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「三日月宗近」のたゆたう曲線、清らかで優しい粟田口派とキリっと力強い来派──特別展 「京のかたな」の記念講演会・渡邉妙子氏

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 2018年9月29日〜11月25日まで京都国立博物館にて展示開催されている特別展 「京(みやこ)のかたな─匠のわざと雅のこころ─」(以下、特別展「京のかたな」)は、山城(京都)の刀剣が一堂に集結していることもあり、全国の刀剣ファンたちの間で話題となっています。

「三日月宗近」のたゆたう曲線、清らかで優しい粟田口派とキリっと力強い来派──特別展 「京のかたな」の記念講演会・渡邉妙子氏_001

 この特別展は、先日の記事でもお伝えしたように、刀剣育成シミュレーションゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』とのコラボレーションが行われており、ゲームファンの女性たちも“大好きな刀剣”を鑑賞するため、全国各地から来館しています。

国宝の刀剣19件と空前絶後!特別展「京のかたな」は『刀剣乱舞-ONLINE-』コラボでファンたちも大集結

 展示会の初日9月29日には、佐野美術館(静岡県三島市)館長の渡邉妙子氏(以下、渡邉氏)による記念講演会「京のかたな」が開催されました。
 講演会は事前に整理券配布がおこなわれ、満席。老若男女を問わず多くの刀剣ファンが興味深く渡邉氏の話に耳を傾けました。

 約1時間半の講演会では、京都の刀についての歴史をはじめ、刀鍛冶の系図による作風の違いや、京都の文化にいたるまで幅広い説明がおこなわれ、より深く特別展「京のかたな」を鑑賞できる内容でした。
 そこで、記念講演を聴講取材させていただいた、その模様をお伝えいたします。

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特別展「京のかたな」を開催している京都国立博物館では公式サイトでは「京のかたな鑑賞ポイント」がPDF配信されており、刀剣用語はもちろん、刃文、肌の色、茎(なかご)に刻まれた銘などについて詳しく解説されている。

文/かなぺん


 日本刀の反りに見られる曲線美

 まず初めに渡邉氏は、「日本刀のかたち〜京のかたち〜」として、平安時代12世紀に作刀された「太刀 銘三条(三日月宗近)」の曲線について説明。
 三日月宗近の美しさとして、柄に収める部分にあたる茎(なかご)から刀身下半分にかけての曲線をあげられ、「いっきに曲線を描かず、鎺(はばき)【※】付近のたゆたう部分。これほど美しいものはない」とひとこと。
 また、この日本刀における“円曲の反り”を作り出し完成させたのが京都であり、京文化を象徴する典型的な特徴にあたるため「この曲線をぜひ御覧ください」と述べました。

※鎺(はばき)
刀身の手もとに付ける金具。刀身と鞘を固定する機能がある。

https://twitter.com/katana2018kyoto/status/1021622075507716097

 「三日月宗近」は特別展「京のかたな」でも展示されており、ぐるりと刀を一周して見ることができます。三条宗近の手による刀剣の“たゆたう曲線美”を堪能しながら鑑賞すると、京文化を感じ取ることができるのではないでしょうか。

 渡邉氏は、平安時代の三日月宗近と鎌倉時代に造られた刀を比較しながら「曲線を見るのは難しいと言われますが、こうして比較してみるとよくわかります。刀の曲線はその時代を象徴しているので、曲線から時代がわかり、また刀鍛冶によっても違います」と刀剣鑑賞のポイントとしての“曲線美”についても指南しました。

 刀の反りの来歴についても、9世紀頃に坂上田村麻呂【※】が使用していた刀は反りのない直刀(ちょくとう)であったこと、反りが12世紀ごろに確立されたことから「反りは簡単に出来たわけではないんです」と渡邉氏。
 そして、渡邉氏はヨーロッパや蒙古襲来などの話を混じえながら、海外の刀と日本刀の比較にも触れ、刀の佩き方の違いも説明。日本刀の反りこそが他の国々の刀には見られない日本刀の特徴であると語りました。

※坂上田村麻呂
平安時代初期の武将であり、征夷大将軍に任命され蝦夷地を平定した。

京の刀──地鉄、刃文、沸と匂

 渡邉氏は地鉄(じがね)、刃文、沸(にえ)と匂(におい)からみる“京の刀”の特徴についても語りました。

 地鉄【※1】については、応永30年に写本された刀剣書である『鉻尽(観智院本銘尽)』【※2】を引用し山城(京都)と備前(岡山)の刀鍛冶を例に、“はだ白し”よりも“はだ青し”の評価が高く、粟田口吉光の打った刀は“青く澄む”とさらなる評価がされていることを説明。特別展「京のかたな」でも、この『鉻尽』は10月16日~28日に展示されます(展示期間以外はパネル展示)。

