RMT、ポケストップ勝手設置、ゲーム実況…って違法? 注目の法律家がネットで論争の話題を丁寧に回答してみた【『法のデザイン』水野祐氏インタビュー】

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 今年2月に発売されるやいなや、Amazon法学カテゴリでランキング1位になり、法律家のみならずあらゆるジャンルのクリエイターの間で大いに話題となった一冊の本がある。
 タイトルは『法のデザイン―創造性とイノベーションは法によって加速する』。法律家の立場からさまざまなジャンルのクリエイターをサポートしている水野祐弁護士による、初の単著だ。その後も版を重ね、6月時点で第四刷となっている。

『法のデザイン―創造性とイノベーションは法によって加速する』(フィルムアート社・2017)
(画像はAmazonより)

 法とは単に「自由を規制し、イノベーションを阻害する」だけのものではなく、むしろルールの作り方次第でイノベーションを加速するための潤滑油にもなるのだ、というメッセージと共に、この本では、音楽やアート、ファッションなど、さまざまな切り口でカルチャーと法律の関係が具体的に紹介されている。そしてこの本の中でまるまる一章分を割いて取りあげられているのが、「ゲームと法」の話題だ。

 例えば、著作権的にグレーな「ゲーム実況」ではどのようにルールを作っていけば、ゲーム会社とユーザーの利益を最大化できるのか? あるいは、近年急速に注目されているVRゲームでは、「VR酔い」で体調を崩した場合にその責任は誰が負うべきなのだろうか?――現実と仮想空間の境目が曖昧になりつつある情報化以降の世界で、法の分野もまた新たな対応が問われている。

 今回電ファミでは、そんな法律とカルチャーを幅広くカバーする気鋭の法律家である水野祐弁護士にインタビューを実施。「ゲームと法」にまつわるさまざまな論点について、プロの法律家の視点からお話を聞いてみた。

聞き手・文/透明ランナー稲葉ほたて


「法をデザインする」とは?

――『法のデザイン』という本のタイトルが、まず「面白い」と思いました。というのは、法学に馴染みがないほとんどの人にとって、法律って自然科学や数学の公理のような「変えられないルール」、という感覚が強いと思うんです。

水野祐氏(以下、水野氏):
 正直に言って、届く人に届けばいいかなと思って書いた本だったので、こんなに反響があるとは思っていませんでした。
 読んでいただくとわかりますが、決してわかりやすく書かれた本ではありません。法はレガシーな分野で、そういうものに阻まれていると感じている人にとって、法をうまく活かすことでイノベーションを促進する、「デザイン」するという、ある種逆の思考を持ち込むことで、マインドや視界を変えていくきっかけを提供できたらいいなと考えながら書きました。

――こちらの本について、どういう内容か簡単に教えていただけますか。

水野氏:
 総論と各論に分かれています。各論では、音楽、二次創作、写真、ゲーム、ファッション、ハードウェア、不動産、金融、家族といった多様な各ジャンルにおいて、アフターインターネットの様々な事象を法的な視点から考察しています。

 総論では各論での考察で浮き上がってきた視点をまとめた感じですね。「アーキテクチャ」【※1】「コモンズ」【※2】といった社会思想や情報設計論の分野で語られている概念を参照したうえで、法律や契約を主体的にデザインする姿勢である、「リーガルデザイン」という考え方が今後の日本社会において重要になってくると提唱しています。

※1 アーキテクチャ
ここでは、米国の憲法学者ローレンス・レッシグが『CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー』(翔泳社・2001)のなかで提唱した概念を指す。社会環境の物理的・生物的・社会的条件のことで、その設計を操作することでの、人間の行動への介入可能性を論じた。レッシグは、このアーキテクチャを、規範(慣習)・法律・市場に並ぶ、社会秩序をコントロールするための方法として位置づけた。

※2 コモンズ
もともとは森林、牧草地、漁場といった、所有権が特定の個人でなく共同体に属する資源の共同利用地のこと。情報社会論の文脈で使われる場合は、個人ではなく共同体の管理のもとで広く利用されたほうが有益な情報などを指す。

――本の中で批評家の濱野智史さん【※】などの、ゼロ年代に情報社会論をはてなの周辺で議論していたような人たちのお名前を挙げていましたが、水野さんご自身は実務家なんですよね。どんなお仕事をされてきたのですか?

