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スタジオジブリの新社長就任の案内状を(なぜか電ファミで)特別に公開! 鈴木敏夫氏に見る“一流のプロデューサー”たるゆえん

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文/TAITAI

 一流と呼ばれる人は、なにもって“一流”なのだろうか?

 単純な頭の良さなのか。それとも人格的なものなのか? あるいは単に業績に対して畏敬の念を抱いているだけなのか?
 筆者も長い間、仕事で、あるいは取材でいろいろな人に出会ってきたけれど、そうした疑問に対する答えはいまだによくわからない。なかでも、自分と同じ編集者という職業の一流とはなんなのかは、常日頃考える命題でもある。

 ただ、最近一つ思い当たることがあるとすれば、“一流の編集者”ないし“一流のプロデューサー”と呼ばれる人ほど、なんというか、どこか人間味のある気配りだったり、立ち振る舞いをしているということかもしれない。
 ちょっとした会話やメールのやりとりの中で、相手を楽しませようであったり、あるいは怒りだったり、何か相手側の“心が動く立ち振る舞い”をしている気がするからだ。

 そんなことを思っている矢先、先日、スタジオジブリが再始動というニュースが舞い込んだ。二年ほど前に宮崎駿が引退を表明して、制作部門も解散。スタジオジブリは役目を終えた……はずだったのだが、それを撤回してまた映画を作るのだという。

スタジオジブリの新社長就任の案内状を(なぜか電ファミで)特別に公開! 鈴木敏夫氏に見る“一流のプロデューサー”たるゆえん_001
スタジオジブリ公式サイトのスクリーンショット
(画像はスタジオジブリ公式サイトより)

 まぁ、そのニュースについては、すでに各新聞社などが報じているので、改めて言及するつもりはないのだけれど、面白かったのは、本件についてスタジオジブリの鈴木敏夫氏(まさに誰もが認める名プロデューサーだ)が関係者に向けたメッセージレターの内容である。

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鈴木敏夫氏
(Photo by Getty Images)

 本来、一般に向けて公開するものではないのだが、今回は特別にスタジオジブリに許可をもらって、その文章を掲載してみることにした。

 その気になる内容がこちら。

ご挨拶

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 石川力夫という人の辞世の句。

 

  大笑い 三十年の馬鹿騒ぎ

 

 宮崎駿が引退を表明したとき、この句が浮かんだ。ジブリを始めて、ちょうどそのくらいになる。この機に、ジブリもやめてしまおうか、ふとそう考えた。元を正せば、宮崎アニメを作るために作ったスタジオだ。しかし、その後、いろいろ分かって来た。そう簡単じゃない。始めたモノを閉じるのは難しい。

 

 第一に、ジブリで働く人たちのことをどうするのか。これがいちばんの難題だった。いきなり辞める! と叫ぶのは自分勝手で、彼らに対して無責任きわまりない。

 

 そうだ、こういうときは後継者を見つければいい。そして、その人に責任を押しつければいい。それで問題解決だ。などと考えていたら、あろうことか、宮崎駿が引退を撤回すると言い出した。

 

 もうやり尽くした。精も根も尽き果てた。だから、やめる。それが引退表明の理由だった。そりゃ、そうだろう。そんな宮さんをぼくは間近で四十年も見てきた。その過酷な日々を。ゆえに、説得力があった。そして、ジブリは制作部門を解散した。それが、たった、たったの二年で、心が変わった。

 

 おい、おい、そりゃあ無いぜ~と思ったが、すでに時遅し。二十分ぶんの絵コンテを用意したので、それを見て欲しい。これまでにない真剣な表情で、そう言われた。

 

 「面白く無かったら、率直にそう言って欲しい。そしたら諦める」

 

 判断は、すべてぼくに任せるというのだ。言い方は丁寧だし謙虚だったが、よくよく考えれば、これは恫喝というか脅しというか。端から、ぼくがそういわないことを見越した発言だった。

 

 嗚呼、無情! ぼくは、いったいどうすればいいのか。

 

 秘かに夢見たぼくの“幸せな老後”は、いったい、どこへ行ってしまうのか。

 

 名監督が老人になって、失敗作を作る。多くの監督たちが、その轍を踏んできた。そうなって欲しくない。だから、ぼくは宮さんの“引退表明”を前向きに受け止めた。おそるおそる絵コンテに目を通す。不安と期待が交錯する。しかし、気がつくとぼくは、その絵コンテが繰り広げる世界に夢中になっていた。

 

 「やりますか」

 

 宮さんに、ぼくはそう告げた。宮さんの表情に赤味が差した。

 