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※1 地鉄(じがね)……刀身の表面に現れる地紋のこと。鉄による肌模様が地肌とよばれ、その下地が地鉄と称されている。
※2 『鉻尽(観智院本銘尽)』……国立国会図書館蔵されている重要文化財であり、応永30年に写本された刀剣書。
(画像は銘尽 – 国立国会図書館デジタルコレクションより)

 刃文については、「三日月宗近」の刃文が小乱混じり(小物出来)であり、その刃文が三日月に見えることから名付けられたことに言及。加えて、作刀された平安時代12世紀には、精錬技術がそこまで進歩していなかったと考えられており、その後、鎌倉時代13世紀に作刀された「短刀 銘吉光(信濃藤四郎)」になると、刃文に不純物がほぼ見られないことから、「100年の間で精錬技術が向上している」と述べました。

 さらに、山城と備前の刀の違いとして、沸(にえ)と匂(におい)【※】を挙げ、刀に見られる霞がかった匂出来は備前の特徴であり山城の刀には見られないこと、一方の山城の刀には荒沸(沸の粒が荒いこと)が見られることを指摘しました。

※沸(にえ)と匂(におい)
佛と匂はどちらも刃文に現れる白い粒のこと。粒の洗いものを沸、霞がかっているものが匂という。

 特別展「京のかたな」では、備前鍛冶をはじめとする他国の技術的交流をしめす作品も多く展示されているので、山城の刀と比較しながら鑑賞を楽しむこともできるのではないでしょうか。

清らかで優しい粟田口派とキリっと力強い来派

 粟田口派や来派は『刀剣乱舞-ONLINE-』ファンの方にとって、親しみのある言葉です。
 ゲームに登場する粟田口派の刀剣男士といえば、貴品漂う一期一振をはじめ、多くの穏やかな刀剣男士たちの姿が思い浮かぶことでしょう。
 一方の、来派といえば明石国行、愛染国俊、蛍丸の3振りがゲーム内に登場していますが、こちらは戦場における“高い機動力”が印象的です。

 今回、記念公演を聴講した『刀剣乱舞-ONLINE-』ファンの中には、刀剣男士と刀剣のイメージの相互性を感じた方もいたのではないでしょうか。

https://twitter.com/katana2018kyoto/status/1022345797835386880

 渡邉氏による「京の刀鍛冶の系図」の講演は、三条派(平安時代)、粟田口派(鎌倉時代初期)、来派(鎌倉時代)、長谷部派(南北朝)、信国派(南北朝)の、それぞれの刀にまつわる作風の特徴についてのものでした。

 鎌倉時代前期〜中期にかけて栄えた粟田口派は、「日本刀の歴史の中において清らかで優しく、豊かな刀を作り、非常に高い技術力を持っていた」と渡邉氏。また、直刃が多いという特徴も見られるとのことです。
 鎌倉時代中期〜後期に隆盛した来派については京都で刀を作ってはいたものの、「おそらく貴族の注文を受けたのではなく、北条一族つまり鎌倉武士によって注文されたと考えられ、京文化を取り入れていながらも力強い刀」と説明。

 そして、両派はどちらも見事であるものの、鎌倉文化のキリッとした象徴を感じる来派と京都文化の優しく上質な粟田口派、それぞれの魅力について、地紋や地鉄、肌の細かさについての違いも語られました。

 特別展「京のかたな」の“第三章 粟田口派と吉光(鎌倉時代前期〜中期)”では「刀 銘 左兵衛尉藤原国吉(鳴狐)」や「短刀 銘 吉光(後藤藤四郎)」など、多数の粟田口派の刀が展示されおり、粟田口吉光の刀にいたっては国宝、重要文化財を含め16振り! 思う存分粟田口派の刀剣を鑑賞することができます。

 続く“第四章 京のかたなの隆盛(鎌倉時代中期〜後期)”では、「太刀 銘 国行(明石国行)」など多くの来派の刀剣も展示されています。なんと……今回の特別展は来派の国宝が勢揃いしています。
 今回の渡邉氏の解説による両派の特徴を、それぞれ踏まえた上で鑑賞すると、その違いや特徴をさらに楽しむことができ、深く刀剣を知ることができるのではないでしょうか。

