米半導体大手のMicron Technology(以下マイクロン)は現地時間12月17日、2026年度第1四半期の決算を発表した。
売上高は前年同期の87億1000万ドルから約57%増となる136億4000万ドルに達し、四半期ベースで過去最高を更新。世界的な生成AIの普及に伴うメモリ需要の爆発的な拡大が、同社の業績を大きく押し上げる形となった。
一方で、同社は主力製品であるDRAMなどの供給不足が2026年以降も継続するという見解を明らかにしている。ロイターなど海外メディアの報道によれば、同社のサンジェイ・メロートラCEOは投資家との電話会談で、複数の主要顧客からの需要の半分から3分の2程度しか満たせない見通しであると述べた。

この長期的な供給不足の背景には、AI処理に不可欠な「HBM(High Bandwidth Memory)」特有の生産上の課題がある。同社の説明によれば、HBMの製造には最新のパソコン用メモリ(DDR5)と比較して約3倍のシリコンウェーハ面積が必要になるという、「3対1」のトレードオフの関係が存在する。
AI向けの高性能メモリの生産を優先すればするほど、市場全体の供給総量が物理的に制限されてしまうという構造が、需給バランスの改善を阻む大きな壁となっている。
こうした状況下で、同社は2026年のHBM供給分については、すでに全量において価格・数量ともに顧客との契約合意を完了させた。さらに、他の製品についても具体的なコミットメントを含む複数年の供給契約に向け、顧客との協議を進めているという。


さらに、需要の拡大は一般ユーザー向けの製品にも波及している。マイクロンの報告によると、スマートフォン市場ではAI機能の搭載によってメモリ搭載量が増加しており、12GB以上のDRAMを備えたフラッグシップモデルの出荷比率は2025年第3四半期に59%に達し、前年同期の2倍以上に増大した。
PC分野においても、AI PCの登場やWindows 10のサポート終了に伴う買い替え需要により、2025年通期の販売予測は従来の想定から上方修正されている。

これら増大する需要に対し、同社は2026年度の設備投資額を約200億ドルへと引き上げた。米国アイダホ州やニューヨーク州での新工場建設に加え、広島工場でのクリーンルーム拡張やシンガポールでのパッケージング施設増強などを進めているが、建屋の建設や設備の準備にかかる期間が世界的に長期化していることも報告されている。
アイダホ州での生産開始は2027年中旬、ニューヨーク州では2030年以降になる見込みであり、物理的な供給能力が需要を十分に満たすまでには、今後数年にわたり厳しい状況が続く見通しである。
昨今のメモリ・ストレージ市場では、生成AIの普及に伴う半導体の需要増や生産調整の影響により、DRAMやNANDフラッシュメモリの取引価格の高騰が続いている。こうした状況を受け、同社は今月4日にも、29年間にわたり親しまれてきた消費者向けブランド「Crucial(クルーシャル)」からの撤退を電撃的に発表した。
爆発的に拡大するAIデータセンター向け需要へ限られた経営資源を集中させるための苦渋の決断としており、一般向けのメモリやSSD製品の出荷は2026年2月をもって順次終了する方針だ。
世界的な大手メーカーが一般市場から姿を消し、産業用途へ完全に舵を切ったことは、自作PCユーザーやアップグレードを検討する層に大きな衝撃を与えた。
メモリ価格の急騰を受け、国内のBTOパソコンメーカー各社も対応に追われている。サイコムやマウスコンピューターといった大手メーカーでは、将来的な部材不足や値上げを見越した駆け込み需要が殺到し、新規受注の一時停止や出荷遅延が発生する事態となっている。
2026年以降も供給不足が解消されないとの見通しが強まるなか、一般ユーザーにとっては「いつ、適正な価格でパーツが手に入るのか」という、先行きが全く見通せない、出口のない不安が続くことになりそうだ。
