少年漫画などのバトルでは互いの能力を探り合う“熱い読み合い”が繰り広げられるのに、なぜゲームではそれがないのだろうか――ないなら作ればいい。
今回紹介する『Last Standard』は、そんな発想から生まれたアクションゲームだ。
本作最大の特徴は、自動学習AIがSNSの投稿内容からプレイヤーの深層心理を分析し、武器を自動生成する「サイコダイブシステム」だ。
詳しくは後述するが、ようは『HUNTER×HUNTER』や『アクセル・ワールド』のように“自分だけの念能力”や“自分だけのアビリティ”を持つことができ、戦闘時に“読み合い”が発生する設計になっている。
そもそも『Last Standard』は、2017年1月にSteamのGreenlight【※】に登録され、“深層心理の武器化”というシステムが世界で話題になった作品だ。登録からわずか5日でGreenlightを突破し、「東京ゲームショウ2017」への出展が発表されてからは、日本でも大きな話題となった。
開発状況としてはまだアルファ版で、正式リリースは2018年を予定しているが、タイミングよく本作の開発会社であるI From JapanのCEO兼プログラマーである中道慶謙氏(@gamecreateYoshi)に取材をすることができたので、その模様をお届けする。
なお、今回は「サイコダイブシステム」をしっかりと堪能するため、ツイッターで興味深いツイートを連発しているにゃるら氏(@nyalra)に取材・執筆を依頼した。(編集部)
※Greenlight
Steamでの販売を希望するゲーム開発者がそのゲームに関する情報を投稿し、ユーザーの反響によって販売が決定されるシステムのこと。
人工知能の解析処女は美少女ゲームの感想
にゃるら(@nyalra)です。早速ですが、今回紹介する『Last Standard』は、人間の深層心理を解析し武器を生成するというコンセプト。
どういった方法で深層心理を探っていくかと言いますと、なんとプレイヤーのTwitterと連携し、ツイートを人工知能へ読み込ませるというモノ。未来!
https://twitter.com/gamecreateYoshi/status/897030247702437889
今回、自分がわざわざ電ファミに呼ばれたのには「Twitterで興味深いツイートを多数しているにゃるら様なら〜」と依頼された経緯があった。
「これ訳すと意味不明で性的なツイートしかしていないバカの方が盛り上がるからだな……」と感じつつも、確かに自分の日々のツイートからどういった武器が発生するのか興味はあるので、こうして実際にプレイする運びに。
人工知能の解析処女は美少女ゲームの感想
よろしくお願いいたします。
彼が今回取材を担当する“にゃるら”さんです。彼のツイートは凄いんですよ。
よ、よろしくお願いいたします。
ドワンゴ社内の一室でI From Japanの開発メンバーであり代表の中道慶謙氏と対面。「彼のツイートは凄い」という曖昧な紹介で「え?」という反応をされたところでプレイ開始。
まずは自身のTwitterのID を入力してください。
ごめんね……私のせいでこんなになっちゃったんだよね……責任とるね……
— にゃるら (@nyalra) October 1, 2017
ジュルッ、ジュルルルルルッッッッッ!ズオオオオオオオオッッッ!
これ、自分のツイートが流れこむわけですよね。僕のくだらないツイートがどんどん流れて晒しあげ状態で恥ずかしい。まさか開始して数秒で公開処刑されるとは……。
そうです! そこから深層心理を分析します。
つまり、人工知能が自分の“くだらないアニメやえっちなゲームの感想”を大量に分析するわけですね……。その様子を見守るというのは、最先端技術に泥を塗るようで非常に申し訳ない気持ちになります。
中道氏もどことなく「コイツこんな事以外に書くことないのか」と言いたげな表情だ。
ちなみに、外部の方に本作を触ってもらうのは今回が初めてなんですよ。
人工知能の解析処女が、美少女ゲームの感想ツイートなんですね。自分の所為ながら同情します。
https://twitter.com/nyalra/status/915319826855354368
おっ分析が終わりましたよ。
自身のツイートから読み取られた深層心理を元に武器が作られるのですが……。あっこれハンマーですか。オタクツイートから脳筋キャラが生まれましたね。最悪の組み合わせだ。
あ、僕はランスですね。
鋭くて光っててかっちょいい……。ここまでセンスの差が如実にでてくるのか! 人工知能は厳しい。
これが深層心理を分析する「サイコダイブ」です。ちなみにそのハンマーは、ハンマーの中でも軽い方のやつですね。
内なる破壊衝動すらも控えめなあたりが、日陰者のオタクらしくて逆に気に入ってきました……人工知能がオタクの浅い深層心理を完全に見破った記念すべき瞬間ですね!
自分は槍系の武器が好きなので、凄く合ってるなって感じます。にゃるらさんとのバトルが待ちきれないです!
