ゲームクリエイターの中村光一氏と麻野一哉氏といえば、『弟切草』『かまいたちの夜』『街~運命の交差点~』といったサウンドノベルシリーズや、『不思議のダンジョン』シリーズを生み出してきたコンビである。
このふたりが久々にタッグを組んで開発したのが、現在好評配信中のスマートフォン向けRPG『テクテクテクテク』だ。
しかも、近年はスパイク・チュンソフトの会長としてゲーム作りを支える側に回っていた印象のある中村光一氏が、本作ではプロデューサーとしてゲーム開発の最前線に立っているという。
『テクテクテクテク』の正確なジャンル名は“歩いて地図を塗りつぶすRPG”である。つまり本作はスマートフォンのGPS機能を活用した、いわゆる“位置ゲーム”となっているわけだ。
位置ゲームといえば、世界的に大ヒットしている『ポケモンGO』や『Ingress』をはじめ、ガラケー時代から多数のソフトがリリースされている。そのなかで、中村氏と麻野氏は“位置ゲーム”のどんなところに新たな可能性を見出したのだろうか。
そしてそれは、かつてふたりが生み出した『弟切草』や『トルネコ』のように、既存のゲームのイメージを大きく変えるようなものなのだろうか。
そこでこのインタビューでは、『テクテクテクテク』が生まれた経緯について、中村氏と麻野氏に直接お話を伺った。そこで明らかになったのは、麻野氏個人が“趣味として”楽しんでいたある遊びが、このゲームの中核になっているという事実だった。
文/伊藤誠之介
編集/クリモトコウダイ
聞き手/TAITAI
写真/佐々木秀二
「東京をすべて回る」ために地図帳を塗っていたのが、そもそものはじまり
──まずは、どういった経緯で地図を使ったゲームを作ろうと思ったのか、というところからお聞きしたいです。
麻野一哉氏(以下、麻野氏):
僕はもともと『Ingress』【※】にハマっていまして。すごく面白かったんですけど、あれってレベル8ぐらいで一通りやることが終わってしまって、その後はマンネリ化しちゃったですよ。僕としてはこの面白さを持続するために、自分で何か工夫しないといけないだろうと思ったんです。
そこで思いついたのが、東京制覇でした。僕は関西出身なんですけど、東京に来たときに、できれば東京のすべてに行きたいと前々から思っていたんです。
ただ、「東京を制覇する」といっても、何を基準にすべて行ったことにするか、というルールを決めようがなくて。四つ角を全部制覇したらいいのか、駅を全部制覇すればいいのか……でも駅だと駅周辺だけしか行かないので、あまり意味がないな、と。それで結局、諦めていたんですよ。
だけど『Ingress』にはポータルがあるじゃないですか。あれはその街の有名どころのポイントを押さえているので、東京にあるポータルを全部ハッキングすれば、それは行ったことになるだろう、と思いまして。
──かなり壮大な発想ですね。
麻野氏:
ただ問題は、『Ingress』で言うところのユニークポータル、つまり自分が一度でも行ったことのあるポータルなのか、そうでないかというのを、ゲーム上で判別することができないんですね。
だからしょうがないんで、地図帳を買ってきて、自分が行ったエリアは地図に色を塗るということをはじめたんですよ。その現物を今日、持ってきたんですけど。
──ええっ! これはかなりインパクトがありますね。この作業はあくまで趣味としてやられていたんですか?
