初対面の人と集まった時、最初の数分ってちょっと気まずい。
何を話せばいいかわからないし……相手との距離感も測りかねる。今回集まった我々も、最初はまさにそんな状態だった。
ただ、今回集まったメンツがひとつ違ったのは、全員が「小田急ユーザー」だったことだ。
『鉄道にっぽん!RealPro 特急ロマンスカー!小田急電鉄編』は、ロマンスカーをはじめとした小田急線の運転を、実写映像でリアルに体験できるシミュレーションゲームである。
停車位置はセンチ単位で計測され、速度管理も容赦なし。落ち着いて、丁寧に運転しないとけっこうすぐにゲームオーバーになる。電車に何も詳しくない我々からすると、「電車を運転すること」にストイックな作品だ。
そんな本作を体験するべく集まった我々は、当初ゲームが共通言語のグループらしく操作の話をしていた。
「停車位置シビアすぎませんか?」
「点数とかあるんですね!」
しかし、代々木上原を過ぎ、登戸を抜け、新百合ヶ丘を越えたあたりから……少しずつ話題はリアルな生活にズレていく。
「この区間、朝めちゃくちゃ混むよね」
「登戸と向ヶ丘遊園、近すぎない?」
「読売ランド前、ぜんぜん読売ランド前じゃない」
画面に映るのは、誰もが日常で見慣れてきたはずの風景だ。だが、緩やかすぎるほどの共通項を持つ人間同士が記憶の引き出しが勝手に開いていく。通学、通勤、引っ越し、飲みすぎた夜、何気なくスマホを見ていた帰り道。個々の人生は違うはずなのに、似たような感触の断片が次々に共有されていく。
気づけば、最初の気まずさは消えていた。
誰かが話し始めると、別の誰かが「わかる」とうなずき、そこから少しだけズレた個人的な話が乗っかる。地元が同じわけでも、世代が近いわけでもないのに、なぜか話が噛み合っていく。同じ路線を選ぶということは、根底にある何かが似ているのかもしれない。
『鉄道にっぽん!RealPro』は、電車を正確に運転するシミュレーションゲームであると同時に、生活の中に溶け込んでいた路線を、もう一度じっくり見つめ直すための装置でもあった。同じ沿線に住むという共通項は、人と人の距離を、驚くほど自然に縮めてくれるのだ。
文/anymo
※この記事は『鉄道にっぽん!RealPro 長距離運転!特急ひのとり 近畿日本鉄道編』の魅力をもっと知ってもらいたいソニックパワードさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
『鉄道にっぽん!RealPro』(通称:鉄プロ)シリーズとは
今回体験した鉄プロシリーズは『鉄道にっぽん!』から派生した、より「プロ仕様」の本格運転を楽しめるシリーズだ。現在、本シリーズは以下の4作品が発売されている。
第1弾:名鉄ならではの高速運転と「電笛」が楽しめる名古屋鉄道編
第2弾:新宿からのロングラン運転や複々線区間が魅力の小田急電鉄編
第3弾:シリーズ初の「夜間運転」や超過密ダイヤの運転も体験できる東急電鉄編
第4弾:約190km、2時間におよぶシリーズ最長の長距離運転が目玉の最新作・近畿日本鉄道編
最新作の『近畿日本鉄道編』は2025年11月20日に発売されたばかりだ。くわえて過去作品もダウンロードコンテンツにより路線が追加されている。

そこで今回電ファミは小田急ユーザーを集め、第2弾に当たる『小田急電鉄編』をみんなで体験してみることにした。本稿ではその様子をお伝えしていく。
今回の参加者は以下の通り。
柿生ユーザー(以下、柿生):
地元は生田、今の住まいは柿生。血肉が小田急でできている、生粋の小田急ユーザー。生田生まれなので坂に耐性がある。
渋沢ユーザー(以下、渋沢):
3ヶ月前くらいに引っ越してきたものの、すでに海老名や町田を使いこなしている期待の新人小田急ユーザー。
下北沢ユーザー(?)(以下、下北沢):
向ヶ丘遊園出身、喜多見への在住歴と千歳船橋でのバイト歴があることで、小田急沿線の安らぎを求めて週の半分を下北沢で過ごす千葉県民。
急行 小田原線・多摩線 新宿→唐木田

おふたりとも、小田急にはどのくらいお住まいなんでしょうか?

