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『アークナイツ』生みの親・海猫络合物氏が、『エンドフィールド』で描くテーマを明かす。未知の状況下で、迷いを抱えながらも”真実”を探し出す物語となる

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Hypergryph──。2017年にスマートフォン向けタワーディフェンスゲーム『アークナイツ』を開発するために上海で設立された会社である。

同ゲームはSensor Towerによると、2023年には世界累計収益が11億ドルを突破、2024年には日本の売上だけでも5億ドルを突破と大ヒットを飛ばし、同社の名を広く知らしめた。

そんな『アークナイツ』の大本となる構想を生み出し、同作の主要キャラクターの原案も手掛け、Hypergryph設立の中心人物となったのが海猫络合物氏だ。

『アークナイツ』海猫络合物氏インタビュー:『エンドフィールド』で描くテーマを明かす_001

海猫氏は『アークナイツ』の中心人物でありながら、日本ではパブリッシングを担当しているYostarを通して公式情報が発信されるため、大陸版情報を追跡しているようなディープなファン以外にはあまり馴染みがないかもしれない。

しかし、現在リリースに向けて動いている『アークナイツ:エンドフィールド』(以下、『エンドフィールド』)では、Hypergryphの系列会社であるGRYPHLINEがグローバルパブリッシングも担当するため目にする機会は増えると思われる(先の「ベータテストⅡ 予告特別番組」にも出演している)。

大陸ではおちゃめな言動などで非常に愛されている人物なので、日本のファンの方々も注目されたい。

『アークナイツ』海猫络合物氏インタビュー:『エンドフィールド』で描くテーマを明かす_002
日本から見られるコンテンツとしてはYouTubeで配信中のアニメ『テラライブ』の特別編に出演していたりする。

そして今回、電ファミニコゲーマーでは上海のHypergryph社を訪問。海猫氏にインタビューする機会に恵まれた。

取材のなかで明かされたのは、本作の構想は2017年から存在し「『アークナイツ』には馴染まない」として一度はボツになっていたという事実だ。

加えて、開発の参考にした作品として『Factorio』の名を挙げ、本作の開発にあたって同ジャンルのゲームを徹底的に研究したこと。

そして、3Dゲーム開発という未知の領域での苦闘、さらには「『エンドフィールド』が展開されることで『アークナイツ』が完結してしまうのでは?」というファン最大の疑問への回答までを、余すところなく語っていただいた。

取材・文/マシーナリーとも子
編集/竹中プレジデント


一度ボツにもなっていた『エンドフィールド』

──11月10日に開催されたグローバルメディア発表会では、『エンドフィールド』の構想は2017年からあったとお話がありましたが、実際にどのような経緯で『エンドフィールド』開発がスタートしたのでしょうか。

海猫氏:
『アークナイツ』の企画当時、現在の『エンドフィールド』となる案を含め、さまざまな派生プランが存在しました。『エンドフィールド』はそれらの構想のひとつというわけです。

ただ……じつは「このアイデアは『アークナイツ』には馴染まない」と判断し、プランを破棄したこともありました。

その後、『アークナイツ』の物語が進むにつれて「この案はいけるのではないか」と再評価し、復活させた姿が現在の『エンドフィールド』になります。

──具体的な開発がスタートしたのはいつ頃からなんでしょう?

海猫氏:
開発がスタートしたのは、2022年初頭、ティザーPVが公開される少し前からでした。プロジェクト発足当初は、『アークナイツ』チームから数名がスライドして構想を練っていました。

しかしながら、徐々に新規メンバーを加え、現在は完全に別ラインで動いています。これは『アークナイツ』の開発・運営に影響を及ぼさないための措置です。

──『エンドフィールド』作中で「タロII」や「アンゲロス」といった関連用語が登場し、プレイヤーとしてワクワクしています。チーム間ではどのように情報共有を?

海猫氏:
まず、シナリオ制作において最優先しているのは、「コンテンツの一致性」です。

同じIPでありながら、内容が矛盾することは、プレイヤーにとって最も好ましくない事態です。そのため、常に整合性が取れるよう細心の注意を払っています。

なにせ『エンドフィールド』の舞台は『アークナイツ』からは時間も場所も遠く離れていますからね。そうしたふたつの作品をうまくリンクさせられるのが重要な課題です。それで両チームが意見交換を重ねるなかで良いシナジーが生まれました。

テキストベースの『アークナイツ』からフルボイスの『エンドフィールド』へ

──フルボイスではない『アークナイツ』の小説のようなテキスト体験に対し、『エンドフィールド』はフルボイスでストーリーが展開されていきます。表現手法の違いについてどう考えていますか?

