インベーダーゲームを足でプレイしていたら “人生勝ち組”の仕組みに気づいた慶應義塾大学教授

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自分の好きなことと、やるべきことが一致している人間が“勝ち組”だ

――子どもたち、あるいは中学生や高校生の中には、好きなゲームを遊びたい、でも勉強もしなきゃいけないと悩んでいる人も多いと思います。そんな人たちに、大学教授である冨田さんからのアドバイスは? 

冨田:
 もし大学を受験するのであれば、AO入試で受けるとまず決める。AO入試ってご存じですか? 

――単語自体は良く聞くんですが、キチンとは理解していません。

冨田:
 一般的な大学入試はマークシートの一発テストで、コンピューターで採点して、上から何百人が合格っていう形ですよね。それに対してAO入試は、書類と面接なんです。高校時代にどんなことをして、大学では何をやりたいのか。つまり入社試験と同じですよ。これが本来の人の選び方だと思うんです。

 今、日本のほとんどの大学がAO入試を実施しています。だから自分は受験勉強をせずに、AO入試で大学を受けるとまず決める。そうするとAO入試で問われるのは、あなたは高校時代に何をやったのか、あなたは何が得意なのか、そして大学で何をやりたいのかということ。それに答えられるようになるためにはまず、自分の好きなことを徹底的にやるんです。

 ゲームでもなんでもいいんですよ。自分の好きなことを徹底的にやる。中途半端はダメです。どんなマニアックなことでも、一生懸命やって究めると、他人が感動してくれるんですよ。「『スペースインベーダー』で、足を使って8000点出したぞ」ってね(笑)。

AO入試のAOは、「アドミッションズ・オフィス」のこと。
学科試験だけでは測れない、学生の個性や目的意識、意欲や情熱といったところを重視した選考方式であり、面接や書類審査などを重視することが多い。冨田氏が教授を務める慶應義塾大学環境情報学部がある、湘南藤沢キャンパスが1990年に日本で最初に導入した。
(画像は慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス公式サイトより)

――たしかにそうですね(笑)。

冨田:
 それができたら次は、自分が続けることによって、世の中に何か価値を残せるものはないかと考える。自分が大好きなもの、それなりに究めたものを入り口にして、自分が世の中に価値のある人と思われるかどうか、そしてその価値をどうやって高めたらいいのかを、真剣に考えてみるんです。

 これは自分自身にしか分からないことです。自分が何をやりたいのか、そして何をやるべきなのか、先生も親も誰もわからない。好きだと思ったことがじつは嫌いだったり、これはおもしろいと思ったことをやってみたら、意外とそうでもなかったというのは、よくあること。試行錯誤の連続でもあるんです。それを自分の頭で考えることが、人生だと思うんです。

――先の見えない試行錯誤を嫌ったり、怖がったりする人もいると思いますが? 

冨田:
 自分の好きなことと、やるべきことが完全に一致するというのは、現実にはほとんどないですよ。でもほぼ一致したら、これは人生無敵です。こういう人を“勝ち組”って呼ぶんだと思います。スポーツ選手にしても他の分野にしても、第一線で活躍している人はみんな、その分野のことが大好きでしょう。大好きなことがやるべきことになっているわけで、それはもう勝ち組ですよ。

 簡単なことではないですし、みんながそうなれるわけでもない。運も必要だし、もちろん努力も必要なんだけど、少なくともそれを目指すべきです。一度しかない人生で、自分独自の価値を発掘するトライをしないで、なんとなくみんなと同じことをやってるというのは、非常にもったいない。そもそもみんながそういう姿勢だと、これからの日本は停滞してしまいます。

――冨田さんご自身が、そういったトライを続けてきたわけですよね。

冨田:
 僕自身、『スペースインベーダー』に使った果てしない時間とお金がなければ、コンピュータープログラムの勉強をしようとは思わなかったし、人工知能をやろうとは思わなかったし、生命科学を研究しようとも思っていなかったわけですから。まさにあれが原点ですよね。

 本当に自分が興味を持ったことのために勉強するのは、ものすごく楽しいんです。よく小学生が新しいゲームの攻略本を朝一番に並んで買ってきて、熱心に読んだりしますけど、その集中力ってじつは、学問でも同じなんですよ。まず自分の興味があることを見つけて、そのために勉強すると、ものすごくパワーが出るんです。

 勉強が嫌いで、マニアックな人っているじゃないですか。自分の好きなことは一生懸命やるんだけど、テスト勉強は苦手っていう。でもそういう人こそ、じつは日本の宝かもしれない。そういう人を凡人にしないように、AO入試で大学に入ってもらって、ほかの人と違うことをずっと続けてもらいたい。そういう勝負をする人が今の日本にもっと必要です

もし今ゲームをやるのなら、その時はトップを目指す

――ちなみに冨田さんは、学生のみなさんとゲームのお話をされたりしますか? 

