『クレイジータクシー』の復活が告知されたとき、周囲が異様に沸いていたことを覚えている。初報の映像が出た瞬間、
「ねえ、これ『クレタク』じゃない!?」
「『クレタク』だよ!!」
とブチ上がるボイスチャットの中で、ひとり「……『クレタク』ってなんだ?」と完全に蚊帳の外に置かれていた。
そして2026年8月、ドイツ・ケルンで開催されたgamescom 2026にてシリーズ最新作『クレイジータクシー:ワールドツアー』を試遊し、あの日の伏線を完全に回収してきた。
なるほど。『クレタク』に注がれていた、あの異様な熱量の正体をようやく理解した。
今回は、往年の名作の新作を、完全な初見でプレイするという贅沢な体験をさせてもらったので、その手触りをお届けしたい。
『クレイジータクシー』ってなに?→クレイジーなタクシーでした
『クレイジータクシー』は、1999年にセガがアーケードで送り出したドライブアクションゲームだ。翌2000年にドリームキャストへ移植されるや大ヒットし、以降シリーズ化されている。
ルールはいたってシンプル。プレイヤーはタクシードライバーとなり、乗客を拾って目的地まで送り届ける。だが、その道中がとにかくクレイジーだ。
稼ぎを増やすためなら歩道だろうが公園だろうがおかまいなしに突っ込み、対向車をすり抜け、ドリフトで強引に曲がり、ときには崖から飛び降りて近道する。
信号も安全運転も知ったことではない。爆音のパンクロックをBGMに、ただひたすらアクセルを踏み抜く「気持ちよさ」だけを抽出したような作品だ。
そんなシリーズの最新作『クレイジータクシー:ワールドツアー』は、初見でも触れればわずか30秒で楽しさのコアを直感できる。なにしろ、チュートリアルに出てくる文言からしてこうだ。
「クレイジーブースト」
「クレイジーブレーキ」
「クレイジードリフト」
この世界で何が起きているのかを一瞬で理解させてくれる、最高のネーミングである。運転にまつわるすべてが、とにかくクレイジーなのだ。
タイトルの『クレイジータクシー』は、まさにその名のとおり。天井ガラ空き、ターボしまくり、爆音で音楽を流す激ヤバタクシーで街を爆走し、安全性なんてなんのその、アドレナリンがドバドバ出る爽快なドライブを楽しむゲームだ。
……ということが、開始30秒で腹に落ちる。乗客を乗せた瞬間に流れ出すパンクロックが、「好きなだけ加速していい」と教えてくれるのだ。
バレエダンサー、飛びたい男、テカテカの服の宇宙人。この世界には曲者しかいないのか?
今回の試遊範囲は、ドイツの街。空港付近から走り出し、街中まで来ると、困った人たちからクエストのような依頼を受注できた。
困っている人は助けるべきだ。それはそうなのだが、本作では困っている人の見た目も、困っている内容も、明らかにおかしい。
最初に乗せたのは、バレエダンサーのアルブレヒト。彼の願いはこうだ。「君のドリフトは美しい。だからバレエとセッションしよう」。
ガチで何を言っているのかわからない。
よくわからないのだが、主人公のアクセルは「バレエとかよくわかんねぇけど、ドリフトしてほしいんなら任せな」と快諾。ドリフト全開の爆走を開始する。
アルブレヒトは車体が滑るたびにご満悦で、立ち上がっては「いいね!」と叫び、ついには後部座席でバレエを披露しはじめる。教習所の教官なら真っ青になる光景だが、『クレイジータクシー』の世界で危険運転を指摘するのは野暮というものだろう。
ひとしきりキメたあとに目的地で降ろすと、彼は「この感動を胸に、僕は舞台に立つよ」と言い残して去っていった。
徹頭徹尾おかしい。なのに、アクセルとアルブレヒトの会話はなぜか成立している。
このふたりが同じ周波数で喋れている理由が、まるでわからない。
たぶん、『クレイジータクシー』の世界はそもそも磁場からしてクレイジーなのだ。だからイカれた人間を乗せて、イカれたドライブをしても、なんの問題もない。法律のことを完全に忘れさせる不思議な磁場が、この街には発生している。
その後も異常事態は続く。ジャンプスーツの男を乗せて急ブレーキで空へ飛ばし、テカテカの服を着た宇宙人に地球人代表として運転技術を披露する。
いや、異常が常態化しているのだから、これはもう「普通」なのだろう。『クレイジータクシー』の世界の、通常運転である。
しかも全員、ドライブを終えると満足げにお礼を言って去っていく。やっていることは危険運転そのものなのに、走り終えると妙な充足感が残る。
たった30分で出会った3人が、100%の確率で曲者だった。この理屈でいくと『クレイジータクシー』の世界の住人は全員が曲者ということになるのだが、はたして合っているのだろうか。
本作に初めて触れて感じたのは、とにかく「楽しさ」への躊躇のなさだ。ブレーキが壊れていると言ってもいい。
楽しくておかしなことだけが起こる世界で、おかしなドライブをする。このシンプルな中毒性の虜になる気持ちが、わずか30分で存分に理解できた。
『クレイジータクシー:ワールドツアー』の発売は2027年。まだ先だというのに、すでにハンドルを握りたくてウズウズしている。が、現実のほうは、安全運転でいこうと思う。







