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『SIREN』脚本家・佐藤直子氏らが手がけるホラー体験型展覧会「1999展 ー存在しないあの日の記憶ー」に行ってきた! 『SIREN』ファンにとってお馴染みの8月3日から8月5日は “なにかある” らしい

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いつの時代もささやかれる滅亡説。そんな “世界の終わり” をテーマとしたホラー体験型展覧会「1999展 ー存在しないあの日の記憶ー」が7月11日より東京・六本木ミュージアムで開催されている。

特筆すべきは本展覧会がホラークリエイターユニット「バミューダ3」によって企画された点だろう。

バミューダ3とは、ホラーゲーム『SIREN』の脚本家・佐藤直子氏、『近畿地方のある場所について』などで知られるホラー作家・背筋氏、そして新進気鋭の若手ホラー映画監督・西山将貴氏ら3名によるクリエイターユニット。

彼らが手がけた展示会とあらば、期待しかない!!!

開催に先駆けてメディア内覧会の機会をいただいたため、本稿ではその様子をお伝えしていく。現地では佐藤直子氏による解説つきのスペシャルツアーが実施された。

文/柳本マリエ


ひとつひとつが「1999年」を物語っている

会場に着くと、いきなり「立入禁止(キテネ)」「キケン(アンゼン)」の看板が出迎えてくれた。不穏すぎる。

「1999展」レビュー・感想・評価:『SIREN』脚本家・佐藤直子氏らが手がけるホラー体験型展覧会_001
どっちなの!?
「1999展」レビュー・感想・評価:『SIREN』脚本家・佐藤直子氏らが手がけるホラー体験型展覧会_002
どっちなの!?

本展覧会は1999年7月の「予言の日」間近の不安と期待が交錯する独特な空気感を再現。訪れなかったあの日と、だれも知らない世界の終わり、そこを謎の少女の導きによってたどっていくというもの。

会場に入ると、最初の部屋では1999年のある男の部屋が再現されていた。キッチンや本棚など生活感に溢れ、ポスターや置かれた小物ひとつひとつが「1999年」を物語っている。残念ながらここは撮影不可だったため、ぜひ会場を訪れて見てほしい。

会場内は基本的に不穏ではあるものの、いわゆるおばけ屋敷のようなビックリさせられる要素はないのでホラーが苦手な人でも問題なさそうだ。

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後半の部屋では、名前・年齢・職業とその人に関連する身の回りの品が展示されている。ここも最初の部屋同様に年代ごとの解像度が高く、「あれ? これって私の部屋?」と思ってしまうほどだった。

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私の部屋?

シングルCDやMDなどもあり、その懐かしさに胸がギュッと熱くなる。展示ひとつひとつから背景が感じられ、“小物を通じて理解が深まる” という体験は、『SIREN』のアーカイブ【※】に近い。

※アーカイブ
『SIREN』の世界観を補強するアイテム。「免許証」「カルテ」「役場報」などアーカイブの数は100種類におよぶ。それらを集めていくことで羽生蛇村で起きている謎に対する理解を深めることができる。

このほかにも写真はけっこう撮影したものの、あまり貼りすぎると楽しみを奪ってしまうため、ぜひ会場を訪れて見てほしい。以下の質疑応答でも見どころ(感じどころ)を語っていただいている。

『SIREN』でお馴染みの “あの3日間” は、なにかある(?)

スペシャルツアーの最後に、佐藤直子氏、背筋氏、西山将貴氏ら3名に質疑応答の時間が設けられた。ここからはその様子をお届けしていく。

──どのような経緯で今回の企画が立ちあがったのでしょうか?

佐藤直子氏(以下、佐藤氏):
私たちはもともと、私が企画やシナリオを担当したホラーゲーム『SIREN』の「制作者とユーザー」という関係性で知り合った仲間でした。なので、展覧会を企画するような座組ではないんです(笑)。私はずっとゲームを作っていて、背筋は小説家、西山は映画監督ですから。

こんな3人が「バミューダ3」と名乗ってLINEグループでふざけて遊んでいたところ「展覧会企画をやりませんか?」とお声がけいただきました。そのため「ホラーアート展覧会とはなんぞや」というところから今回の企画が始まっています。

もともとは9月くらいの開催を想定していたのですが、六本木ミュージアムの空きが7月に出ることがわかり、「1999年7の月を2025年の7の月にやることができる」という運命的なご縁もあり、急きょ背筋と西山を説得して前倒しで開催する運びとなりました。

私たち3人は素人なので、最初は「私たちがやろうとしていることは展覧会というフォーマットに沿っているのか」といった議論が尽きませんでした。しかしそこは施工のプロの方々に歩み寄っていただき、“歩ける舞台” という私たちなりの展覧会のかたちに再現することができたと思います。

ゲームでいうと「ウォーキングシミュレーター」のようなジャンルでしょうか。正直なところベータ版のようなところが残っているかもしれませんが、そこを含めて見ていただき、世界の終わりの “先” を感じていただけたらうれしいです。

──世界の終わりの “先” とはどういうことを指しているのでしょうか?

