奈須きのこが、『スパロボ』に参戦して欲しいと思う作品は?
――ちなみに、ぜひ『スパロボ』に参戦してほしい、と奈須さんが思っているロボットアニメはありますか?
寺田氏:
それを僕に言われても、先ほどお話ししたとおり、どうなるものでもないですが(笑)。
奈須氏:
うーん、僕らの業界で唯一の希望の『デモンベイン』【※1】も、もう出ちゃってるしなぁ。
コミック版の『真マジンガーZERO』【※2】が大好きで、『スパロボV』に出ると聞いて「マジか!」と思ったら、機体のみ参戦だったので。なので、いつかあのお話の最終回っぽいことを、『スパロボ』でやってくれたら嬉しいなと思いますけど。
※1 デモンベイン
2003年にニトロプラスより発売された18禁アドベンチャーゲーム『斬魔大聖デモンベイン』がオリジナル。私立探偵の大十字九郎(だいじゅうじくろう)が、少女の姿をした魔道書「アル・アジフ」と契約し、巨大ロボット・デモンベインを操縦して秘密結社ブラックロッジと戦う。2004年に全年齢向けソフト『機神咆吼デモンベイン』としてプレイステーション2に移植され、2006年にTVアニメ化された。『スーパーロボット大戦UX』(2013年・3DS)に、『機神咆吼デモンベイン』の名義で参戦している。
寺田氏:
たしかにあれも、『スパロボ』のストーリーが目指す1つの帰結点だな、とは思います。『真マジンガーZERO』のコミックは、すごくシンパシーを感じるんですよ。今回の『スパロボV』で、「マジンガーZEROって兜甲児クンが乗る味方の機体なんだ」と勘違いしている方がいらっしゃるかもしれませんが、コミックのマジンガーZEROはそうじゃないですから。
奈須氏:
じつはラスボス級の存在ですからね(笑)。
こうしてお話を聞いていて思ったのは、『スパロボ』とは何かというと、「夢」なんです。多くのユーザーさんが、自分の好きだったキャラクターの活躍をもっと見たいと思っているけれど、物語というのは消費されるものなので、見終わったら過去になってしまう。でもそこで、物語は消費されるけれど、キャラクターは残るんです。好きなキャラクターの活躍をもっと見たいという、多くのユーザーの「夢」を具現化したものが、『スパロボ』だと思うんです。
ユーザーの求める夢、制作陣の作りたいキャラクター、もっと偉い人たちからのお願い(笑)。この3つの組み合わせで毎回、『スパロボ』はできていると思うんです。
寺田氏:
「こういう話をやりたいんです」というアイデアは、ライターのほうから毎回けっこう出るんですけど、それがそのまま最後までいくことはあまりないですね。過去の『スパロボ』で、これはベストクロスオーバーです、すべて上手くいきました、というものは1本もないです。必ずどこかで、あれは上手くいかなかった、本当はこの作品を出したかった、というところが出てきますね。
――先ほど奈須さんが言われた「物語は消費されるけれどキャラクターは残る」というのは、すごく印象的な言葉だと思いました。その意味では、『Fate』はまさにキャラクターが残っていて、キャラクターを使った派生作品が、ゲームに限らずたくさん登場していますよね。それは意識してやられているのでしょうか?
奈須氏:
意識した事はなかったんですよ。『Fate』はもともと、『魔界転生』【※】のオマージュですし。学生時代に自分が『魔界転生』をやりたくて書いた恥ずかしい小説を、相棒の武内が覚えていて、「あれをゲームにしよう」と言って出来上がったのが『Fate/stay night』なんです。
小説だった頃は学生だったのでキャラクターを暴れさせたかっただけでしたが、『Fate/stay night』【※】を作った時は、それなりに作品を作ってきた後だったので、きちんと物語を作ろうと。物語が終わればキャラクターも本来は役割を終えて、語るべきことはないのですが、ユーザーのみなさんが思いのほかキャラクターを愛してくれたし、自分たちもすごく思い入れのあるキャラになったんですよね。幸い、他の作品と共通の世界観で書いていたので、この街の事件は終わったけど、次の事件の時にこのキャラがいたら面白いよねとか、そんな軽い気持ちで続いたらいいなぁと思っていたんですが、気がつくと……。
自分たちが生み出したキャラクターというのは、やっぱり子どもなんです。子どもが成長していくのを嬉しく思わない親はいないですから。本来は1つの物語が終わったら、その子とはお別れしなくてはいけない。でもチャンスがあったので、小学生から中学生、高校生、大学生と成長していって、もうオレの手を離れて結婚しているのに、まだ面倒を見ているぞっていう、そんな感覚でしょうかね、『Fate』に関しては。
ただ、完全にキャラクターとしてゴールを迎えてしまったアルトリア【※1】やエミヤ【※2】は、これ以上彼らを主役にした物語を書く意欲はないんです。でも、新しく生まれたサーヴァントたちは、まだ彼らをメインにした物語を語っていないので、それについてはチャンスがあれば……というか、誰かに命令されたら書くよ、というスタンスでしょうか。
ロボットの強さをどう決めるかに、正解は存在しない
――でも、『スパロボ』の苦労譚は、もっと聞いてみたいですね。参戦作品やラスボス以外で、苦労されているのはどんな点ですか?
