【徹底検証】ラスボスといえば小林幸子? いやいや藤崎詩織(ときメモ)? やる夫と「ラスボス」用例史を学んでたら、二人のどっちが先にゲームに登場したか気になってきた……

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 「経験値」「裏技」など、いまや日本語のあらゆるシーンに溶け込んだゲーム用語の使われかたの変遷を追いかける連載の第3回。

【徹底検証】ドラクエのせいで日本語が変わったってホント? やる夫と学ぶ「経験値」という言葉の変遷

 今回のテーマは「ラスボス」。「あとちょっとでコンプなんだけど、あのレアカードがラスボスなんだよなぁ」などと目的の達成を阻む最終難関、あるいはその風格を備えた人やモノをそう呼ぶようになって久しいが、コレっていったいいつからの話? そんな疑問を、おなじみのやる夫とやらない夫が探っていたところ……藤崎詩織やら小林幸子やらが入り乱れる話に……!

 お届けするのは、ご存知タイニーP(@Kenzoo6601)。ホビーパソコンの歴史に詳しく、ニコニコにPC-6601でボカロっぽい試みをする動画を投稿したりなどで活躍している人物だ。(編集部)

中の人/タイニーP


「ラスボス」はまだ一般化してない…?

というわけで、3回目の始まり始まりだお。
さてさっそくだが、今回のテーマは「ラスボス」だ。
へ? そしたら、もう最終回かお?
そんなわけないだろ、中の人的に考えて。
「もうちっとだけ続くんじゃ」【※】とかいいつつ、続けられるところまで続けようってハラかお。にしても、そもそも「ラスボス」って国語辞典に載ってるんかお?

※もうちっとだけ続くんじゃ
マンガ『ドラゴンボール』で悟空がピッコロを倒したあと、話が一段落した時点で亀仙人が読者に向かって語るセリフ。単行本では17巻に相当するが、話はもうちっとどころか42巻まで続く。

いや、いまのところ、『広辞苑』、『大辞泉』、『大辞林』といった中型国語辞典に収録されるまでには至っていない。『現代用語の基礎知識』でも、2017年版でようやく入ったというところだ。
ふーん。ゲーム用語としてはけっこうポンポン使われてる気がするけど、一般化はまだまだな感じかお。
そんなわけで今回は、国語辞典ではなく、中の人が考えた「ラスボス」という言葉の説明から始めよう。そして、「ラスボス」という表現がいつごろ出てきて、どう広まっていったのか、いろいろな資料を調べた結果をもとに考えていくことにする。

『ときメモ』にみるラスボスの意味の拡張

さて、ゲーム好きの人にはあらためて説明するまでもないかもしれないが、「ラスボス」とは、「ゲームの最後に登場するボス」を意味する「ラストボス」を、さらに省略した言葉だ。そこから転じて、目的の達成をあと一歩のところで阻む難敵や難問、またはある界隈でもっとも実力や風格を備える大物を指すこともある。
風格にプラスして、見た目が大きければもうバッチリって感じだお。
ここではもちろん、ビデオゲームでのラスボスについて考えていくわけだがな。さて今回、あれこれと調べていく中で、ゲームマニアのあいだで「ラスボス」という言葉の意味が転じた、言い換えれば意味が拡張された時期がおぼろげながらわかってきた。
えーと、つまり、ゲームでの敵でも何でもないものを「ラスボス」呼ばわりしだしたのがいつかってことかお?
うむ。そのような使いかたが出てきたのであれば、その時期には、「ラスボス」という言葉がマニアのあいだで相当広まっていたと考えてもいいのではないかというわけだ。
理屈としてはわかるけど、それをどうやって調べたんだお。
ゲーム雑誌やアニメ雑誌の読者投稿コーナーも見てみたが、さすがに量が膨大で、調べるにも限度があるだろ。ゲームマニアの生に近い言葉が集まるという点では、当時のパソコン通信やゲームセンターのコミュニケーションノートあたりが理想的だが、これらはそもそも、その記録がどれだけ現存しているかというところから調べなければならず、一筋縄ではいかない。
で、どうしたんだお。
今回は、中の人が1994年に加入したパソコン通信、「ニフティサーブ」の記録を少し残してあったのを利用した。
なかなか物持ちがいいお。
1994年は、コナミ(当時)がPCエンジンの『ときめきメモリアル』【※1】を発売した年で、この作品のカルト的人気の盛り上がりには、パソコン通信が大きな役割を果たした。その中心地のひとつとなったのが、このニフティの「コンピューターゲームフォーラム」【※2】だな。PCエンジン向けの会議室への書き込み量が急に増え、『ときメモ』【※3】専門の特設会議室を設けるほどだった。
※1 ときめきメモリアル……1994年にコナミ(当時)が発売した、PCエンジンスーパーCD-ROM2用の恋愛シミュレーションゲーム。勉強や部活など、主人公が選択した日課によって上昇するパラメータと出会う女の子が変化。女の子からの好感度を高め、卒業の日に伝説の樹の下で意中の女の子から告白されることを目的とする。1991年のガイナックスによる美少女育成ゲーム『プリンセスメーカー』、1992年のエルフによる恋愛アドベンチャー『同級生』、同年のジャパンホームビデオによる美少女育成シミュレーションゲーム『卒業 ~Graduation~』など、高まる美少女ゲームや育成シミュレーションゲームの流れのもとに登場。専門誌およびパソコン通信上で電ファミでもおなじみの岩崎啓眞氏によるレビューが投稿され、その界隈から大きく人気に火が点き、大ブームにまで至った。その後、プレイステーション、スーパーファミコン、セガサターンなどにも移植され、シリーズも拡大するとともに、ファンディスクやグッズなど、現在の美少女キャラクタービジネスの礎になる展開を見せた。画像は1995年発売のPlayStation版『ときめきメモリアル〜forever with you〜』。
(画像は『ときめきメモリアル~forever with you~』公式サイトより)

