Epic Gamesの開発するゲームエンジン「Unreal Engine」に関する様々な情報や活用事例などを紹介する毎年恒例のオフラインイベント「Unreal Fest Tokyo 2025」が、11月14日と15日の2日間、東京・高輪ゲートウェイにあるTakanawa Gateway Convention Centerで開催された。
初日の14日は建築や自動車、エンタメなどを扱った「ノンゲームデイ」、そして2日目の15日は「ゲームデイ」というように分類し、複数のセッションが行われたことも特徴であった。しかし、なんといっても今回のイベントの最大の目玉は、約7年ぶりにEpic Games CEOのティム・スウィーニー氏が来日して登壇したことである。

ティム氏からはUnreal Engineの機能面の取り組みや開発者への還元についてのほか、大ヒット作『フォートナイト』のビジネスモデルに関する話が語られ、次世代のテクノロジー「Unreal Engine 6」の名前も飛び出すなど貴重な公演となった。
こちらの記事では、そのティム・スウィーニー氏とEpic Games Japanの河﨑高之氏による初日の基調講演の模様をレポートする。また、両名によるメディア向けの質疑応答も行われたので、後半ではそちらの模様も一部抜粋してご紹介していく。
ゲームに統合したソーシャル機能「Epic Social Overlay」を全プラットフォーム向けに来年提供
本イベントのトップバッターとして、ステージに現れたティム・スウィーニー氏。今回同氏から語られたのは、大きく分けてUnreal Engineに関するツールとサービス、プレイヤーの3点についてだ。
まずはツール面について。Epic Games社では、この1年間でUnreal Engineを始め「MetaHuman」や「RealityScan」、「Twinmotion」など様々なツールをリリースしてきた。これらはすべて、3Dを使用しているあらゆるクリエイティブ産業を支援することを目的としたものだ。
また、昨年は「Fab」と呼ばれるコンテンツマーケットプレイスも立ち上げている。こちらはUnreal Engine マーケットプレイスの後任として登場したサービスで、購入したデジタルコンテンツツールはあらゆる場所で使えるようになる。
2つ目のサービス面では、フレンドやボイスチャット、テキストチャットといった機能が使えるオンラインサービス「Epic Online Services」が紹介された。
Epic Gamesのタイトルを含むゲーム全体で1億6000人以上の月間アクティブユーザーが利用しているほか、来年早々には実績の確認やフレンドとのやりとりをゲームに統合できる「Epic Social Overlay」がモバイルとPC、コンシューマーなど全てのプラットフォームに対応予定だ。
本サービスはあらゆるストアアカウントやプラットフォームに対応しており、ボイスチャットなど使いやすい機能をゲームに統合することができる。これにより、数日後に数十億人の人達と繋がることも可能となるのだという。
これらの機能は扱いやすいだけではなく、開発者には無料で提供されているところもポイントだ。運営コストやモデレーション、安全対策などのサービスもEpic Gamesの側から提供される。
「Epic Games Store」なら開発者が正当な報酬を得られる
ティム氏が3つ目に取り上げたのが、開発者向けの取り組みについてだ。同社が提供する「Epic Games Store」は世界で拡大しており、PCやMac、ヨーロッパではiOS、世界ではAndroidで利用することができる。特に欧米では、トップパブリッシャーが「Epic Games Store」で独占的にゲームをリリースするケースも出てきている。
ティム氏はその理由が、30パーセントの手数料が掛かることから「Steam離れ」が起きているためだと説明する。たとえば『原神』は成功したトップゲームのひとつだが、こちらのタイトルもPC版はSteamではなく公式サイトとEpic Games Storeで配信されている。
それに加えて、Epic Gamesの決済ソリューションを利用することで、収益の88パーセントを確保することができると言うメリットも「Epic Games Store」にはある。これについてティム氏は、開発者が労力に見合う収益を得ることは当然のことだと語る。
また、ゲームの開発者はタイトルごとに年間最初の100万ドルまでは、収益の100パーセントを得ることができる。さらに「Epic Games Store」でPC版を先行リリースすると、最初の6ヵ月の収益の100パーセントを手にすることができるのだ。
