ゲームのプレイにさまざまなレギュレーションを設けて、クリアまでの速度などを競うリアルタイムアタック(RTA)。今やゲーム業界では一大ジャンルを確立している文化と言えるだろう。
稀にゲーム以外の要素にも競技性を見出し、新たなジャンルとして挑戦を行うRTAも存在する。「阿部寛のホームページ 逆RTA」もその一つだ。
「阿部寛のホームページ」とはその名の通り、俳優・阿部寛さんの公式Webサイトであり、それだけであれば特筆する点はない。
一方で令和にもかかわらず、1990年代頃のインターネット黎明期のようなデザインで運営や更新が今現在も続いているという珍しさで話題だ。また、Webサイトを構成する要素が簡素すぎるため、基本的にはどんな通信環境でもホームページを爆速で表示できるという特性が注目されている。

本サイトは「爆速で表示できる」という特性で最も有名なWebサイトのため、ユーザーからは通信速度を測るベンチマーク用のWebサイトとして利用されることもある。
動画で扱われている「阿部寛のホームページ 逆RTA」は、爆速で表示されるWebサイトを可能な限り遅く表示することを目指すという逆転の発想で生まれた奇妙な競技だ。

古代ローマにタイムスリップしたかのような通信速度で開始する本RTA。帯域制限は「16kbps」ではなく、キロすら抜けた「16bps」という驚愕の単位に目を疑ってしまう。
「阿部寛のホームページ」を遅く表示することに、なぜそこまでする必要があるのかはわからないが、逆RTAなので仕方ないのだろう。
(画像は「阿部寛のホームページ 逆RTA 6:56:12」より)
全く何も表示されていない白背景から1文字ずつ文字が徐々に表示される様子は、現代の通信インフラでは滅多に見られない光景だ。
プロフィールの「阿部 寛(あべ ひろし)」の文字が表示されるだけで「そう読むんだ!」「“あべかん”だと思ってた」と視聴者は大盛り上がり。
また、阿部寛さんの活動状況を伝える「最新情報」の項目が顔を出すまでに約1時間半が経過しており、視聴者からは「最遅情報」と理不尽に揶揄されてしまっている。
(画像は「阿部寛のホームページ 逆RTA 6:56:12」より)
動画の後半からは、親の顔より見た気がする「阿部寛の顔写真」が文字通りに顔を出し始める。
我々が当たり前のように見慣れている光景がようやく眼の前に現れる特別な様子は、まさに「ご来光」。ここまで阿部寛さんの顔をまじまじと見続ける機会はないため、整った顔立ちが心なしかさらに際立つように感じてしまう。
本RTAの記録は「6時間56分12秒」となった。なお、動画は16倍速~64倍速でお送りされているため、動画自体は約12分で見ることができる。
このRTAを通して感じることは、我々が当たり前のように利用している現代の通信インフラへの感謝だ。PCやスマホを問わずデジタル機器でインターネットの世界を回遊する際、中々表示されない画像や動画に苛立ってしまう機会は多いが、それでも恵まれている環境で暮らしているのだと感じることができる。
また、当たり前のようにすぐに表示される数々の情報は、現代のネット社会において同じようにすぐに消化されてしまうことが多い。逆RTA動画では、普段は流してしまうような阿部寛さんのプロフィール一つを取っても、視聴者の間で言葉を長く交わせることを証明している。
我々が当たり前のように利用している数々のインフラは、本来は当たり前ではないし、先人のかけがえのない努力や、現場で働く人たちの手で成立しているのだ。
そのことに気付かせてくれそうな「阿部寛のホームページ 逆RTA」だが、実は今回紹介したRTA(記録:6時間56分12秒)は2021年に投稿された動画。この後も別の投稿者の手で記録が更新されている。
RTAの世界に壁はない。通信技術に詳しければ、途方もない競技の世界に足を踏み入れてみてはいかがだろうか。