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『ギ・クロニクル』第五夜(End 10「孤独」)

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第四の分岐

選択肢:ビョルカ
が選択されました!

退場(c)に分岐します。

『ギ・クロニクル』第五夜(End 10「孤独」)_050
『ギ・クロニクル』第五夜(End 10「孤独」)_051

 日が落ちようとしてる。

 その後は特に何事もなく、
 ただ重苦しいだけだった行軍(こうぐん)が
 終わろうとしてる。

 ビョルカが足を止めた。
 「お分かりですね」の顔。

 しかめっ面のウルヴルも、
 怯えた表情のゴニヤも、
 異論は挟まない。

 『儀』が始まる。

「……今日は誰も死んでいない。
 『誰も犠としない』の選択を
 増やしてもいいか、と……
 
 思いましたが、
 どうやら不要のようですね。
 
 では、ゆきます」

『ヴァルメイヤ、
  我らを導く死体の乙女よ。
  信心と結束をいま示します。
  ご照覧あれ……』

 
 血と肉と骨にかけて──
 
   みっつ。
 
     ふたつ。
 
       ひとつ──」

 4つの指が静かに動いて、
 それぞれの相手を指し示した。

 ……やっぱりだ。

 ウルヴルは、ビョルカを。
 ビョルカは、ゴニヤを。
 ゴニヤは……ビョルカを。
 それぞれ指さした。

 ゴニヤが私でなくビョルカを
 選んだ理由は、分からない。

 でも、態度から読めた通り。

「ワシがビョルカを選んだのは、」

「聞きたくありません」

「……選んだのは!
 小僧は『狼』ではなかったと、
 思い直したからじゃ。
 
 あやつが『狼』じゃったら、
 死に方なぞ選ばんでもええ。
 
 じゃあ『狼』は誰か。
 気付けばいかにも恐ろしい。
 ワシらを思い通りにするなら、
 巫女を乗っ取るのが
 いちばん確実じゃと!」

「なにしろ、フレイグの小僧は、
 巫女の言には絶対服従。
 ワシらもまずは疑わん!
 
 最初の『儀』で
 ワシを指名したのも!
 
 信仰の道から外れても
 『理』をとったワシが、
 邪魔じゃったからじゃな!
 
 何とか言え、ビョルカ!」

「……ふう……
 
 自分に言い訳を積み重ねて、
 それで納得できましたか?
 
 フレイグを誤って殺し、
 次も誤って殺すかもしれない。
 怯えていますね、ウルヴル。
 
 あなたも本当は
 疑っているのでしょう?
 ゴニヤが怪しいのでは、と」

「……
 むりもないわ。
 ゴニヤだって、あやしいと
 おもってるもの。
 
 でもゴニヤはまちがいなく、
 レイズルをころしたりなんて
 してないし……
 
 わからない、けれど……
 あえてひとりえらぶなら、
 ゴニヤをこわいめでみてくる、
 ビョルカかしら……って……」

「……ヨーズは、どうじゃ。
 
 もう結果は出ておるが、
 思うところは言えばええ」

 確かに、そうだ。

 3人の指さした先。
 私の指さした先。

 全部合わせて、
 結果は……出てしまった。

「ヨーズも、
 ビョルカを指さしたか。
 
 理由を聞いてもええかの」

 ……理由、ね。
 それにこだわるのは、
 今のウルヴルらしい。
 『村』らしくは、ない。

 ……でも。
 この選択をしたからには、
 ビョルカを否定するからには、
 それに従うのが筋、か。

 どうせ言い訳なのに。
 めんどくさいな。

「ビョルカが怪しいとか、
 悪いとかは思わない。
 
 ウルヴルやゴニヤと比べて、
 怪しくなさすぎた。
 
 ビョルカが『狼』だったら、
 ここを逃したら終わりだった。
 
 だからごめん。
 ここは退いて。
 
 もし違ったら……
 何としてでも、私が正すから」

 あー。
 余計なこと言っちゃった。

 クズの上に、もろい。

 だから最低なんだよ。

「いいでしょう。
 そうやって最善を考え、
 単身でことを為したなら、
 行いはヴァルメイヤのもの。
 私がどうこう言うことでは
 ありません。
 
 皆さんのここまでの協力に、
 特に、ヨーズの献身に、
 改めて、感謝を。
 
 では、すみませんが、
 とどめをお願いします、
 ヨーズ」

 あー。

 胸糞。

 最悪。

 ま、それが私か。

「……血と肉と、骨にかけて──」

『ギ・クロニクル』第五夜(End 10「孤独」)_052
『ギ・クロニクル』第五夜(End 10「孤独」)_053

 【ビョルカ死亡】

 【2日目の日没を迎えた】

 【生存】
 ヨーズ、ウルヴル、ゴニヤ

 【死亡】
 フレイグ、ビョルカ、レイズル

 

