【徹底検証】やる夫と学ぶ「裏技」という言葉の誕生。そこには昭和の男性諸君を“賢者”にした「禁断のメディア」の俗称が影響していた…!?

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 「経験値」という言葉が『ドラゴンクエスト』で使われたことによって、もともとの言葉が持っていた意味合いが変わっていったという記事を覚えているだろうか? その好評を受け、“ゲームが変えた日本語”について語る記事がめでたく連載となった。今回はその第2回目。

参考記事:
【徹底検証】ドラクエのせいで日本語が変わったってホント? やる夫と学ぶ「経験値」という言葉の変遷

 今回のテーマは「裏技」。この「裏技」という言葉もまた、ゲームをめぐる状況によって、新たに言葉の意味が生み出され、細々とあった本来の意味から大きく変容していった。

 調査員となるのは、前回に引き続きタイニーPというお方。日本のホビーパソコンの歴史について詳しく、ニコニコ界隈で活躍している人物だ。そのタイニーPに今回も、ゲームと日本語の関係についてわかりやすく、やる夫とやらない夫で解説していただこう。

プロフィール
コンピューター文化史研究家。2013年よりブログにて「やる夫と学ぶホビーパソコンの歴史」を連載。約2年で本編を完結後は、不定期に番外編を掲載。日本の文化・社会とコンピューターやビデオゲームとが、どのように関係してきたのかに関心を深めている。当たり前と感じていることに疑問を持つのは難しいと思う今日このごろ。
Twitter @Kenzoo6601
やる夫、またまた参上だお。それにしても前回は、急に記事の題名が変わったりとか、公開後に予想外の展開がありまくりだったお。
ともかくご好評をいただいた結果、「やる夫と学ぶゲームが変えた日本語」シリーズとして連載を続けさせてもらうことになった。中の人ともども、今後ともよろしくお願い申し上げる。
じゃあさっそく、2回目をスタートするお! 

早くから一般に定着した「裏技」

さて、今回のテーマは「裏技」だ。
ファミコンブームのころは、ゲームやってる子どもたちみんなが、裏技に夢中だったって感じだお。
そうだな。ファミコンブームを決定的なものにした任天堂の大ヒット作『スーパーマリオブラザーズ』が登場したのが、1985年9月。すでにこの時点で、裏技はビデオゲームの重要なトピックになっていた。
『スーパーマリオ』からも、裏技がいっぱい見つかったお。
『スーパーマリオ』の人気沸騰により、ブームを伝える報道も増え、それらには、裏技の話題も当然のように盛り込まれた。もっとも報じる側には、裏技なるものにどうして子どもたちが夢中になるのか、いまひとつ釈然としていなかった向きも多いようだがな。
裏技を知ってることが、ゲームをより深く知ってることの証っていう雰囲気は、あったような気がするお。
ともあれ遅くとも1987年ごろには、ビデオゲーム関連ではない雑誌記事の見出しに、「裏技」あるいは「裏ワザ」などの言葉が使われる例がいくつも見られるようになった。たとえば、青春出版社の『BIG tomorrow』1987年7月号には、「成功した人間だけが知っているつき合い心理術 どんな苦手な奴でも、この裏ワザにはイチコロ! 相手をうまく乗せて味方につける人心コントロール法」という記事が出ている。
ふむふむ。あっという間に世間に定着した感じだお。
『スーパーマリオ』が空前のヒットを記録した理由のひとつに、画面からではわからない隠し要素が満載だったことが挙げられる。これらの発見方法も含め、『スーパーマリオ』は裏技の宝庫だった。
(画像は任天堂 バーチャルコンソールページより)

まず辞書を確認…その記述と実情のズレ

さてここで、前回と同様に国語辞典での「裏技」の項目を見てみよう。『広辞苑』、『大辞泉』、『大辞林』では、それぞれ以下のように説明されている。

1. 広辞苑(第六版): 「コンピューター-ゲームで、正規には知らされていない効果的な方法。広く、一般に知られていない、また、公に認められていない巧妙な手段や方法。」

 

2. 大辞泉(第二版): 「人に知られていない隠れた方法。通常の方法とは異なるが、意外な効果のある方法。特にテレビゲームで、開発者が意図したものとは違う、特殊な攻略法。」

 