Unreal Engineのロイヤリティは5パーセントだが、「Epic Games Store」で同時リリーすることで3.5パーセントに下げることができる。開発者側の決済システムを利用するときは売り上げに対するロイヤリティは免除される。
この「Epic Games Store」は、12月18日よりOS側が他社のアプリストアの提供を妨げることを禁じることなどが定められたスマホ新法が施行されることから、来年早々には日本でもApp StoreやGoogle Storeなどで制限なく利用できるようになる予定であるとのことだ。
さらに、デベロッパーがゲーム内コンテンツをプレイヤーへ直接販売できる仕組みである「Web Shops」もローンチしており、こちらも各タイトルの年間最初の100万ドルまでは純収益100パーセントを確保することができる。それ以降は、88パーセントだ。
現在、アプリストアを運営するプラットフォーム側からロイヤリティを請求されていることもあり、デベロッパーは「Web Shops」のようなサードパーティに移ってきているのだという。
Epic Gamesは昨年「Epic Games Store」の展開を、Android版を世界で、iOS版をヨーロッパで開始した。これまでに5300万インストールされており、年末までに7000万インストールを目指すなどかなり成功を収めているとティム氏は語る。
ちなみに、「Epic Games Store」自体は2018年にローンチしたサービスだが、同社ではこれまで開発者やパブリッシャーなどのパートナーに累計21億ドルを還元してきている。そのため、Steamのライバルとしても大きく成長してきているのだ。
『フォートナイト』と「Unreal Engine 5」のテクノロジーが融合して「Unreal Engine 6」になっていく
同社のバトロワゲーム『フォートナイト』はローンチ以降、あらゆる開発者のエコシステムになってきた。経済圏も大きくなってきており、サードパーティのための支援も行っている。開発者が「Unreal Editor for Fortnite (以下、UEFN)」でゲームを開発して『フォートナイト』上で公開することで、収益を得ることもできるようになった。
開発者の中には大小様々なチームがあるが、『フォートナイト』向けのカスタムコンテンツとともにゲーム内でプロモーションを行い、そこから直接ゲームを買ってもらおうとしている企業も存在しているとティム氏は言う。
サードパーティのエコシステムとして進化した『フォートナイト』だが、これまで累計112億時間のプレイ時間と26万本ものクリエイター制作ゲームが誕生している。そうした中で、『フォートナイト』プレイヤーの70パーセント以上が、Epic Gamesのゲームと、他のクリエイターが制作したゲームの両方をプレイしているという。
この『フォートナイト』では、これまでサードパーティ開発者へ累計7億2200万ドルも還元してきたという実績がある。そのため、大きなビジネスチャンスであるとともに、これからも拡大していく状況であるとティム氏は考えている。
また、ティム氏はUnreal Engineとメタバースの未来の話として、『フォートナイト』は次世代のエンジンテクノロジーになっていくと予想している。
それを実現するテクノロジーのひとつが「Verse」と呼ばれるスクリプト言語だ。こちらはUnityでC#言語を使って開発するよりも、シンプルで習得しやすいという特徴がある。
また、メタバースのワールドなどを構築できるUnreal Engineの「Scene Graph」も登場した。こちらはコアシステムをより大きなものにしようと取り組んでおり、大規模なマルチプレイヤーゲームにも対応するほか、コードを共有しながらシームレスに対応出来るようなものにしていきたいと考えているとのこと。
そしてこれらは次世代のテクノロジーである「Unreal Engine 6」へと繋がっていく。現在の「Unreal Engine 5」の機能や、『フォートナイト』のエコシステムで利用されている新しいツールやテクノロジーが融合し、これから2年半の間に「Unreal Engine 6」になっていくとのことだ。これにより、ゲーム開発がより生産的でよりパワフルになっていくのである。
ティム氏は最後に、「業界のスタンダードになるようなものを提案し、それによって未来のゲームがオープンで総合運用できるようにしていきたい」と語り締めくくった。
自動車やライブ、映像作品など様々な分野で活用されるUnreal Engine
ティム氏に続いて、Epic Games Japanの河﨑高之氏が登壇。同氏からは、Unreal Engineを活用した注目のプロジェクトが紹介された。

自動車領域では、世界トップ20の企業でUnreal EngineがHMI開発、車両デザイン、ビジュアライゼーション、自動運転の学習用途などで活用されている。ソニー・ホンダモビリティのEV「AFEELA1」にも、HMI開発にUnreal Engineが採用されている。
