謎めいた廃病院地下、全てを飲み込むように広がる暗闇に、頼りなく心細い灯り。トラップにかかれば一撃で昇天し、うごめく異形の怪物たちが、いまかいまかと獲物を待ち構えている──
本作『UNDERWARD』は、仲間とともに打ち捨てられた廃病院からタンクに詰められた実験体モンスターのサンプル容器を回収していく、というサバイバルホラーゲームだ。怪物が跋扈する通路を避け、ときに戦闘で敵を排除してサンプルを持ち帰っていく。
──という風に書くと、なんだかものすごくマジメなホラーゲームみたいに見える。なんならめっちゃ怖そうだ。だが本作、怖いのは確かに間違いないのだが、その正体は食器をメインウェポンに怪異と戦う奇天烈ホラーなのだ。
ガラクタの山を漁っては「皿とマグカップ見つけた!!!」とボイスチャットで大騒ぎし、突然のトラップで誰かが死ぬたびに悲鳴と爆笑の渦。ひっつきライトで他人の股間を輝かせては抱腹絶倒し、サンプル回収のために協力しようとすればなぜか電車ごっこスタイルになり「ショータイムダァァ!」などと叫び出す。
登場するアイテムもお皿やマグカップなんてまだマシな方で、ラバーカップ(トイレが詰まったときにずっぽんずっぽんするやつ)とか太鼓とか、果てはう〇こまで……
入手できるアイテムのビミョーさも相まってプレイヤーは極めて無力で、ひとりだとマジで怪異たちに太刀打ちできない。だからこそプレイヤー同士の協力が重要で、それが功を奏した時のカタルシスも大きい。困難なシチュエーションを切り抜けられると、ものすごい一体感に熱い風を感じてしまう。怖いところはちゃんと怖いのに、おバカで熱いゲームなのだ。
そんな本作、9月24日にゲーム内にさまざまなコンテンツを追加した大型アップデートを実施しており、それにあわせて「東京ゲームショウ2025」(以下TGS)にてブースを出展している。今回はそれに先駆けて本作をプレイさせていただいたので、その模様を4人の電ファミ編集部員の苦闘を通してお届けする。
出てくるアイテムがひどすぎてほぼバカゲー……かと思いきやそこに創意工夫の余地アリ
本ゲームの目的は、異様なクリーチャーたちがうろつく病院から、タンクに詰められた実験体のサンプルを回収し、スタート地点であり脱出地点でもあるエレベーターに規定量持ち帰ることだ。
施設にはいたるところにトラップやクリーチャーが潜んでいて、攻撃を受けると一撃で死ぬ。HPも残機も、当然慈悲もない。一撃でおしまいだ。ダウンしてから完全に死亡するまでには数十秒程度の猶予があるのだが、力尽きる前に味方に助けてもらえなければ、フロアをクリアするまで復活できない。
じゃあそんなヤバいクリーチャーたちにどうやって立ち向かえばいいのか?
そこで登場するお皿やマグカップだ。なんとこのゲーム「物を投げつける」以外に攻撃手段がない。銃火器はもちろん、パンチやキックといったフィジカルアタックも存在せず、敵の顔面めがけてワレモノを全力で投げつけるのがほとんど唯一の攻撃手段だ。
もちろんアイテムの中には手榴弾など、いかにも武器らしいアイテムも存在する。そうしたアイテムは当然強力だが、かなりレアでほとんど入手機会がなかった。
そのため本作では、ゴミ漁りをしているプレイヤーたちが皿屋敷のお菊さんよろしく、お皿を見つけて大喜びする、という超シュールな場面が度々発生する。

いっけん馬鹿馬鹿しいが、投げる物がなければクリーチャー相手にマジの無力になってしまい、何もできず逃げ回ることしかできなくなるので、プレイ中は本気でお皿やマグカップが嬉しい。アイテムの中には投げたところでどうにもならないアイテムも多数存在する。
たとえば先ほども挙げた太鼓(当然音が鳴る)やう〇こ(何の役にも立たない)、投げつけると「一緒にハートして♡」の文字が光る謎アイテム(ボイス付き)、突然クイズ大会をしたくなったときに役立つ不正解スティック(“ブブーッ”と音が鳴る。はらたつ)……などなど。
プレイヤーをおちょくるために置かれたとしか思えないような、愉快なガラクタが目白押しだ。