無法

『ギ・クロニクル』第五夜(End 10「孤独」)_054

「……始末はすんだ。
 
 で、どうする?
 夜の寝方(ねかた)。
 もうやめる?
 巫女の作法の真似事」

「……別にアレは、
 巫女の真似じゃから
 やったわけじゃなかろう。
 というか始めたの
 おまえじゃろうに……
 
 ワシとしては、安全のために、
 最善を尽くす、という姿勢は
 保ってええと思っとる。
 
 じゃが……ゴニヤはどうじゃ。
 体の具合によっては、
 皆で一緒におっても……」

「ゴニヤは、どっちでもいいわ。
 
 あまり、どうしたいとか、
 いえるたちばじゃないから……」

「……おまえが決めてもええぞ、
 ヨーズ」

 そりゃ、そうなるか。
 参ったな。

 もしかしたら、私が提案した、
 バラけるやり方が、
 『狼』を有利にしてるかも、
 と気づいた。

 もしそうなら、『狼』は、
 このやり方に固執するかも
 しれない。

 ……と思ったけど。
 2人ともしなかったな。固執(こしつ)。

「じゃあもう、一緒に寝ようか」

「ムウ。了解じゃ」

「わかったわ」

 まあ、こっちなら安全、
 とはならないけど。
 レイズル死んでるし。
 全員襲われて全滅、もある。

 それでも。
 近くなら気配が探れるかも
 しれないし、
 何もしないよりマシに思えた。

「……」

「……」

 ……あと、アレだ。

 気まずくて、全員黙ったけど。

 共謀とか、こそこそ話とか。
 そういうめんどくさいのが、
 近すぎてできないのは、
 よかったのかも、ね。

 ……

 結局それで、言葉少なに
 時間は流れて、
 みんな眠っていった。

『ギ・クロニクル』第五夜(End 10「孤独」)_055

 そして、深夜に吹雪が訪れる。

 やはり、だめだ。
 視界も何もかもだめ。
 というか……
 立ち上がれもしない。
 猟で夜を越すこともある私が、
 意識を保つのに精一杯。
 いや、意識、保ててるか?

 魔法的なおかしさ。

 この吹雪が異常なのか。
 それとも『護符』の副作用。
 分からないけど。

 いま人殺しがやってきても、
 気付くことも、
 抵抗することも、
 できないだろう。

『ギ・クロニクル』第五夜(End 10「孤独」)_056
『ギ・クロニクル』第五夜(End 10「孤独」)_057

 ……

 夜が終わった、

 ああ、くそ。

 それで結局、これか。

『ギ・クロニクル』第五夜(End 10「孤独」)_058

 【ゴニヤ死亡】

 【3日目の夜明けを迎えた】

 【生存】
 ヨーズ、ウルヴル

 【死亡】
 フレイグ、ゴニヤ、ビョルカ、レイズル

「ムウ……朝か……
 
 うおォッ!?
 何じゃ、
 鉄砲なんぞ向けおって!!」

「──動くな。
 あと、見るな。何も。
 
 あんたが『狼』じゃないなら」

──私の脅しを無視して、
 ウルヴルは長銃を払いのけた。

『ギ・クロニクル』第五夜(End 10「孤独」)_059

 そして見た。
 変わり果てたゴニヤを。

 ウルヴルは、叫んだ。
 絞り出すみたいに。
 頭掻きむしって。
 地団太踏んで。

 そして私に、
 怒りの目を向ける。

 演技か、これ?

 一応、ウルヴルが起きる前に、
 一通りは調べた。

 殺しの痕跡は、残ってない。
 ウルヴルにも、私にも。

 ゴニヤの周りには、
 足跡ひとつない。

 ただしゴニヤは、
 めちゃめちゃに死んでる。

 禁忌のことを置いても、
 自殺だとは思えない。

「私はやってない」

「だからワシじゃと!?
 ワシとてやっとらん!!
 きさまの言い分だけが
 通る状況でもあるまい!!
 
 きさまが──
 きさまがっゴニヤをっ!!」

「落ち着け。
 
 これはもう、
 私たちの善悪とか、意識とか、
 そういう段階の話、じゃない、
 かも」

「──なにを言うとるんじゃ!?」

「あー。あー。
 糞。糞尿。説明だる。
 
 ……私たちは、自分が『狼』と
 気付いてもないかも。
 夜だけ『狼』になって、
 殺してるかも。
 
 つまり、無意味。
 私らが、互いを疑っても、
 罵っても、憎み合っても。
 私ら両方、覚え無し。
 
 それで、殺し合う?
 不毛だけど」

「……そもそも、
 どうして殺し合える。
 
 ワシらには禁忌がある。
 『ヴァリン・ホルンの儀』
 他に、破る手立てがない。
 
 気付いとるか?
 
 残り2人になると、
 『ヴァリン・ホルンの儀』は
 機能せんようになる」

 ……それは、あれか。

 私がウルヴルを指さし、
 ウルヴルが私を指さすと、
 それ以上は決選も、
 何も起きない、ってこと。

「……手詰まりなんじゃ。
 もう、何もかも」

「そうとも限らない」

「なんじゃと?」

『ギ・クロニクル』第五夜(End 10「孤独」)_060

 私は、フレイグから引き継ぎ、
 首からかけてた
 『雪渡りの護符』を外して、
 雪の上に──

「──ビョルカが言ってた。
 『誰も犠としない』の選択を
 増やすのは、アリ」

「……そ、それが何じゃ。
 選んだところで、
 『儀』が失敗するのと
 何が違う……?」

「自分が『誰も犠としない』を、
 相手が自分を指させば、
 
 殺してもらえる。
 
 あー。つまり。
 これだと1対1で決選だけど、
 自分が嫌疑(けんぎ)をうけて外されて、
 改めて相手が自分を指さして、
 『犠』に決まるってことで……」

「……いいわい。
 言いたいことは分かっとる。
 
 ……じゃが、
 
 ヨーズ、おまえ、それは……」

「いいだろ。
 死にたくなきゃ、
 指さなきゃいい。
 『儀』が失敗するだけ。
 
 そしたら、別れようよ。
 もう一緒にいる意味とかない。
 
 めんどいのは、おわりで」

「……
 
 分かった……」

「うん。
 じゃ、いい?
 
 『我らを導く死体の乙女よ』
 
 ……なんだっけ。
 ま、いいか。
 
 血と肉と骨にかけて。
 
   みっつ。
 
     ふたつ。
 
       ひとつ──」

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