3日間でのべ50万人が訪れ、大盛況のうちに終わった今夏のコミックマーケット92。さまざまなサークルや企業が自らの作ったコンテンツを持ち寄るこの場に、一風変わったサークルが出展していた。
その同人サークルの名は「CURIOSIST(キュリオシスト)」。10年以上にわたってオリジナルのPC向け「クイズゲーム」を作り続けている、同人クイズゲームサークルだ。同人クイズとは聞き慣れないが、いったいどのようなゲームなのだろうか。
しかもコミケに参加するサークル約3万5000のうち、CURIOSISTのように同人クイズゲームを制作しているサークルはたったひとつだというから驚きだ。
CURIOSISTを実質ひとりで運営しているのは、昼は社会人、夜はクイズ作りという毎日を送っている朝森久弥さん(@asamorihisaya)。今まで作ったクイズの数は数千問に及ぶという。
https://twitter.com/asamorihisaya/status/915220921266270208
「自分がいなくなったら日本から同人クイズゲームの火が消えてしまう」――。そう語る朝森さんに、同人クイズゲームを作り続けるその情熱、4択問題の選択肢を作る理論などについて話を聞いてみた。
取材・文/透明ランナー
日本で唯一の同人クイズゲームサークル!?
――まずは自己紹介をお願いします。
朝森久弥氏(以下、朝森氏):
朝森久弥と申します。CURIOSIST(キュリオシスト)【※】という同人サークルで、約10年にわたってクイズゲームを作り続けています。
毎年2回のコミケにあわせて新作を発表し続けていて、今年の夏コミに出した新作で13作目になりました。そのうち10作はフリーゲーム、つまり無料版としても公開していて、無料版は累計3万ダウンロードほどになります。
※CURIOSIST
朝森久弥氏が主宰する同人サークル。2008年8月のコミックマーケット74で『クイズトラベラー -around the world-』を出品して以来、10年にわたって精力的に同人クイズゲームを制作し続けている。
――同人クイズゲームというとあまり想像できないんですが……どんな感じのゲームですか?
朝森氏:
すべて自分で作ったオリジナルの4択クイズを、毎回600問ほどパッケージにしてひとつのゲームにしています。特定のジャンルに偏らず、一般の社会人が普通に解けば6~7割は解けるような知識を問うクイズになっています。
いい問題や時代を超えても古びない問題は多少使いまわすこともありますが、それでも累計で数千問は作っていることになりますね。
――数千問も! ゲームは朝森さんが一人で作っているんですか?
朝森氏:
イラストとBGMは友人に頼んでいますし、BGMはフリー素材を使うこともあります。それもほぼボランティアみたいな感じなんですが。逆に言うとそれ以外、クイズの制作と、シナリオと、スクリプトはほぼすべて一人で作っています。
※2017年8月に公開された、新作の予告動画。
単にクイズを解いていくだけだと物足りないので、毎回必ずシナリオを入れています。たとえば2016年の『キュードル! Fresh Q-dol festival』【※】では、こんな感じです。
主人公は長野県に住む女子高校生。幼い頃に姉と離れ離れになっていたが、ある日姉が遠く離れた東京で、クイズを解くアイドル「キュードル」として活動していることを知る。
その直後、新人キュードル発掘イベント「フレッシュキュードルフェスティバル」(FQF)が開催されることになった。
「キュードルとして名を上げれば、お姉ちゃんに再会できるかもしれない!」 そう考え、キュードルになってくれる仲間を集めることにした……。
クイズを解くだけだと飽きてしまうので、主人公が成長できたり、プレイヤーが没入できるようなシナリオを考えています。
※キュードル! Fresh Q-dol festival
CURIOSISTが制作するアイドル育成クイズゲーム「キュードル!」シリーズの第一弾。2017年より、フリーゲーム配信プラットフォームFreem!にて無料配信中。
――クイズを解くという行為が、ストーリーの進行とちゃんと噛み合っているんですね。
朝森氏、おそらく日本で唯一の存在だった!?