海猫氏:
『アークナイツ』では、膨大なテキスト量を活かし、人文的・哲学的な深い物語を描いています。

しかし、ボイスでのかけあいがメインの『エンドフィールド』で同じアプローチをとるのは困難です。インタラクティブ(双方向性)な要素を重視しなければいけませんので。

そのため、テキストでは表現しきれない壮大なロケーション、ボイスを通じたキャラクターとのやりとり、探索を通じたナラティブなど、3Dゲームならではの体験ができるよう工夫しています。この部分は実際に想像以上に難しかったのですが、現在では少しずつ、良くなってきています。

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──物語の描きかたや体験の「質感」のようなものが、根本から異なっているわけですね。

海猫氏:
ええ。たとえるなら、『アークナイツ』は小説であり『エンドフィールド』はそれを映像化したドラマや映画のような映像作品と言ったところでしょうか。

媒体に合わせてシーンの調整や削減は発生しますが、ビジュアルやサウンドで映像的なリアリティを確保し、『エンドフィールド』ならではの体験を味わい尽くせるよう努力を重ねています。

──『アークナイツ』をプレイしていると『三体』や『ソラリス』、『DUNE』などの影響を感じます。『エンドフィールド』から『デス・ストランディング』を彷彿とさせる要素も感じられます。海猫さんが影響を受けた作品や、『アークナイツ』ファンにおすすめしたい作品はありますか?

海猫氏:
私も開発メンバーも多くの作品を研究しており、自然と影響を受けている部分はあります。映画の『DUNE』は過去作含めて見ましたし、『マッドマックス』や『ボーダーランズ』シリーズも大好きです。

とくに小島監督の作品は、『メタルギア』シリーズでその偉大さを知り、大人になってから実際にプレイして深く感銘を受けました。『メタルギア』では「ピースウォーカー」と「V」が好きです。もちろん、『デス・ストランディング』は「1」も「2」もプレイしています。

──『デス・ストランディング2』は今年6月に発売されたばかりですが……。

海猫氏:
発売した週にクリアしました!

──『エンドフィールド』開発でお忙しいでしょうに、すごいですね。

海猫氏:
帰宅してから夜更かし飲まず食わずにプレイし、少し休んて出勤するような生活でした(笑)。クリエイターとして非常に勉強になり、自分を磨く有意義な時間でした。憧れの作品はどれだけ忙しくてもプレイします。

──実際に『エンドフィールド』開発において、参考にしたゲームはありますか?

海猫氏:
本作の肝である「集成工業システム」に関しては、同ジャンルのゲームを徹底的に研究しました。

代表的なものですと、『Factorio』や『Satisfactory』、『Mindustry』、それに『Dyson sphere program』もです。とくに『Factorio』はすべての始まりと言っても過言ではありません。

ただし、他作品をそのままコピーすることは絶対にしません。 ゲームの特性上、取り得るジャンルはある程度限られており、経験を学びと調整していくことは避けられないと思います。また、プレイヤーからも「定番のゲーム性」や「現在主流となっているスタイル」を取り入れ、さらに発展させてほしいという声が多く寄せられています。

ですから、私たちも影響を受けつつも、常に「プレイヤーにどんな新しい体験を提供できているのか」を考え続けています。そこはクリエイターとして絶対に大事にしたいと思っているところです。

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──先駆者たちへのリスペクトを持ちつつも、あくまで『エンドフィールド』でしか味わえない独自のプレイ感を追求されていると。

海猫氏:
『アークナイツ』プレイヤーのみなさまにも、ぜひこれらの名作に触れてみてほしいですね。我々の『エンドフィールド』もぜひ、こうしたジャンルのなかの優秀なタイトルのひとつになれればと願っています。

3Dゲームの開発は苦労の連続……バトルシステムが決まらず開発が進められない!

──『エンドフィールド』の開発において、いちばん苦戦しているのはどんなところでしょう?

海猫氏:
そうですね、あまりにも多すぎて……。なにせ3Dゲーム開発の経験が圧倒的に不足している分野ですから。物語のスケールも大きいですし、たとえ誰かに教わって、しっかり勉強したとしても、実際に手を動かしてやってみないと分からないこともたくさんで……恐怖に近い感情でした。

たとえば、誰かから「この容器に水を入れるんだよ」と教えてもらっても、その入れ方を言葉にするのはすごく難しくて、いざ実際は自分で考えなきゃいけないんだな……という場面ばかりなんです。

──3D空間の構築には、想像を絶するほどの細かな定義が必要なんですね。フィールドなどの環境面以外でも、やはり悩みは尽きなかったのでしょうか。

海猫氏:
敵キャラについてもいろいろ悩みました。見た目だけでも、人間のような形にするか、モンスターのような形態にするか。腕は何本にするのか……。いやあ、大変でした。

実際、この中に含まれる作業の難易度は本当に千差万別で、チームメンバーと話したり、自分でも手を動かしたりしていく中で、それまでの認識が覆されることも多く、より正しい制作の知識を学ぶことができました。

本当に簡単なことではありませんね……。でも、幸いにもチームメンバーは皆とても優秀で、一緒に進めていく中で私自身の視野も大きく広がりました。

でもそうですね……。その中でも一番大変だったのは「バトルシステム」です。なぜかと言いますと、バトルは探索と並び、『エンドフィールド』のいちばんの「核」なわけです。

ここが決まらないと他の要素も作れません。視野が変われば、キャラの見せ方や演出すべてが変わってしまいます。実際、2022年頃のPVと現在では内容が大きく異なります。当時はまだバトルシステムが本決まりではなかったためです。

──Hypergryphでは、『エンドフィールド』より前にスマートフォンで『エクスアストリス』という3DのRPGをリリースしています。同作開発の経験は活かされていますか?

