今年9月に愛知・名古屋で開幕する「第20回アジア競技大会」では、eスポーツが正式メダル競技として実施される。日本からも7種目に代表選手が派遣される予定ということもあり、eスポーツにも大きな注目が集まっている。
そうしたなか、選手たちの競技力をスポーツ医・科学の側面から支える新たな拠点として開設されたのが「HPSC Eスポーツラボ」だ。そのメディア向け発表会が、7月31日に味の素ナショナルトレーニングセンター・イーストで開催された。
この「HPSC Eスポーツラボ」では、これまでオリンピック・パラリンピック選手の支援で培われてきた医学、栄養、睡眠などの知見をふんだんに活用。それに加えて、eスポーツに特化した科学的なトレーニング環境を提供していくのが特徴だ。
発表会の冒頭で挨拶した一般社団法人日本eスポーツ協会(以下、JESU)の共同代表理事副会長の越智政人氏は、これまで選手個人の経験に頼る部分が大きかったトレーニングに、スポーツ医・科学の知見が活用されることへの期待を示した。
会場では施設の設置経緯や今後の取り組みが説明されたほか、『ぷよぷよeスポーツ』と『eFootball』の選手による練習風景も公開された。
本稿では、発表会の模様をレポートしていく。

オリンピック・パラリンピックで培った知見をeスポーツにも展開
独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター長 久木留毅氏から、今回オープンした「HPSC Eスポーツラボ」について、経緯などの紹介が行われた。

ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)は、国立スポーツ科学センター(JISS)やナショナルトレーニングセンター(NTC)などから構成される、日本の国際競技力向上を支えるための拠点だ。
現在は、約2100人のオリンピック・パラリンピックのアスリートを対象に、トレーニングにくわえ、リカバリーやモニタリング、スポーツ医・科学、情報面といった支援を行っている。
今回の「HPSC Eスポーツラボ」では、「トータルコンディショニング」と呼ばれる概念のもと、分野融合型の様々なスタッフがチームやアスリートをサポートするというオリ・パラで培ってきた体制と知見を、eスポーツにも展開していく。
設置のコンセプトは「ハイパフォーマンス」だ。とくにeスポーツは、極めて速い展開の中で勝敗を競い合っている。「HPSC Eスポーツラボ」のロゴにも、そうした意味合いが込められている。
施設内は、リラックスしながらコミュニケーションが取れる「ウェルビーイングゾーン」と、「eスポーツゾーン」、「バーチャルスポーツゾーン」の3つで構成されている。ゲームの練習環境だけではなく、選手のコンディショニングや交流なども考慮した施設となっているのだ。

ちなみに、JESUとの連携は2024年3月からスタートしている。その後、選手へのヒアリングや合宿、アンケートなどを重ね、2026年6月にこの「HPSC Eスポーツラボ」の開設に至った。
今回の発表会では実演されなかったが、これまでの合宿ではスポーツ医学や栄養、心理、睡眠といった分野の支援にくわえ、脳波やバイタルデータを測定する取り組みも行われている。
2年後の2028年7月には、アメリカ・ロサンゼルスで「第34回夏季オリンピック」が開催される。久木留氏は、今後はテクノロジーの活用がより重要になるとして、デジタル機器を活用した研究にも取り組んでいく考えを示した。
また、研究で得られた知見については、コンディショニングハンドブックなどを通じて広く展開していく。今後はJESUとも連携し、eスポーツ向けのコンディショニングに関する知見を共有することで、選手のパフォーマンス向上につなげていく考えだ。

今後は、非接触バイタルセンシングやAR・VR・MRといったデジタル技術も活用しながら、eスポーツに適したトレーニングやコンディショニングを研究していくという。また、そこで得られた知見をeスポーツだけにとどめず、オリンピック・パラリンピックのアスリートや一般の人々にも還元していくことを目指している。
複数のセンサーでプレイ中の情報を取得!
続いて、選手たちがトレーニングを行っているスペースへ移動した。先ほども少し触れたが、今回は『ぷよぷよeスポーツ』と『eFootball』のトレーニングが実演された。
このふたつの競技のトレーニングが行われていたのは、「eスポーツゾーン」と呼ばれるエリアだ。それとは別に、奥には『グランツーリスモ』などがプレイできる「バーチャルスポーツゾーン」も用意されている。この施設そのものの入り口付近に設置されているのが、「ウェルビーイングゾーン」である。



トレーニングといっても、この最初のパートは特別なことを行っているというよりも、ひたすらふたりで対戦を続けていくような時間になっていた。
だが、じつは選手たちには様々なセンサーが取り付けられており、プレイ中のバイタルデータをプレイ映像と共に収録していたのである。
たとえば、各選手の腕には心拍数を測るためのセンサーが取り付けられている。選手が見ている画面には映らないのだが、そうした情報は別モニターに映し出されていた。面白いのは、選手によって心拍数に倍ほどの差が見られたことだ。



選手たちが見ているモニターの真下には、アイトラッキング用のセンサーが取り付けられている。実は、こちらもプレイ映像や心拍数と合わせて、選手たちが画面のどこを見ていたかという情報も記録していたのである。

もうひとつ使われていたのが、サーモグラフィーのカメラだ。今回は『ぷよぷよeスポーツ』でのみ使用されていた。こちらは、プレイ中の選手の体表面温度を計測することで、リアルタイムにどんな変化があるのか見られるようになっていた。こちらも、ほかのセンサー同様に、プレイ中の映像と合わせて記録しておけるようになっていた。


記録したデータと映像でプレイを振り返る
この「HPSC Eスポーツラボ」で行われる練習のユニークなところは、単に情報を記録するだけに終わらず、プレイの振り返りにも活用されている点だ。
ここで実際に練習に参加した選手たちが登場し、映像を見ながら自分のプレイや改善点などをチェック。それを共有することで、今後のプレイにも活かせるようになっていたのである。

面白いのは、この振り返りパートで使われていたモニターだ。こちらはタッチディスプレイのように操作できるようになっており、記録した映像を一時停止して、ペンでポイントなどが書き込めるようになっていたのである。
また、アイトラッキングでどこを見ていたかという記録も動画に残っており、これによってプレイ中にどこを意識していたのかというのもわかるようになっていた。



今回の発表会に選手として参加した『ぷよぷよeスポーツ』の栗原悠輝選手と『eFootball』の貴田英貢也(きだえくや)選手は、9月に愛知・名古屋で開催される「第20回アジア競技大会」への出場も決まっている。そんな両選手に向けて、練習がひと通り終わったあと、TEAM JAPANの井上康生団長から、激励のビデオメッセージが寄せられた。

激励のビデオを見た貴田英貢也選手は、「改めてTEAM JAPANの一員だということを実感しました。この大会までたくさんの方々に支えられていると思うので、自分だけではなく支えてくれている人たちのためにも金メダルに向けて日々練習していきたいと思っています」と意気込みを語る。
一方、栗原悠輝選手は「日本を背負っていることを実感したので、金メダルを取れるように頑張ります」と、こちらも熱い思いを語っていた。

今後は、こうした「HPSC Eスポーツラボ」のような最先端の施設の活用が進むことで、科学的なデータに基づいた、より効率的なトレーニング手法が生まれてきそうだ。まずは9月に行われる大会の結果に注目したいが、それ以降行われる世界大会でも多くの選手が活躍してくれることに期待したい。