※2 コンピューターゲームフォーラム
特定の話題で集まったユーザーがコミュニケーションを取る、パソコン通信上のスペースがフォーラム。告知、チャット、掲示板、電子会議室などさまざまな機能を備えており、各フォーラムはシスオペと呼ばれるマネージャーによって管理されていた。コンピューターゲームフォーラムもそのひとつ。

※3 『ときメモ』はプレイヤー側による略称で、開発者を含むコナミ側は当時『ときめき』と略していた。

「2ちゃんねる」で言うと、掲示板が急に荒れたから、隔離板を作ったみたいな感じかお。
その特設会議室の内容を見てみると、ゲーム発売後間もない1994年6月に、ヒロインの藤崎詩織【※】についての以下のような書き込みがあった。

「詩織はゲームの目的というか、ラスボスみたいな物だし、虹野さんは燃えすぎて冷静になれなかったから(笑)」

(ニフティサーブ FCGAMEM「ときめきメモリアル」特設会議室 発言番号1423、1994年6月21日より)

※藤崎詩織
『ときめきメモリアル』に登場する容姿、性格とも完璧なメインヒロイン。金月真美が声を担当。ゲーム中でもっとも主人公に対する要求が高いと言われ、難攻不落ぶりがファンを惹きつけたり、他ヒロインへなびかせる要因となった。1996年には歌手デビューもし、多数のシングル/アルバムを展開している。

ほー。「詩織はラスボス」って、こんなころから言われてたんかお。
つまりゲームマニアのあいだでは、1994年の時点ですでに、「ラスボス」が敵ではないキャラクターに比喩的に使われるほど広まっていたというわけだ。このような使われかたが始まったのは、もう少し前なのかもしれないが、いずれにしても、「ラスボス」という言葉を考える上でのキーポイントのひとつと言えるだろ。

「ボスの中のボス」のさきがけは『スパルタンX』

なるほど。そしたら、「ラスボス」っつー言葉ができたのは、そもそもいつごろの話なんだお。
その点を考えるにあたって、「ラスボス」という言葉の比喩的でない使いかたには、大まかにふたつの可能性があることを踏まえておきたい。ひとつめは、ゲーム中に登場するボス格の敵キャラクターがひとり、あるいはひとつだけでも、それがゲーム進行の最後に登場するなら、ラスボスと呼ぶというものだ。
ってことは、もうひとつは、いくつもの種類のボスが出てくるゲームで、その中でも最後に登場する大物をラスボスと呼ぶ使いかたってわけかお。
念のために言っておくと、このふたつのどちらが正しいとか誤りとかを論じたいわけではない。ただ前者の、つまりボス格の敵キャラクターがひとりのゲームでは、ただ「ボス」と呼ぶだけでも大きな支障はないので、「ラスボス」という言葉が生まれるきっかけとなるには弱かったと言わざるを得ないだろ。
要所を締めるボスと、もっと強い最後のボスとがいるゲームだと、そこを区別する言葉があるほうが都合がよかったわけだお。
そのように、ゲーム展開の複数の要所に強敵が控え、しかもそれらが公式に「ボス」という呼び名で紹介されたビデオゲームを探していくと、日本のアーケードゲームでは、アイレムが1984年末に発売した『スパルタンX』【※】がさきがけになるようだ。そのチラシには、「各階毎に現れるボス。」というキャプションがある。