――ちなみに同人クイズゲームサークルって他にあるんですか?
朝森氏:
コミケでは3万5000くらいサークルが出ていて、そのうち同人ゲームを出しているのが700~800ぐらい。さらにその中でオリジナルのクイズゲームを出しているところとなると、おそらく日本で自分だけでしょうね。
――おお、それはすごい! 同人ということは、今は社会人として昼間は働きながら、クイズ制作を続けているんですか?
朝森氏:
そうですね。コミケ前にはちょっと有給取ったりしますけど、基本的には夜や休日にクイズを作り続けています。
ちなみに本業はゲームとは全く関係ないですし、朝森という名前も仮名です。会社にバレたくないので(笑)。
https://twitter.com/asamorihisaya/status/900721707341586432
同人ゲーム制作者は本業でゲームを作っている人やプログラマーをしている人が多いイメージがありますが、私はまったく関係ない業種のアナログ人間です。
――仮名だったんですか(笑)。学生時代と社会人ではゲーム制作に対する時間のかけ方も違うんじゃないですか?
朝森氏:
そうですね。学生時代は授業に出てない時はずっとクイズを作り続けていました(笑)。でも就職すると、やっぱり深夜や休日をほとんど使って作るしかないですよね。「この一か月はずっとクイズ作ることに専念しよう」と決めて、缶詰になって作ることが多いです。
それでもクイズを作るのって大変で、どんなに頑張っても1時間4~5問くらいしかできないんですよ。
最近は翌日に響くので極力徹夜はしないようにしたいんですが、それでも今回の夏コミ前も徹夜続きでしたね……。この生活をずっと続けたら体を壊すぞと周りに心配されたりしてます。
――そこまでしてクイズゲームを作りたいという、その情熱はどこから来るんですか?
朝森氏:
やっぱり、自分が作らなければ日本から同人クイズゲームサークルがなくなってしまうという使命感ですね。
自分がいなくなるとジャンルそのものがなくなってしまう、うちはそんなオンリーワンサークルなんです。そういう思いを一人で抱えながら、もう10年もクイズを作り続けています。
小学生からクイズを作り続ける人生
――なかなか熱いお話ですが、朝森さんはどうしてクイズゲームを作るようになったんですか?
朝森氏:
小学生のころから、クイズを作って友達に解いてもらうのが大好きだったんです。勝手に「歴史検定」とか自分で名前を付けて、歴史の教科書の内容を自作の四択クイズにして、紙に書いてクラスメイトに解かせたりしていました。
いろんな物事を知ったら、すぐにそれを人に伝えたくなる子供だったんです。
――そんな昔から好奇心が強かったんですね。友達の反応はどうでした?
朝森氏:
喜んで解いてくれることもあれば、「何だこいつ」みたいな反応もありました。突然クイズを解かせてくるやつなんて周りにいないじゃないですか(笑)。でもたまに「この問題勉強になった」と言われるとそれが嬉しくて、またクイズを作る原動力になりました。
――それが朝森さんの原体験というわけなんですね。
朝森氏:
そして中学2年生の時に家にWindows XP【※1】が我が家に来て、初めてPCゲームがあるということを知りました。クイズをPCゲームにしたら同級生だけでなくもっとたくさんの人にやってもらえるんじゃないかと思いました。
最初に作ったのが、高校生のときに制作した『全力疾答!クイズマラソン』【※2】です。クイズに1問正解するごとに1km進んで、42.195kmを走り切ったらゴールするというゲームです。もうほんとに簡易的な仕組みのクイズゲームですが。
――なるほど。高校生の時には、実際のゲーム制作に挑戦していたんですね。
朝森氏:
当時「コミックメーカー」【※1】という、知る人ぞ知るビジュアルノベルやアドベンチャーゲームゲームを作れるソフトがあり、それで作っていました。私はプログラミングはほとんどできないですが、そういった簡易スクリプトを使えばゲームを作ることができます。