僕も、決して派手にではないけど鎚を背負って路上で暴れ回りたいような気持ちが、潜在的にあるような気がしてきました。オタク=犯罪者予備軍の図式ですね。
まだまだ開発途中でして、今の適合率50%というところです。例えば槍でも「オレの使い方はこうじゃない!」とか、「オレは槍でも柄で殴るぜ」といった戦法の部分まで合致して初めて完成だと考えています。最終的に「この動きをするなら、きっとこの人だ!」と判別できるくらいにしたいですね。
ちなみにこういう武器って、どこまで自動生成なんでしょうか?
生成された武器はハンマーやランスといった種類だけではなく、外見やモーション、さらには攻撃方法までもが深層心理から自動生成されるんですよ。
僕のハンマーは横から振り回す攻撃が多くて、「あっコレ筋力のないオタクがカッコつけて重い武器持った時になるヤツじゃん」と察せられます(笑)。
(笑)。いや、でもこれすごいですよね。
すごいですよ! だって格闘ゲームやアクションゲーム、あるいはFPSやTPS【※】のように、決まった武器や戦法が存在しないわけじゃないですか。この仕掛けの何が面白いって、対人での決まった定石などが存在しないから、バトル中に少年漫画的な能力・性能・パターンの読み合いが発生するようになるんですよ。
※TPS
Third Person Shooterの略。プレイヤーもしくは主人公を追うような、第三者視点で操作をするアクションシューティングゲーム。
e-Sports【※】として発展したらさらに面白そうですね。
※e-Sports
「electronic sports」の略称。対戦型ゲームを競技として扱う際の名称で、格闘ゲーム、MOBA、FPSなどジャンルは問わない。主な人気タイトルに『League of Legends』や『Overwatch』が挙げられる。1997年には初のプロフェッショナルリーグ「Championship Gaming Series」が設置された。アメリカや韓国で特に競技者人口が多く、高額な賞金のかけられた世界的な規模の大会もある。
e-Sportsシーンだと、たった2種類の攻撃でトーナメントを勝ち上がった上級プレイヤーが、決勝戦で初めて第3の攻撃を披露したり、ゲームに興味がなかった少年が偶然最強のモーションを生み出して一気にハマり込んだり――ということも起こりうる。夢が広がりますね。
『アクセル・ワールド』【※】の世界の様に、突然「世界唯一の○○」が誕生してニュースになるかも知れないんですね!
オタクらしい例えだ……。そういえば深層心理って、やっぱりツイッターとかに反映されやすいんですか?
そうですね。文字に出ます。特に日本語はすごく出やすくて、個人の癖や語彙がわかりやすいんですよ。ツイッターだと日常的なつぶやきなので更に個性が出ます。
大半のユーザーが有職者なFacebookだと、お堅い文体に固定されがちですからね。無職やオタク寄りのツイッターは、ユーザー側の自分から見てもこういった分析に適しているように感じますね。
はい。リラックスしている状態の文章が重要なので。そういった意味ではLINEとかでも大丈夫なんですけど、プライバシー的に(笑)。
※『Last Standard』操作方法を解説した動画。一般的なアクションゲームのように、技を組み合わせて出すこともできる。
試合開始! 気分は待ちガイルへ挑むザンギエフ
操作方法をマスターしたところで試合開始。オリジナルの武器を背負ったおっさん二人は、チュートリアル画面からステージへ飛ばされる。
本来ならここで初めて相手の武器がわかるようになっています。
なるほど。試合開始直前で、「あっ、あんな武器もあるのか!」となるんですね。この記事を読んだ人だと「あいつ、ハンマー使いって事はオタクか!」と無念のオタクバレする訳ですか。
街中で武器持って暴れるおっさんたち……荒れてますね。これはなぜ渋谷を舞台に選んだのでしょうか?
深層心理を解析(サイコダイブ)し、仮想空間へ自分が潜ることを意識して欲しかったんです。「馴染みある空間に異質な存在が出現する事」がそれに近いと思ったので。
※ステージのモデルとなった渋谷の路地。
ギャルゲーでよくある、ただ開発会社の近くだったから背景にするやつかと思ったら、そんな真面目な理由なんですね。
そして実は、環境音は全て京橋です。実家が京橋なので(笑)。
そういえば現実でパチスロ屋がある場所は、スーパーになっていますね。
流石にパチスロ屋を置くのもどうかなと思って、大阪の有名な「スーパー玉出」【※】を代わりに。
大阪現地民しか知らないという(笑)。
そうなんですよ。この独特なチラシとか見ると「あっ、玉出っぽい!」ってなるはず。
そういえば体力などは表示されてませんね。
攻撃する際に武器に色がでてくるんですけど、それが体力を表しています。攻撃を受ける度にその色がどんどん薄くなり、完全に白になると終わりです。
ちなみに、十字キーの上ボタンを押すと3回まで回復できますので、白くなってきたかなと判断したら一旦逃げて上ボタンを押すいいですよ。
表情で残り体力を判断する『魔導物語』【※】的なシステムですね。
※魔導物語
コンパイル社開発・販売の3Dダンジョン型RPGシリーズ。1989年の初代から現在に至るまで多数のタイトルが発売されているが、同シリーズはとりわけ「ぷよぷよ」シリーズのルーツとしても知られている。本文中で言及されるのは「ファジーパラメーターシステム」のことで、残り体力などの要素が数値で表示されるのでなく、キャラクターの表情やセリフ、音楽などで代替されているシステムを指す。
回避やガードなどもうまく使い分けて戦ってみてください!