自分は地元も生田なので、ずっと小田急沿線に住んでるんです。生粋の小田急ユーザーですね。

自分は3ヶ月前ぐらいに引っ越してきたばっかりで、詳しくはなくて……。
ちょうどこの前海老名に行ったんですけど、いいところでした。
海老名のTOHOシネマに「MX4D」っていう、全国で10か所くらいしかない、すごく豪華なシアターがあるんです。映画館を出て目の前にゲームセンターがあったので上映を待ってる間にゲームをして、ラーメンストリートでラーメンも食べました。
それから、町田の駅前にある、ワッフルのお店もすごく美味しかったです。

めっちゃ小田急沿線楽しんでるじゃないですか。

あと、渋沢に引っ越して家賃はほぼ半額になったのに、部屋の広さは倍になりました。

生きるのうますぎません?

通勤ラッシュの時間帯、このあたりは混雑しますよね。

自分は高校生の時に登戸乗り換えだったんですが、やっぱり朝はどうしても混雑してましたね。

それでいうと、本作は乗客のことは考えなくていいんですよ。
見てください!運転するのはめちゃくちゃ空いてるときの小田急なので、ドアの開閉がすごくスムーズです。

これ、点数とかあるんですね。

そうなんですよ。停車位置をシビアにセンチ単位で評価されるんです。特定の範囲を超えるとオーバーランになって、運転が強制終了になります。
スピードにも上限値があって、3回超えるとそこで強制終了です。

じゃあ暴走とか、新宿発・柿生終点の直通運行とかはできないんですか?

できませんよ。

『グラセフ』にはなれないんですか?

なれませんよ。
……あっ、下北沢に着きましたね。

えっ!これ、ゲーム内の運行速度と画面の動画の速度が同期してるんですか?

たしかに!

本作で知ったんですが、電車の運転って思ってたよりも複雑っぽくて……。ギアの調整みたいな感じになっているんです。「ここにレバーを入れておけば勝手に走ってくれる」ってわけではなく、けっこう繊細に速度を調整しなきゃいけないんです。
これは景色を見やすい画面設定にしているんですが、計器と窓枠が表示される、運転席っぽいリアルな視界バージョンもありますよ。没入感がすごいです。

運転手さんが何か言ってますね。

ボタンを押すと、「進行」って言ってくれるんです。特に意味がなくても言えます。特に意味がなくても、警笛も鳴らせます。

そういえば、喜多見とか、千歳船橋とか、ホームの外観めっちゃ似てますよね。

あっ、本当だ。

自分はやっぱり、千歳船橋越えたあたりからの「ファミリータウン感」にすごく安らぎを感じます。ああ……安心感ある〜。
ああ!ここ!喜多見だ!オ↑レ↓の元最寄り!オ↑レ↓の元最寄り!

男子小学生みたいになってますよ。たしかに、一軒家が増えてきましたね。

登戸は皆さん馴染みがありますか?

自分は南武線に乗ることが多いので、馴染み深いですね。

これ個人的あるあるなんですけど……「小田急線沿いの人、意外とドラえもんミュージアム行ってない」ってあるあるじゃないですか?

そんな施設があるんですか!?引っ越してきたばかりなので、いま、存在を初めて知りました。

生田緑地の方ですよね、僕も行ったことないですね。
……ところで登戸・向ヶ丘遊園の区間ってなんで止まるんですかね?

えっ、ですよね?

歩いて行ける距離なのに止まる。これやっぱり、小田急ユーザーみんなが疑問に思うやつなんですね。

これも小田急沿線あるあるなんですけど、読売ランド前から読売ランドって意外と離れてますよね。

わかる〜!!

そういえば、新百合ヶ丘って降りたことないかもしれません。

駅前は栄えてるんですが、離れると閑静で住みやすそうです。

あと、「百合ヶ丘」ってめちゃくちゃかっこよくないですか?住所に書きたいです。

たしかに。

年賀状とかに書いてあったら、いいなー!ってなりますよね。

おふたりは新百合ヶ丘で乗り換えることがいちばん多いですか?

