2027年1月15日、『龍が如く』シリーズを手がけるRGGスタジオの完全新作『STRANGER THAN HEAVEN』が発売される。
物語は、父はアメリカ人、母は日本人という出自を持つ少年・大東真が、相棒となる真城優と出会うところから始まる。
そして「1915年:小倉」「1929年:呉」「1943年:大阪」「1951年:熱海」「1965年:新宿」という5つの時代、5つの街を舞台に、男たちのドラマが描かれる期待作だ。
本作は珍しいバトルシステムを採用している。左半身と右半身を別々に操作する。ガードも同じで、ボタンひとつでは受けられない。右から来た攻撃は右で、左から来た攻撃は左で防ぐ。そこで繰り広げられるのは、泥臭い喧嘩である。
ところが、それを作る開発チームは、これまで『龍が如く』シリーズでひたすら「かっこいい戦い」を追求してきた集団だった。
そのためだろうか。「最初はどうやっても“かっこよくなってしまう”時期があった」のだという。だから彼らは、素人同士のリアルな喧嘩を研究した。
語ってくれたのは、初代から約20年間シリーズに携わってきたプロデューサーの阪本寛之氏と、『龍が如く7』の開発中に新卒で入社し本作のディレクターを務める阿部幹信氏だ。20年かけて磨いた「かっこよさ」を、どうやって手放したのか。gamescom 2026の会場で聞いた。
どう作っても「かっこよくなってしまう」。だから素人同士の喧嘩を研究した
──お二方がこれまで作ってきたゲーム制作の経験は、本作にどのように生きているのでしょうか。
阪本氏:
私は初代から約20年間、スピンオフを含めたさまざまな『龍が如く』シリーズに携わってきました。
でも、今回の『STRANGER THAN HEAVEN』は、そのなかでもすごいんです。これまでのシリーズを踏襲せず、ゲームシステムから何から何まで、完全に新作としてゼロから開発を始めた作品ですから。この歳になっても「やっぱりゲーム開発って難しいな」と痛感しています。
阿部氏:
自分は『龍が如く7』の開発中に新卒で入社し、そこからシリーズに関わっています。
『龍が如く7』は、ちょうど主人公が春日一番に交代したタイミングでした。今回も主人公が変わり、そもそもまったく別のゲームを作るということで、当時新しいものを作っていたときの「産みの苦しみ」を思い出しながら今作に臨んでいました。
──左半身と右半身を別々に操作するシステムを採用している本作ですが、斬新な発想と「破綻せずに遊べる」ことの両立は難しかったのではないでしょうか。プレイヤーの手に馴染むようになるまで、どのような経緯をたどったのですか?
阪本氏:
ものすごい試行錯誤を重ねて、今の形に至りました。
正直にお話しすると、最初は「押した瞬間に右手・左手が出る」「同時に押したら両手が出る」といったものを作ろうとしていたんです。でも、それだとどうしても「テックデモ」みたいになってしまって。
「これだとゲームのバトルにしづらいね」という話になり、自由度は高くしつつも、しっかりとコンボがつながる「喧嘩チックな動き」に着地させようと方針を固めました。そこからモーションの繋ぎかたなどを細かく調整していきました。
さらに、入力時の割り込み処理の課題もありました。これまでならワンボタンの連打で固定のコンボが成立していたところに、ものすごい数の分岐が生まれるわけですからね。そこはもう「緻密にやるしかない」と覚悟を決めて作り込み、結果として今のシステムになっています。
──試遊で触らせていただいたのですが、迫力のあるアクションになっていますね。
阪本氏:
ありがとうございます。今回は、技のひとつとってもその重みや生々しさを出せるようこだわっています。エフェクトを使った派手なSFチックな表現や、ファンタジー的な表現にしてしまえば、ある意味もっと楽に作れるんですよ。
でも今回はそうではなく、「重たいものを振ったら重く当たる」「攻撃を食らったら、痛みが伝わるような動きをする」という、ものがリアルに当たった感覚を追求しました。
フルコンタクトで戦うことの本来のよさ、気持ちよさみたいなものをいちから思い出して……原点に立ち返って積み上げ直した作品になっています。
──マジの喧嘩らしさ、本当に殴っているような感覚を表現するために、演出的にはどんな部分にこだわりましたか?
阿部氏:
先ほどの阪本の「試行錯誤」という言葉にも繋がるんですが……我々はこれまで、ひたすら「かっこいい戦い」を追求してきたチームなんです。だから今回も、最初はどうやっても「かっこよくなってしまう」時期があったんです。
でも、今回は生々しい「泥臭い喧嘩」を作らなければいけない。そこで、素人同士のリアルな喧嘩を研究しました。
すると、現実の喧嘩って意外と綺麗なパンチなんて出ないし、泥臭いもみ合いになる。そこに着目しました。
──その素人同士の「泥臭い喧嘩」は何からインスピレーションを受けたのでしょうか?
