先日、イベントで書店さんからお花をいただきました。ブーケと言うんでしょうか。
これまで幾度となくお花をもらう機会があったのに、なんと呼ぶのか知らない高さ二十センチほどのそれを、早速パソコンモニターの隣に飾ってみることにしました。
生産性UPのためにメモに書き記したショートカットキーたちが放つ『ここは仕事場ですよ』という圧力を、少しだけ和らげてくれる気がして、自然と口元が緩みます。
三回あったイベントはどの回も大盛況に終わり、わたしはたくさんの方と一緒に写真を撮りました。
イベント中も忙しいですが、実は終わったあとも忙しいのです。
というのも、「変なことを言って傷つけていないだろうか」「気の利いた返しをできなかったことを書かれていないだろうか」ということを確かめなければなりません。
自分の名前をXの検索窓に入れて、サジェストにマイナスな言葉が表示されないことを一瞬の内に安堵しながら、今回のイベントについての投稿を探します。
みなさんが素敵な感想とともに、わたしとの写真をSNSにアップしてくれているのを嬉しく思いながらも、どんどん、感想の内容よりも、自分の写真写りが気になっていくのです。
…なんか、わたしの眉毛って、変かも!
一度気になると、どんどんそんな気がしてくるものです。
人気者だった子はみな眉毛を整えていた高校時代、わたしも見よう見まねで、剃ったり抜いたりをがんばっていたんです。
自分に似合う形などを考えないまま、当時流行っていた眉毛をなぞるように。
そこから数年が経ち、数日おきに整えるって面倒だな〜と思っていたころ。
ニューオープン記念価格という広告につられて、眉毛アートをしてみたりもしました。
(わたしは割引に弱いのです)
眉毛アートというのは、皮膚の表面にほど近い部分に細い針のようなものを刺して、色素を注入するもので、施術から二年くらいはもちます。
毎日眉毛を左右対称に近づけるという作業から解放され、かなり楽ではあったものの、一年を過ぎたころから少しずつ色がまだらになっていくので、結局は書き足さなければいけなくなりました。
しかも、アートを入れたての時は、めちゃくちゃ濃い。それはもう、ゴルゴのように。

乾燥しやすくなるのもあって、保湿のために一週間はワセリンを塗るのが必須のため、テカテカのベタベタで、それにぶち当たる前髪の先端が、ねっとりと湿ってしまいます。
でも、ごんぶと眉を隠すためには、前髪が必要なわけで…。
どうにかごまかそうと、眉毛にかぶるくらいの大きめの眼鏡をかけて生配信に出たはいいけど、我が母から「めがねほの香ぶさいな。笑」と配信中にメッセージが届く始末。
失礼な!可愛いもん!というか、仕事中の娘に実況LINEをするな。
そんな眉毛との闘いを経て、ついに、最近の流行りである『眉毛サロン』へ辿り着いたわたし。
友人がサロンに行って、美しい眉毛になって帰ってきたのはいつだったか。
あのころから薄っすらと抱いていた眉毛サロンへの憧れを解き放つのは、今しかない。
なぜなら、ファンの皆さまとツーショットを撮る予定が十一月にもある。
さらなる高みへ俺は行くぞ、オタクたち———
高鳴る胸。だけどほんの少しだけ、嫌な予感がしていた。
サロンの予約をしてから数時間後。
わたしのスマホに「お店の都合で、15分予約をずらしてほしい」とメッセージが届きました。
まぁ、これくらいならよくあるかもしれない。
仕事のスケジュールに支障はなかったので、すぐに快諾のメールを返しました。
予約当日、指定住所のマンションの一室に入ると、お店の人は一人で、前のお客さんの会計対応をしていました。
なるほど、お一人なのか…。
オーダーシートを書いて下さいと促され、ペンを走らせていると、お店の電話が鳴りました。
電話対応している声を聴きながら、シートを最後まで書ききったわたしは、どんな眉毛になるかとドキドキしながら、大人しく椅子に座ったまま待ちます。
わたしが今回予約したメニューは『カウンセリングを受けてメニューを決める』というもので、悩みを相談して、形を決めてもらえる施術。
相談をしながら、眉毛の形を整える『スタイリング』と、毛抜きなどを使って眉毛の量を調整してもらう『間引き』のセットメニューにすることにしました。

椅子を倒してもらい、いざ施術!となったその時。
お店の電話がもう一度鳴ったことで、わたしの施術の時間が足りなくなり、メニュー変更を余儀なくされました。
な、なんということ!
謝る店員さんに『間に合わなくなるなら、どうして電話に出たんですか』という疑問が口から出かかったけれど、「わかりましたぁ」と返事をし、スタイリングのみでやりますねと言われるがまま施術スタート。
十五分くらい経ったところで「このような感じでいかがでしょうか」と手鏡を渡され、のぞき込んだ先にある眉毛にあまり変化はなく、これくらいなら自分でも出来ちゃうかも?という仕上がりで、彼女にばれない様に肩を落としました。
どうしたものか…。
悩みながらちらっと見た時計の針は、十一付近を指していました。
おそらく五、六分後には次のお客さんが来るなと予測したわたしは「大丈夫です」と返事をし、お会計をしてお店を出ました。
っく…なんか思ってた感じと…違った…。
でもまぁ、そういうこともあるよね…。
新しい依頼の連絡って嬉しいし、電話が鳴ったら、そりゃ取りたいし。
自分に置き換えて言い聞かせながらも、マンションの内廊下からのぞく狭い空は重く曇っていて、なんだか気が滅入ってきます。
とりあえず、今度はもっと眉毛を生やしてから行こう。
それで、予約の時間を長めに取れたりできないか、備考欄に一言書いてみよう!
改善点がまとまったところで、自分の機嫌は自分で取るぞと、駅広告で見たモスバーガーのシェイクを買いに、少し遠回りをすることにしました。
コーヒーシェイクなんてのがあったんだ、知らなかったなぁ。美味しいといいなぁ。
その日の夜、お風呂上がりに見つめた鏡には、いつもより少し存在感が薄い眉毛が、整然と二本並んでいました。
変化は大きくないけれど、人が一生懸命整えてくれた眉毛というのも、悪くない。
時間がすべてを解決するなと思いながら、眉毛をひと撫でした。
編集:川野優希
企画協力:スターダストプロモーション