自分は登戸の方が多いですね。快速の乗り換えがスムーズなんです。大学も鶴川だったので、逆方面でしたし。

自分もそうですね。登戸の方がよく使うかもしれません。

じゃあ、唐木田方面は乗ることはほぼないですね。私もです。
ここからは、おふたりの住んでいる小田原線方面ではなく、唐木田行きの方、多摩線方面に分岐します。

緑めちゃくちゃ増えてません?

このあたりから、かなり増えますね。

ジブリみたいな風景になってきましたね。
生田は自分の地元なんですが、坂だらけなんです。駅を中心にすり鉢みたいになってて、どこに行っても登るんです。だから初めて他の駅行ったとき、「平坦だな!」ってビックリしました。

体が生田に最適化されている……。

とうとうこのメンバーは誰も行ったことのない、終点に辿り着きますね。

あ、僕は2回くらい行ったことがあるんです。中学生の時かな、流れるプールのある、大きなプールに行きました。
駅を見たらエモくなっちゃうかもしれません……。

あ、ぜんぜんなりませんでしたね。
まったく覚えてませんでした。

そ、そんな……。
ていうか、今気づいたんですが、渋沢って距離的には箱根行き放題じゃないですか!?

いろんな人に言われるんですが、じつはまだ行ったことないんです。

あっ、ほんとですか?
じゃあ行きましょう。今から。

え?
特急ロマンスカー 小田原線・箱根登山線 新宿→箱根湯本

本作のロマンスカーの運転区間には柿生も渋沢も含まれているので、この区間の方がおふたりには馴染み深い風景が見られますね。



ロマンスカーって見るだけでワクワクしてきますよね。これ、最初からゲームモードとしてロマンスカーは開放されていないんですか?

されていないんです。唐木田行きをたくさん運転して、経験を積まないと本作ではロマンスカーの運転はできません。
なので、おふたりを乗せるため、がんばってたくさん運転しました。

さっきも通った分岐だ!今度は下に行くんですね。

はあ〜なるほど。ここで分かれるんですね。

こういう分岐って、自動でルート進行するんでしょうかね?

どうなんでしょう……。でもたまに車でやらかすみたいに、軽くミスったら大変なことになりますもんね。

「やべっ、高速降りんの忘れちゃった」ってわけにいかないですもんね……。

あっ。また急に緑が増えましたね。

と、思ったらビルの高さが急に伸びてきましたね。さっきまであんなに森だったのに。

ここが海老名ですね。すごく栄えてる。……ホーム多くないですか!?

本当だ、かなり乗り入れてますね。海老名は停車駅ではないけど、ゆっくり走らなきゃいけない区間っぽいですね。慎重に走ります。

渋沢はまだ結構先ですね。
この区間は本厚木越えたあたりから快速急行が止まるようになりますし、新宿から快速に座りっぱなしで帰ってこられるんですよ。

飲みすぎちゃったときとか、すごくいいですね!

いや、本当に……。飲みすぎちゃったときに乗り換えしなくていいのが、どんなにありがたいことか……。

あっ、とうとう田んぼが見えました!綺麗!

自分は住んでいる地域的に、新百合ヶ丘以降の小田急沿線ってあまり行くことがないんですが、おふたりの話を聞く限りすごく住みやすそうですね。

田舎すぎず、都会すぎずで、すごくいい感じですよ!

引っ越すときにこのあたりも調べたんですが、だんだん山が近くなってくるんですよね。緑豊かで、坂も多そうでした。

この辺何回も通ってるはずなのに、こんなに田んぼが広がってること初めて知りました……。
普段電車の中だとスマホとかばっかり見てるんですけど、外見た方がいいなあ。

た、たしかに……。

秦野って大きい駅なんですか?ロマンスカーが止まる駅ですし、わりと大きいイメージを勝手に抱いているのですが。

そんなに大きいわけではないです。でも、目の前に大きい川があって、自然豊かで綺麗ですよ。

次、渋沢ですよ!