※濱野智史
1980年生まれの日本の社会学者、批評家。国内外のSNSやアイドルなど、インターネットコミュニティとその文化を専門に研究している。主書に、様々なネットサービスを「アーキテクチャ」という観点から分析した『アーキテクチャの生態系: 情報環境はいかに設計されてきたか』(筑摩書房 ・2015)など。

水野氏:
 基本的には、IT企業やクリエイティブ系の企業さんとの仕事が多くて、この本にもその事例で考えたことが多く含まれています。また、2008年頃からクリエイティブ・コモンズ【※】の活動に関わっていて、今は理事をやっています。

※クリエイティブ・コモンズ……2001年に米国のローレンス・レッシグ氏を中心に始まった非営利の国際団体。著作物の適正な再利用の促進が目的。「著作者がみずからの著作物の再利用を許可するという意思表示」を手軽に行えるようにするためのライセンスを策定し、その普及を図る。
(画像はクリエイティブ・コモンズ・ジャパンより)

 例えば、2013年頃の「初音ミク」のクリエイティブコモンズライセンス化のサポートをさせていただいていました。同人マーク(作家が同人誌即売会などでの二次創作を認める意思表示をするためのマーク)の規約作成なんかも、担当してました。

――ええー! あの辺のお仕事は水野さんが関わられてきたんですね!

水野氏:
 ゲームはインターネットよりも歴史が長いですし、情報アーキテクチャやデジタル関連の設計論について考えるときに、学べるものが多いです。最近ではこういう話はネットの話として語られることが多いですが、ゲームの方が先行しているので、ゲームの歴史や議論からネットの設計論についても学べるのではないかと考えています。

――さて……で、ちょっといきなり高度な話になってますが、今日は、もうちょっと下世話なことを水野さんにお聞きしたいんです(笑)。
 実のところ、日本のゲーマーの間で「マナーが悪い」とか「犯罪だ」と言われている話でも、国が変わったら途端に当たり前だったり、合法だったりする話がありますよね。そこを、「所詮、法律は人間がデザインするもの」でしかない……という視点から、ビシッとご解説いただけたら、議論の視野が広がるのではないかと思いまして。

水野氏:
 な、なるほど……頑張って答えてみます(笑)。

――いきなりですみませんが、お願い致します(笑)。

Q1. RMTってなんでダメなの!?

ーーそれで、まずお聞きしたいのは、RMT(リアルマネートレード)【※】の問題です。これ、日本では『ドラゴンクエストX Yahoo!ゲーム版』のサービス終了理由が「RMT対策が取りきれない」というものだったりするくらいの大問題なのですが、ドイツでは同時期にドイツ取引所が世界初のRMT取引市場を設立すると発表されてたりして……(笑)。そもそもRMTって、世界全体で500億円もの規模の取引が行われているとも言われているんですよね。

※RMT
リアルマネートレード(Real Money Trading)の略称。オンラインゲームやスマホアプリ内などで流通する仮想通貨を、現実の通貨(リアルマネー)で売買する行為。多くの場合禁止されている。

水野氏:
 少し、根本的な部分から説明します。まず、RMTの問題点は、大きく分けて2つになります。

 一つは「ユーザーの射幸性をあおる可能性が高い」ということ、もう一つは「マネーロンダリングにつながる懸念」です。ところが、この二つに対する法規制というのが、現状は各国でまちまちなのですよ。

――国によって法規制のあり方が違うというのは、ネットでも著作権法なんかの議論で、よく話題になりますよね。

『著作権法 第2版』(有斐閣; 第2版 ・2014)
(画像はAmazonより)

水野氏:
 いやいや、「著作権法」なんて、世界的な条約(ベルヌ条約【※】があるので、むしろ多くの国で制度の根本は共通しています。他の分野は、もっと国ごとにバラバラですよ。特に金融政策なんて近代国家の根幹に関わる部分なので、各国の国民国家の形成過程での、国や文化による違いが大きく現れやすいところなんです。