ダメージが出ない投擲アイテムは味方に張り付けて遊ぶことくらいしかできないので、いい歳した成人男性たちがフレンドの股間にう〇こを投げつけて遊んだりと、小学生みたいにはしゃぎまわることになる。
だが一方で、どうみてもネタアイテムだと思っていたのに、実は便利アイテムだったというものもある。そのひとつがご存知トイレのスッポンことラバーカップだ。トイレの詰まりも一発で解消可能……というだけでなく、なんとこれ、実はダメージを与えるトラップになっているのだ。
筆者たちはこの事実に気づくまでずっとオモチャにして遊んでいたし、気づいた後でもどういう原理かはさっぱり分からない。なんでこれがトラップなんだよ。

ただ張り付くだけのアイテムも、探索済みの部屋に目印として張り付けたり、危険な敵をピカピカにデコることで危険にいち早く気づけるようにするなど、実は役立てる方法は全然あった。ヘンなアイテムにも全てに何かしらの使い道を見いだせそうな感じだったのだ。
だからこそゲームに慣れるに従い、明確な成長を実感することもできた。ホラーだけど、おバカだった。でも、おバカなのにしっかり探索ゲームなのだ。いい感じに言うのであれば、裏切りの連続と循環にこそ本作ならではの味がある。
1人1人が弱いからこそ協力プレイがビカビカに光って最高にアガる
本作において、調査員の命はあまりに儚い。クリーチャーの攻撃はもちろんトラップでも即死し、そのうえトラップはいたるところにある。簡単なミスが命取りとなるので、味方との連携はことさらに重要だ。近くにいればすぐに救助してもらえるが、単独行動をすれば永久脱落のリスクが極端に高まる。
また、本作ではゲーム内のボイスチャットでコミュニケーションが可能となっているが、これも距離があると聞こえなくなる。画面上のネームタグも消えてしまい、仲間の姿が闇にまぎれてしまう。ヘンテコアイテムで騒いでいた分、急に静かになるとホラーが全然得意だと思っていた筆者でも「えっ、心細っ……」と感じる瞬間が何度かあった。

様々な面で、仲間の存在は非常に心強い。今回のプレイは全員初見だったということもあり事件事故が多発、誰もがとにかく死にまくった。
無謀な単独行動に突き進んでは天井ダクトやロッカーから飛び出してくるクリーチャーに何度も喰われ、ホウレンソウが漏れたせいで、助けに来た味方が同じトラップに次々と引っ掛かかり、危うく調査隊が全滅しかけたこともある。
しかし、近くに味方がいれば無限に復活できるので命は軽いし、ゴリ押しもできちゃう。

救助回数には制限がないので、4人で固まっていればミスしてもケアはしやすく全滅は避けやすいのだが、そうすると広いエリアを探索してサンプルを回収するには時間がかかりすぎてしまう。
実はフロア内にはヤバい実験体が隔離されている檻が存在し、一定時間が経過するとこれが開放される。おなじみの閉店BGM『蛍の光』の音楽と共に、とんでもなく強い怪物たちが一斉に飛び出してプレイヤーたちに襲いかかるため、これが実質的な制限時間になっているのだ。
実際に今回のプレイでは、全滅の要因は大抵が時間切れだった。それなら2人ペアに分かれて行動したら探索も早くなるんじゃ? と思うかもしれないが、そうすると途端にミスが重くなり緊張感が高まる。真っ暗闇の部屋の中に大量のクリーチャーが潜んでいて、4人で連携して道を切り開いた方が圧倒的にスムーズという局面もあった。

このゲーム、アホなアイテムでバカゲーかと思わせつつ、時間と人数という有限のリソースをいかに分配して自分たちの弱さを克服するか、といった戦略的判断が求められるゲームなのだ。そして実はこれが一番熱くなれるポイント。
ゲームの肝であるサンプル運搬はひとりだと時間がかかるが、他のプレイヤーと協力することで爆速にすることもできる。見た目はおバカっぽい電車ごっこスタイルなのだが、地面から火花が散ってターボがかかり、追いかけてくるクリーチャーを置き去りにしてサンプルをエレベーターにシュートできる。
協力すれば爆速になる一方で、数を運べなくなるというジレンマもあり、人数配分をどうするかは本作をプレイするうえで重要な思考ポイント。
加えて、皿やマグカップといった投擲アイテムも、ワレモノなので投げるとなくなってしまう。チームでいま何個皿を持っているのか、何個ラバーカップを持っているのかといった情報の共有やいつどのように使うかといった判断が求められる。本作は一貫してリソースマネジメントにヤリコミ要素があるのだ。
気の合うフレンドと最高の時間を過ごすのにこれ以上ないほど熱くて怖くておバカ