 タイトルは「君たちはどう生きるか」。内容は、タイトルとは随分と印象が違う。大ファンタジーだ。内容を読んで、ぼくには宮さんが引退を撤回する理由がよくわかった。「風立ちぬ」では終われない。宮さんの面目躍如は、やはり“冒険活劇ファンタジー”だった。

 

 そうと決まったら、ジブリを閉じる準備などしていられない。ぼくは、ジブリの構造改革に手をつけた。

 

 現在、ジブリは長編を2本、同時に手掛けている。もう1本は、宮さんの息子、吾朗君が監督だ。宮さんは、従来の手法、手描きで作り、一方、吾朗君はCGで作る。さらに、宮さんと話して、その次を企画中だ。

 

 ジブリは映画を作り続ける。それがジブリの本道だ。やり続けるしかない。ダメになる日まで。ぼくは、そう覚悟した。ぼくは、人事にも手をつけた。

 

 歳月は人を待たず。星野社長もジブリの社長をすでに十年、ジブリ美術館の中島館長に至っては館長を十二年半続けていた。自ずと組織も硬直化していた。そこで、星野さんに会長に、中島君には新社長に就任して貰うことになった。中島君の後釜は、これが今回の目玉人事、初の女性館長、安西香月さんに決まった。

 

 さらに、ぼくの生まれた地、名古屋でジブリパークを作ることも決まった。

 

 ジブリ再始動! ジブリに新しい風が吹いた。この新しい人事は、ぼくらの想像を超えて、社内に活気をもたらした。そして、スタッフが元気になった。 

 

 最後に、この場を借りて、ジブリの主要メンバーの年齢を記しておきたい。

 

高畑 勲  82歳     中島清文  54歳

宮崎 駿  76歳     安西香月  52歳

鈴木敏夫  69歳     宮崎吾朗  50歳

星野康二  61歳             

 

 二〇一七年十一月二十八日

 

スタジオジブリ     
代表取締役プロデューサー
鈴木 敏夫       

 通常であれば、社交辞令としての社長就任の案内などが来て終わるところに、こういう文章が一筆添えられてくるあたりが、なんとも心憎い。関係者であればつい読んでしまうだろうし、もうこの文章自体が、すでにコンテンツになっている。

 思えば、少年ジャンプの6代目編集長であり現・白泉社社長の鳥嶋和彦氏なども、やはり似たようなところがある。というのも、何かしらの案内状が送られてくる時には、必ず鳥嶋氏自身の言葉で、その意図や目的などが書かれていて、これがまた、なかなかに“読ませる内容”になっているからだ。

 こういう人達からはいろいろ学ぶべきことが多いなぁ……というわけで。

 実は電ファミでは、この度、スタジオジブリの鈴木敏夫氏にインタビューを実施しようと思っている。取材のテーマは、すばり、

 「スタジオジブリが出版する小冊子『熱風』のあり方から考えるWebと活字メディアの未来」

 というのも、熱風」は、端から見ていて“変わったメディア”である。
 一応は、PR誌?……ということにはなっているように見えるのだが、扱ってる内容は千差万別。まったくアニメやジブリに無関係な記事も少なくない。しかし、そこに出てくる人物はみな一流だ。

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「熱風」2017年12月号書影
(画像はスタジオジブリ出版部 より)

 加えて。そんな「熱風」には、どこかサロンのような側面もあり、何かを生み出すキッカケに、この「熱風」だったり、鈴木氏の隠れ家である「れんが屋」が絡んでいたりするようにも見える。

 この「熱風」という冊子は、一体なんなのか?

 そのありようを探りながら、「メディア」の果たすべき役割とは何かを考えられればと思っている。
 それこそ昔は、雑誌が「才能の集まる場所」「何かが生まれる場所」として機能していた。しかし、果たして今のネットメディアはそうなれているだろうか?──そんな疑問を、鈴木氏にぶつけてみることができれば、何か面白い話になるんじゃないかと思う次第である。

 記事の公開は……まぁ、結構先になると思うので、あしからず。でも、ぜひ楽しみにしておいてほしい。

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著者
電ファミニコゲーマー編集長、およびニコニコニュース編集長。
元々は、ゲーム情報サイト「4Gamer.net」の副編集長として、ゲーム業界を中心にした記事の執筆や、同サイトの設計、企画立案などサイトの運営全般に携わる。4Gamer時代は、対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」などの人気コーナーを担当。本サイトの方でも、主に「ゲームの企画書」など、いわゆる読み物系やインタビューものを担当している。
Twitter:@TAITAI999

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