3. 大辞林(第三版): 「(1)コンピューター-ゲームやアプリケーション-プログラムで、正式には公開されていない操作方法によって有効な結果を得ること。(2)一般にあまり知られていないやり方。また、知っていると便利な知恵のこと。」

どれも、ゲームでの意味と、もっと一般化した意味の両方が載ってるわけだお。
これらよりも小型の国語辞典には、たとえば集英社国語辞典第3版のように、一般化された意味のみが説明されているものも少なくない。「裏技」は、それほどにまで広く定着した表現という点で、“日本語にもっとも浸透した”ゲーム用語と言えるだろ。一方で、先に挙げた辞典での説明とビデオゲームの裏技の実際を比較すると、若干のズレを感じざるを得ない。
辞典の説明が間違ってるってことかお?
いやいや。おそらく、世間に定着した理解のされかたを簡潔にまとめると、しばしばそういうことが起きるのだと考えられる。ただ、辞典での説明と実際とのズレをよく検討することは、裏技のより詳しい実態を考えるきっかけにできるはずだ。
そういう話なら、わからなくはないお。
まず、大辞泉の「開発者が意図したものとは違う」とのくだりのズレについて考えよう。実際には、ビデオゲームの裏技には、開発者が意図的に仕込んだものもかなりの割合で含まれている。
たしかナムコの『ゼビウス』には、一見何もない場所を攻撃すると登場する「隠れキャラクター」を仕込んであったんだったかお。
うむ。『ゼビウス』がゲームセンターに登場したのは1983年初頭のことだが、そのパンフレットにすでに「隠れキャラクター」という言葉が使われていたことは、特筆されるべきだろ。これがマニアのあいだの口コミや、当時まだ数少なかったビデオゲーム雑誌で大きな話題を呼び、間もなく他社に模倣されるようになった。
画面右中央が隠れキャラクターのソル。隠れている地点をブラスター(地上攻撃)で撃つと出現する。
(画像はバンダイナムコ バーチャルコンソールアーケード解説より)
真似されるくらいに、隠れキャラクターが『ゼビウス』を大いに盛り上げたってわけだお。
そうだな。次は、広辞苑や大辞林での、「正規には知らされていない効果的な方法」、あるいは「正式には公開されていない操作方法」「裏技」とする説明についてのズレだ。
それは、どのへんがズレてるんだお?
この説明には、攻略法も当てはまってしまう。ビデオゲームの攻略法は、基礎的なものについては、説明書やゲーム中で示されることもある。しかしより高いレベルのものは、それが開発者の意図したものでも、手順が明示されず、プレイヤー側で発見するよう仕向けられていることが少なくない。そしてもちろん、開発者が意図しなかった攻略法が存在するゲームも数多い。
そういう攻略法も、“正規には知らされていない”ことには違いないわけだお。
もうひとつの問題は、ゲーム中などにおいて公式に手順が明かされる裏技も、例は多くないものの存在するということだ。有名なところでは、1985年8月にナムコが発売したファミコン用の『ドルアーガの塔』【※】で、エンディングの最後に、高難度のゲームを始めるための特殊な操作手順、いわゆる「隠しコマンド」が示されるというものがある。
難易度を選ぶ項目が初めから出てるわけじゃないところが、裏技になるわけだお。
※ドルアーガの塔……ナムコによるアーケード用アクションRPG。のちにファミコンをはじめ、さまざまなパソコンや家庭用ゲーム機に移植されている。『ゼビウス』の遠藤雅伸氏によるゲームデザインで、60階建ての塔の各階に隠された宝箱を探しながらつぎの階を目指す。宝箱の出現条件がほぼノーヒントで、プレイヤーどうしの情報交換などを活性化させた。 
(画像は任天堂公式ページより、ファミコン版を再現したニンテンドー3DS版のもの)

キンタマリオは「裏技」なのか? やらない夫の「裏技」講義

さて、以上のような国語辞典の記述から、これらの「裏技」には、「効果的な」、「有効な」といった言葉が含まれ、「役に立つ」ことが期待されていることが窺える。しかし一方、ゲーム雑誌などで紹介されてきたさまざまな裏技の中には、攻略には役に立たないものも、かなりの割合で含まれている。これもまた、微妙なズレを感じるところだ。
『スーパーマリオ』の“キンタマリオ”【※】なんかは、まさにそれって感じだお。