この「AFEELA1」には40個のセンサーが搭載されており、周囲360度をモニタリングして周囲に走っている車や歩行者、障害物などを認識することができる。その情報をUnreal Engineで取り込み、運転席左側のディスプレイに表示するほか、先進運転支援システムのUIをバーチャルな3D空間にリアルタイムで表示している。
また、右側のディスプレイには3Dマップを表示することで、リアルに近い形で周囲の環境が理解できるようになっている。
映像業界の最新事例では、カバーが2025年3月に開催した「ReGLOSS 3Dライブ サクラミラージュ」で、Unreal Engineを使った初の音楽ライブを配信。実際に音楽ライブと同じように、カメラの露出や時間帯による演出の変化などにも対応し、没入感と実在感のあるライブ空間を再現している。
また、昨年12月に展開された『フォートナイト』チャプター6のアニメトレーラーでも、映像をすべてUnreal Engineで制作。トゥーンシェーディングをUnreal Engine上で再現しており、スタイリッシュな映像を作りあげている。
コナミでは、スポーツタイトルを中心にリアルさと操作感の両立が求められるジャンルでUnreal Engineの表現力と安定性を最大限に活かした形で作品が作られてきた。その技術の積み重ねが結実したタイトルが『サイレントヒルf』だ。
発売わずか2日で、全世界累計出荷本数が100万本を突破。シリーズ初の日本を舞台にした作品で、Unreal Engineによるリアルタイムレンダリング技術により、静寂と狂気が共存する独特な世界観を作りあげている。
セガから9月に発売された『ソニックレーシング クロスワールド』では、シリーズのレーシング要素をさらに進化。Unreal Engineにより、表現の幅も大きく広がった作品に仕上げられている。レースは陸海空を舞台に繰り広げられるが、まさにそうした部分にもUnreal Engineによるリアルタイムレンダリング技術が活用されている。
さらに、レース中のダイナミックなライティングや反射表現、パーティクルエフェクトにより、ソニックならではの疾走感やスピード感が増すような演出ができるようになったのだ。
アニプレックスの『鬼滅の刃 ヒノカミ血風譚』シリーズは、ご存じの大ヒットアニメを原作にしたアクションゲームだ。本作で圧倒的なビジュアル表現を支えているのが、Unreal Engineのリアルタイムライティングとトゥーンシェーディングの融合だ。
キャラクターの立ち姿や表情、呼吸技の炎や光、水しぶきといったエフェクトなど、手描きアニメの持つ温かみとゲームならではのリアルタイム演出を実現している。
河﨑氏から、事例の最後に紹介されたのが、コジマプロダクションが「Unreal Engine 5」を利用して現在開発を進めているタイトルの『OD』だ。こちらは恐怖という概念を探求し、ゲームと映画の境界を曖昧にする没入型の世界を描く作品となっている。
さまざまなサービスや取り組みが紹介された「Unreal Fest Tokyo 2025」の基調講演は、これにて終了となった。
スマホ新法で日本でも『フォートナイト』がiOSで復活? Unreal Engineはクロスオーバーにより“数兆ドル”の経済圏を目指す。ティム・スウィーニー氏&河﨑高之氏への質疑応答
基調講演終了後、別室にてティム・スウィーニー氏と河﨑高之氏への質疑応答の時間が設けられた。こちらでは、その模様の一部を抜粋して、簡潔にご紹介していく。
──Unreal Engineのゲームや自動車産業以外の活用事例を教えていただけますか?
ティム・スウィーニー氏:
Unreal Engineが出てきた当初はフォトリアルということで、興味を示していただきました。たとえばゲーム以外では映画やテレビ番組などです。自動車会社がプロトタイプを作る前に3Dモデルを作り、ビジュアル化してVRで見ることも可能になります。
建築では、図面の段階設計段階で建物を3Dでビジュアライズすることで、ウォークスルーのような建築デモにもご利用頂いています。また、医師や消防士、宇宙飛行士危険など仕事や難しい仕事の研修などにも使って頂くことができます。
──最近ディズニーがEpic Gamesに出資しましたが、どのような考え方で出資者を募っているのでしょうか?
ティム・スウィーニー氏:
Epic Gamesは長期的な目標を持っています。ゲームやプロダクトの提供は、全ての開発者に対する目標です。投資家の皆様には、我々と同じ目標を感じてくれる方々で、なおかつ目標の一員になりたいという方になってほしいと考えています。
──Googleとの係争で和解案を提示されたそうですが、今後のビジネスにどのような影響を与えますか?