※ベルヌ条約
1886年にスイスのベルヌ(ベルン)で調印された、著作権を国際的に保護することを目的とした条約。 正式名称は「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」。日本は1899年に加盟した。

 話を進めると、まず「射幸性をあおる」という話では、例えば個人がRMTで破産することに対して、「そこに国家が介入することが、そもそも必要なの?」という議論があります。そこでは大きく2つ、「ゲーム内で破産しようが自己責任、自由であればあるほどいい」という自由主義的な考え方と「それはまずい、やっぱりある程度の国の介入は必要だろう」というパターナリスティックな考え方に分かれます。

――いわゆる、国家による介入を最小限にする「リバタリア二ズム」と、国家が個人に介入した方が良いとする「パターナリズム」の対立ですね。

水野氏:
 ただ、これは国ごとの法体系や文化の違いだけでなく、流行っているゲームの違いなんかによっても、バランスが変わる部分だと思います。

『実践 行動経済学』(日経BP社・2009)
(画像はAmazonより)

 ただ、新しい考え方のアプローチも出てきていますよ。
 法学の世界で最近話題の論者に、キャス・サンスティーンという法学者がいます。彼が『実践行動経済学』という著書の中で唱えた「リバタリアン・パターナリズム」というのは、まさに経済的な自由を重視する「リバタリアニズム」と、介入をよしとする「パターナリズム」という一見相いれない考え方を、矛盾なく併存させてしまおうというアイデアです。

――「ナッジ」【※】なんて言われている施策がそうですよね。臓器移植カードで「臓器移植します」に意思表示させるとドナーが増えないけど、デフォルトで臓器移植はするものにして、イヤな人だけ×を付けさせるとドナーが増えるという話がありますよね。

(画像は日本臓器移植ネットワークHPより)

※ナッジ
元々は「ヒジで軽く相手をつつく」という英単語で、ここでは行動経済学の知見を踏まえた上で人間に正しい行動をとらせるようと誘導する戦略のことを指す。例に挙げられている臓器移植カードを始めとして、省エネ対策や違法駐車抑止など、公共政策に広く取り入れられている。

水野氏:
 そうです。まさに冒頭にあげたような、選択の余地を残したままアーキテクチャの部分の力で緩やかに介入していこうという考え方となります。

Q2. マネロンってよくあるの?

――では、次の「マネーロンダリング」【※】の方ではどんな議論があるのでしょうか?

※マネーロンダリング
資金洗浄を意味する言葉。犯罪によって得られた収益金の出どころを隠し、正当に得た収益金であると見せかける行為。

水野氏:
 まず、日本について言えば、資金決済法、金融商品取引法、犯収法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)といった法律を使って対策をしている分野です。

――ただ、マネロンと言われても、遠い世界の話のように思えてしまって……。僕も以前プラットフォーム事業者の側にいて、仮想通貨でのマネロンのリスクのような話は聞いたりしたのですが、打ち合わせしながら「本当にあるのかなあ」なんて思いつつ話していたりして(苦笑)。

水野氏:
 そもそもマネロンって、巨大な悪徳組織が巨額のお金をドッと動かすようなイメージになりがちですが、そうじゃないんです。

 むしろ、実はフリマアプリのようなC2Cのサービスや、コンビニのプリペイドカードといった小規模なところで、かなり頻繁に使われていると言われています。

誰でも簡単に入手できるプリペイドカードは、マネーロンダリングに有効な手段のひとつ。テログループが資金調達のために利用することも。その懸念から、2016年に仙台市で開かれたG7財務相会議では、テロ対策としてプリペイドカードの発行に規制をかけるかどうかの議論が行われたという。日本経済新聞のこちらの記事に詳しい
(画像はAmazonより)

 つまり、少額の取引を大量に駆使して、大量のマネロンを行うんです。だからこそ、これは組織的な犯罪になってくるんですね。もちろん、ゲーム内通貨を使ったRMTによるマネロンも懸念されています。

――おお、そういうことなんですね。確かに、そう言われると、リアリティのある話ですよね。決済ビジネスの周辺という話だと、日本では海外にはよくある「割り勘サービス」すらもなかなか入って来なかったり、エスクロー【※】的な仕組みも作れなかったりと、他国に後れを取り始めているような気がします。