そうですね。いや、線路沿いにめっちゃ使うセブンイレブンがあるんで、出てこないかな……!
あ〜、すごく見覚えがある風景だ!やっぱりテンション上がりますね。いつもこの辺で並んで電車を待ってるんです。

セブン出てこなかった……(落胆)。

そんな、セブンで凹まなくても……。

あれ、いまなんか結構でっかい川通ってませんでした!?

本当だ!川だ!

川だ!また川!!

川いいですね!!

田んぼもある!田んぼ!!

駅と駅の間が、だいぶ長くなってきましたね。

おばあちゃん家とかがあるようなムードになってきましたよね。

たしか、渋沢から開成に行くまでに山の間を通るんですよね。地図だと山と山の間に線路が通ってるみたいな感じなんです。

なるほど。さらにここから先は、急行が止まらないんですね。山を越えてから、風景がさらに一段階のどかになった気がします。
アナウンス:
間もなく小田原に到着いたします。小田原の次は終点箱根湯本です。

お、もうすぐ箱根ですね。たしかに、またちょっと人のいる雰囲気になってきましたね。

小田原駅デカッ!

さっきまであんなに田んぼとかあったのに。

目が覚めるような感じですね。

線路が1本で、ビジュがいいですね。
あれ、ちょっとまって。
「風祭」って駅名……かっこよすぎませんか?

もはや、かっこよすぎてズルいな……。

すごく今更なんですけど、これ、映像の収録時期めっちゃいいですよね。めちゃくちゃいい天気ですごく晴れやかというか、夏休みっぽい。

ね!

知らないのになんか懐かしいみたいな、普遍的な懐かしさというか、エモーショナルさがありますよね。

新宿から乗ってこういう景色まで来たら、「旅行してるな」って気分になるだろうなあ。

緑の感じもだいぶ夏っぽい。空気感もあいまって子供のころ両親の実家に行ったことを思い出します。

両脇が緑で、すごく雰囲気がありますね。

この記事書き終わったら、ロマンスカー乗ろうかな……。めちゃくちゃ乗りたくなってきました。

あれっ、一旦止まるんですか?まだ箱根じゃないですよね。

線路が1本だから、すれ違いしなきゃいけないとかですかね?

あっほんとだ、すごい!対向列車を待つんだ。ここでちゃんと待つ風景を見せてくれるのって、すごくマニアックですね。

そういうのも見せてくれるのか……。

やっぱり、ここをスキップしないのって「わかってるポイント」なんでしょうね。きめ細やかだ……。

おお、栄えてる!でもやっぱり、都内とは緑の濃度が違いますね。すごくいいなあ。
人も多いですね。
箱根って、こんな感じのところにあるんですね。

おつかれさまでした!無事、全線走破です。

ガッツリ旅行気分になれましたね。

………………。

どうしたんですか?

なんか箱根に行ける気分になっちゃってたんですが、ゲームを閉じたらここは部屋で、このあとも普通に仕事なの、怖くなってきました。

うわあ、怖い!!やめてください!!

いやでも!文豪みたいに今から箱根に行って記事を書き上げることもできますよ。なぜなら、我々は小田急線ユーザーなので。
「あの区間よかった」、「駅名カッコよすぎ」、「今度ほんとにロマンスカー乗ろうかな」──。今回出てきたどの会話も、ゲームの感想というよりも、電車の中で交わす雑談に近い。
ロマンスカーで箱根へ向かうにつれて、窓の外は、誰にとっても見覚えのない風景へと変わっていく。もはや共通の思い出はないはずなのに、終点に近づくころには、初対面のはずの全員と、隣に座って車窓を眺めながら旅行に向かっているような感覚すらあった。
こうした変化が起きたのは、本作が「電車」という生活に密着した存在を、リアルに突き詰めた作品だからだろう。リアルすぎて、部屋にいることをわすれるほどに電車に乗っている気分になるのだ。

「懐かしさ」という感覚を共有できるのも、実写映像を使っている本作ならではだ。流れる風景を見ていると、大人としてノスタルジーに浸るというよりも、手を叩いて喜ぶ子どものような気分になることができる。
今回は小田急だったが、ゆかりのある路線を選べば、同じように「知っているはずの風景」を辿り直す体験になる。きっとどの作品でも今回のような、心地よいじんわりとした共同体に近い感覚を、味わえるはずだ。


























