今期のTVアニメ作品の注目作の一つ、『ウマ娘 プリティーダービー』。数ある多様なコンテンツの中でも、実際の競馬に忠実な舞台設定、キャラクターであるウマ娘達の特徴も、実在の名馬たちの性格・エピソードから発想を得たものとして異彩を放っている。アニメファンではなかった競馬ファンも楽しめる内容だ。
原作は事前登録受付中のCygamesのスマートフォン向けアプリゲームで、アニメではスペシャルウィークとサイレンススズカをメインに据えたストーリー。
約20年前の競馬の史実を取り入れながら、そこから予想できない「If」のストーリー展開が繰り広げられる。ニコ生での本編上映では、毎回史実のネタバレコメントが飛び交うが、『ウマ娘』はフィクションとノンフィクションが混ざり合った作品でもある。
今回、コンテンツプロデューサーでアニメではシリーズ構成を務めるCygames 石原章弘氏と、11歳の時から競馬ファンだというTOHO animationのプロデューサー伊藤隼之介氏にお話をお聞きした。『ウマ娘』は競馬と同じく、先の読めない展開を楽しむエンターテインメントを目指しているのだという。
『ウマ娘』は出演声優のお父さん達に人気!
──最近、ストレートに女の子が頑張る姿を描く作品は減ってきている傾向がありますが、なぜ今「頑張っている子たち」を描くのでしょうか?
石原氏:
所謂『エヴァ』以降は、時代や大人に翻弄される世界観の作品が増加した気がしますが、ある意味、友情・努力・勝利という「王道」の物語は、どんな時代であろうと心を打つと思っています。
設定と人間模様を複雑にして考察させていく物語が似合う題材もあるんでしょうけど、「走る」というテーマを活かすには、シンプルに「お母ちゃんの為に頑張る!」「スズカさんとの約束を守る!」みたいに、わかりやすくしていった方が素直に伝わるのかなぁと。
まあ、僕も及川監督も伊藤さんも、割とドラマとしては立てつけがシンプルな方が好きだったというだけかもしれませんが(笑)。
実際、キャストの皆と話していると「お父さんがウマ娘のアニメを見ている」と。スペシャルウィーク役の和氣さんも、サイレンススズカ役の高野さんも、トウカイテイオー役のMachicoさんも同じことを言っていました。
伊藤氏:
高野さんのお父さん、好きそうですよね。
石原氏:
このアニメがきっかけで会話が増えたと言っていました(笑)。
他の方からも、「娘がウマ娘の真似をしている」とか「奥さんが食いついた」なども伺いました。そして大変ありがたいことに、『ウマ娘』プロモーターの武豊騎手とお話をさせていただいた時、武さんの親戚の女の子がウマ娘を好きになってくれたと仰っていました。
良く言えば単純明快で、悪く言えば昔っぽいからか(笑)。普段アニメを見ない人がこのアニメを見ているという話を聞きます。
レース後、ギスギスしたくないから「ウイニングライブ」がある
──石原さんは『ウマ娘』を「スポ魂」だと仰っていたと思うのですが、『ウマ娘』の「競馬」という題材が、そういった「分かりやすさ」や「熱さ」を生んでいるのでしょうか。
石原氏:
そうですね。競走馬が題材だからこそ勝ち負けのある世界感になり、自然と熱い物語になりました。ただ、世界観的にギスギスしたくなかったので、ウイニングライブという要素を第1Rで提示しました。
第2Rでもゲートに入ったスペシャルウィークを隣の眼帯のウマ娘が「オラーッ!」って威嚇していましたけど、ライブのときにはふつうに笑顔で歌っている(笑)。
──一緒にステージに居ましたね。「アレッ!?」って感じで(笑)。
伊藤氏:
凄い歌ってて。
石原氏:
勝負は勝負、でも決着がついた後に遺恨を残さない、そんな世界感にしたかったんです。高校野球的と言おうか、オリンピック的と言いますか。
熱さと爽やかさを同居させることで、多くの世代の方に抵抗なく受け入れてもらえているのかなと思っています。ただ、最初のハードルは死ぬほど高いんですけどね(笑)。
この記事を読んで、まだアニメを観ていないという方がいたら、騙されたと思って一度観てください。
20年前が舞台なのは、良きライバルが多かったから
──アニメ『ウマ娘』は、スペシャルウィークとサイレンススズカを中心とした話ですが、なぜ20年前の競馬界をメインに据え、スペシャルウィークを主人公に選んだのでしょうか?