寺田氏:
ロボットの性能と武器のパラメータを決めるのが、なかなか難しいですね。ガンダムとZガンダムとZZガンダムとνガンダムを並べて、どれがいちばん強いかという、原作のスタッフの方々でも明確な答えを出していないものを、おこがましくも我々が決めなきゃいけないので。超電磁スピン【※1】と天空剣・Vの字斬り【※2】はどっちが強いとか、そんなのホントはわかりようがないですよ(笑)。
※1 超電磁スピン
1976〜1977年に放送されたTVアニメ、『超電磁ロボ コン・バトラーV』に登場するスーパーロボット、コン・バトラーVの必殺技。
※2 天空剣・Vの字斬り
1977〜1978年に放送されたTVアニメ『超電磁マシーン ボルテスⅤ(ファイブ)』に登場するスーパーロボット、ボルテスⅤの必殺技。『ボルテスV』は『コン・バトラーV』の後番組として放送されており、『スパロボ』シリーズでもクロスオーバーによる共演や合体技が多いが、原作では具体的なストーリーのつながりはない。
奈須氏:
本来ならイーブンにしたいところですよね。
寺田氏:
そうですよね。でもボルテスⅤ(ファイブ)のほうが後発なのでちょっと強くするとか、攻撃の数値は高いんだけどエネルギーの消費も大きいとか、そういう調整を加えていくんです。その調整にも正解はないですね。原作キャラだけじゃなくて、オリジナルのキャラだけが集まっていても正解はないんです。主役級が勢揃いする作品だと、どれも大変なので。
その点、イデオンはラクですよ。イデオンの波動ガンは、射程:MAX、攻撃力:MAXですからね!(笑) 波動ガンを使うとマップ画面の大部分が射程範囲になって、赤く表示されますから。それでもまだ弱いと言われたりしますね。
物語としての整合性をどうするかというのも、なかなか上手くまとまらないですよね。シナリオで見せたい気持ちもあるなかで、シミュレーションRPGとして、そのバランスをどうするかは、いつも悩みますね。
なので迷うと、昔の『仮面ライダー』や『ウルトラマン』を見直して、クロスオーバーのなんたるかを再確認するんです。昔のクロスオーバーは、すごくシンプルなんですよね。『帰ってきたウルトラマン』【※】だと、特に詳しい説明もなくウルトラセブンがやってきて、ウルトラブレスレットを渡して帰っていきますから(笑)。
※帰ってきたウルトラマン
「ウルトラマン」シリーズ第4作目。1971年〜72年に放映された特撮テレビ番組。企画当初は初代のウルトラマンが地球に帰ってくるという設定だったが、スポンサーの意向により変更を余儀なくされ、のちに「ウルトラマンジャック」という正式名称が与えられた。
奈須氏:
彼らは兄弟ですからね(笑)。
寺田氏:
特に『ウルトラマンタロウ』【※】は、すごく刺激になりますね。子ども向けというのもあるんでしょうけど、それまでのウルトラ作品の概念を大きく変えているので。僕は大好きですよ。子ども向け番組は、いい意味でお話の整合性よりもインパクト重視ですし、子どもたちもそれを喜んで見ていますから。
なので、煮詰まったら『タロウ』を見る(笑)。『タロウ』みたいにはっちゃけた原作がいっぱい集まっていると、そういうノリになりますね。
※ウルトラマンタロウ