海猫氏:
『エクスアストリス』も初期は『アークナイツ』メンバーが関わりましたが、最終的に90%は新規メンバーであり、別ラインでの開発でした。

また、スマホ特化の『エクスアストリス』に対し、『エンドフィールド』はマルチプラットフォーム(PC/コンシューマー含む)であるため、技術をそのまま転用することはできませんでした。

しかし、方向性が違っても、共有できるノウハウ(人材採用、経営面の交流、資料など)は多くあり、非常に良い経験として活かされています。

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──『アークナイツ』のキャラクターデザインでとくに強い印象を受けるのがそのファッションスタイルです。『エンドフィールド』でもテックウェアや重ね着などのファッションが3Dで見られるのは、個人的にうれしく思っています。

海猫氏:
コスチュームに関しては、他のアニメ調作品と差別化を図るため「現実世界に存在するスタイルのリアリティ」を重視して取り入れています。また、服装の機能性を通じて、そのキャラクターの性格や資質が見えるように気を配っているところでもあります。

──どのキャラも着こなし方が素敵で個性が強く現れていますよね。

海猫氏:
物語が進む中で大胆なファッションが登場する場合でも、「性格や気質」を原点とし、そこにファッションセンスを付随するというルールを守っています。

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『アークナイツ』は完結するのか?→『アークナイツ』はまだまだ終わらない

──『アークナイツ』の「統合戦略」で、『エンドフィールド』の舞台である「タロⅡ」への移動手段である「星門」が登場しました。このまま物語が『エンドフィールド』へ繋がって『アークナイツ』が完結してしまうのではないかと、少し寂しさも感じています。

海猫氏:
結論から申し上げますと、『アークナイツ』はそうした形では「完結」しません!

両作を繋ぐのはあくまで世界観の一致を目的とした試みであり、『アークナイツ』のストーリーはまだまだ広がっていきます。私たちも、今後のふたつの物語の展開をとても楽しみにしています。

──それを聞いて安心しました。『アークナイツ』をプレイしていて強く感じるのは「文明の存続」というテーマです。テラという大地の歴史をゲームで味わわせることで、この文明が失われてほしくない、守りたいという気持ちを想起させるような……。それが『エンドフィールド』では舞台が変わります。本作ではどのようなテーマが描かれるのでしょうか?

海猫氏:
両作の根底にあるテーマの方向性は一致しています。ですが、舞台が異なることで変化していることもあります。

なんというか……イメージとして『アークナイツ』は「勇気」の話なんです。暗闇の中を駆け抜け、その先にある光を見つけ出す物語です。

対して、『エンドフィールド』は、未知の状況下で、迷いを抱えながらも「真実」を探し出す物語です。

──真実……ですか?

海猫氏:
そうです。ここで言う「真実」には、「隠された事実」や「自分自身の探求」といった複合的な意味を込めています。今後、物語は少しずつ明らかになっていきます。皆さんにも、ゲーム体験やこれからの展開を通して、その意味を探し求めていただければと思っています。

──なるほど……! リリースされたら。私もその意味を、探していきたいと思います。(了)

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1時間ほどの短い時間でしたが、『アークナイツ』生みの親である海猫氏に根掘り葉掘り聞けて夢のような時間でした……! 

いまにして思えばもっと聞けたことあったかもしれねえとか色々後悔はよぎるんだけど、とても楽しかった。このインタビュー記事の内容が、あなたのテラやタロⅡでの旅にいい影響を与えてくれれば幸いです。

インタビュー後は少しだけ社内を見学させてもらったり楽しい時間を過ごしました。最高。

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そんなわけで『アークナイツ:エンドフィールド』は11月28日よりベータテスト2が開催中! PC、PS5、スマートフォンでの正式リリースに向けても絶賛開発進行中です!

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インタビューに際してなにかしたいと思い、完全にファンボーイ行動だけど日本から色紙を描いてもってプレゼント。喜んでもらえて良かった……! 描いたキャラは完全に趣味です。
ライター
殺人サイボーグ。ライター/漫画家/イラストレーター。 毎日なんらかのマンガを描きながらWeb上に胡乱な文章を放出することで生計を立てている。 ゲームは常にフレイザード魂でプレイしてるので上達することは無い。お仕事募集中。 ポータルサイト:https://xfolio.jp/portfolio/m_tomoko
編集者
美少女ゲームとアニメが好きです。「課金額は食費以下」が人生の目標。 本サイトではおもにインタビュー記事や特集記事の編集を担当。
Twitter:@takepresident

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