石原氏:
僕には理想の主人公像みたいなものがあって、それは「オレつえええ!」みたいなタイプではなく、雑草魂を持った、負けからも何かを学んで前に進んでいくタイプです。
キャラのモチーフとなったスペシャルウィーク号の戦績を見た時、すんなり全ての重賞に勝利していった訳でもなく、勝ったり負けたりしていたので、そこが主人公っぽいなと感じた最大の理由です。
伊藤氏:
20年前、僕は当時11歳で競馬を観ていて。この世代はスペシャルウィークという名馬の他にも魅力的なライバルがいっぱい居ました。
3歳のときはキングヘイローやセイウンスカイ、さらにエルコンドルパサーとグラスワンダー。物語を描く時に、そんなライバルとの関係性などを描いていきやすいと考えました。
伊藤氏:
そもそもスペシャルウィークとサイレンススズカは史実では一緒に走っていませんが、並んだ絵を見た時に If というか、架空の関係性を描けて面白いんじゃないかなと思いました。
鞍上は同じ武豊騎手で、1999年の天皇賞・秋を勝った時に「最後はサイレンススズカが背中を押してくれた」というコメントが残っていたり、そういったものもドラマになるのかなと考えました。
──ウマ娘は、武豊騎手は『ウマ娘』プロモーターに就任したことでも話題ですね。当時の資料などは調べたりはしましたか?
伊藤氏:
スペシャルウィークやサイレンススズカに関しては、インタビューなどが多くの本でまとめられており、それを読みました。いかにエピソードの多い馬だったということが改めて分かりましたね。
史実のネタバレは想定済み「予想は裏切りつつ期待を裏切らない」
──ニコ生やニコ動では史実のネタバレのコメントがガンガン飛んできますよね。
石原氏:
物語の構成を予想する流れになることは想定していました。
ただ、視聴者の方には1週間毎に放送するタイムラグを「次の話の予想」という時間に当ててもらい、なるべくウマ娘のことを考える時間を増やしてもらいたかったんです。なので、色々語ってもらえるのはありがたかったですね。
──ネタバレが来ることを考えて「こんな仕掛けをする」ということはありましたか?
石原氏:
第2Rでスペシャルウィークのデビュー戦が放送されて、それが本当にあったレースを再現しているんだということが視聴者に判って、第3Rで皆が「これ、そのまま再現していくんだ!」となったところで、(史実とは違って)第4Rの最後でエルコンドルパサーがダービー参戦となって、「あれ?ここは史実と違う?」と思ってもらおう…というように、仕掛けと言いますか、なるべく次の展開を予想できなくしていこうとは思っていました。
予想は裏切りつつ、期待は裏切らない。史実ベースだからこそ出来る面白さ、仕掛けはスタッフ一同心がけていました。実際反応を見ていると、サイレンススズカ【※】が天皇賞・秋を走るのか…?と第6R辺りではずいぶん騒がれていました。
※サイレンススズカ
実在の競走馬サイレンススズカは1999年の天皇賞・秋のレースで故障発生。安楽死の処置が取られた。
──「天皇賞・秋」というワードが出てきましたからね。
石原氏:
第7R放送前は、スタッフ一同、どう受け止めてもらえるのかドキドキでした。速報性のあるSNSがあるからこそできる話題の拡散方法はあります。
さっきも話しましたが、予想は裏切りつつ期待を裏切らない、これがテーマの一つなので、今はそこそこ上手くいって一安心です(笑)。
競馬のように、「どうなるか分からないアニメ」
伊藤氏:
石原さんが脚本会議で言っていた言葉で覚えているのが、「競馬は、どうなるか分からないことを楽しむエンターテインメント。このアニメもどうなるか分からない、それを楽しめる作品にしたい」と言っていて、「なるほどなぁ」と思いました。