※エスクロー
商取引の際に信用に足る第三者を仲介させることで、商品の受け渡しや代金の支払いが確実に行われるようにする第三者預託。

水野氏:
 最近、何かと話題のビットコイン【※】でも、日本は資金決済法の改正という形で、世界に先駆けて仮想通貨に関する法律を作りましたが、ビットコインに関しては、全く規制のない国もあれば、これから規制を作ろうとしている国もあれば、既存の制度で代替している国もあって……というのが現状です。

※ビットコイン……2009 年に開発された、インターネット上で流通している電子マネーの名称。物理的に存在しているわけではないので、「仮想通貨」「デジタル通過」と呼ばれることも。2014年には日本で数百億円相当のビットコインが消失する事件が起きており、その信頼性を懸念する声もある。
(Photo by Getty Images)

 ちなみに私は、今回の仮想通貨に関する法改正は必ずしも良い規制だとは思っていません。

――それはどういった点でしょうか?

水野氏:
 仮想通貨の購入、売却、他の仮想通貨との交換を事業として行う「仮想通貨交換業者に登録制を課していて、この登録の要件が資本や内部管理体制などかなりハードルが高いものとなっているんです。

 かなり強力なマネロン規制ができなければ、仮想通貨を扱える業者になれない。つまりベンチャーのような小規模な事業者が仮想通貨を扱えるようになるのを妨げているように思えます。

――でも、普通に考えると、デジタル情報って「トレーサビリティ」は高いですよね。後から追跡しやすいだろうと思うのですが。

水野氏:
 いや、話はそう単純ではないのですよ。既存の取引のうち要件が満たせないものはよりアンダーグランドに潜ってしまう、という懸念も聞かれます。RMTの議論にもあてはまりますが、一般人にもマネロンの実態と取締りの必要性をもう少し究明または訴求することが大切だと思います。

――なるほど。しかし、RMTの「射幸性」も「マネロン」も、結局は規制をどの程度かけるかというグラデーションの話になってきますね。

水野氏:
 そうですね。もう一つ最近大きくなってきているRMTの論点を言うと、「ゲーム上でのアカウントやアイテムなどの仮想資産はだれのものか」ということです。具体的には、各社ゲームメイカーの規約では禁じられているアカウントやアイテムの転売がメルカリなどで行われていることが問題化しています。ここで最終的に問われているのは情報化によって「仮想空間」が現実空間に侵食し始めているという事態だと思います。

 情報社会論の文脈でいえば、RMTの問題は「バーチャルとリアルの接点で起きる摩擦」の顕在化そのものです。

――貨幣そのものが、リアルのモノであると同時にバーチャルな存在ですからね。でも、正直なところ、射幸性なんて、リアルの側がバーチャルにどこまで線引きするか、という話ではないでしょうか。一日のほとんどの時間をネトゲに費やしている人間が、普通の人が自分の部屋やオフィスを快適にするために冷蔵庫やエアコンに投資するように、ゲーム内で快適に行動するために金を稼いで何か悪いの、という論点は残ると思うんですよ。

水野氏:
 そこのロジックは、やはり弱者保護【※】とかの類の話になってくるんだとは思います。仮想空間だけで済んでいれば多額の負債を抱えることはないけど、RMTはそこを超えてくる。仮想と現実の区別が曖昧になりつつある中で、「パターナリズム的な介入が制度設計論としてどれだけ必要なのか」ということが今、色んなところでポイントになっていると言えるでしょう。

※弱者保護
肉体的弱者、経済的弱者、社会的弱者などを保護するという法体系の原則(=社会権)。

――フィクションの中って、サービス事業者の決めた「世界観」で動くだけで、リアルの法を機能させなくても良いじゃないですか。ネトゲで人を殺しても、BANはされても逮捕はされないですし。ただ、貨幣のようなリアルとバーチャルを繋いでしまう存在は、両者の衝突を生み出してしまう。「フィクション」を体験として扱うゲームならではの論点として、ここからの質問でも問題になりそうな気がします。

Q3. 勝手にポケストップっていいの?