麻野氏:
もちろん趣味としてです(笑)。「これをやれば東京の何かがわかるかもしれない」と思ってやりはじめたら、副産物でゲーム──『テクテクテクテク』ができちゃったんです(笑)。
中村光一氏(以下、中村氏):
全部塗ってあるから、あんまりよくわからないよ(笑)。
麻野氏:
じつはもう東京23区は全部行っちゃって、勢いで武蔵野とか三鷹とか狛江とか、23区外のところまで行っちゃったんですけど。
最初は一瞬、躊躇したんですよね。本当に23区を全部塗れるのか? というところで。
それが2、3年で終わるのか、それとも20年ぐらいかかるのかすらわからなくて。でも、途中で止めても誰にも迷惑はかからないし、とりあえずやってみようと。
それで、こうやって地図に色を塗って遊んでいたら、あるとき、知人が『Ingress』のイベントを開くことになって。「ゲームデザイナーの人を何人か呼ぶから、麻野さんも来てよ」と誘われたんです。
そこで友人の飯田和敏【※1】と、あと何人かと一緒にイベントに出て。ナイアンティックの川島優志【※2】さんにもゲストに来てもらったりして、楽しくやったんですけど。
※1 飯田和敏
『アクアノートの休日』『太陽のしっぽ』『巨人のドシン』などを手がけたゲームクリエイター。電ファミニコゲーマーの連載記事でもおなじみ
※2 川島優志
Niantic, Inc.のアジア統括本部長で、『Ingress』や『ポケモンGO』の開発にも深く関わっている。
そのイベントを、田村君という僕の後輩がたまたま見に来てくれていまして。じつは田村君は前々から「GPSを使った位置ゲーを作りたい」と言っていたんです。
それでイベントを見た田村君が、「麻野さんは『Ingress』の何が面白いの?」と聞いてきたので、「『Ingress』そのものには飽きちゃって、今はこんなことをやっているんだ」と地図帳を見せて説明したら、「こんな変な人は他にいないから、一緒に組みたい」と言われて(笑)。
そこからじゃあ、2人でどんなゲームを作ろうかと考えはじめたのが、『テクテクテクテク』の発端ですね。
──別のインタビューでは「最初は歩く『ドラクエ』というコンセプトだった」とのお話がありましたよね。
麻野氏:
そもそものはじまりは、この地図帳なんです。でも、田村君とふたりで初めて打ち合わせをしたときに、「これはいくらなんでもマニアックすぎて、受け入れられないだろう」と言われて(笑)。「じゃあ、田村君は位置ゲーで何をしたい?」と聞いたら、「メジャーなものを作りたい」と言ったので、それなら『ドラクエ』かなと。
そこで“歩く『ドラクエ』”というテーマを看板に掲げて、プログラマーなどのスタッフに声をかけたりしながら、1年半ぐらいかけてプロトタイプを作っていました。
いろんな会社に営業活動をしたり、知人にちょっとした参考意見を聞いたりするときも、“歩く『ドラクエ』”と説明するとイメージしやすいので、そのときはそういうコンセプトでずっとやっていましたね。
中村さんに初めて見せたのも、そうやって作ったプロトタイプです。
──プロトタイプ版はどういうゲームだったんですか?
麻野氏:
今の『テクテクテクテク』でいうところの、すでに塗られている状態ですね。地図がすべてファンタジー化されているところをモンスターが徘徊していて、そこを歩いて冒険するという。
──現実の世界が冒険のフィールドになっていて、そこを歩いて探索する形、ですか。
麻野氏:
そうですね。だからプロトタイプだと『ポケモンGO』【※】のほうがむしろ近いかもしれませんね。
ただこのときは、「リアルな場所で冒険しているのがわかりづらい」と言われたことがあって。そこで地図が出てくるというのを考えたんです。
中村氏:
ボタンを押すと、自分のいる場所から周囲に丸く広がって、覗き窓みたいに現実の地図が見えるようになっていたんですよ。
麻野氏:
それで自分のいる場所の地図が見えるんです。なぜこれを入れたのかというと、外を歩き回ってゲームを遊んで、「さぁ、家に帰ろう」と思ったときに、駅がどっちにあるのかわからないんですよ(笑)。今の『テクテクテクテク』だと、ファンタジー化された世界の下に現実の地図が透けて見えているから、今いる場所がわかるんですけど。でもプロトタイプのときは、完全にファンタジー世界になっていたんです。
