とにかく “食らって” しまった。そのひと言に尽きます。
不気味で、恐ろしいほど美しい──そう言葉にできたのは、しばらく経ってからのことでした。普段であればエンドロールって「ちょっと長いな」と感じてしまいますが、『バックルームズ』はエンドロールが流れているあいだに感情の整理をしようとしても、まるで追いつきません。
どっと疲れた。ただ座っていただけなのに、ジムに行ったくらい疲れた。そんなことあります?
映像は本当に美しいんです。ただその “美しさ” は「綺麗な花」や「絶景」といった類のものではありません。誰もいない廃墟や深夜の商業施設といった、あの独特の不気味さです。
延々と続く黄色い部屋、終わりのない廊下、無秩序に置かれた家具、どこか不安になる不自然な間取り。
どれを取っても不気味で、どこか美しく、なぜか目が離せません。なんというか、その不気味な美しさに引き込まれるというか、“引っ張られる感覚” がありました。
もしかしたら、そういった感覚に上映中ずっと抵抗していたからどっと疲れたのかもしれません。
この不思議な体験を多くの人と共有したい。そこで本稿では、映画『バックルームズ』で味わった唯一無二の体験について紹介させていただきます。
そもそも「Backrooms」とは?
本作の魅力をご紹介する前に、タイトルでもある「Backrooms(バックルームズ)」について説明させてください。じつは筆者が大好きなジャンルでもあり、映画の公開を楽しみにしていました。
そもそも「Backrooms」というのはインターネット上の都市伝説です。簡単に言うと、「現実世界の壁や床をすり抜けるバグが起きて、無限に続く不気味な異空間に迷い込んでしまう」現象。
「Backrooms」という言葉は、英語圏を中心としたインターネット掲示板「4chan」の「超常現象・オカルト板」に貼られた1枚の画像から広まっていきました。その画像というのが、有名な「黄色い部屋」の画像です。

こういう画像です。見たことある人も多いのではないでしょうか。
その写真に触発され、YouTube上に「The Backrooms(Found Footage)」という動画が投稿されました。そしてこの動画は「ネット上でもっとも怖い映像」として世界的バイラルを巻き起こします。
この動画の制作者こそ、本作『バックルームズ』の監督を務めるケイン・パーソンズ氏なんです。つまり本作は都市伝説「Backrooms」が題材になっている、ということ。そのため本作は公開前から話題の作品として期待が寄せられていました。
あらすじとしては以下になります。
自らが営む家具屋の地下から異次元に迷い込んでしまった「クラーク」と、彼の行方を追って異次元に足を踏み入れてしまったセラピストの「メアリー」。この空間はなぜ存在するのか、ここでいったいなにが起きているのか。基本的にクラークとメアリーの視点から物語は進んでいきます。
以上が本作の背景やあらすじとなりますが、ここまで作品に文脈があるとちょっとハードルが上がっちゃうこともあるじゃないですか。
しかしながら本作はA24×20歳(全米公開当時)の若手監督のタッグで、かつてスティーブン・スピルバーグが28歳で達成した「全米興収1位作品を生み出した最年少監督記録」をぶっちぎり(20歳)で記録更新しているトンデモ監督 & トンデモ作品なので、もうそれだけで劇場に足を運んでもいいと思います。
映画館そのものが縮んでしまったような閉塞感に襲われる
冒頭で「引っ張られる感覚があった」と書いたとおり、本作はうっかり油断したら身体を持っていかれる緊張感がありました。同時に「閉塞感」もすごいんです。
映画館という広い空間で観ているのに、映像に没入していくうちに、なんだかだんだんと息苦しくなってくるんですよ。映画館そのものが縮んでしまったみたいに……。
でも観ている映像はむしろだだっ広い空間なんです。だからこそ脳がバグる。この閉塞感はどこからきているんだろう?
おそらく、「音」の影響もあるのではないかと思いました。なんでもない環境音が不穏さを掻き立てる。換気扇のうなりや蛍光灯のジーという音のような、日常のどこにでもある音が、やけに大きく響いて聞こえてくるんです。
もちろん「映画」を観ているのですが、その世界を直に覗いているような感覚に陥りました。
たとえば “大迫力の臨場感” というと爆発音などの派手な音(非日常感)を味わうことが多いかと思いますが、本作はその逆で、普段耳を澄ませて意識しないと聞こえない音がやけに大きく響く。
そのため、まるで映画館が自分ひとりをすっぽり収めるサイズに縮んでしまったかのような閉塞感に襲われました。こういうかたちでの没入感は初めての体験です。
「目の前に見えるのは広い空間にもかかららず閉塞感に襲われる」という体験がすごくぞわぞわして、ほかの映画では味わったことのない体験でした。
身構えていた「ホラー」とは異なるタイプの恐怖体験
僕はこの映画を、ホラー映画だと思って観に行ったんですよ。でも、想像していたホラーとはいい意味でぜんぜん違いました。
ホラー映画というと、突然大きな音が鳴ったり怪物が現れたりしてビックリ!というのが定番じゃないですか。いわゆるジャンプスケアと呼ばれているものです。
てっきりこの映画もそういう展開があるのだろうと身構えていました。実際、まったくないというわけではありませんが、本作におけるホラー部分は、じわりじわりと脳を侵食されていくような恐怖体験です。

図解すると上記のような感じ。「なんだそれ!?」と思われるかもしれませんが、本当なんですよ!
先ほども書いたとおり、本作は独特の没入感があります。音以外にも手持ちカメラ風のブレの多い映像も入り混じり、まさにその場に居るかのような、自分自身が登場人物たちと一緒に行動しているような感覚に陥る。
そして、徐々に、その世界が変化していく……。
これが恐ろしい。作品の後半はまさに「悪夢」そのものでした。悪夢の恐怖というのは、皆さんそれぞれあるかと思うのですが、「誰にとっても悪夢だろ!」と言い切れそうなほどに悪夢でした。
それを具体的に書いてしまうとこれから鑑賞する方の楽しみを奪ってしまうため控えます。僕としては「想像していたホラーとはいい意味で違っていたけどしっかり恐怖」という体験でした。
つぎからつぎへと “考える” ことが楽しい
映画を観終わったあとは、もう、しばらくぼ〜っとしてしまいました。ただひと言「食らった」。それ以外の言葉が、しばらく出てきませんでした。
なにを観て、なにを感じたのか、整理がつかないんです。頭の中に、あの黄色い部屋が染み込んでしまって、しばらく取れませんでした。
でも、これがなかなかおもしろい。「考える」のが楽しいんです。
「あれって何だったんだ?」「あの場所は……」「あのセリフは……」と、つぎからつぎへと考えてしまう。観終わって3日経っても、1週間経っても、あの部屋がふと頭に浮かんでしまう。そのくらい、記憶にこびりついて離れません。
これがこの映画の醍醐味なのかもしれないな〜と、感じた次第です。
とにかく、不気味で不思議な、唯一無二の鑑賞体験になることは間違いないでしょう。この、なんとも言えぬ感覚を多くの人に味わってほしい。というか、道連れにしたい。
映画『バックルームズ』は9月4日より全国公開中です。
ここからは余談なのですが、僕は鑑賞した日に泊まったホテルで、どこかに通じているのではないかと、なんとなく壁を触ってしまいました。そこに、なにかの出入り口がないかと思って……。
おしまい