 展覧会に先駆けて9月28日におこなわれた記者発表会では、粟田口や来派の刀の展示件数についても説明が行われています。
 また、ニコニコ生放送では、10月15日の時点で「記者発表会」「記者説明会&内覧会 生中継 【ニコ美】」「京都国立博物館 「京のかたな」を巡ろう ≪橋本麻里×末兼俊彦 解説付き生中継≫【ニコ美】」の3番組がタイムシフトにて視聴可能。
 さらに、10月22日には「京都国立博物館 「京のかたな」を巡ろう2 ≪橋本麻里×末兼俊彦 解説付き生中継≫」が予定されています。

京都国立博物館 「京のかたな」を巡ろう2
≪橋本麻里×末兼俊彦 解説付き生中継≫

 

22日の生放送は源氏の重宝と伝わる「髭切」「膝丸」並ぶ絶好の時期に実施!名刀に関する解説を、たっぷり2時間にわたりお送りします。知れば知るほど特別展「京のかたな」に行きたくなる生放送!

刀剣評価をリードし、作法を確立した京文化

 桃山時代になると、京都は刀剣の評価や鑑定において全国をリードし続けていたそうです。京の刀剣評価の役割」では、織田信長に寵愛され、豊臣秀吉に仕え、徳川家康時代まで活躍した刀剣鑑定士でもある本阿弥光徳(ほんあみこうとく)についての話となりました。本阿弥光徳は何冊もの刀剣の目利き書を執筆しており、渡邉氏は「江戸の武士たちの書棚には必ずあったと言われています」と説明。とくに『解紛記』は「現代にいたるまで、これほどの解説書はなく素晴らしい」と、その内容とともに本阿弥光徳の人としての大きさに触れていました。

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『解紛記』は現在、国立国会図書館の「デジタルコレクション」で公開されている。
(画像は解紛記. [1] – 国立国会図書館デジタルコレクションより)

 さらに、14世紀後半の足利義満時代に伊勢貞丈が記した『武家改案』という刀のマナー本がありこれには大名が将軍に刀剣を贈るときに“折り紙をどう挟むか”などの作法が記述されており、刀にまつわる作法は京都で確立され、また京都が刀のリーダーシップをとっていた」と渡邉氏。

 最後は、鍔(つば)などの刀装具についての話題となり、刀剣の世界は刀だけではなく総合美術であり、「そのなかに武士の誠や豊かな文化がみられる」と述べ、渡邉氏の記念講演は締めくくられました。「三日月宗近」のたゆたう曲線、清らかで優しい粟田口派とキリっと力強い来派──特別展 「京のかたな」の記念講演会・渡邉妙子氏_005

 かつてないほどの規模で山城の刀が一堂に集結している、特別展「京のかたな」。『刀剣乱舞-ONLINE-』から刀剣に興味をもったファンの方たちにとっても、胸高まる展覧会であることでしょう。

 とはいえ、刀剣の鑑賞ポイントは? 時代別の特徴とは何? ○○派ってたくさんあるけれど、それぞれ何が違うのだろう……。とまだまだ分からないことが多い方もいるのではないでしょうか。
 今回、特別展に合わせて行われた渡邉氏の記念講演では、1時間半という短い時間ながらも、粟田口派と来派の違いはもちろん、三日月宗近が“天下五剣の刀”といわれている美しい所以にいたるまで、知りたい部分を知ることができました。

 また渡邉氏は、刀を“たゆたう”や“はんなり”と表現し、その言葉を聞きながらモニターに表示される刀を見ていると「あぁ、そういうことなのか……」と深く頷け、刀の表現まで深く学ぶことができました。
 刀剣を深く知ることで、刀鍛冶たちが刀剣に込めた思いはもちろん、その歴史に思いを馳せるながらだと、さらに刀剣鑑賞が楽しくなることでしょう。

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著者
「三日月宗近」のたゆたう曲線、清らかで優しい粟田口派とキリっと力強い来派──特別展 「京のかたな」の記念講演会・渡邉妙子氏_007
コスプレ雑誌の編集部を経て、電ファミ初の女性スタッフとなった編集者。乙女ゲームと育成ゲームをこよなく愛し、BLゲームを嗜んでいる。2.5次元舞台の観劇とコスプレ撮影が趣味。アニメに影響されフィギュアスケートを習っている。

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