1月30日、東京・虎ノ門ヒルズの「TOKYO NODE」に、巨大な電脳空間が出現した。
日本を代表するSF作品『攻殻機動隊』のアニメ化30周年を記念した、初の大規模展覧会『攻殻機動隊展 Ghost and the Shell』が開幕したのだ。本作が描いてきたAIなどのビジョンが現実を侵食しつつある今、本展は単なる資料展示の枠を超え、来場者の「ゴースト(魂)」をアップデートする没入体験の場となっている。
2026年7月放送予定の新作アニメの原画公開など、ファン垂涎のトピックも満載の本展。開催前日に行われたメディア向け内覧会の模様を、余すことなくレポートしよう。
文/kawasaki
フィクションと現実が重なり合う今、あえて問う「Ghost “and” the Shell」
1989年の原作誕生から37年。本作が提示してきた「義体化」や「電脳化」といったビジョンは、今や単なる空想の産物ではない。生成AIや、脳とコンピュータを直接つなぐインターフェース技術が急速に普及し始めた今、それらは我々が直面する現実の技術課題、あるいは倫理的論点そのものへと姿を変えつつある。
こうした「作品の世界が現実味を帯びてきた時代」を背景に、本展の舞台には東京の街を見下ろす超高層ビルが選ばれた。会場の窓の外に広がる現代の都市風景を、作品世界と地続きの風景として取り込む狙いがあるという。
主催者が語ったコンセプトの中で最も象徴的なのが、タイトルに冠された「and」の一文字だ。
シリーズの代名詞である『Ghost in the Shell(器の中に宿る魂)』ではなく、あえて『Ghost and the Shell(魂と器)』とした点に、本展が提示する新たな視座が示されている。テクノロジーが身体を侵食し続ける現代において、「どこまでを自分(精神)と感じ、どこからを器(身体)と呼ぶのか」。その境界線を改めて対峙させ、問い直してほしいという意図があるそうだ。
膨大なアーカイブに「ダイブ」し、手探りで資料を「DIG」する
会場に足を踏み入れた瞬間、来場者は単なる「観客」から、作品世界への「接続者」へと変わる。
エントランスロビーで待ち受けるのは、壁一面を覆う巨大なプロジェクションマッピング。全アニメシリーズの膨大なデータベースへとアクセスできる端末も用意されており、その体験はまさに情報の海へ飛び込む「電脳ダイブ」そのものだ。
メインの展示エリアへと進むと、そこには押井 守、神山健治、黄瀬和哉、荒牧伸志といった歴代監督やクリエイター陣が積み上げてきた、1600点を超える制作資料が並ぶ。展示されている原画や設定画はシリーズを象徴する名シーンばかり。30年間にわたるアニメシリーズの変遷を一気に辿ることができる。
徹頭徹尾ハイテクな世界観を描く一方で、今回の展覧会ではあえてアナログな手法を取り入れている点も興味深い。それを象徴するのが、複製原画などを自らの手で「発掘」する参加型体験「Analog Dig」だ。
ズラリと並んだカット袋の中から、直感に従ってファイルを引き抜く。まるでアナログレコード店で「ジャケ買い」をするような、指先に残る物理的な感触を伴うこの体験は、デジタル化された制作の記憶を文字通り“掘り起こす”行為として、本展ならではのユニークな体験をもたらしてくれる。
ARによって「電脳化」を疑似体験させる「電脳VISION」
高度なデジタル社会を描き続けてきた本シリーズの展示会において、最も「らしい」体験と言えるのが、ARグラス「XREAL」を用いたデジタルコンテンツ「電脳VISION」だ。デバイスを装着して会場を巡れば、人気キャラクターのタチコマが目の前に現れ、名シーンの背景や原画の解説をしてくれる。
特筆すべきは、そのユーザーインターフェースの完成度だ。視界に重なる情報のレイアウトやタイポグラフィは、劇中で描かれた「電脳視覚」そのもの。あまりの没入感の高さに、筆者は「AR技術は、そもそもこの作品の世界観を現実化するために進化したのではないか……?」などと考えてしまった。

また、地上45階という超高層フロアにある会場のロケーションが、この体験をさらに特別なものにしている。眼下に広がる都市のパノラマとARグラスの相性は抜群だ。窓の外に広がる現実の景観と、グラス越しに浮かび上がる情報の奔流が重なったとき、来場者の誰もが、脳裏にあの名セリフがリフレインするはずだ。「ネットは広大だわ……」と。