※キンタマリオ
画面最上段まで移動できるワールドで、マリオの股間に手持ちコイン数のアイコンがちょうどくるように立つと完成。その場でコインがキラキラ光る。

まあそのような、ただ見た目がおもしろいだけのものは、ゲーム雑誌で裏技の記事があまりに人気を呼んだために、記事の頭数を揃える目的でかき集められたという事情もあったようだがな。そこまでではなくとも、たとえば音楽鑑賞モード【※】を裏技で用意していたゲームはいくつもある。
言われてみれば、音楽鑑賞モードは攻略とは全然関係ないお。

※音楽鑑賞モード
たとえばファミコン『桃太郎伝説』では、天の声(パスワード)として、「すべてのきよくがききたいな」と入力すると、“桃太郎音楽室”という音楽鑑賞モードに入る。

これらのことを踏まえると、プレイヤーにとって、ゲーム内の事象を裏技と認識するのに必要な要素には、大きく分けて次の3点があると考えられる。

・希少性

・有用性

・珍奇性

「希少性」ってのは、「見つけるのが難しいかどうか」ってことかお?
そのとおりだ。たとえばゲームの開発者が意図して仕込んでおり、かつゲーム中で手順が明かされていない裏技は、見つけるためのヒントらしきものがまるでなく、脈絡に乏しいことも少なくない。またゲーム内にヒントがあっても、事象を細かく観察しないとヒントそのものにプレイヤーが気づかないなど、多くは難解に仕立て上げられていると言える。
「隠れキャラクター」なんかは、「隠れ」っていうくらいだから、あんまり簡単に見つかるようだと逆にシラけそうな気もするお。
一方、プログラムのバグを利用するなど、ゲーム内で本来期待されているルールを曲げて実現したものも、裏技と呼ばれる雰囲気が濃くなるだろ。そうでなくとも、巧妙にルールや規則性の不備を突いたものについては、裏技と呼ばれる可能性がある。
バグとかルールの盲点ってのは、簡単には見つからなさそうだし、たしかに裏技っぽい雰囲気だお。
次の「有用性」は、プレイヤーに何らかの利益があることを指すが、これには攻略上の利益だけではなく、音楽鑑賞モードも含め、通常のゲームとは異なる楽しみかたを提供するものも含まれる。そして「珍奇性」とは、隠しメッセージの多くや、“キンタマリオ”の類など、有用かどうかはさて置いて、「見ておもしろい」あるいは「聴いておもしろい」などというものだ。
“キンタマリオ”のことを考えると、おもしろいだけで裏技と呼ばれる場合もあるってわけかお。
まあ、いちおうそういうことになるが、着眼点や発想のちょっとした転換がポイントと考えると、あれにも希少性が多少はあると言えそうだ。以上の考察から、ビデオゲームの「裏技」を簡潔に説明しようと試みるなら、次のような文言が考えられるだろ。

「コンピューターゲームで、正式には知らされていない効果や現象を起こす方法のうち、通常のゲーム進行からの類推や発見が困難なもの。」

なーるほど。でも、これだけ見せられて「裏技の説明だ」って言われたら、ちょっと微妙じゃないかお。
まあ、そうだな。ここまでの話を踏まえていない場合、この説明では一見意味をつかみづらいかもしれない。そういう意味で、辞典の書きかたでの説明は、なかなか難しいものだと言えるだろ。

では歴史を探ろう…「裏技」はいつ生まれたのか?

ところで、ビデオゲームの「裏技」という言葉をいまと同じ意味で広めたのは、小学館のマンガ雑誌、月刊コロコロコミック【※1】だ。1985年5月号で、“裏技”と大書した袋とじの特集記事が組まれ、その後も人気マンガ『ファミコンロッキー』【※2】に、有名な裏技だけでなく架空の裏技まで絡めた筋書きを盛り込むなど、継続して裏技を取り上げた。
『スーパーマリオ』の登場のちょっと前っていうタイミングも、偶然かもしれないけどバッチリだったわけだお。