佐藤氏:
だれしも、ときには「死にたい」と思ったり「終わってしまえばいいのに」と思うことはあると思います。でもそれは、いっぽうで「生きたい」や「変わりたい」の裏返しだったりします。

世界の終わりという究極の妄想を疑似体験することで、「生きること」を再確認する。それがこの展覧会の趣旨です。

私たちは素人ゆえの無謀さで、パネル(テキスト)で説明するということをあまりしておりません。そのぶん、耳や目を使った “自分の体験” で感じ取ってもらうことに全振りしました。「どう楽しむの?」と思われている方がいたら「とにかく立ち止まってよく聞いてほしい」と思っています。

──「転化」の部屋では、人の名前とその方に関連する身の回りの品が展示されていました。1999年のなかに、2025年のものも混在していたように思います。その意図や狙いをお聞かせいただけますか?

「1999展」レビュー・感想・評価:『SIREN』脚本家・佐藤直子氏らが手がけるホラー体験型展覧会_011

佐藤氏:
わっ、鋭い。そうなんです。パネルの下に「1999」または「2025」と西暦が記載されておりまして。じつは、パラレルワールド的な考え方も内包しているんです。

もしかしたらいつでもこの瞬間この瞬間、だれしもが本当は世界の終わりを体験してるかもしれない。ただ、自分たちはそうではない世界線にスライドしながらいまの人生を生きているのではないか。そういう考え方を内包しているので1999年の魂と2025年の魂を混在させました。

不特定多数の人が事実と異なる記憶を持つ「マンデラ効果」と呼ばれる現象をご存知でしょうか? じつは並行世界が存在していて、その並行世界の記憶が混ざり込んだことによって、そういう疑似記憶を持っている人がいるのではないかという説もあります。

つまり私たちもいま、世界の終わりという並行世界を体験し、そこからもとの世界線に戻ってきた人格、あるいは魂なのかもしれない。そういう裏設定も考えています。

──裏設定集みたいなのは出されたりするのでしょうか?

佐藤氏:
アートブックを企画しておりまして、こちらを読んでいただくといま話したような “こじらせた思い” が書いてあるかもしれません(笑)。

──本展覧会は7月11日から9月27日までと期間が長いですが、たとえば終わりに近づくときに内容が変わるということは考えていらっしゃるのでしょうか?

佐藤氏:
私たちが素人ゆえに知らなかったのですが、会期が長いとそういう試みもできるみたいですね。まさに検討しておりまして、隠しイベントみたいなことを考えています。いま言えるものだと、8月3日、8月4日、8月5日に夜の展覧会を楽しめるナイトミュージアムの開催を予定しています。

8月3日、8月4日、8月5日というキーワード【※】から気がつく人は気づいてほしいな、と(笑)。詳細は、7月11日に発表を予定しております。

※8月3日、8月4日、8月5日
ホラーゲーム『SIREN』は8月3日から8月5日にかけて多視点で複雑に入り組んだ物語が展開される。

背筋氏と西山氏の “チャレンジ” とは

佐藤氏:
背筋や西山からもなにかいいことを言ってください。

西山将貴氏:
まずは、こんなにお集まりいただきありがとうございます。僕は会場全体の映像や赤い実写のキービジュアルのポスターのディレクションを担当しました。

「1999展」レビュー・感想・評価:『SIREN』脚本家・佐藤直子氏らが手がけるホラー体験型展覧会_012

ずっと映画監督をしてきたので展覧会は初めてです。だからこそ映画にはない映像を作りたいと思いました。前半のほうの「予言」や「狭間」の部屋で出てくる窓の外の景色や電車の景色は、じつはとても長い尺の映像なんです。それをシームレスにつなぐことが難しいと言われておりまして、そういったところもチャレンジしたいと思いました。

映画はカットがあるものを連続していくので、手法がぜんぜん違うんです。今回はワンカットでやることが僕の中のチャレンジのひとつでした。そこを注目して見ていただけたらうれしいです。

「1999展」レビュー・感想・評価:『SIREN』脚本家・佐藤直子氏らが手がけるホラー体験型展覧会_013

電車内もよく見ていただくと、左右から見ると無限につながっているような特殊な空間になっているので、ぜひお写真も撮ってください。

佐藤氏:
西山はまだ26歳なんですよ。続いて背筋からもお願いします。

背筋氏:
「恐怖」という感情を表現するとき、たとえば幽霊を出したり、あるいは天国や地獄という存在を描くことは難しいことではないと思うのですが、そこに対しての感情は人それぞれだと思います。

ある方にとって天国は憧れや救いの象徴であり、地獄は畏怖の対象であるかもしれません。幽霊についても、ただ恐ろしい存在として現れるのであれば、それは確かに恐怖の対象となり得ます。しかし、それがもし亡くなった肉親であったならば、恐怖は瞬時にして救いへと転じることもあるでしょう。

このように、「見えないもの」に対する感情は複雑であり、それを一概に単純化せずに、むしろその複雑さを複雑なままに提示することこそが、今回の演出において私がチャレンジしたことのひとつです。訪れた方々がそれぞれの感性で受け止め、咀嚼していただけるのではないか。

そういう気持ちで作らせていただいたので、ぜひお楽しみいただければ幸いです。

佐藤氏:
素晴らしいね。

これにてスペシャルツアーは終了になりますが、難度の高い展示に力を貸してくれたスタッフ、制作委員会の皆さまのクレジットがあるので、ぜひこちらに目を通していただいたり、私が監修したオリジナルドリンクがコラボカフェで飲めるので、そちらもお楽しみください。(了)

編集
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちで、レベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著『デブからの脱却』(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto

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