でも地図を使ったゲームを遊びながら、「駅はどこにあるんだっけ?」と、Googleマップを開くのもアホらしいじゃないですか(笑)。そこでボタンをポンと押したら、現実の地図が開くというのを作ったんです。
この地図を切り替えるというのが当時、中村さんをはじめ、誰に見せてもウケたんです。
中村氏:
最初に見せられた画面は、すごく出来のいいRPGの場面だったんですよ。プロトタイプとはいえ、プログラムもけっこうちゃんと作られていて。それで話を聞くと、「このマップって、じつは今いるここなんですよ」と。今まで見ていたゲーム画面から急に現実の地図が開いて、「あそこのコンビニがここにあって」と説明されて、「これは面白い!」と思ったんです。
──まさにリアルの現実世界でRPGをやろうとしたわけですね。
中村氏:
ええ。それでこれを見た瞬間に、自分の子どもの頃を思い出したんです。小学生から中学生へとだんだん大きくなるにつれて、自分の行動範囲が次第に広がっていくじゃないですか。途中で自転車を買ってもらったりして。そうすると、こんなところに神社があるとか、池があるとか、自分の知っている場所がどんどんと広がっていくことに、ワクワクしましたよね。
今まで行ったことのない山に行ったり、川に行ったりして、そこで新しい遊びを見つけてワクワクするのとまったく同じ感覚で、このゲームではモンスターを見つけたり宝箱を見つけたりできるんだと思うと、これはたまらないなと。
特に大人になると、自分の家から駅に行くまでの通勤経路なんかはほとんど決まっていて、ふだん住んでいる街でもすべての道を歩いたことはないというのが、現実だと思うんです。だからこのゲームをきっかけにして、自分の住んでいる街をウロウロしながら冒険できるというのは、すごく面白いなと思って。
「これは面白いからぜひやりましょう!」と伝えたのが、麻野さんたちがはじめて1年半ぐらい経ってからですから……もう2年半、3年ぐらい前のことになるんですかね。
麻野氏:
だから、最初に企画してからちょうど丸4年ぐらいですね。中村さんに最初に見せたときに、今いる場所がゲームフィールドになるんだという、シンプルなところに共感してもらえたのは、ラッキーだったと思いました。あの時点でもし難色を示されていたら、すべてが終わっていたので。
自分の足で直接その場所まで行く、“現地塗り”原理主義者です
──おふたりとしては『テクテクテクテク』をどういう風に遊んでもらえるのが理想だという想定で作られているのですか?
麻野氏:
僕と中村さんとでは、想定がたぶん違うと思うんですけど。なにしろ僕は“現地塗り”原理主義者なので。
──“現地塗り”原理主義者ですか。
麻野氏:
『テクテクテクテク』では、自分の足で現地まで行ってその街区を塗るだけではなくて、塗った街区に接している隣の街区を、毎日歩いて集めたTTP(テクテクポイント)を使うことで、直接行かなくても塗ることができるんです。これを“となりぬり”と呼んでいるんですけど。
でも僕としては、自分がまだ行ったことのない場所に、自分の足や自転車を使って実際に行くのが、いちばん楽しいので。だからひたすら現地に行って、塗って塗って塗って塗って、どこまでも塗るという。
僕みたいに現地塗りが好きな人は、とにかく現地へ行くことにこだわると思うんですよ。
全員が全員そうだとは思わないですけど、たぶん何割か、何パーセントかは僕のような人間がいると思うので。そういう人たちには、ものすごく響くんじゃないかと思います。
──編集部でも「どういう風に遊んでる?」という話をしていたんですけど、僕は効率厨なので、オブジェクトがあるところを“となりぬり”でピンポイントに塗っていく、というやり方をしていたんです。
ところが別の編集部員は、自分の家の周りをじわじわと広げていくために“となりぬり”を使っているというので、けっこう使い方が違うねと。