阪本氏:
そうですね……たとえばこれまでのシリーズだと、主人公の桐生一馬はもう「喧嘩の頂点を極めたような存在」じゃないですか。
だからパンチやキックひとつとっても、どこか格闘家のような洗練された部分があったり、体の軸がぶれなかったりする。これまでは、そういう強さをうまく表現していました。
でも、今作の主人公である大東真の若い頃は、本当に普通の青年なんです。技術なんてなにもなく、常に全力で、常に大ぶり。身体全部を使ってとにかく殴りに行く。
だからこそ、モーションをひとつひとつ確認して、「今のはちょっと格闘家チックな動きだったね」と細かく修正していきました。
平和な街が突然、命がけの戦場になる。「偶発的に起こるドラマ」を設計する
──今回の試遊では、アクションが苦手な私でもなんとか上級編までクリアできたのですが、プレイを通じて「ガードの使い分けが非常に重要」だと気づきました。このガードの仕様には、どのような意図が込められているのでしょうか?
阪本氏:
そもそも本作は「右半身と左半身を使い分ける」というコンセプトからスタートしています。敵が右や左から殴ってくるのに対し、プレイヤーも右や左から殴る。
この攻防において「ボタンひとつで全部ガードできます」にしてしまうと、せっかくの左右独立したゲーム性を壊す、オールマイティーな機能になってしまうんですよね。だからこそ、ガードも左右を使い分ける仕様にしました。
ある意味で難易度は少し上がるのですが、そこさえ乗り越えてもらえれば、これまでのアクション操作よりもう1段階上の「遊びごたえ」が生まれると思ったんです。
じつは、ボクシングゲームも結構近いわけですよ。右ジャブと左ジャブ。ボクシングゲームって、やっぱりもっと複雑な操作はあるんですけど、そこまではいかず。ちゃんと思った通りに「右、左」というのをゲームの画面を通じて意識すれば上手くなっていく。そういったところをゴール地点として、みんなが思い描いて積み上げていった結果だったりします。
さらに言うと、馬乗りになったときの攻防など、一見ガードができなさそうな場面でも、じつは左右のガードがしっかり機能するんです。いろんな場面で「右と左」がしっかり機能することがわかってくると、より深く楽しんでもらえると思いますよ。
──プレイしていると主人公と一体化していく感覚があります。終盤で敵が出現した際、こちらにただ直進するのではなく、道端の自転車を蹴り飛ばしながら向かってきた動きも印象に残っています。こうした「ステージの環境」と「喧嘩」の関係性は、どのように設計されたのでしょうか?
阿部氏:
今の自転車の例がまさにそうなんですが、我々としては「偶発的に起こるドラマ」を大切にしているんです。
現実でも、たまたま起きた出来事がすごくかっこよかったり、逆にダサかったりするじゃないですか。そういうことがゲーム内で自然に起こるように、間口を広く設計しています。
今作では、平和な街を歩いていても、いつどこで命がけの戦いに巻き込まれるかわからない。昔のヤクザ映画のような、常にヒリヒリとした危険を感じる街としてデザインしているんです。
阪本氏:
そうした環境の利用も、我々が追求する「生々しさ」のひとつです。
吹き飛ばされた敵が周りの物をぶっ壊しながら倒れていく。もちろん自分がやられる時も同じです。どこでどんな戦いが起き、どんな結末を迎えるのか。それが環境ごとで自然に演出できるような仕組みで作っています。
たとえば階段でタックルすれば、「ふたりでもみ合いながら転げ落ちる」なんてことも起きます。逆に言えば、その場所でやらない限り起きません。そういった場所ごとの表現も、生々しい喧嘩として仕込んでいます。
所作も、言葉の使いかたも、テンポ感も変わる。50年を生きる主人公の演出
──本作は主人公の「50年間」という非常に長い人生を追っていく作品ですよね。そのなかで生じる「円熟」や「老い」といった人間としての変化を、どう描いたのか教えていただけますか。
阪本氏:
システム的な成長でお話しすると、主人公の大東真も、若いうちは本当に弱いんですよ。でも、プレイヤーと一緒にいろんな経験を積んでいくことで、それがまさにバトルへと影響していきます。
たとえば、ナイフをたくさん使って戦えば技や能力が変わっていきますし、ハンマーを多用すればハンマーが得意な大東へと成長していく。使い続ければ使い続けるほど能力が開花していくという、年月をベースに熟練度が上がっていく仕組みが根底にあります。
あと「老い」に関してですが、ゲームとして「リニアに老いて強くなっていく」という表現はなかなか難しい部分があります。ですので、物語の大きなフェーズごとに、老いや変化を感じさせるような何かが起きる構成になっています。
阿部氏:
「老い」からは少し離れますが、演出面でこだわったポイントがもうひとつあります。大東真は日本へやって来て、最初は別の国の人間としてさまざまな差別を受けるわけですよね。
じつは私自身も過去に海外で暮らしていた経験があり、帰国した際に、大東ほどひどくはないにせよ「居場所がない」と感じる経験をしました。今回は、大東が日本で居場所を見つけていく物語を描くにあたり、その時の経験をベースにしているんです。
自分がいる環境や、その時に関わっている人によって、少しずつ所作や言葉の使いかた、テンポ感が変化していく。その過程の演出にはものすごくこだわりました。
モーションキャプチャーや音声収録の現場でも「ここはもうちょっと日本人らしく」といったディレクションを出しながら、丁寧に作り上げています。
──阿部さんのご経験(居場所を見つける)にも通じるかもしれませんが、本作は「排斥された人々がショービズ(ショービジネス)で力を得ていく物語」ですよね。
スヌープ・ドッグやTupacが登場し、環境音をディグる(採集する)というサンプリング的な手法もある。作品全体に「ヒップホップ的な要素」が散りばめられているように感じたのですが、これは意図してのことでしょうか?