ティム・スウィーニー氏:
アップルとの係争は私たちのビジネスモデルにも影響がありました。アップルとはアメリカでは勝利することができました。ヨーロッパでも、アップルは競合のストアで使えるようにしました。そのおかげで、『フォートナイト』もヨーロッパに戻ることができました。
日本でもスマホ新法(2025年12月18日全面施行)が出てくるおかげで、おそらく1月ぐらいには『フォートナイト』が展開できるようになると思っています。
アメリカの裁判所ですが、Googleとは和解はしています。競合するストアでも対応できることになり、『フォートナイト』もインストール可能になるといっていたのですが、いろいろなことが起こりました。
まずヨーロッパでは、iOS版の『フォートナイト』でわかりにくい画面が出てきてしまい、インストールするまで15のステップが必要になりました。そのせいで、100人のユーザーのうちインストールできたのは35人だけだったんです。それに対してEU側からステップを削除するように言ってもらったところ、100人のうち75人がインストールできるようになりました。
Googleと私たちとの和解案はふたつありますが、ひとつは裁判所との和解案。もうひとつはEpic GamesとGoogleとの非公開の和解案となっており、私からは公開出来るところしかお話しできません。
河﨑高之氏:
これまでGoogle Playでは、一律30パーセントという手数料が掛かっていました。今回いろいろあった結果、Googleアプリのストアを使う手数料が9パーセント。それにプラスして、Googleが提供する決済システムを使った場合は5パーセントの合計14パーセントという手数料になりました。以前と比べると30パーセントが14パーセントになったので、大きな改善になったと思います。
──ゲームでは年間最初の100万ドルまでは純利益100パーセントを確保できるというのがありましたが、非ゲームではそうした形にならず収益システムが異なるものになると思います。今後、非ゲームが増えてきたときに、どちらに収益のメインをシフトしていくのでしょうか?
ティム・スウィーニー氏:
ゲームエンジンで使って頂いているお客様も増えていますし、そこからの収入も増えています。映画、テレビ、建築関係でも急激に成長しています。そこに対して、競争力のある価格でUnreal Engineを提供しています。たとえばお客様に手数料をもっと上げてもいいと言われることもありますが、その代わりに私たちが考えているのはクロスオーバーです。
たとえば、映画でやったことをゲームや『フォートナイト』のイベントでも展開するなど、クロスオーバーを消費者のエコシステムのなかで行い、より多くのコンシューマーの皆様にリーチすることに注目しています。
今はまだ初期の段階と考えており、これから十数年経ったときにどんな経済ができているか。私は、数兆ドルぐらいのデジタルエコノミーができているというビジョンを持っています。その中に、ゲームの産業やバーチャルグッズの産業など、いろいろなものが存在すると思います。
あらゆるものを開発する方々のための、メジャーなサプライヤーがEpic Gamesになるのではないかと考えています。収益よりも、そうした未来の世界を作るところに私たちは関心を寄せています。
──本日はありがとうございました!
以上が、11月14日に開催された「Unreal Fest Tokyo 2025」の基調講演および質疑応答の内容となる。
実に約7年ぶりの来日となったEpic Games CEOのティム・スウィーニー氏からは『フォートナイト』の躍進と次世代のテクノロジー「Unreal Engine 6」の展望が語られ、Epic Games Japanの河﨑高之氏からは数々の新作ゲームのほか自動運転や音楽ライブなどゲーム以外の分野でも「Unreal Engine」が活用されていることが説明されるなど、テクノロジーの持つ可能性に期待が高まる講演となった。
ティム氏は「業界のスタンダードになるようなものを提案し、それによって未来のゲームがオープンで総合運用できるようにしていきたい」と語る。講演で語られた収益の還元や質疑応答でも触れられたスマホアプリに関する係争への姿勢からは、ティム氏の業界が「フェアであること」を重視する姿勢がうかがえる。
また、Epic Gamesがあらゆるものを開発する人々のためのメジャーサプライヤーになるという「気合い」も垣間見ることができた。
「Unreal Engine」で業界をリードするEpic Gamesの今後のさらなる躍進は、ゲーマーやテクノロジーに関心のある人々にとって注目の的となりそうだ。

