※1 月刊コロコロコミック
小学館による、1977年創刊の子ども向け月刊コミック誌(当初は季刊、のち隔月刊での発行を経て1979年4月号より月刊)。『ドラえもん』を軸に創刊されるも、購買層の興味の範疇にあるホビー類を多く取り上げ、タイアップマンガで数々のムーブメントを起こすなど、現在に至るまで各方面に多大な影響力を持つ。ビデオゲームマンガの先駆けとなった、すがやみつるの『ゲームセンターあらし』を経て、1980年代前半には電子ゲームや低価格パソコン、家庭用ゲーム機の記事を掲載するようになり、本文中の「裏技」特集に至っている。

※2 ファミコンロッキー
1985年から87年にかけて月刊コロコロコミック誌上で連載された、ファミコンを題材としたマンガ。あさいもとゆき作。ファミコンマンガの中でも、当時ジャッキー・チェンや映画『少林寺』などで人気を博していた拳法ブームを取り込んで差別化し、人気を博した作品。作品を独特のものにしていたスタイルのひとつに、事実のように描かれる裏技の数々があり、劇中ゲームの挙動が虚実入り乱れているため、裏技の真偽の判別が難しく、当時の読者キッズに多くの誤解を生んだというエピソードもある。
(画像:編集部撮影)
では、コロコロが「裏技」という言葉を使ったきっかけや由来はなんだったのか? この点を調べていくと、不可解な謎に行き当たる。ここからその謎を紐解いていこう。まず、同誌での最初の裏技特集記事を担当した利田浩一氏は、2009年に出版された渋谷直角氏の『定本 コロコロ爆伝!! 1977-2009 「コロコロコミック」全史』に収録されたインタビューでこう説明している。

利田浩一氏:
 僕が「こういう攻略法を「裏技」ってタイトルにしたらどうでしょう?」と言ったんですね。そしたら平山さんがいたく気に入って。(中略)プロレスで客に見えないところで技をかけるのを、俗に「裏技」って呼ぶという話を聞いたことがあって、だから、そんな感じでいいかなーって気軽につけたネーミングなんですよね。こんなに一般的なコトバになるとは思わなかったです。

『定本 コロコロ爆伝!! 1977-2009 「コロコロコミック」全史』より引用

ほー。こりゃまたおもしろいいきさつだお。
しかし、中の人が1984年前後のプロレス雑誌や新聞・書籍をいくつか調べてみたものの、残念ながらこの説明を裏づける実例を見つけることはできなかった。たとえば、熱心なプロレス・格闘技ファンとして知られる、作家の夢枕獏氏【※】のエッセイをまとめた『倒れて本望』という本がある。その中に、表立っては使えない技について触れた、次のようなくだりがあるが、その前後を読んでみても「裏技」という言葉は出てこない。

「ゴッチはすごい。「えげつない技があるんだよ」そう言って、藤原が教えてくれたのだが、鼻の穴におもいきり指を突っ込む技があるそうである。」

さっきの利田さんが言ってる「裏技」そのものって感じだお。それでも「裏技」って言葉が出てこないのは、やっぱりちょっと引っかかるお。
正直なところ、1984年以前にプロレス界で「裏技」が使われていなかったと断言するのは難しい。しかし、先の夢枕氏の文章の初出が1985年6月と記載されていることを踏まえると、少なくとも、この言葉がプロレスファンのあいだで当たり前のように使われるほど広まったのは、ファミコンの裏技ブームよりもあとなのではないかと考えられる。
もしかすると、利田さんの話には、なんかの勘違いが入ってるかもしれないわけかお。
なにしろ20年以上たってからのインタビューだからな。その可能性も否定はできないだろ。

※夢枕獏
バイオレンスや伝奇を得意とする作家。1980年代前半に『キマイラ』シリーズ、『魔獣狩り』シリーズで名を上げ、以後も精力的に作品を発表。『陰陽師』、『餓狼伝』など、コミカライズやゲーム化された作品も多い。また、本文中で触れられているように、プロレスや格闘技の熱心なファンでもあり、評論やエッセイを数多く手がけている。

「裏ワザ」が題名なのに「裏技」がほとんどない本があった!?

