でぶん殴ってやりたい気持ちです。

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その見た目こそちょっと変わっていて個性的な『to a T』ですが、その核にあるのは、「自分の個性とどう向き合うか」という、多くの人が共感できるような普遍的なテーマ。

完璧とは何か。ほかの人とは異なる形、違うところ、個性をどのように捉えればいいのか。『to a T』は、この疑問に対する答えを、ゆる〜く優しいタッチで優しく教えてくれるゲームとなっています。

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ちなみに、基本的に『to a T』は、主人公の “何気なくない日常生活” を体験していくゲームですが、途中でミニゲームで遊んだり買い物をしたりといった寄り道も可能。特に洋服は500種類以上あるようなので、かな~り長く『to a T』の世界を楽しむことができそうです。

耳心地が良すぎる神曲たち

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そして、主人公の “何気なくない日常生活”を盛り上げてくれるのが、歌です。『塊魂』シリーズも音楽が非常に素晴らしく、両手では到底数えきれないほどの神曲たちが誕生したように『to a T』の歌も神曲。

先ほど、『to a T』の物語は連続アニメのようにエピソード形式で進んでいくと説明させていただきましたが、本作では各エピソードのオープニングとエンディングのそれぞれで、オープニングテーマとエンディングテーマが流れます。正直、これらの曲が流れた瞬間、一気に心を掴まれました。

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まず、オープニングテーマから。この曲は、現代というよりは、ひと昔かふた昔前の空気感を感じる楽曲。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『グーフィー・ムービー/ホリデーは最高!!』といった映画たちを思い起こさせるその仕上がりは、爽やかな青春ストーリーである『to a T』にバッチリとハマっています。

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この歌の中で耳心地が良いポイントは、英語の歌の中に、「だ け ど !」という日本語での合いの手が急に入ってくる瞬間。この後に出てくる「な に か !」と合わせて、何度でも聞き返したくなる中毒性があります。

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また、歌詞の中には「意味がわからないけど、完璧ってなに?」といった深い内容のものも多く、明るく爽やかな曲調ながら考えさせられることも多い名曲となっています。

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そして、エンディングテーマは、先ほど触れたサンドウィッチ屋さんを営むキリンさんがメイン。キリンさんがサンドウィッチ屋さんを開いた理由と、それからの日常生活が、耳心地の良いリズムと優しい声で歌われていて、ずっと聞き続けていたくなるような気持ちよさがあります。

このとき流れている、ひと昔かふた昔前のアニメのエンディングのような空気感が感じられるアニメーションも秀逸で、甘く優しい心地よさの中に、どこか切ない感情が芽生えます。

これらの曲は各エピソードごとに毎回フルで流れるため、途中でスキップを選択することもできるのですが、こんな名曲たちを前に、とてもそんなもったいないことはできません。

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世界観、ストーリー、歌。
この三拍子が高い水準で備わっている『to a T』は、上質なエンタメ作品に仕上がっています。プレイを終えた直後には、心が洗われるような感覚とともに、良い作品を見終えた時の特有の晴れ晴れとした爽やかな気持ちが、胸いっぱいに広がっていました。

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ストーリー冒頭でも流れる、本作のオープニングテーマの歌い出しは、

──あなたはあなた、私たちはそのままで完璧。
 ──You are the perfect shape, we are the perfect shape

エピソードごとに繰り返されるこのフレーズこそが、本作を通じてプレイヤーに伝えたいことであるように思えてなりません。

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見た目は少し変わっているけれど、多くの人の心を打つ青春の物語。上質なアドベンチャーを楽しみたい人はもちろん、自分という人間の “形” を知るヒントを得たいという人も、ぜひ本作をプレイしてみてはいかがでしょうか。

ライター
レトロゲームから最新ゲームまで、面白そうだと感じた家庭用ゲームを後先考えず手当たり次第に買い漁る男。500を越えてから、積み上げたゲームを数えるのは止めました。 ディズニーアニメ・お笑い・音楽・漫画などにも広く浅く手を伸ばし、動画投稿者としても蠢いています。
Twitter:@DuckheadW
編集
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちで、レベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著『デブからの脱却』(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto

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