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8大会で7度優勝の『テトリス』絶対王者を破ったのは弱冠16歳の新世代プレイヤー。「ハイパータッピング」を駆使して競技『テトリス』の歴史塗り替える

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 オレゴン州ポートランドで開かれた『テトリス』の世界大会「Classic Tetris World Championship」(以下、CTWC)にて、過去8大会中7回を制覇したチャンピオンを破り、弱冠16歳のテトリスプレーヤーが歴史的な勝利を収めた。

 2010年から開催されているCTWCは、北米版のファミコンであるNintendo Entertaiment System(以下、NES)で1989年に任天堂からリリースされた『Tetris』を使った大会だ。NES実機、本物のカートリッジ、CRTモニターを使用する。プレイヤーは自身のコントローラーを持ち込めるが、無改造のものだけに限られている。

 NES版『Tetris』には対戦機能が搭載されていないので、勝敗は純粋なスコアだけで競われる。もしスコアでリードしているプレイヤーが先にゲームオーバーとなった場合、追いかけるプレイヤーがそのスコアを超えれば勝利、届かなければ敗北となる。アメリカだけでなく日本からも選手が参加しており、今大会ではりょくちゃ氏が3位という成績を収めている。

 同様の形式は世界中に広まり、米国だけでなく欧州、シンガポール、香港でもNES版『Tetris』の大会が開かれている。CTWCは予選を勝ち抜いた40名が本戦を戦い、3本試合で先に2勝したプレイヤーが勝ち上がるトーナメント形式だ。決勝戦は5本中3本先取のルールで行われる。

 CTWCにはこれまでも多くのスタープレイヤーが参加している。1990年に開催されたNintendo World Championshipsの12歳から17歳までの部門で優勝したThor Aackerlund氏や、公式記録として2009年に史上初めてNES版『Tetris』で最高得点の999999点に到達したHarry Hong氏もそのうちのひとり。
 そんな強豪ひしめくCTWCの歴史で、2014年にたった一度だけHarry Hong氏に優勝を譲ることになったが、それ以外の全てで優勝を手にしていたのが“NubbinsGoody”ことJonas Neubauer氏だ。

※Nintendo World Championshipsは『Tetris』だけでなく『スーパーマリオブラザーズ』、『ハイウェイスター』をカスタムしたゲームの累計得点で勝敗を決する大会だった。年齢別に部門分けされていたが、11歳以下部門で優勝したJeff Hansen氏と18歳以上部門で優勝したRobert Whiteman氏と非公式に頂上決戦が行われ、Thor Aackerlund氏が1位となった。

 輝かしいのは戦績だけでない。Neubauer氏は今年の1月に「テトリスで最も早く100列を消す」記録に挑戦していたところ、たまたま「テトリスで最も早く30万点に到達する」世界記録を2秒更新する1分57秒を叩き出す珍事も起こしている。なお、当初の目標もきちんと達成し、speedrun.comでは10月23日の時点でも1位に氏の名前が掲載されている。
 『Tetris』トッププレイヤーたちの姿を描いたドキュメンタリー「Ectasy of Order: The Tetris Masters」にも登場するなど、近年における『Tetris』界の絶対王者であったことは間違いない。

 そんな巨人を打ち破ったのが16歳の新星Joseph Saelee氏だ。1989年にNES版『Tetris』が発売されたとき、彼はこの世に影も形もなかった。37歳のNeubauer氏はインタビューで初めて『Tetris』に触れたのは6歳の頃だと答えているが、キャリアで考えれば、もしSaelee氏が生まれたときから『Tetris』をプレイしていたとしても追いつかない。

 Saelee氏はNeubauer氏を含めた多くのトッププレイヤーが使わない「ハイパータッピング」と呼ばれる特殊な技術を使う新世代のプレイヤーだ。通常、十字キーを長く押してテトリミノを移動させるが、「ハイパータッピング」は十字キーを素早く正確に連打してテトリミノを移動させる。この技術を使えば移動速度を落とさずにテトリミノを正確に移動できるが、危険で難しい技術でもある。

※Saelee氏がテトリスをプレイする様子。

 CTWC決勝戦は3本先取の5本勝負。1本目は終始安定した運びで、スコアでもSaelee氏がチャンピオンをリード。スコアが70万点を超えた頃、チャンピオンが痛恨のミスによりゲームオーバー、Saelee氏がリードを保ったまま1本目の勝者となった。2本目もSaelee氏は終始スコアでリードしていたものの、90万点を超えた頃にLミノを起きミスし先にゲームオーバー。祈るようにチャンピオンの画面を見つめていたが、チャンピオンは85万点に届かずゲームオーバーとなり、2本目もSaelee氏が勝利した。

 後がなくなったチャンピオンは3本目、それまで取っていたスコアで後を追う戦法を捨てて攻勢に出た。先にゲームオーバーとなったが、最終的に10万点差を付けていた。それまでとは打って変わってSaelee氏が追いかける形となったが、隙のないプレイングで猛追、優勝を決する勝利をもぎ取った。逆転を決めたのは、Iミノを使って4列同時に消す「テトリス」だったという劇的な勝利だった。

 終わってしまえばSaelee氏の3本先取によるストレート勝ちという圧倒的な勝利で終わったものの、試合内容で両者の差は僅差だった。激戦に勝利した若きチャンピオンは、感極まった様子で涙をこらえながらインタビューに答え、素晴らしいプレイヤーたちの中で勝利できたことを信じられないととぎれとぎれに語った。

 一方、4大会ぶりに銀のテトリミノトロフィーを握ることとなったNeubauer氏は試合後のインタビューで、新しいチャンピオンの技術を称賛し、「新世代のプレイヤーにバトンを渡すことは本当に名誉なことです」と新しいチャンピオンの誕生を祝福した。

 新たな技術を使う新世代のプレイヤーが劇的な勝利を収めたCTWC 2018。1984年に初めてプレイ可能なゲームが登場して30年以上が経った『Tetris』は、ゲームやルールだけでなく、プレイヤーも進化をし続けているゲームだ。

文/古嶋誉幸

ライター
8大会で7度優勝の『テトリス』絶対王者を破ったのは弱冠16歳の新世代プレイヤー。「ハイパータッピング」を駆使して競技『テトリス』の歴史塗り替える_001
一日を変え、一生を変える一本を!学生時代Half-Lifeに人生の屋台骨を折られてから幾星霜、一本のゲームにその後の人生を変えられました。FPSを中心にゲーム三昧の人生を送っています。
Twitter: @pornski_eros

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