麻野氏:
じつは設定を切り替えると、現地塗りで塗った街区はカラーで、“となりぬり”で塗った街区は白黒で表示させることもできる【※】んです。自己満足なんですけど(笑)。
※街区の白黒表示
設定→ゲーム設定→グラフィック設定の「現地ぬりした街区のみ緑化」で設定を切り替えることができる。また、「地図上の文字情報」の設定項目も用意されており、居場所を判明させたくない場合はオフにするといいだろう。
中村氏:
それである一定のレベルになると、白黒で塗られているところに後から実際に行くと、そこをカラーに、つまり現地塗りに変えることができるんですね。いったん“となりぬり”で塗っちゃったからといって、後から変えられないわけではないので。
じつを言うと、現地塗りで広げていくことがこのゲームで有利になるところも、ちゃんと設定されているんです。麻野さんは自分を「“現地塗り”原理主義者」と言っていましたけど、僕も『テクテクテクテク』のいちばんの醍醐味は、現地塗りだと思っているので。
麻野氏:
”現地塗りにはじまり現地塗りで終わる”と、僕は思っていて。途中、いろいろあるんですけど、結局どこかで「現地塗りがいちばんだ」という風になるはずなんですよ。
──『Ingress』や『ポケモンGO』と、『テクテクテクテク』の違いは何だろうかと考えたときに、『Ingress』や『ポケモンGO』はまず目的地があって、そこに向かって歩いていくじゃないですか。
つまり、歩くのはあくまで過程だと。
それに対して『テクテクテクテク』は、歩くことそのものが目的であり、ゲームの面白さになっているので、そこが決定的に違うと思いました。『テクテクテクテク』は歩くことに快感があるんですよね。
麻野氏:
ありますね。いろんなところに歩いていくので、最初はお金がかからないんですよ。そのうち電車を使いはじめると、お金がかかるんですけど(笑)。とはいえ、大人だったらそこまでお金のかかる趣味でもないので。
中村氏:
いやいや、けっこうかかるよ(笑)。
麻野氏:
あなたは日本中を回っているから(笑)。
『Ingress』ってすごく面白いんですけど、僕にとっては遊んだ甲斐がないというか。僕は緑(Enlightend【※】)なんですけど、自分のエリアを緑にしてもひっくり返されたりするし、2週間ぐらい経つと結局、すべてが砂の上に書いた文字みたいに消えちゃうので。
僕に関して言えば、ゲームに自分の爪痕をずっと残しておきたいというのが、いちばん大きかったんです。
※Enlightend(エンライテンド)
『Ingress』のゲーム内でプレイヤーが所属するふたつの勢力のうちのひとつで、緑色がテーマカラーとなっている。ちなみにもう一方の勢力は“Resistance(レジスタンス)”で、こちらは青色がテーマカラーである。
『テクテクテクテク』には、自分のライフログみたいな要素もあるので。“予約ぬり”といって、現地に行ってから24時間以内にその街区をタップすれば、後から塗れるんです。
だから、旅行に行ったときのついでに、スマホをポケットに入れて普通に観光して、旅館に帰ってからゆっくりと塗ることもできるんですよ。そういう意味では、旅行の楽しみがこれでひとつ増えると思います。
あとは、旅行したあとによく、地図を眺めて振り返ったりするじゃないですか。このゲームだと、それに近いことが勝手にできてしまうんです。
旅行の道のりがプレイの記録として残るので。人間というのは、場所に対しての記憶を覚えているものじゃないですか。ゲーム画面で地図を見たときに、「ここに行ったときはあんなことをした」というのが、思い出とともに蘇ってくるんですよ。
そういう意味でも『テクテクテクテク』は、いったんハマると一生モノのアプリだと、僕は思っています。自分の人生……というと大げさなんですけど、自分の生活と地続きで遊べる感覚が、僕にはすごくあるんです。
──麻野さんの地図に対するこだわりが、『テクテクテクテク』の原点になっているのがよくわかりました。では麻野さんのそのこだわりは、どこから生まれたものなのでしょうか?