ただ、実際の競走馬の名前をお借りしているわけですから、彼らの物語を踏襲したい気持ちがあって、「じゃあどうするか?」ということで会議自体は始まっていて、ならばIfを描かないと楽しめるものにならないですよね。
そこで競馬ファンたる自分がある程度納得できるIfの盛り込み方は何なのかと考えました。
例えば、当時は外国産馬としてダービーに出られなかったエルコンドルパサーが出る道筋を作ったり。
石原さんの言う「予想を楽しむエンターテインメント」というコンセプトを踏襲し、みんなでパズルを組み上げて、大元を崩さないようにしつつも、「え、そうなるの?」という部分も入れつつバランスを取りました。
石原氏:
史実とifのバランスを皆で考えながら進める。今も現在進行形で難しい作業です。
史実を知っていても、やはり皆良い結末を期待する
──第7Rで故障してしまったサイレンススズカ。劇中ではリハビリの末に再起し、やがて走り始めます。史実とは違う希望のある展開を描いた理由とはなんですか?
石原氏:
そもそも『ウマ娘』という世界観自体が、異世界のような「Ifの世界」です。史実は完全に再現することはできますが、そうするとスズカ(=サイレンススズカ)は予後不良で亡くなってしまいます。そのとき、このアニメに期待するものは何だ?と考えました。
僕が勝手に「信長もの」と思っているジャンルがあるんですけど(笑)。織田信長のところにタイムスリップする系の作品は、『信長協奏曲』だったり、『信長のシェフ』だったり、かなりたくさんあります。
信長が最後、本能寺で死ぬことはだいたい皆知っているじゃないですか。でも、その展開を知っているから、この先は「信長が死ななかったという話」になるのか「誰かと入れ替わった」などのIfの展開があるのか、案外、そのまま本能寺で死んでしまうのか……いろいろ考えてしまいます。
結末を先に知っているから、その過程が気になるのは過去改変ループ物の基本です。ただ、期待される物語の結末は大体、救いのお話です。
ウマ娘はifの物語ですから、どうせなら救いのある物語にしたいとは最初から思っていました。競馬ファンの方や、馬主さん達に見て欲しいのは、彼女たちの生き生きした姿です。ある意味、永遠に近い命を持てるのが2次元の強みでもありますから。
サイレンススズカは、昔ちょっと尖っていた設定
──スペシャルウィークはモデルになった馬の人懐っこい性格をそのままキャラクターに生かしていると感じたのですが、実際のサイレンススズカの方はヤンチャだったと聞きます。しかし、劇中のスズカはおとなしめのキャラですね。
石原氏:
アニメ作中の時点では、ややスランプだった時期があり、ある程度落ち着いている設定です。
コミックなどでは入学当時はもう少し尖っていたという設定も出していますが、メディアによってキャラクターの切り出すところを変えているので、アニメの次はぜひ、CDやコミックなど色々なメディアのスズカを見てください。
──色々あった上での、今のキャラなんですね。
伊藤氏:
僕も当時の競馬を見ていたので「やんちゃ坊主」のイメージでした。この間、稲原牧場(サイレンススズカの生産牧場)に行ってきたんですが、牧場の方に育成の時の話を聞くと、人懐こくてとても大人しかったそうです。
破天荒なゴールドシップは、実は「気高い学者」
伊藤氏:
ゴールドシップも、すごく知性の高い馬だといいますからね。とても気高い学者のようだったと、岡田繁幸さん【※】とかは表現してました。
※岡田繁幸
ビッグレッドファームグループ代表で「馬を見る眼は日本一」とも言われる生産者・馬主。代表的な生産馬に天皇賞馬・マイネルキッツなど。馬主としてはグランパズドリームらを所有。ビッグレッドファームでは名種牡馬を多く抱え、劇中にも登場するグラスワンダー、ゴールドシップらも所属する。