――じゃあ、次はこの話題に近いものとして、『ポケモンGO』をお聞きしたいです。昨年、ポケストップ【※】を寺社仏閣に勝手にユーザーが設置したり、ポケモンGOの最中に交通事故で人が亡くなってしまったり……というニュースが、一時期は連日報道されていました。RMTだとちょっと特殊な人たちの事例ですが、ARゲームではバーチャルとリアルの衝突が、非常にカジュアルに起きることが示された事例だと思います。

※ポケストップ
『ポケモンGO』のマップ内に登場する仮想の施設。現実空間のアイコニックなスポットなどに設置されており、立ち寄ることで、モンスターボールをはじめとする様々なアイテムを獲得できる。

水野氏:
 うーん、でもあれって、そもそもARの話なんですかね。だって、私も『ポケモンGO』をプレイしてますけど、みんなARモードでやってないでしょ(笑)。

――確かに(笑)。

水野氏:
 『ポケモンGO』の交通事故については、「iPodを聞いていたら踏切の音に気が付かなかった」というのとあまり変わらない話だとは思っています。

リリース後は、街のいたるところでスマホの画面をスワイプして、ポケモンを捕まえようとする人が続出した『ポケモンGO』
(画像は『Pokémon GO』の公式サイトより)

 とはいえ、AR・VRと現実世界との衝突の問題は、今、真の意味で難しいテーマになりつつあります。現実世界と仮想世界のバランスをどう考えるのかというのは、いままで人類が直面したことのない課題です。米国ではまさに「私有地にポケストップを設定されることが不法行為に当たるか」という裁判が起こっていて、連邦最高裁の判決が出るところです。

水色のマーカーが「ポケストップ」(画像は『Pokémon GO』公式サイトより)

 これは、法律家としては新しい問題なんですね。というのは、これまでの法は、爆弾のようなリアルに存在する「有体物」【※】について判例を積み重ねてきたからです。ところが、これはあくまでも仮想空間上に情報を付与しているだけ。何らかの民事的・刑事的な責任になるかは、法学的に興味深い議論ですね。あくまで仮想空間上に情報を貼り付けているだけなので、現行法上なんらかの刑事責任や民事責任を問うのはそう簡単なことはではないんです。

※有体物
物理的に有形的存在をもつ物。電気、人工的な暖気や冷気なども有体物として扱われる。

――ちなみに、“あえて”ポケストップを罪に問うとすれば、どうなりますか?

水野氏:
 ひとつ考えられるのは、威力業務妨害罪【※1】。例えば、どこかの店に大量にポケストップが付けられ、人が集まりすぎることで業務に支障が出てしまうというケースです。また、不法侵入・不退去罪を幇助した責任を問われる可能性もあります。
 あとは民法の「不法行為」【※2】ですね。ここでは、迷惑行為の誘引やプライバシー侵害などが考えられます。不法行為は形にならない概念や権利が侵害されたときの受け皿として機能するので、具体的な損害が生じているということになれば、適用される可能性があります。

※1 威力業務妨害罪
暴行や騒音、威嚇などで他人の意思を圧迫し、相手の業務を妨げる行為に対する罪。刑法第234条が禁じている。

※2 民法の「不法行為」
故意または過失によって他人の権利を侵害し、その結果他人に損害を与える行為。不法行為者は被害者に対して損害を賠償する責任を負う。不注意による交通事故などがこの場合にあたる。

――なるほど、法律にはそんな便利なものが(笑)。では、もう少し踏み込ませて下さい。例えば、VRで激しく酔ったり、ケガをしたりすることは大いにあると思います。というか僕もPSVRで、ローテーブルに腕をぶつけてアザが出来ましたし。こういう身体の不調について、事業者側に責任を取らせる判断はあり得るのでしょうか?