麻野氏:
ものすごく簡単にいうと、“一種の征服欲”だと思うんですよね。自分の土地や陣地を広げていくゲームというのは。たとえば『信長の野望』【※1】とか、『シヴィライゼーション』【※2】とかもそうですけど。
※2 『シヴィライゼーション』
アメリカのゲームデザイナー、シド・マイヤー氏が生み出した、文明の発展をテーマにした戦略シミュレーションゲーム。1991年の第1作発売以来、現在までにナンバリングタイトルは6作を数えているほか、拡張パックや外伝的タイトルも多数発売されている。
ただ、そうしたゲームで陣地を広げても、それはゲームが終わったら消えてしまうじゃないですか。でも『テクテクテクテク』の場合は自分が歩いたというシンプルな結果が、ちゃんと一生残るんです。
それって大げさにいうと、「自分の生きてきた証しが残る」ということ。もちろんそのためには、サーバーを維持しないといけないですけど。
そんなに旅行はしないという人でも、自分のふだん歩いた距離が変換されて、それを使ってたとえば横浜市を全部塗り切ったというような形で、可視化することができますから。自分が移動したことが形になって残れば、それは今までにはなかった喜びなんじゃないかと思います。
──大ヒットするゲームには、人間のプリミティブな欲求や欲望を満たす部分があると思うんです。たとえば『ポケモン』なら虫取りの楽しさですね。
『テクテクテクテク』で歩いて地図を塗るのも、そういうものであると思うんです。
麻野氏:
我々もそう思っています。プリミティブな欲求なんだけど、今まではルールがなくて満たすことのできなかったものが、このゲームによってルールを作れたので。だから「自分はこれだけ歩いたんだ」と、誰に対しても自慢できるものになったと思います。
『ポケモンGO』を遊びながら、一緒に遊んでほしい
──“予約ぬり”に関してなんですが、今後のアップデートで、アプリをバックエンドで起動していれば“予約ぬり”してくれるようになるのでしょうか。
中村氏:
わりと早々に、極端にいうとこのアプリを立ち上げていなくても構わないという形になる予定です。それは今、プログラム的には仕込み中でして……。デバッグ云々の問題があるので、ローンチ時には止めておこうか、という判断です。
自分で遊んでいると、新しいところに行ったのに起動するのを忘れていて「あっ、しまった!」みたいなことがけっこうあったんですよ。そのダメージが案外デカくて、しばらくイライラしちゃったりして(笑)。
なので、そういうことが起きないようにしたいと思っています。
麻野氏:
現状でも“スリープしない”という設定があるので、これでたとえば、スマホをポケットに入れて自転車で走り回ったり、車の助手席に放っておいたりすることもできますから。
最終的にはもう、『ポケモンGO』を遊びながらできるゲームにしたいので(笑)。『テクテクテクテク』を1回立ち上げてもらったら、あとは外を歩き回って『ポケモンGO』を遊んで、家に帰ってから今日歩いた分の予約塗りをするという。
ぜんぜん共存ウェルカムなゲームですよ(笑)。
──それってオフィシャルに話してもいいんですか?
麻野氏:
大丈夫ですよ。こちらとしては、向こうを敵に回す気はぜんぜんないので(笑)。
──昔、MMORPGが流行したときに、『スカッとゴルフ パンヤ』【※】というオンラインゴルフゲームが同時に流行ったんですよ。要するに、ひとりでMMOを同時に2タイトルも遊べないと。MMOを遊ぶのは1タイトルが限界なんだけど、そのおまけにゴルフゲームなら遊べるよという。セカンドゲームという言葉が当時あったんですけど、そういうセカンドゲームのポジションって、じつは穴場というか、狙い目な気がするんですよ。
『スカッとゴルフ パンヤ』13年の歴史に幕――パンヤは“戦いに疲れた僕たち”にとっての癒しであり別荘だった【書き手:マイディー】
※『スカッとゴルフ パンヤ』
韓国のNtreev Softが開発したオンラインゴルフゲームで、ゴルフのプレイに加えてキャラクターの育成や衣装の着せ替えも楽しめた。日本では2004年よりサービスが開始されて、2017年に終了したが、海外ではプラットフォームをスマートフォンに移し、『Pangya Mobile』として再展開が行われている。
麻野氏:
そういう気がします。『テクテクテクテク』を発表した後にTwitterを見ていると、「でも今は『ポケモンGO』をやっているから、どっちをやろうかな」みたいなことを言っている人がいて。いや、どちらもぜひやってくださいと。ぜんぜん共存できますから。
──『テクテクテクテク』のゲーム内容は、比較的シングルプレイに寄っていますよね。オンライン要素が普通についているスマホゲームで、あえてマルチプレイにはしないという選択をしたんでしょうか。
麻野氏:
マルチプレイの要素も大事だと思うので。今後入れていく予定はあるんですけど。でもまずはシングルでプレイして面白いゲームというのを目指しました。
中村氏:
ゲームがコンシューマーからスマホに移ってきて、無料で遊べることが前提になると、ほとんどのゲームは他の人と競ったり対戦したりすることが必須になって、負けたくないから課金する、みたいな構造になっているじゃないですか。そんななかで、ひとりでゆっくり落ち着いて遊べるものとして、麻野さんがさっき言った「地図に自分の爪痕を残す」というのがあるのかなと思うんです。
とはいえ、すでに発表していますけど、最初のメジャーバージョンアップでレイドバトルを実装する予定です。めちゃくちゃ強いゴジラに対して、みんなで戦うという形ですね。
あとは、現状だとモンスターを仲間にするところまでしか入っていないんですけど、今後は仲間にしたモンスターを牧場で育成できるようになるんです。そうしてレイドバトルがはじまると、仲間になったモンスターたちもバトルに参加できます。
──なるほど。ひとり遊びというところにフォーカスしながらも、オンライン的な盛り上がりというか、みんなが集まる仕掛けも用意されているんですね。
新幹線で移動しながら塗るのは,ほとんどアクションゲームです
──先ほど“予約ぬり”の話が出ましたが、予約ぬりというのは訪れた街区がマップ上で予約されていて、24時間以内にそこをタップして塗る形ですよね。街区を訪れたら自動的に塗られるのではなくて、自分の手で塗ることにあえてこだわっているんですか?