※スパルタンX
ジャッキー・チェンが主演した1984年公開の同名のカンフーアクションコメディ映画をゲーム化したもので、同年にアイレムがスクロールアクションとしてアーケードでリリース。謎の男Xにさらわれた恋人シルビアを助けるため、主人公のトーマスが5層の塔へ潜入。行く手に立ちはだかる敵をパンチとキックで倒しながら、フロアごとに待つボスを攻略し、最終層のMr.Xを倒してシルビアを助け出すという、映画の内容とは異なるものとなっていた。ファミコン版は任天堂が1985年にリリース。合成音声が衝撃的だった。

『スパルタンX』のファミコン版は任天堂が発売してたから、アーケードが先っていうのを知らない人もわりといそうだお。
このアーケードとファミコン版の『スパルタンX』は、同名の映画とタイアップしているものの、舞台やストーリーなどは映画とはかなり異なっていた。敵組織のリーダーの名前が〔X〕という設定が、その最たるものだ。
『ファミコンロッキー』【※】で『スパルタンX』が出てきた話は、ヒロインのシルビアが真の〔X〕だっていう驚愕の展開だったお。
※ファミコンロッキー……1985年から87年にかけて月刊コロコロコミック誌上で連載された、ファミコンを題材としたマンガ。あさいもとゆき作。ファミコンマンガの中でも、当時ジャッキー・チェンや映画『少林寺』などで人気を博していた拳法ブームを取り込んで差別化し、人気を博した作品。作品を独特のものにしていたスタイルのひとつに、事実のように描かれる裏技の数々があり(『スパルタンX』の真のXはシルビアだったなど)、劇中ゲームの挙動が虚実入り乱れているため、裏技の真偽の判別が難しく、当時の読者キッズに多くの誤解を生んだというエピソードもある。
(書影は編集部員所有の『ファミコンロッキー』)
それは、あのマンガによくあった架空の設定のひとつだがな。さておき、アーケード用の『スパルタンX』を紹介した雑誌の記事を確認すると、「マイコンBASICマガジン」【※】の1985年2月号に「最強の敵。これが大ボスの〔X〕だ!!」との説明がある。この「大ボス」という記述は、公式のチラシや他誌の記事では確認できていないが、ビデオゲームにおいて、ボスに順位づけをした表現の初期の例のひとつだと言える。

※マイコンBASICマガジン
1982年から2003年まで電波新聞社から刊行されていたパソコン誌。通称ベーマガ。1984年ごろから精力的にビデオゲーム全般の攻略を掲載。90年代に入るころまで多くの読者を獲得した。

「ボスの中のボス」のさきがけってわけだお。

「中ボス」はゲーム特有の表現?

さて、『スパルタンX』のファミコン版の発売は1985年6月だったが、それから1年あまり経った1986年8月には、ファミコンのディスクシステム用『メトロイド』【※】が任天堂から発売された。この作品では、説明書などで「小ボス」という言葉が使われていたことが知られている。これは、ゲーム発売元の公式な表現としてビデオゲームのボスに順位づけをした、かなり早い例だと考えられる。
※メトロイド……1986年に任天堂が発売したファミコンディスクシステム用ゲーム、およびそのシリーズの総称。SF的な世界を舞台に、主人公・サムスが、ジャンプ、射撃、カラダを丸めての回転、爆弾放出など、アクションを駆使してダンジョンを探索する。スクロールタイプのアクションゲームだが、移動ルートに合わせ、上下左右にフリースクロールする。
(画像は任天堂公式サイトより)
そうは言っても、いまは「小ボス」よりも「中ボス」のほうがよく使われてる感じがするお。
確かに「中ボス」は、たとえば「マイコンBASICマガジン」の1987年8月号で確認でき、「小ボス」にわりと早く取って代わった感がある。ところで、「大ボス」・「小ボス」という言葉は、遅くとも1950年代以降の新聞記事や雑誌などで使用例があり、ビデオゲーム特有の表現というわけではない。これに比べて「中ボス」は、ビデオゲーム以外での用例が少ないようだ。
声に出してみたら、「おおボス」と「こボス」のあいだに「ちゅうボス」が入るのは、やっぱりちょっと違和感がありそうだお。
それは否定できないな。もっとも1980年代後半のゲーム雑誌でも、順位づけの最上位のボスを指す言葉の中で「大ボス」が圧倒的に広まっていたというほどではなく、「最終ボス」などもよく使われていた。
「最終ボス」は確かによく聞いたけど、いま考えるとちょっと「最終バス」っぽい響きもあるお。