『ウルトラマン』シリーズ第6作目。1973年〜74年に放映された特撮テレビ番組。前作でわずかに仄めかされているにすぎなかった「ウルトラファミリー」の構想がはじめて全面的に描かれた。また、前作までとは異なり、作風はホームドラマ調で、コミカルな要素が色濃くなっている。
奈須氏:
こっちもハチャメチャにやっていいんだって。
寺田氏:
そうなんですよ。『スパロボ』に『天元突破グレンラガン』【※1】が参戦した際に、天元突破の問題をどうしようかと。かなり困って、脚本の中島かずきさんに相談したら、「みんなで天元突破ですよ」【※2】というお答えをいただきました。
※1 天元突破グレンラガン
2007年に放送されたTVアニメ。またTV版のストーリーを再構成する形で、劇場アニメ2作品も制作されている。顔型のメカ「ガンメン」に乗り込んで獣人たちと戦った少年シモンは、兄貴分のカミナが率いるグレン団の一員として、さまざまな出来事を経て成長を遂げていく。全4部で構成された物語は、その進行につれて希有壮大なスケールへと拡大する。
※2 「みんなで天元突破ですよ」
『天元突破グレンラガン』の最終決戦で、シモンたち大グレン団は時空を超越した存在であるアンチスパイラルと対峙する。認識が実体化する超螺旋宇宙において、シモンの乗るグレンラガンは大グレン団メンバーたちの思念を取り込んで「天元突破」を果たし、銀河をも凌駕する超巨大サイズとなって、アンチスパイラルに立ち向かう。この場面が『第3次スーパーロボット大戦Z 時獄篇』で再現された際には、他の版権ロボットたちも全て「天元突破」するという驚愕の展開によって、天元突破グレンラガンと肩を並べて同じマップ上で戦うことが可能になった。
奈須氏:
それは原作の脚本家である中島さんだから言える言葉であって、我々には言えませんよね。だってあの天元突破は、『グレンラガン』の物語全編を通して最後にたどり着いた、主人公たちだけの特権なので。それをみんなに分け与えてもいいよというのは、原作に携わった方にしか言えないですよ。
寺田氏:
でもその一方で、中島さんから「こことここは原作から絶対に変えないでほしい」という要望もあったんです。それが何なのか、あえて言いませんけど。IF展開がオッケーなところもあるけれども、絶対に守らなければいけないところも、キャラクターを扱う以上は当然ありますから。
そういった、いい意味での荒唐無稽さというのは、『Fate』にもあると思うんですよ。真名【※】の設定が、僕は大好きなんです。真の名前を隠して出てくるなんて、ロマンですよね。
※真名(しんめい)
『Fate』シリーズでマスターに召喚されるサーヴァントたちは、セイバーやアーチャーといった「クラス」名で呼ばれ、英霊としての真の名前=真名は秘匿される。歴史・伝説上の名前、すなわち正体を知られることにより、その能力や弱点が露見してしまうためである。
奈須氏:
パッと見のカッコ良さの後にもう一度、そのキャラクターの真実に迫るっていう。推理小説の犯人当てのようなものですから、つまらないはずがないですよね。
寺田氏:
「本当の名前はなんだろう?」というのが、物語の大きなフックになるじゃないですか。『スパロボ』はこれができないんですよ。予定していなかった参戦作品が登場します、というわけにはいかないので。
奈須氏:
それは見たいですよ! 『スパロボ』で「謎の参戦枠」なんてサプライズが実現したら、最高に面白いんですけど!