中村氏:
そこはすごく重要で。ゲームとしては、移動しているだけでどんどんデータが蓄積されていくんですけど、これを完全にオートで塗っちゃうと面白くないんですよ。
ちょっと面倒くさい部分と、宝箱がどんどん出てきたりするワクワク感みたいな部分が凝縮されて、ふと気がつくと2時間ぐらい経っている。この時間というのがゲームにはすごく重要で。
プログラム的にはオートで塗っちゃうこともできるんですけど、でもそれはあえてやっていないんです。
──僕はちょっと前に名古屋に行ったんですけど。新幹線に乗っているときに『テクテクテクテク』の画面を見ていると、ものすごい勢いで街区が予約されていくんですよ。
それを片っ端からタップして、頑張って塗っていると、気付くと1時間ぐらい経っていて(笑)。
麻野氏:
アクションゲームですよね、ほとんど(笑)。一周回ってアクションに戻ったみたいな感じになっちゃうんですよ。
──このあたりのゲームをプチプチ遊んでいる快感というか、手触り感みたいなものって、少なくともこれまでの他の位置ゲーにはなかったものだと思うんです。
ちなみにプレイスタイルとしては徒歩だけではなくて、電車や自動車で移動しながら遊ぶことも想定されているんですよね?
麻野氏:
もちろんです。『Ingress』でもバスとかに乗ったらハッキングがはかどるじゃないですか。あの感覚がすごく大事だと思ったので、時速制限とかは絶対に設けたくないと。
──自動車に乗っているときの速度でもちゃんと遊べるようにする、みたいな調整が行われているのですか?
麻野氏:
特に調整はしてないですね。スマホの性能=ゲームの限界です(笑)。一応、飛行機の機内Wi-Fiでも塗れましたから(笑)。
──では飛行機に乗るとどうなるんでしょうか。
中村氏:
街区の予約がめっちゃ速いですよ(笑)。タップして塗るのがもうまったく追いつかない(笑)。iPhone XとiPhone SEの両方を機内に持って行ったんですけど、通信の電波を拾う関係なのか、Xだとなんとかプレイできたんですけど、SEはまったく追いつかなかったですね。開発段階のテストを兼ねていたので、最新版だとどうなっているのか、よく分からないですけど。
──歩いているときのゆったりした感じと、自動車や電車に乗ったときのちょっとズルしている感じのギャップが、素晴らしいなと思っていて。
中村氏:
街区をタップできる範囲を表すサークルがあるじゃないですか。じつはあのサークルを大きくするアイテムがあるんです。アイテムを使ってサークルをどんどん大きくしていくと、最初の大きさの3倍近くにまでなるんですね。サークルの大きさを3倍にして新幹線に乗ると、ものすごい勢いでブワーッと街区が予約されていくので、天下を取ったような気分になりますよ(笑)。
──サークルを大きくできるというのは面白いですね。
麻野氏:
実際の話、サークルを大きくしないと塗れないところがあるんですよ。たとえば自動車教習所の中に、道路がたくさんあるじゃないですか。あれが全部、街区として認識されるんです。ところが教習所の外からだと、中の街区までサークルが届かないんですよ。だから、ある程度サークルを大きくしないと塗れないんです。
あとは女子大の敷地も、僕らは中に入れないので(笑)。自分で地図帳を塗っているときに、どうしても中に入れなくて塗れなかったのが、米軍キャンプと自衛隊の基地と女子大のキャンパスで(笑)。
あとは皇居とか皇室関係。こういったところには入れないというのが、自分で東京を回ってわかりました。
──たとえば練馬区と朝霞市との境界のあたりは、自衛隊の基地がかなり広いので、中には入れないですよね。
麻野氏:
そうなんですよ。あそこの基地の中に『Ingress』のポータルが2つぐらいあるので、たぶん自衛隊の人がやってるんだと思うんですけど(笑)。
そういう場所に入れない悔しさをなんとかしたいと思って、『テクテクテクテク』ではアイテムを使ってサークルを大きくすれば、入れない場所でも外側から塗れるようになっているんです。
中村氏:
『テクテクテクテク』を遊んでいると、この街区を塗りたいのにどこから行ってもギリギリで届かない、みたいなことが起きるんですよ。それで思わず駐車場の塀のところから、スマホを持った手を伸ばしてみたりとか(笑)。そういう行為をコンピュータゲームでやる自分が、それまではまったく想像できませんでしたから。その瞬間に「これはメチャクチャ面白いな!」っていう、そういう感動がありましたね。
僕が“現地塗り”原理主義に目覚めたのは、横浜の港なんです。港のあたりって、道路はあるんだけど、その先が私有地というか、会社の敷地だったりするんですね。
それで、ぜんぜん普通に入れるところもあれば、完全にゲートがロックされていて、その横に守衛さんが立っているようなところもあって。「この中を塗りたいんだけど、さすがに入れないよなぁ」と思いながらチラッと見たら、守衛さんもこっちを見ているんですよ。
「なんか変なヤツがスマホを持ってウロウロしてる」と(笑)。
あとは青果市場の中にある区画を塗りたいんだけど、青果市場も関係者しか入れないのかなぁと、周りをウロウロしたりとか。そうやって、あっちから行ったりこっちから行ったり、やっぱりダメだと引き返したり、そういうことをやっているときに「これが現地塗りの面白さなのか!」と思ったんです。
麻野さんが言っていたのはコレなのかと。
麻野氏:
そうなんですよ。
中村氏:
麻野さんも、そういうことを体験談混じりでちゃんと説明してくれればいいのに。「塗りが絶対に面白い」って、それしか言わないから(笑)。
麻野氏:
たぶん僕は言ったと思うんだけど、中村さんが覚えていないんですよ。実際に自分でやってみないと、伝わらないところがあって。
簡単に言うと、それこそ『メタルギア』【※1】とか『アサシン クリード』【※2】のプチバージョンみたいなものなんですよ。あそこまで命がけではないですけど、こう、守衛さんの様子を伺ってサッと動いたりとか、駆け引きをしながら(笑)。
※2 『アサシン クリード』
2007年発売の第1作以来、メインシリーズだけで11作が制作されている、オープンワールド・アクションゲームの人気作。プレイヤーは世界史の裏側で暗躍するアサシンとして、潜入と暗殺を実行する。
──もちろん不法侵入はダメですよ(笑)。
麻野氏:
あとは廃屋みたいなところがあって、この敷地に入っていいものかどうしようかと迷っていたら、横でおばちゃんが近所の子どもに「入っちゃダメよ!」って怒っていたりとか(笑)。
こういうのって、口で説明しても伝わるとは限らないので。「単なる変な人じゃん」で終わっちゃいますから。
中村氏:
ゲーム開発の現場で、そんな体験って普通はできないので、もう、メッチャクチャ面白かったですね、いろんなことが。
『テクテクテクテク』ではMap Fanという地図のデータを使っているんですけど、我々はすべてを目で見たわけでも、実際に歩いてきたわけでもないので、まったく想像できないことが起きるというか。
現実のリアルな地図を利用することで、いろんな意味でかつてない体験ができると思うんです。
たとえば、島に行って実際に塗ってみると、島の向こうにある小さな岩とか、「これはどうやって行くんだろう」みたいなところがあったり。
──それはさまざまなドラマが生まれそうですね。