影響が強かった「ゲーム音楽アルバム」

ともかく1980年代後半には、日本のビデオゲームで、ボスに順位づけをする「○○ボス」という表現が広まってきたわけだが、その一助になったと考えられるのが、続々と発売されるようになった、ゲーム音楽のアルバムだ。日本では、細野晴臣氏監修で1984年4月に発売された『ビデオ・ゲーム・ミュージック』※】がその嚆矢となり、任天堂の『スーパーマリオブラザーズ』の大ヒットを受けて、1986年からレコード業界の各社がこの分野に参入した。
※ビデオ・ゲーム・ミュージック……ナムコ(当時)のビデオゲーム10作品のサウンドを収録した、日本初のゲーム音楽アルバム(レコード)。1984年発売で、Y.M.O.散開後の細野晴臣がプロデュース。画像は2001年発売のCD版。
(画像はAmazonより)
1986年っていうと、ファミコンだと、さっきの『メトロイド』もそうだけど、『ゼルダの伝説』『ハイドライド・スペシャル』『ドラゴンクエスト』みたいな、RPGとかRPGっぽいアクションゲームとかが増えた時期だお。
この1986年前後には、ファミコンだけでなくアーケードゲームやパソコンゲームでも、舞台設定やストーリー性を重要視したものが増えてきており、音楽もそれらを支える表現のひとつとして注目度が高まっていた。そうすると、強敵に専用の楽曲を割り当てることはもちろん、最後に登場する敵との戦闘でだけ特別な曲を鳴らすということも、めずらしい手法ではなくなってくる。
なーるほど、そういうのが音楽アルバムになれば、曲名とか曲の説明の文章で、「ボス」っていう言葉が使われることも出てくるわけだお。
たとえば1988年に発売された、日本ファルコムのパソコンゲーム『イースII』【※1】の音楽アルバムには、「本ボス・ダーム」という曲名がある。そして1989年9月には、アイレムのアーケードゲーム『レジェンド・オブ・ヒーロー・トンマ』【※2】のアルバムが発売されたが、その曲名の中に「ラストボスステージ」という言葉が含まれている。ゲーム開発元が公式に「ラストボス」という言葉を使ったものとしては、かなり早いものだと考えられる。
※1 イースII……1988年に日本ファルコムより発売された、アクションRPGシリーズの第2作で、ストーリーは1作目を完全に継承。PC8800シリーズに始まり、さまざまなハードに移植され、のちにリメイクもなされている。
(画像はプロジェクトEGGより)

※2 レジェンド・オブ・ヒーロー・トンマ
1989年にアイレムがリリースした、アーケード用スクロールアクションゲーム。とらわれた王女を助けるため、トンマ宝帝が冒険に出る。指先から放つ光弾で敵を攻撃。プレイ中に手に入るアイテムによって、光弾の軌道が変化するのが特徴。コミカルな雰囲気は1年後に登場した『大工の源さん ~べらんめ町騒動記~』に引き継がれた。PCエンジンに移植されており、こちらはWii Uのバーチャルコンソールでも楽しめる。

おー。いよいよ「ラストボス」まで来たわけだお。
また、この半年後の1990年3月、コナミの「悪魔城ドラキュラ」シリーズ【※】を題材に発売されたアルバム『悪魔城ドラキュラ ファミコン・ベスト』にも、「Last Boss」という曲名がある。つまりこのころにはもう、ゲーム開発者やプレイヤーのあいだで、「ラストボス」という言葉がある程度広まっていたのではないかと考えられる。
※「悪魔城ドラキュラ」シリーズ……1986年にコナミ(当時)より発売されたファミコンディスクシステム用ソフト『悪魔城ドラキュラ』とそのシリーズ。主人公ヴァンパイアハンターがドラキュラを倒すため、悪魔城内に潜入。アイテムを駆使し、罠をかいくぐり探索を進める。その設定からアートや楽曲などがゴシックホラーテイストの強い独特の雰囲気となっており、欧米でも『Catslevania』という名前で人気を博し、現在もシリーズ作の発売が続く。画像は『悪魔城ドラキュラ ファミコン・ベスト』。
(画像はAmazonより)

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