回避が成功した瞬間、スローになる演出がかっこいいですね。
『仮面ライダーカブト』のライダーたちが使う「クロックアップ」みたいで興奮しますね。ただ、回避もガードもタイミングが難しい!
相手の攻撃からチャンスを生み出すガードや回避は重要テクニック。ただし一朝一夕で身につくものではなく、「にゃるらv.s.電ファミ編集部員」は、互いにノーガード戦法で殴りあうなんとも男らしい試合に。慣れてくると確実に面白くなる事が伝わるだけに悔しい!
ハンターハンター的な“読み合い”は夢ではない
二人がもう何度殺して殺されたかすら分からなくなってきたころに、ようやく試合終了。『Last Standard』を十分楽しんだところで、中道氏へ締めの質問を投げかけた。
なぜ、今作はAI……人工知能をゲームに組み込もうと考えたのですか?
他と被らないオリジナリティのあるゲームが作りたかったんです。しかも、少年漫画のような熱い“読み合い”が発生するような。そこで目をつけたのが人工知能でした。ただ、こんな事に使っていい技術なのかとは思いますけどね(笑)。
これから発展させていきたい部分などはありますか?
深層心理から、武器だけではなく固有能力も自動生成するようにしたいですね。プレイヤー本人にしか分からない能力。これはリリース時には実装する予定です。
それはとても惹かれますね。武器以上に個性がでるでしょうし、『HUNTER×HUNTER』のクラピカ【※】のように、特定条件を満たさないと発動しない能力なんかが誕生してもかなり熱い。
ただ武器以上に能力の設定は難しいんですよね。「~~で~~が~~の時、それが相手にあたって~~になったら誰かが燃え始める」とかは、現段階ではややこしすぎて誰がわかるねん! って感じです(笑)。
たしかに(笑)。
でもこのシステムが入ると、確実にもう一段階ゲームが面白くなると思うんですよ。トッププレイヤーたちは武器だけで勝ち続け、能力はずっと謎のままとか、何度か使われてはいるんだけど、発動条件は暴かれていないとか。
いいですね! さらに大会の決勝戦でその能力が初めて使われたり、条件が暴かれたりすると最高に熱い。
発動条件まで深層心理から自動生成されるっていうのも面白いですね。どっちつかずのハンマーにクソ能力が付与されると大変なことになりますけど、“発動条件の暴きあい”も起こりますよね。
システム的には既にある程度形になってまして、来年リリース予定のベータ版ではしっかりと調整できている予定です。
おお! それは今から楽しみですね。今日はどうもありがとうございました!(了)
さて、個人のツイートを解析するサイコダイブのシステムだが、これが単純に特定の単語などではなく、その人間の文体や文節の区切り方、口調などから深層心理を解析しているようだ。
なので、僕はシモネタが多い少ないでなく、単純な人間性でハンマーが選択されたという事になります。その人間の素が文体から滲み出るTwitterを選択したのは慧眼。あれ以上に個人の本質が見える媒体も少ないですし。
開発側ですら狙った武器を出すことは不可能らしく、AIの世界が如何に複雑怪奇か伝わってくる。読者の皆さんも、今頃自分のツイートからどんな武器や能力が作られるのか想像してウズウズしているころだろう。
AIとゲームの可能性。定石や対策のない新しいゲーム開発への意気込み。『Last Standard』を前に熱く語ってくれた中道氏の姿に未来を感じた。それにしても、AIを中心にゲームが開発されているという事実が実に未来的。
今回の記事で表現に困ったら、すぐ未来を出すあたりに自分の語彙の少なさと理解の浅さが出ていますが、そのレベルで中道氏ら、延いてはI From Japanの研究と技術は素晴らしいという事で本稿を締めようとおもう。
【あわせて読みたい】
AIが競馬予想で回収率180%突破の快挙! 『電脳賞』優勝のITエンジニアが語る戦略が鮮やかすぎて目からウロコ
深層心理の分析のお次は……なんと競馬の予想!? 回収率180%超えを叩き出した驚異の競馬AIの開発者インタビューもあわせてお楽しみください。