『ウマ娘 プリティーダービー』のタマモクロスは、コテコテの関西弁で話す。そして、関西弁を英語に訳すときは、アメリカ南部訛りに変換するのが慣例とされているという。
ところが、『ウマ娘』でそれをやると、大問題が起きる。南部生まれのタイキシャトルがいるからだ。慣例どおりに翻訳をすると、キャラ被りどころか、世界観まで歪んでしまうのだ。
これは、単なる「翻訳」では立ちゆかない。文章の意味を移し替えるだけでなく、キャラクターの口調・個性そのものを別の言語圏で成立させる……いわゆる「ローカライズ」の勝負なのである。
しかも『ウマ娘 プリティーダービー』の英語版は、2025年のリリース時、英語の音声が付いていなかった。そのため、セリフのテキスト主体でウマ娘たちの個性を伝えなければならなかった。
タマモクロス、ユキノビジン、アグネスデジタル、そしてダイタクヘリオスといった、方言と日本語ならではの独特な口調を用いるウマ娘たちも……である。
生い立ちも性格も異なるウマ娘の個性を、どう英語圏のプレイヤーへと届けたのか?
CEDEC2026講演「『ウマ娘 プリティーダービー』英語版のキャラクターの方言や口調をローカライズするための創造的アプローチ」において、株式会社Cygamesローカライゼーション部のAllison Cottrell氏、森田竜平氏のふたりが明かした“創造的なローカライズ技法”についてレポートする。
前述のとおり、英語版『ウマ娘』は英語ボイスなしでのリリースとなった。
これを踏まえ、両氏が翻訳とローカライズで重視したのは、ひと目でそのキャラクターだとわかる「Recognizability(またの言いかたで認知度)」と、本当にキャラクターが現実にいそうだと感じさせる「Authenticity(説得力)」の2点を担保することだった。
また、日本語の方言をそのまま既存の英語方言に置き換える手法では対応しきれない、という課題もあった。
たとえば、タマモクロスは関西弁で話すウマ娘だ。この関西弁を英語に訳すときは、アメリカ南部訛りに変換するのがある種の慣例になっているという。
ところが『ウマ娘』には、アメリカ南部生まれで、南部訛りを話すタイキシャトルがいる。ゆえに、慣例に従って翻訳すればキャラクターが被るどころか、世界観まで歪んでしまう。
そこでタマモクロスには、この手法をあえて採用しなかった。
代わりに、関西弁のリズムやスピード、音の響きを分析し、崩れた発音を英語の綴りで視覚的に表現する方法を用いた。これによって、セリフのテンポや勢いが、テキストを見るだけでプレイヤーに伝わる表現になったのである。
同じく方言(東北弁)を話すユキノビジンには、別のアプローチをとった。
地方出身で方言が抜けない、素朴で愛らしい個性を引き立てる発想から、1930年代から1960年代にかけて使われていた古風な英語表現やスラングを採用した。
じつはこの発想には、田舎育ちであるAllison氏自身の経験が活きている。
かつて翻訳のフィードバックで「若いキャラクターにしては言葉遣いが古くない?」と指摘されたことがあるというのだ。
一方、『ウマ娘』には方言を使わないキャラクターも数多くいる。
そのひとり、“ウマ娘オタク”のアグネスデジタルについては、オタク特有の口調をテンション高く訳すだけでは不十分だと判断された。
アグネスデジタルの場合は、英語圏のオタクコミュニティを実際にリサーチ。そこで使われている表現を取り入れることで、元来の個性とセリフ特有の高揚感を再現した。
おしゃべり大好きギャルのダイタクヘリオスに関しては、そもそもギャル文化・概念自体が英語圏に通じにくいという実態がある。
そこで「もし彼女が英語ネイティブだったら、どのコミュニティで、どんな言葉を使うだろうか」と想定し、最終的にZ世代のスラングを採用した。
さらに、「言っていることが伝わりにくい」という感覚まで、テキストの見た目で再現している。周囲のキャラクターが戸惑うような距離感まで含めてローカライズしている点が、大きな特徴だ。
どのウマ娘にも共通するのは、キャラクターの生い立ちや文化的背景を深く理解したうえで、リズムなどの要素から言葉遣いを組み立て、英語圏向けの口調を作り上げている点だ。
ただし、こうした口調は、翻訳とローカライズの担当者が途中で変わると“ブレ”が生じかねない。そこで、この創造的な表現を担当者個人の技量にとどめず、チーム全体で一貫性を保つ運用体制を組んでいることも、講演後半に森田氏が語っている。
具体的には、各キャラクターの文脈や文化に詳しいメンバーを最初の担当者に据えて方向性を固め、キャラクターごとの口調ガイドラインを作成する。さらに、メンバー同士が気軽にやり取りしながら、さまざまなアイディアを出し合えるSlackチャンネルを設け、社内の品質管理チームによる継続的な確認フローも用意した。
これにより、担当者が途中で変わっても口調の一貫性が保たれ、個人の創造性がチーム全体の資産として蓄積される仕組みが整ったとのことだ。
こうした一連の取り組みもあり、『ウマ娘』は英語圏のプレイヤーからも支持を集めた。
2025年末の「The Game Awards 2025」では、Best Mobile Gameを受賞する快挙も果たしている。
なお講演では、Allison氏がアグネスデジタルさながらのテンションで『ウマ娘』英語版のセリフを音読する場面もあった。ちなみに、推しはユキノビジンとのこと。
そんなAllison氏の個性的な一面も見られる本講演は、タイムシフト視聴が可能だ。ローカライズの舞台裏が気になる『ウマ娘』ファンはもちろん、Allison氏に興味を抱いた人も、ぜひチェックしていただきたい。




