『UNDERWARD』は“ホラー探索ゲーム”と銘打ちながらも、実際のところ徹頭徹尾おバカなテイストだ。チュートリアルから大量のモザイクやラバーカップ、「アレ」が用意されていており、「あ、このゲームってバカのゲームなんだ」ということがすぐにわかる。
チュートリアルといえば、エモートの使い方もレクチャーしてくれる。本作ではエモートも充実しており、どこかでみたことがあるようなポーズが多数ある。当然何の役にも立たないが、気づくと隙あらばエモートを差し込みたくなってしまっている自分がいる。

役に立たないアイテムも隙あらば味方に投げつけて貼り付ける。そんなプレイをしているだけでも個人的には楽しかった。ちなみに、貼り付けたアイテムは漏れなく回収できるので、味方の後頭部をバッグ代わりにすることもできる。
一方で「これ怖いね」となるシーンもちゃんとあったし、味方が次々に死んでいくと、どうにもならない絶望の叫びでVCが音割れを起こしてバリバリになることもあった。
廃病院というロケーションにリアル寄りのビジュアルなので、いわゆるThe Backrooms(バックルーム)的な雰囲気もあり、それも個人的には引き込まれたポイントだ。視点もビデオカメラ風で、モキュメンタリーの風味もある。
なんていうファーストインプレッションは、その後1分で裏切られたわけだが、筆者が一番好きなホラー映画(?)は『ショーン・オブ・ザ・デッド』なので、バカとホラーの両立という路線は正直めちゃくちゃに刺さった。『UNDERWARD』は怖いだけでなくてバカ(で)面白いし、楽しいからこそギャップで怖さも引き立つ。
とにかくゲーム仲間と大騒ぎしたいなら、本作はオススメだ。ホラーが苦手でもたぶんほとんど怖くない、そんなタイトルになっていると思われる。程よいくらい。ただし、保証はできない。「怖くないバカゲー」という文句でホラーが苦手な友達を引きずり込んで、怖がっている様を楽しむのもいいかもしれない。本作の雰囲気は、どういう4人で集まるかでガラっと変わるだろう。
おバカホラー、なんとまだまだ進化。新モードに新マップ、なんとルール変更も可能に
そんな感じで『UNDERWARD』についてお伝えしてきたが、実はここまでに紹介してきた内容はすべて“大型アップデート前”までの内容。このゲーム、なんとまだまだ先があるのだ。
大きなところでは、ゲームルールが変更できるようになったことが非常に大きい。さきほど「力尽きる前に味方に助けてもらえなければ、フロアをクリアするまで復活できない……」と書いていたが、実はこれはデフォルトルールでの話。
マルチプレイで完全死亡した場合に再リスポーンするように設定したり、倒した敵が復活しないようにしたり、ゲームの難易度に関わる設定をプレイヤー自身で決められるようになり、楽しみ方の幅が大きく広がっている。
さきほどまでの記事中でも書いてきた通り、本作は制限時間がかなりシビアめ。突き詰めていけば、その限られた時間というリソースをどう使って探索の手を広げるかが面白さのひとつではあるのだが、フレンド同士でバカ笑いしながら遊ぶ方向に振り切ってしまうこともできる。
もちろん、逆に救助可能な時間を“なし”、つまりダウン=即デスにしてゲームの難度を跳ね上げたりすることもできる。一度ソロプレイをやってみればわかるのだが、救助不可能設定はそうとうに難しい。よほどのやり込み勢でなければクリアは困難だろう。
ここまでマルチプレイでの話ばかりしてきてしまったが、実は本作ソロプレイも可能。だが元から救助してくれる味方が存在しないソロプレイは、単純明快に超難しい。というか仲間同士のボイスチャットでごまかされていたゲームの雰囲気がダイレクトに刺さってくるので、なんなら普通にめっちゃ怖い。誰だよバカゲーって言ってたやつ。
もうひとつ大きなアップデートのポイントが新モード「CHAOS」の追加だ。通常のデフォルトモードがここまで紹介してきた廃病院をめぐる探索だったのに対し、「CHAOS」ではそれに加えてそれぞれ雰囲気の異なる「廃ビル」「工場」「サイバーパンク」という3種類のマップが追加されている。
階層は全6層となっているが、“基本的にサンプルを持ち帰るだけ”だった通常モードと異なり、なんと最奥には「ボス」が存在。既存モードから大きく味変したプレイが楽しめる。いずれのマップも怪しげで無機質な雰囲気はたっぷりで。もちろん新たなクリーチャーやへんてこアイテム、理不尽なトラップで急速に訪れる死など、ツッコミどころも満載だ。
