「醜さ」を欠損した世界だった。
だれからだろう。
優美の神をいただいたのは。
いつからだろう。
人が自らの醜さを直視できなくなったのは。
なにからだろう。
醜いゆえに存在を抹消されたのは。
どこからだろう。
「美しさ」への反証が許されなくなったのは。
神に賜りし美しさは、守るべきものとなった。
美しさへの反証は、除くべきものとなった。
全ての醜さとともに、抹消、漂白、洗浄!
そして、世界は「美しくなった」。
少女もまた、「美しかった」。
美しいものだけを食べ、
美しいものだけを見て暮らしていた。
しかしある日、見つけてしまった。
「美しい」社会にあるはずのない綻びを。
そこにはびこる、無数の「醜いもの」を。
そこで描かれる、無明の未来の予想図を。
定義の消されたその「想い」を、少女は説明できない。
しかし「想い」に駆られた少女は語った。
理解できるものは誰ひとりとしていなかった。
ただ、誰もが判断した。
「あなたの想いは、醜い」
醜い少女は、拘束と再教育を受け入れた。
仕方ない、「醜い」のだから。
『それ』が訪れたとき、
『それ』のあまりの醜さに、人々は速やかに自死を選んだ。
少女の語った話は希望となり得たが、
「醜い」話に救われることなど、誰も想像も、望みもしなかった。
獄中にて『それ』を見上げた少女だけが、
己が手の中で希望が腐り落ちたことを知り、悔いた。
美しいとか、醜いとか、何の意味があったの?
優美の神も、他人も、彼女自身も、
誰ひとり答えられない疑問すら、『それ』は呑み込んでゆく――