──ええ? 荒っぽいイメージだったのですが。
石原氏:
荒っぽいと聞いていたのですが、ゴールドシップと牧場で会ったときに、「今は全然大人しい」と。「もう走らなくて良いと思っているから、大人しいんじゃないの?」と話をされていて……。
伊藤氏:
人間だってそうじゃないですか。ある人から見れば良い人でも、ある人からすれば、ものすごく悪い人かも知れない。
切り取り方で、いろんな見方があるのだと思います。キャラメイクにも色んな要素を反映しているので、それを通じて事実や逸話などを知ることが嬉しいです。
石原氏:
そうですね。だからキャラメイクは誰か一人の解釈では無くて、シナリオライターだったり、デザイナーであったり、さらに絵コンテにしていただく演出さんや、監督の及川さん、もちろん脚本の杉浦さんも、いろんな人の手を介在して、キャラは形作られていきます。
そこに競馬ファンの皆がこう思ってるとか、解釈が入って、ますます立体感や奥行きを増していくんです。
惜しみない拍手を送りたくなる、真のアイドル像とは
石原氏:
アニメ開始まではよく『ウマ娘』は「アイドルもの」だと言われたのですが、ジャンルとしては所謂アイドルジャンルではないつもりです。
ただ、ある意味では「アイドルもの」だとも思っています。例えばオリンピック選手たちは、結果によって突如アイドルになります。金メダル獲った瞬間に、沿道に10万人来たり。
ウマ娘も走っている姿に感動して、皆が惜しみない拍手を送ってる世界です。そういう意味でのアイドル感はあって良いと思っています。作られたアイドルじゃなくて、結果的に皆が応援して、アイドルになっていく。それこそが真の偶像であって、本来のアイドルの意味には近いのかなあって。
話は変わりますが、僕はアーケードゲームの『DERBY OWNERS CLUB』(ダービーオーナーズクラブ)【※】が好きだったんです。馬とふれあってトレーニングしてレースに出して、そしてお別れが来て……という流れです。
※『DERBY OWNERS CLUB』
セガのアーケード用対戦型競走馬育成シミュレーションゲーム。
ただ、それはある意味、裏では努力して表舞台で成功すれば大きな歓声を浴びて、負ければ裏で関係者と涙する…というアイドルジャンルの根底と同じ流れなんですよね。多くの人の夢を背負っているというところも、なんとなく似ているというか(笑)
伊藤Pにとって武豊騎手は正にアイドル
伊藤氏:
僕はアイドルに感情移入したことはないのですが、実際に牧場へ行って、スペシャルウィークとグラスワンダーに会って、「はぁ……!」って、なります。たぶんアイドルファンってそういう気持ちなのかな。
石原氏:
伊藤さんが武豊騎手にはじめて会ったときの、「話しかけられない」っていうなんとなく落ち着かないあの気持ちこそ、アイドルとアイドルファンとの関係性だった気はします(笑)。
──確かに実際の競馬でも、入場してくるときはライブ感があります。
伊藤氏:
スターホースを見たみんなの気持ちの上がり方は凄いです。
石原氏:
過去にアイドルものを延々と作っていましたが、思わぬところで共通項を感じたので、何気にコンセプト作りはあまり悩みませんでした。
トレーナーは、馬に夢をかけた人たちの気持ちが統合された存在
──サイレンススズカもスペシャルウィークも、武豊騎手がある程度「自由に走らせる」ことで本来の実力を発揮できるようになったと言われています。そんな役割を、発言などからして劇中では「トレーナー」が果たしているのかなと思ったのですが、そうした意図はありましたか?