本アップデートの内容はすでに配信されており、ゲームが気になったならすぐにSteamなどでプレイ可能だ。冒頭でご紹介した通りTGS2025にも出展されているので、こちらで試遊してみるのもいいだろう。TGSの一般公開日は9月27日・28日、本作は08ホールN04ブースにて展示されている。
なお今回本稿の掲載に合わせて、TGSに出展されている同作の開発元・INTENSEの岩田ディレクターからお話を伺うことができた。短い内容にはなるものの、そちらについてもあわせてご紹介させていただこう。
マルチの面白さと、きちんと噛み合うのは「パニックホラー」だという気付きから、UNDERWARDは出来上がった
──本作は「怖さ」と「バカバカしさ」の体験が非常に絶妙だと感じました。こうした「程よいB級感」のあるタイトルを意図して作るのは難しいのではないかとも思うのですが、本作はどのように生まれたのでしょうか?
岩田巳義氏(以下、岩田氏):
経緯は結構複雑なんですけど、最初は『Lethal Company』などからの影響を受けた、本気でリアル志向のマルチホラーを作ろうとしていたんですよ。その軸にボディカムを組み合わせることでリアル性も高い良いホラーゲームができるんじゃないかという目論見がありました。
ただ開発を進めていくうちに、実はマルチプレイと「本当に怖い」ホラーゲームって、そんなに相性が良くないんじゃないかと思うようになりました。マルチホラーの面白さって、仲間がやられて「うわーっ!」ってなる感じの、いってみればパニック系のホラーなんですよ。
──確かに、マルチに期待する面白さって、他のプレイヤーの反応が大きいですよね。
岩田氏:
そうなんです、リアル志向のホラーの面白いところって、1人で暗闇を進むゾクゾクするような怖さだと思います。マルチの面白さとは少し違うんですよね。だから、やるんだったらマルチプレイホラーとしてワイワイ遊べるパニックホラーであるところにフィーチャーしたいと考えるようになりました。
その路線で進めていくと、リアルな見た目で馬鹿らしいことをやるのって意外と面白いことにも気づきました。少し現実から離れたことをすることで、見た目はリアルなんだけどシュールで面白い、という方向に舵を切ったんです。
──近距離ボイスチャットの存在がゲームの雰囲気づくりに大きな役割を果たしていると感じました。ツッコミどころが多いため、VCがつながっている間は笑えるのに、ゲーム全体の雰囲気としてはまぎれもないホラーなので、ひとりになると急に怖くなるような。
岩田氏:
すべて意図していたと言うよりも、作っている過程でいろいろものが組み合わさって偶然できた、という面も大きいです。自分ひとりでテストプレイしてたら、「あれ、実はこれ普通に怖いな!」となったりとか。そういう部分をブラッシュアップし続けるような形でずっと作ってきました。
このバランスを作るのはかなり難しかったと思います。もう1回作れって言われても、なかなか難しいところもあるかもしれません(笑)
──今回は非常に規模の大きなアップデートが行われましたが、なぜ無料でここまで大きなアップデートを実施したのでしょうか?
岩田氏:
実はこのアップデート、もともとはもう3ヶ月前ぐらい前には出るはずだったんですよ。PS版を出したタイミングに合わせて大型アップデートっていう予定でした。
なんですが開発が遅延した関係でタイミングが合わず、「じゃあせっかくだしもっとふくらませるか」となって、あれよあれよというまに(笑)
──そんな経緯があったんですね(笑)
岩田氏:
もともとはPS版のタイミングに合わせて……ということで開発費なども捻出してたんですけど、出すに当たって「こんな規模のアップデートが無料でいいのか?」みたいな話は社長ともしました。
僕としては「ここまでついてきてくれたユーザーさんを裏切ってはいけないし、無料でやりましょう」ということを訴えて、結果として折衷案的に、アップデート自体は無料なんだけど、ゲーム本体自体は少し値上げする形になりました。
新しく買って頂く方には少し申し訳ないのですが、ボリューム自体はすごく増えているので、ちょっとだけお願いしますという感じです。
──最後に、これから本作を遊ばれるプレイヤーさんに一言コメントを頂けるでしょうか。
岩田氏:
このゲーム、どっちかっていうとガチのホラーというより、「みんなで楽しんでわいわいやってもらう」っていう遊び方を意識した内容になっています。なのでぜひ、お友達を集めてやってみてほしいです。
ただ本作、難易度としてはけっこう難しめの調整になっているので、そこは今回のアップデートで対応したルール変更なんかも活用して、みなさんの遊びやすいやり方を試してみてください。
──ありがとうございました!