冨田:
 僕が20代後半ぐらいから、ブレずに信念を持ってやってきたのは、ゲームの話を取材しにきたみなさんに言うのもなんですけど、じつはゲームをやらないことなんです。

――えっ、そうなんですか!?

冨田:
 いったんゲームをやり始めると、とんでもない時間を費やすというのを知ってるんですよ。

――かつては『スペースインベーダー』で、実際にそうなられたわけですから。

冨田:
 そうそう(笑)。僕の性格からすると、『ポケモンGO』でも『ドラクエ』でも、いったんハマっちゃうと、とんでもない時間を使うって分かってるんです。だったら最初から“やらない”と、分かりやすく宣言したほうがいいと思って。

――やっぱり社会人になると、そこまでゲームに時間を割くわけにもいかないということですか?

冨田:
 中途半端に始めてもね、トップ・オブ・ザ・トップにはなれないですから。学生たちとゲームの話をして「冨田さん、その程度ですか」って言われるぐらいだったら、きっぱりやらないって言うべきだと。

――逆に言うと、もしゲームをやるとなったら、その時はトップを目指されるわけですか? 

冨田:
 もうそれこそ2年ぐらい、サバティカル(長期休暇)でも取ってね(笑)。しかもトップになるには、ゲームが出た瞬間にやらないとダメじゃないですか。僕は今、58歳ですけど、シニア部門日本優勝とか、世界大会優勝とか、ゲームにもシニア部門があればいいんだけどね。

――お話を伺っていると、本当にリアルタイムで現役として、最前線に立たれるという意思が強いのですね。

冨田:
 それはゲームのことですか? 

――いえ、ゲームだけじゃなくて、どの分野でも。

冨田:
 もちろんそうですよ! もうすぐ還暦という歳に、自分がなってみて初めて分かりましたけど、60歳なんてまだまだ少年ですよ。やっぱり80歳ぐらいにならないと、おじいちゃんとは呼べないんじゃない? 

――80歳でゲームをバリバリ遊んでいる方を、ちょうどこの企画で取材しましたが(笑)。

関連記事:
ダークソウルおじいちゃんは1472回死んでいた!〜テレビで話題の80歳が実践する、濃厚ゲームライフ〜

冨田:
 そうなんですか。僕の父【※1】も今年の5月に84歳で亡くなったんですけど、最後まで少年でしたからね。「本当にやりたいことがある」とか言って、亡くなる1時間前まで夢を追いかけてましたから【※2】。ああいう人生は、いいですよね。

※1 僕の父
冨田勝さんの父親は、『ジャングル大帝』や『きょうの料理』といったTV番組の音楽を作曲したほか、シンセサイザー音楽の第一人者としても知られる、作曲家の故・冨田勲さんである。
(画像は日本コロムビア 冨田勲氏公式ページより)
※2 亡くなる1時間前まで夢を追いかけて
冨田勲さんは、初音ミクと人間のダンサーが共演してバレエを踊るスペース・バレエ・シンフォニー「ドクター・コッペリウス」を、亡くなる直前まで制作していた。
(画像は日本コロムビア 冨田勲氏公式ページより)

――今回お聞きしたお話だと、冨田さんご自身もそういった人生を十分に送られていると思いますよ。

冨田:
 いやいや、僕はまだ58歳だから(笑)。


 ふだん大学で教鞭を執られているだけあって、冨田さんのお話は非常に説得力のあるものだった。ゲームでもなんでも、自分の好きなことを徹底的にやれば、そこから自分の人生の価値を見つけられるという言葉に、勇気づけられた人は多いのではないだろうか。

 そしてなにより、『スペースインベーダー』と将棋ゲームを入り口にして、学問への道を切り拓いてきたという冨田さん自身の半生こそが、その最良のサンプルとなっている。

 それにしても、日本のビデオゲームの原点とも言える『スペースインベーダー』の時代に、“魅せプレイ”でギャラリーを沸かせてテレビ出演まで果たした冨田さんは、日本最初期のゲーマーとして記憶されるべきだろう。

 ファミコン以前のアーケードゲーム黎明期、そしてパソコンで自作されたゲームがショップの店頭や、雑誌のプログラムリストを媒介として広まっていた時代から、冨田さんのような人物によって、日本のゲームの歴史は築かれてきたのだ。

取材の最後には、懐かしの『スペースインベーダー』をプレイ。名古屋撃ちの腕前は、もちろん健在でした。

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