そしてもうひとつ、忘れてはならないことがある。コロコロでは、1985年5月号の特集に先立ち、4月号掲載の次号予告の見開き広告にも“裏技”と大書されていた。この4月号の発売とほぼ同時期の1985年3月に、二見書房から『ファミリーコンピュータ 人気ゲーム裏ワザ大全集』【※】と題した攻略本が出版されている。ゲームソフト5本に対応した5冊の小ぶりの冊子を、厚紙のケースに収めたものだ。
このころからファミコン大好きっ子だった人は、思い当たるかもしれないお。
じつはこの本の内容には、現在で言う「裏技」の紹介はほぼない。『ゼビウス』のアーケード版から知られていた隠れキャラクターが説明されている程度で、そのほかは攻略法の範疇に入ると言えるものだ。
つまり、この二見書房の本では、「裏ワザ」ってのは攻略法のことだったわけだお。
これに対して、コロコロの1985年5月号で取り上げられた裏技は、『ロードランナー』の主人公がハシゴに掴まっている際に、片手だけ上げた状態で停止していれば敵に触れられてもミスにならない「秘術バリアポーズ」など、何らかの形でゲームのルールを曲げるものがほとんどだった。プロレス用語の「裏技」も、反則または禁じ手を見えないように行うという点で、“ルールを曲げる”ことに相当すると考えられる。そうすると、仮にこのプロレス用語が1984年以前にあったとしても、それと二見書房の「裏ワザ」とに直接的な関係があるとは考えにくいだろ。
確かに、ルールを曲げてるかどうかは、けっこう大きな違いになりそうだお。
※『ファミリーコンピュータ 人気ゲーム裏ワザ大全集』……『エキサイトバイク』、『F1レース』、『ゼビウス』、『マッピー』、『マリオブラザーズ』の5本のファミコンタイトルそれぞれに対応した、各32~40ページの冊子をまとめた攻略本。背面に「それぞれのゲームの名人たちがキミだけにそっと教える秘密のテクニック。この裏ワザが超高得点への扉を開く!」と書かれており、「裏ワザ」=「秘密のテクニック」≒「説明書には載っていない高度な攻略法」という主旨で編まれたものとわかる。(ページ数に関する情報が不正確だったため訂正いたしました。2017年7月5日)
(画像:編集部撮影)

ゲーム登場以前に遡ろう…必殺、柔道、古武術

こうなると、プロレス関連のほかに1984年以前から「裏技」という言葉が使われていて、それを流用した可能性を考える必要がありそうだ。実例を調べてみると、まず、テレビ朝日系で放映された人気時代劇『必殺仕事人』が挙がる。1979年12月放送の第29話以降、各話のサブタイトルが「○○技」で始まるようになり、1981年1月の最終回までこの形式が続けられた。その中で、1980年4月放送の第45話が『裏技欺(だま)しの十手業』となっている。
『必殺』シリーズ【※】はかなり有名だし、有力そうじゃないかお。

※『必殺』シリーズ
松竹京都と朝日放送によるテレビ時代劇シリーズとその関連作品。表向きの仕事を持つ裏で、弱者の依頼を受け、代わりに恨みを晴らす稼業の者たちを描く。1972年の『必殺仕掛人』に始まり、1987年の第29作『必殺剣劇人』まで途切れなく続き、2009年以降は、ほぼ年に一度の特番となっている。話題に挙がった『必殺仕事人』は、『必殺』シリーズの15作目であり、以降『必殺仕事人』自体がシリーズものとなっていくほどの人気作となった。

ただこの「○○技」は、話の内容や悪人を殺す方法と絡めたキャッチフレーズの意味合いが強いと考えられる。第45話は、話の内容が裏切りを主軸としていることからこのサブタイトルになったようで、ビデオゲームの裏技との関連は見出せない。また、この番組ではほかにも「昇り技」、「願い技」などユニークなサブタイトルが続出しているため、「裏技」がとくに目立っているとも言えない。
うーん、そうだったかお。
次に、もっと古い例として、柔道の「裏技」がある。講道館【※】嘉納行光氏ほか監修の『柔道大事典』では、裏技を「相手の技から変化して掛ける技の総称」と説明していて、柔道に関する古い資料をいくつか調べてみると、おもに返し技がこれに当たるらしい。しかし講道館の定める技の分類に、裏技は含まれない。つまり講道館柔道においては、裏技はあくまで便宜的な分類に過ぎず、現在の教本などではあまり言及されていない。なお相撲でも古くは、返し技を「裏手」と呼んだようだ。
相撲だと「決まり手」みたいに言うから、裏技の代わりに裏手になるんかお。