石原氏:
確かに、アニメでもスズカがのびのび走るようになったあたりは武豊騎手の発言を参考にしていますが、だからといってトレーナー=武豊騎手ではありません。
現実世界で競走馬に夢をかけていた人たちの気持ちが統合されているのが、トレーナーだと思って欲しいのです。
伊藤氏:
『ウマ娘』は騎手が居ない世界なので、ウマ娘は騎手に成り代わって自分の意思で動きます。
一方で実際の競馬には調教師も、厩務員さんも、馬主さんも、調教助手さんも居て。いろんな人が馬には関わりますが、この世界にはトレーナーに集約されて、それがウマ娘の横にいる人間として描かれています。
トレーナーのパーソナリティを作るときにも、一頭の馬にはいろんな人間の気持ち、考え、愛情があって。だからトレーナーには、あのチームに関わった多くの関係者の逸話などを引用します。
白井(寿昭)調教師【※】や武豊騎手、あるいは、他のいろんな関わった人みなさんの気持ちみたいなものが、キャラクターに反映されていればと思っています。
なんとなくパーソナリティなどは白井先生のあの感じが出るといいなぁ、なんて思いました。
「外ラチに向かって追え」と大胆な発言をされたりとか、天皇賞・秋の当日、東京競馬場でひと追いして馬体重を減らすような大胆な発想と、情熱を持ったトレーナーだったので、そうしたパーソナリティ像みたいなものがアニメのトレーナーに反映されていれば、ちょっと面白いかなと。
※白井寿昭 調教師
1999年にJRA賞の最多賞金獲得調教師賞を獲得した名調教師。スペシャルウィークのほか中央・地方・海外を含めて6度のGI制覇を達成したアグネスデジタルなどを輩出。
──トレーナーには、色んな人のパーソナリティが込められているわけですね。
石原氏:
「夢」という言葉はこのアニメによく出てきます。彼は、この現実世界の関係者やファンを含めた色々な人の夢をあの世界で伝える為に、叶えるためにいる存在だと思っていただければと。
あの事故を描かなければ、サイレンススズカの物語とは言えない
──「夢」の話が出てきましたが、トレーナーがスズカに第7Rで「もっとお前で夢が見たい」と言いましたが、もしスズカが無事であれば、たとえば伊藤さんはどんな夢を見ていましたか?
伊藤氏:
これは僕の夢ではなくて、競馬ファンにとってのあの先の夢は、僕が言わなくても自明で、天皇賞はきっと凄いタイムで勝ってくれたかもしれません。ただ、全部が全部こうあってほしいだけでも物語は出来なくて……。
それでいえば、サイレンススズカの事故自体を描くべきでないし……。でも、あった出来事は描きつつも、それを描かなかったら「サイレンススズカの物語」としては“ウソ”を書いていることになります。
「沈黙の日曜日」という有名な実況を使うという意見もあったんですけど、絶対にイヤだったんです。
──なぜですか?