水野氏:
 現在、一般的なAR・VRに関する利用規約には、「周りによく注意しながら歩きましょう」とか「保険はちゃんと自己責任で入りましょう」とか、ごく当たり前の記述が入るようになっています。まず、そういう利用規約で注意喚起したうえで、それでも怪我や不調が生じた場合にはユーザー自身の責任であり、事業者は免責される、というような形をとって事業者側が全責任を負わないようにしています。
 ただ、実はPSVRの場合、ゲームソフトのディベロッパー側が独自の利用規約を提示できる機会を設けづらくなっていて困っているという話もありますが(苦笑)。

ヘッドギアは周囲の状況を視認できないため怪我の恐れがある
(Photo by Getty Images)

 あと、利用規約はちゃんと読んでいない人も多いですよね。そういうみんな読んでない利用規約は裁判で無効になるリスクがあります。しかし事業者や開発者に全責任を負わせると、誰でもAR・VRについて新しい取り組みをできなくなってしまいますし、技術の開発の自由度が下がってしまう。ですので、事業者や開発者側の免責はある程度ちゃんと認めてあげることも大事だと思います。
 一方で、事業者側は免責を認めてもらうためにも、利用規約を読んでもらう努力をしたうえで、しっかり同意を取る。そのうえで、注意喚起をしっかり行いながら、一定の範囲を超えるものには責任を負う。このあたりが現実的な落としどころでしょうね。

――でも、PL法【※】のように、製造者責任が厳しく問われていく流れはありそうですよね。

※PL法
製造物の欠陥により人の生命や財産にかかわる被害が生じた場合、その製造業者などが損害賠償の責任を負うと定めた法律。民法の一般原則では加害者に故意・過失があったことを被害者側が証明しなければならないが、消費者対企業の場合は過失の証明が難しいことから、製造者の過失を要件としないことで損害賠償を追及しやすくした。消費者保護の流れを受け、1995年7月から施行された。

水野氏:
 実はIT産業の方では、既に3Dプリンター人工知能について、ツールを開発したエンジニアやディベロッパーの製造物責任はあるだろう……みたいな議論はされています。そこでソフトウェア側の開発者がすべて免責になっていいのかというのは、あります。

(Photo by Getty Images)

――そこは、確かにありそうですよね。かなりザックリした言い方ですが、著作権をWinnyの利用者が侵害したときに「開発者の罪を問うのはおかしい!」と怒っていた人でも、3Dプリンタでリアルに拳銃をバンバン私的に製造できる社会が来て、社会情勢が本当に不安定になったとしたら、やはり開発者側を指弾し始めることはある気がしていて……。

水野氏:
 そこが、まさにゲームでも問われてくる点だと思いますね。
 現時点では、ゲームソフトの開発側が製造物責任を問われることはほぼありません。ゲーム機器の製造者はありえるでしょうが。しかし、これは今後変わってくる可能性があります。

 これまでゲームというものは「人の生命や財産に深刻な損害を与えることはない」のということが前提で設計されていたように思います。しかし、位置情報や、AR・VRの技術がより発達してくると、現実世界と仮想世界の境界が揺らぎ、ゲーム内の仮想世界の設計が現実面にも侵食してくる可能性があります。
 これはまさに今多くの分野で問題になっていることだと思いますが、こうなってくると、製造「物」ではないけども製造側の倫理と法的責任が問われるようなケースが増えてくることが予想されます。

先日リリースがアナウンスされた「モンハン」シリーズ最新作『モンスターハンター:ワールド』
(画像はモンスターハンター:ワールド公式サイトより)

 それは、ここまでのRMTやARのような話に留まらず、eスポーツだってそうです。
 そもそも影響という意味では、私たちの世代くらいになると、もはや周りの友人で「ハンゲームやモンハンで出会って結婚」とかいう人も普通にいますからね。実はゲームは、リアルに人生レベルで影響を与えているわけです。

――となると、もはや「バーチャル/リアル」の衝突どころか、境界そのものが消失し始めてるわけで、事実そういうのは大抵フューチャー感のある「イイ話」みたいに扱われてます。でも、実はそのときに「バーチャル」だからと好き勝手できていた領域に、「PL法」のような“法の手”が本格的に及び出すとも言えるわけですよね。

水野氏:
 人工知能に関する議論でも同様ですが、技術を開発する側に安易な規制をかけず、その技術を利用して何からの有形・無形のプロダクトに応用する段階で適切な規制やルールを設定する。このようなバランスがよいのではないかと考えています。

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