※講道館
明治期の柔術家、嘉納治五郎に始まる柔道団体。現在、オリンピック採用種目をはじめ、柔道と呼ばれているものの主流は、この講道館柔道を指す。嘉納行光氏は第4代の講道館館長であり、嘉納治五郎の孫にあたる。

また合気道には、これとは異なる意味の裏技がある。植芝吉祥丸氏の『改訂新版 合気道』では、「合気道では、すべての技法に、前から入り身ではいって捌くものと、後方へ丸く捌くものとの2種があり、前者を「表技」、後者を「裏技」と呼んでいる。」と説明されている。つまりひとつの技法が、捌きかたの異なる表技と裏技の組になっているわけだ。
表裏一体ってわけだお。
しかしビデオゲームの裏技は、少なくとも柔道のような返し技ではないし、合気道のようにひとつの技法に表と裏があるという考えかたとも異なる。
『ゼビウス』の「無限増え」【※】みたいに、攻略法を突き詰めていくと裏技が見つかることはあるかもしれないけど、表裏一体っていうのとはちょっと違う感じだお。

※無限増え
アーケード版の『ゼビウス』の出荷時の仕様では、得点が20,000点、60,000点到達時と以後60,000点おきに、プレイヤーが操る「ソルバルウ」の残りの数がひとつ増えるが、得点が9,960,000点を超えると、点をわずかでも得るたびにソルバルウの残りの数がひとつ増えるようになる。これが「無限増え」と呼ばれる現象で、本来期待された次のソルバルウ追加ポイントが、得点表示限界の9,999,990点を超えてしまうことにより、プログラムの動作に不具合が生じて起きる。攻略を極めたプレイヤーのみが体験できる現象であり、裏技の一種と捉えられている。

さらに調べていくと、古武術古武道の中には、いわゆる奥義に相当するものを「裏」、もしくは「裏」がつく言葉で表現しているケースがいくつかある。これを参考にしてか、武芸者を扱った時代小説の中には、奥義を「裏わざ」と表現したものがあるようだ。剣豪小説の名手と言われる芥川賞作家、五味康祐氏【※】が1971年に発表した短編『秘(かく)し刀 霞落し』に、この言葉が出てくる。
奥義と同じ意味だって考えると、コロコロコミックの「裏技」と二見書房の「裏ワザ」の両方に、わりと近い感じがするお。

※五味康祐
昭和の歴史・時代小説家。1953年、『喪神』で第28回芥川賞を受賞。『柳生武芸帳』で剣豪小説というジャンルを切り開いた。また高田馬場の決闘や赤穂浪士討ち入りを題材とした『薄桜記』は、1980年に五味が没したあともたびたび舞台化・ドラマ化されている。

しかしこの表現は、五味氏の別作品や、ほかの作者の時代小説にも広く見られるというほどのものではない模様だ。そのため、利田浩一氏と二見書房の本の担当者の両方が、この「裏わざ」を知っていたと考えるのにはやや無理がある。
言葉の意味は近くても、“知名度”が低すぎるのがネックかお。

そして、たどり着いたのは…“お前ら”の好きなアレ!?

このようにいろいろ調べてみたが、ファミコンブーム到来前に使われた「裏技」の実例で、コロコロコミックの「裏技」と二見書房の「裏ワザ」の両方の成り立ちにつながる、決定的なものは確認できなかった。そうするとこれらが、従前からある「裏技」をそのまま流用したのではなく、「効果的な、あるいは特別な技」を示す表現をいろいろと模索する中で出てきたという可能性を考えざるを得ない。
特別な技っていうんなら、「秘技」なんかもよさげじゃないかお。
確かに、「秘技」は先に触れた「奥義」に近い意味合いでもあり、候補になっていたかもしれない。ただこの言葉は、少なくともコロコロ誌上では、いま言う裏技に相当するものとしてそのまま使うには、問題があったと考えられる。
どうしてだお。
「秘技」は、いわゆる必殺技を意味する言葉のひとつとして、『ゲームセンターあらし』、『とどろけ!一番』【※1】、『ゼロヨンQ太』【※2】など、同誌の人気マンガですでに頻繁に使われていたからだ。とくに『ゼロヨンQ太』は、ファミコン人気のあおりを受けて1985年3月号でいったん連載を終了したとはいえ、「チョロQ」の発売元のタカラから、「秘技レースセット」、「秘技チャレンジコースセット」などのタイアップ商品が発売されていた。