伊藤氏:
あの言葉をテレビで流すっていうのは、結構罪深いことだと思っていて、僕あれ聞いたら、絶対チャンネル変えると思うんです。だから使いませんでした。
「気持ち」を描いて、競馬を知らない人にも伝えたい
石原氏:
この作品には、フィクションと史実を使ったノンフィクションが混ざっています。だから(競走馬の)サイレンススズカが生きていたら、どんな活躍をしていたんだろう?といった気持ちも入っています。
ただ、今まで競馬をあまり観たことがないという方にもドラマとして伝わらないといけないので、史実を知らない人が見ても理解できるように、丁寧にしっかりと気持ちを作っていく必要もある。
伊藤氏:
まず僕らの命題として、どんな人にとっても面白い物語をお届けするのが仕事ですが、この『ウマ娘』に関してはもう一つテーマがあると思っていて、実際のお話を脚色してモチーフとする、その責任というのは、多くの人に届けて面白いと思ってもらうことで為されるのではないかと思っています。
結果的に当時の名馬の物語が思い出されて、こうして語られる状況をとても嬉しく思っていて、それが脚本を作っているときからの目標でした。今皆さんに語ってもらっているのが、何よりうれしいです。
石原氏:
反応がいちばんありがたいですね。当時に思いを馳せてもらって、興味が広がっていってくれることがいちばん理想だったので。
サイレンススズカがアクセス数1位になり感動
伊藤氏:
サイレンススズカがnetkeibaさん【※】のアクセス数ランキング1位になって、あれにはいたく感動して、泣きそうになりました。アクセスランキングは、通常はその週のメインレースに出走する競走馬の名前がアクセス上位に来ます。
けど、その上にサイレンススズカの項目があったんです。第7Rの物語を見てくれた方が興味を持って調べてくれた結果で、あの馬たちのことを調べたり、思い出したりしてほしいと作っていたから、それが一つの形になった気がして、すごく嬉しくて……
※netkeiba.com
もっとも人気のある競馬情報サイトのひとつ。
伊藤P「これで本当に良いのか」とずっと考えている
──最後に、おふたりの中で「ウマ娘 プリティーダービー」とは何ですか?
伊藤氏:
今回は競馬という自分を作ってくれたモチーフを扱って仕事をしているので、やはり今までとはちょっと違う感情があります。
特別な作品だなと思っていますし、「アニメ」も「競馬」も、僕が好きで尊敬して慕っているモチーフである2つに対して(恩を)返せているのが、すごく嬉しい。いつもの二倍嬉しいというか…… でも特別な作品だけに、滅茶苦茶怖いですね。
第7Rの時もそうですが、いつも放送前に、これで本当に良いのかとずっと考えていて、それは今までなかった経験でした。作っていたものを世に出すことに対して、これくらい思ったことはありませんでした。
今、色んな人から喜んでいただいていて、だからといってそれに甘えてはいけないと思っています。この先、より集中力を持って臨まなければいけない。凄く特別な作品だと思っています。
石原「ハードルが上がっていく一方ですが、怖いけど面白い」
石原氏:
僕はものを作るときはいつも基本的に同じなんですけれども、関わっている人全員がスタッフ、お客さんも含めて、皆が楽しいと思ってくれるのが一番の理想です。
『ウマ娘』は特にお名前の使用を許諾いただいている馬主さんなど、とても関係者が多い作品でもあるので、伊藤さんが言ったように怖いんですよね。「これホントにみんなが楽しめているのか?」という思いは常にあって……
専門的になればなるほど深みは増すけども、分かりやすさは消える。ただ、あまりに分かりやすいだけで、奥行きがなさすぎても皆飽きるし。
このバランスが大事だなと思っています。そこを伊藤さん、脚本の杉浦(理史)さん、及川監督、石原などアニメスタッフ全員が、色々なベクトルのこだわりを持って、最終的なバランスを整えていく。アニメチームはとても良いチームになりました。
ちなみにゲームは事前登録中なんですが、ゲームプロデューサー含めて、多くのスタッフが毎日少しでも面白くしようとしています。
それは皆が驚くような高いクオリティで出すことこそが、『ウマ娘』の関係者やファンになってくださった方に対する、必要最低限の礼儀だからです。
緊張感を持たないと良いものは絶対に生まれません。『ウマ娘』というコンテンツは、アニメで終わりではありません。
色々な楽しみ方をしてもらいたいなと考えています。皆さんの期待に応えるものを出していけるよう、スタッフ一同頑張っておりますので、今後とも応援の程、よろしくお願いします。(了)
物語が佳境を迎える『ウマ娘 プリティーダービー』。第11Rのニコ生放送を前に第1〜5Rの振り返り一挙上映ニコ生と、第11Rニコ生の翌日に第6〜11Rの振り返り一挙上映ニコ生の放送が決定!
これまでずっと見てきた視聴者の方はもう一度、インタビューをご覧になって知ったという方は、最初から物語を楽しむチャンス!ぜひご覧になって頂ければと思います。
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