寺田氏:
僕も一回やってみたいとは思いますけど、プロモーションできないですよね(笑)。
そういったストーリー上のサプライズとしては、オリジナルキャラだけで構成している『スーパーロボット大戦OG』【※】というシリーズがあって、そちらは参戦作品の縛りがないので、ものすごく古いゲームの敵が出てきたりしてるんです。
奈須氏:
「XN-L(ザンエル)【※】出たー!」みたいな。
※XN-L(ザンエル)
2016年にPS3/PS4で発売された『スーパーロボット大戦OG ムーン・デュエラーズ』のラスボス。その初出は、1992年に発売されたスーパーファミコン用ソフトで、コンパチヒーローシリーズの1作『ザ・グレイトバトルII ラストファイターツイン』にラスボスとして登場したザンエルであり、20年以上を経てのサプライズ復活となった。
寺田氏:
えっ!? よくご存じですね! 今ちょっと動揺しました(笑)。でもさすがに、通常の『スパロボ』ではまったく予告していない他の原作キャラクターを出すというサプライズはできないので。『Fate』はその点、物語の仕掛けがものすごく良くできていますよね。
――おお、では今度は寺田さんが、奈須きのこさんに『Fate』の話を聞くターンに入りましょうか!(続く)
寺田氏と奈須氏の対談もいよいよ佳境に差し掛かってきたところだが、残念ながら今回はここまで。この続きは、近日更新の後編でお楽しみいただきたい。
奈須きのこ氏がかなりのゲーム好きだというのは、いろいろなところで目にしていたし、『スパロボ』シリーズをプレイしていることも知ってはいた。とはいえ、この対談を読まれた方はおわかりのとおり、ここまで熱心な『スパロボ』ファンだというのは、失礼ながら予想していなかった。
なかでも興味深かったのは、奈須氏がロボットアニメのクロスオーバーという要素を超えて、『スパロボ』オリジナルのキャラクターやストーリーに対して、強く惹かれているという点だ。それゆえに今回の対談では、寺田氏と奈須氏がお互いに物語の語り手として、意見を交換する形となった。異なる世界観をいかに結びつけていくかの苦労や、敵となるボスキャラクターの設定といった話題は、双方の作品のファンにとって非常に興味深いものだったはずだ。
さて、シミュレーションRPGよろしく攻守のターンが交代した後編では、寺田氏から奈須氏に向けて、『Fate』シリーズのより深い部分に対する質問が飛び出すことになる。『スパロボ』の有名版権キャラクターとはまた異なる、歴史や神話の英雄をクロスオーバーさせていく際の苦労とは。また『Fate』が『スパロボ』から、意外な影響を受けていることも明らかになる。
さらに話題は、今この時代にスマートフォンでゲームを作る意味にまで及んでいく。奈須氏は『FGO』のストーリーを執筆するにあたって、どのようなモチベーションで挑んでいたのか? それは次回更新の後編で、ぜひ確認してもらいたい。
後編はこちら:
【寺田P×奈須きのこ:対談】庵野「シャアをエヴァに乗せて」→スパロボPはなぜ断ったのか!? Pが語る原作とゲームの狭間の葛藤。そしてFGOがスパロボから継承したもの
『Fate/Grand Order』
©TYPE-MOON / FGO PROJECT
『スーパーロボット大戦V』
©賀東招二・四季童子/ミスリル
©賀東招二・四季童子/陣代高校生徒会
©賀東招二・四季童子/Full Metal Panic! Film Partners
©カラー
©Go Nagai・Yoshiaki Tabata・Yuuki Yogo/Dynamic Planning
©サンライズ
©SUNRISE/PROJECT ANGE
©ジーベック/1998 NADESICO製作委員会
©創通・サンライズ
©永井豪/ダイナミック企画
©1998 賀東招二・四季童子/KADOKAWA 富士見書房・刊
©1998 永井豪・石川賢/ダイナミック企画・「真ゲッターロボ」製作委員会
©2009 永井豪/ダイナミック企画・くろがね屋
©2012 宇宙戦艦ヤマト2199 製作委員会
『第4次スーパーロボット大戦』
©創通・サンライズ
©ダイナミック企画
©東映
©東北新社
©PRODUCTION REED 1981
©PRODUCTION REED 1985
『スーパーロボット大戦α』
©GAINAX・カラー/EVA製作委員会
©GAINAX・カラー/Project Eva.
©創通・サンライズ
©ダイナミック企画
©東映
©東北新社
©BANDAIVISUAL・FlyingDog・GAINAX
©光プロ/東芝エンタテイメント/アトランティス
©ビックウエスト
©PRODUCTION REED 1985
『スーパーロボット大戦Z』
©サンライズ ©SUNRISE・BV・WOWOW
©創通・サンライズ
©ダイナミック企画
©東映
©PRODUCTION REED 1980
©1983 ビックウエスト・TMS
©2002 大張正己・赤松和光・GONZO/グラヴィオン製作委員会
©2004 大張正己・赤松和光・GONZO/グラヴィオンツヴァイ製作委員会
©2004 河森正治・サテライト/Project AQUARION
©2005 BONES/Project EUREKA
『スーパーロボット大戦OGムーン・デュエラーズ』
©SRWOG PROJECT