※1 『とどろけ!一番』
1980年から83年までコロコロに掲載されたマンガ。のむらしんぼ作。当初、『ゲームセンターあらし』ばりの対戦要素を「中学受験」に導入した、前代未聞のバトルお受験マンガとして始まったが、さらに物語後半に入ると、受験のために培った技の数々は、じつは前フリだったとして、突如ボクシングマンガに転向。当時の読者は腰を抜かしながら食らいついていった。

※2 『ゼロヨンQ太』
1982年から85年までコロコロに掲載されたマンガ。池田淳一作。タカラ(現タカラトミー)が発売するゼンマイ式のミニカー“チョロQ”を題材に、『あらし』の作者すがやみつるの弟子筋にあたる池田が連載したもの。主人公の弓太(Q太)がさまざまなレースに挑戦。愛車マグナム号を自身の「秘技」で勝利へと導く。

そうだったんかお。つまり「秘技」は、コロコロ読者には、もう新鮮さのない表現だったわけだお。
そういうことだ。一方でもし、コロコロ編集部と二見書房の関係者が、「技」を修飾できそうな言葉をいろいろ挙げて候補を考えていたのだとすれば、頭に「裏」がついたことは、当時の社会風俗を考えると、驚くほど唐突ではないと言えるだろ。少なくとも、双方がまったく個別独立に思いついたとしても不思議ではない。
いったいどういうことだお?
それは、1982年に入るあたりから、いわゆる「裏本」【※】に関するゴシップ記事や事件報道が、有名週刊誌や大手新聞で取り上げられるようになっていたからだ。たとえば毎日新聞1982年3月17日付の東京地区地方面では、製造・販売業者が逮捕された事件が報じられている。同年末ごろからは、ビデオについても同様の記事が見られるようになり、以後しばらくの間、これらの非合法な「裏モノ」が何かとマスコミをにぎわしていた。
書影は裏本『金閣寺』(版元表記なし・1981年)

※裏本
1980年前後に誕生した、無修正のアダルト写真集群。要は、「消し・ボカシなしのエロ本」のこと。当時、ビニールに包まれて店頭での内容の確認が難しい薄消しのアダルト写真集「ビニ本」が隆盛を迎えている中で、より刺激の強い存在として登場。店の裏口などで隠れて取引されたことからこの名がついたとも言われる。90年代初頭まで流通するが、インターネットの普及によってニーズが薄れ、2000年代半ばに潰えた。画像は初期の名作と呼ばれたもの。

つまり、「秘技」に近い意味合いで、より刺激的にしようと考えて、「秘」を「裏」にすり替えたわけかお。
うむ。そういう経過なら、いま言う裏技とほぼ同じコロコロコミックの「裏技」と、攻略法にあたる二見書房の「裏ワザ」が、それぞれ独立に誕生したと考えることが可能だ。これで「禁じ手」に近いイメージが生じたわけで、コロコロ編集部にとっては、じつにぴったりと言える。また二見書房にとっては、そのイメージはややオーバーではあるが、「裏」には「表面上わからないこと」という意味もあるから、的外れというほどでもないだろ。
なるほどだお。それにしても、二見書房の本で紹介されてる「裏ワザ」が実際には攻略法だっていうのは、広辞苑や大辞林での「裏技」の説明だと攻略法も当てはまっちゃうって言ってたのと、同じ感じがしてちょっとおもしろいお。
いいところに気がついたな。ただ、これらの辞典が、二見書房の本の内容をわざわざ調べて「裏技」の語義の説明に反映させたと考えるのは、さすがに無理がある。
言われてみれば、確かにそうだお。
「辞典での説明の簡潔さと厳密さは、ときに両立しづらい」ということがこの奇妙な一致の要因のひとつと考えられる。そして、「表面上わからないこと」とも「公表をはばかること」とも解釈できる、日本語の「裏」という言葉の“ふところの広さ”が、もうひとつの要因と言えるだろ。今回の話は、ここまでとしよう。

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