阪本氏:
それでいうと、ヒップホップに限った話ではないんです。本作は長い年月の中で「ショービズ」全体をモチーフに、さまざまなゲーム要素を盛り込んでいます。
本当にいろんなジャンルの楽曲が登場しますし、大東が歌手や演奏、舞台演出なども含めて「この時代にどうヒットさせるか」を仕掛けていくことになります。
ですので、ヒップホップ一択というわけではありません。もっと幅広いジャンルが登場しますので、そこはぜひ楽しみにしていてください。
一番大事にしているのはローカライズのクオリティ。言語による身振り手振りの変化まで細かく調整
──今作では多くを「一度リセットした」と横山(RGGスタジオ代表 横山昌義氏)さんが話されていました。実際に現場で、『龍が如く』の資産をどこまで捨て、逆に「これだけは残す」と判断したのはどこだったのでしょうか。
阪本氏:
正直なところ、デザインリソースは完全にすべてイチから作り直しています。時代が違いますからね。過去のデータは、なにひとつ使っていません。
今回はXboxやPS5といった現行機で動くようにしていて、下位互換を切ったこともあり、過去の資産は思い切って捨てました。
なので、残っているのはもう「マインド」だけなんですよ。「これは大事にしよう」だったりとか、「ここには俺たちこだわろうぜ」とか「魂」の部分ですね。
思えば『龍が如く7』で初めてRPGを作ったときもそうでした。ジャンルもシステムも何もかも作り変えたのに、プレイした後に「やっぱり龍が如くだよね」と思ってもらえた。あの経験があるからこそ、こういうマインドで自分たちの強みを活かすのが一番いいよね、というところは結構こだわりました。
阿部氏:
今の話にすごく通じるんですが、物語や演出を作る現場でもまったく同じでした。
「マインドだけを残した」という言葉の通り、「過去の『龍が如く』はこうだったから」というような縛りは、会話の中にも一切出てこなかったんですよ。
純粋に、この『STRANGER THAN HEAVEN』の物語を描くにあたって、どういう演出や芝居、モーションにするべきか。それをイチから組み立てていったので、本当に「白紙」から向き合った作品だったと思います。
阪本氏:
僕らの中で広く共通しているマインドは、「尖ったものを作ろう」ということなんです。その熱量や姿勢は、本作の随所にしっかりと浸透させられたと思っています。
──本作にも「尖ったものを作る」というマインドが継承されているんですね。話題は変わりますが、本作は海外からの反響も大きいと伺っています。グローバルに遊ばれることを前提として、開発現場で意識された演出などはありますか?
阪本氏:
現在は海外での売り上げ比率が非常に高くなっている時代なので、我々が一番大事にしているのは「ローカライズのクオリティ」ですね。
原作である日本語版の細かなニュアンスを、いかに他の言語でも同じように楽しんでもらえるか。セガ・オブ・アメリカのローカライズチームも含め、そこにはいつも並々ならぬ気合いを入れています。
本作ではさらに多言語対応を進めており、『STRANGER THAN HEAVEN』ではアラビア語にも対応する予定です。
日本を舞台にしたこのユニークなゲームを、世界中の人にどう楽しんでもらうか。そこは今後も非常に重要ですし、気が抜けない部分だと思っています。
阿部氏:
演出面で言うと、本作には国際色豊かなキャラクターが多数登場します。主人公の大東真自身も、日本とアメリカにルーツを持つキャラクターですしね。
そのため、英語や他言語の「訛り」や「特有の喋り方」には徹底してこだわって作りました。
しかも、単なる音声収録の訛りだけでなく、言語によるアニメーション(身振り手振り)の変化まで細かく調整しているんです。日本が舞台でありながら、そうした海外のリアルな要素をしっかりと描くことは、本作の大きなこだわりポイントになっています。
──最後に、読者のみなさんへ向けてひと言ずつメッセージをお願いします。
阪本氏:
今回のgamescomでは、初めて一般の方にプレイしていただく機会を得られました。発売までまだもう少し時間はありますが、今後もみなさんが実際に手に取って楽しめる機会を作っていきたいと思っています。
少しでも興味のある方はぜひ体験しに来ていただければ、本作のよさがきっと伝わるはずです。よろしくお願いします。
阿部氏:
発売まではもう少しお時間をいただきますが、とにかくおもしろいゲームにするべく、開発一同精一杯力を入れて制作しています。無事に発売された際には、ぜひ皆さんにお手に取っていただけると嬉しいです。






