京都の街なかにある謎の草が「NINTENDO64のポリゴンみたい」だとゲームファンの間で注目を集めている。話題の発端となったTwitterの投稿には6万件近い「いいね」が付き、400以上ものコメントが寄せられるなど大変な盛り上がりぶりだ(興味が湧いた方は「草の概念」で検索されたい)。
奇しくも筆者は京都在住の身。例の草の前は何度も通り過ぎていたはずなのだが、恥ずかしながらまったく記憶がなかった。そこでこの目で見てみたいと思い立ち、自転車を漕いで現地へ確認に向かった。
その草は、京都随一の繁華街が並ぶ「四条通」に位置する。諸事情により所在を明かすことは叶わないが、四条河原町と四条烏丸の交差点のちょうど中間あたりだと述べておこう。足元に目を配りながら散策すれば確実に見つけられるはずだ。
草は想像以上の異質さだった。「草」というよりは「フェイクグリーン」と呼んだ方が正確かもしれない。京都は府全体に施行された景観条例のため、コンビニやファストフードチェーンすら外観が目立ち過ぎないようデザインを徹底しているというのに、この草の放つインパクトがあたり一帯をバグのような空間へと変えている。
ブロック状の姿に『マインクラフト』らしさを感じたので持ち上げようと試みたが、とてつもなく重い。ブロックの積み上げに慣れた『マイクラ』世界の住人ですら間違いなく腰をいわすだろう。
伝統や「ほんもの」を尊ぶ京都人の気質に反するフェイクグリーンが設置された背景には、メンテナンスの手軽さや不法投棄を防ぐといった実用的な理由が存在するように思える。
また、京都には町屋を中心に「犬矢来」と呼ばれる柵が点在している。犬除けの用途から転じて、怪しい者の侵入を防いだり雨水の跳ね返りから家の壁を守るといった機能を持つ犬矢来は、景観に風情を与える街の名物のひとつだ。
冒頭で筆者も用いたように、京都において圧倒的に移動が楽な自転車は多くの人に好まれている。一方で駐輪場の数が少ない市街地では、違法駐輪や放置自転車の問題も深刻化している。
そうした意味でも、謎の草は私たちの目を楽しませるだけの単なる置物ではないと言えよう。犬矢来のようにその形状と堅牢さをもって不法投棄や違法駐輪といった迷惑行為を防ぎ、美観の維持にも貢献するという役割をひそかに果たしているのだ。
SNSでは「ローポリ草」として定着しつつある道端の名も無きオブジェ。京都の新たな観光名所に…と語るには時期尚早の感があるが、何かの折に訪れる機会があれば探してみていただけると幸いだ。