2016年の『キュードル! Fresh Q-dol festival』からは「RPGツクールMV」【※2】でゲームを作っています。
※2 RPGツクールMV
2015年よりKADOKAWAより発売されたゲーム制作ソフト。PC版の「ツクールシリーズ」としては11作目にあたる。本作よりMac版も発売。表題の「MV」は「マルチ・ビュー」を意味している。尚、2016年11月まではスパイク・チュンソフトが販売元だった。
そして第2作目が、大学3年のときに作った『クイズトラベラー -around the world-』【※3】。世界一周しながらクイズを解いていくゲームです。これは私が大学2年の時に世界一周をした経験を基にしたものです。
※1コミックメーカー
2000年代に流行していたビジュアルノベルやアドベンチャーゲーム向けのゲーム制作支援ツール。マニュアルなどが整備されているため、比較的優しい難易度でゲーム制作ができる。
※3 クイズトラベラー -around the world-
「CURIOSIST」のクイズゲーム2作目。2008年にWindows向けソフトとして発表された。コミックマーケット74にも出品。プレイヤーは、クイズトラベラーとして世界一周しながらクイズを解いていく。
――そうだったんですね! ではゲーム内で使われている写真は、朝森さんご自身で撮影されたものなんですか?
朝森氏:
そうです。初めはブログで旅行記でも書こうかなぁと思っていたんですが、せっかくだから自分にしかできないクイズゲームを作ろうと思って。そうしたらこのゲーム自体が自分の旅行記のような感じになりました。
そのとき、たまたま友人に聞いてコミックマーケットの存在を知ったんです。大学2年の冬に初めて行ってみて、この独特で自由な雰囲気が面白いなと思って。その日のうちにサークル参加の申込書を買って、自作のクイズゲームを出展してみようと思い、本格的に同人活動を始めました。
――コミケ初出展時の反応はどうでしたか?
朝森氏:
どのくらい売れるか分からないのでCD-ROMを100枚も焼いちゃったんですが、さすがに半分も売れなかったです(笑)。でもTwitterも何もない時代に、思ったよりいろんな人が注目してくれて、初参加にしてはけっこう売れるもんだなと思いました。
そのときにコミケの雰囲気っていいなと思い、その後も院試と就活のときを除いて今もずっとコミケに出展し続けています。
4択問題を数千問作り続けた男の「選択肢の理論」
――朝森さんが作るクイズって、基本的にすべて4択ですよね。作る上での苦労やコツってあるんですか?
朝森氏:
4択クイズは早押しクイズを作るのとはまったく違い、選択肢があるので、出来る限りまぐれ当たりを防ぐ工夫が必要になってきます。そのためにはいかに紛らわしい選択肢を作るかというテクニックの理論が、私の中できちんと確立されているんです。
――おっ、ぜひお聞きしたいです。
朝森氏:
例えば……
“蒼樹うめによる「まんがタイムきららキャラット」で連載されている漫画のタイトルはどれでしょう”
という問題。
答えは『ひだまりスケッチ』ですが、他の選択肢を『ワンピース』、『進撃の巨人』のようにバラバラなものにすると、消去法で正解率は高くなります。一方で選択肢を全部「まんがタイムきららキャラット」に載っている作品にすれば、正解率はガクンと下がりますよね。
――なるほど、たしかにそうですよね。
朝森氏:
正解にできるだけ近く紛らわしい選択肢を配置するというのが基本ですが、テクニックはそれだけではありません。たとえば「仲間はずれ理論」というものがあります。
“『結城友奈は勇者である』の主人公が好きな食べ物は何でしょう”
という問題。正解は「うどん」ですが、難易度を上げたければ、例えば全部三文字にするとか(「うなぎ」)、似たようなものにするとか(「そば」)、そういうカモフラージュの仕方が考えられますよね。
逆に難易度を下げたければ「仲間はずれ」を作ればいい。たとえば「りんご」「バナナ」「いちご」「うどん」のようにすると、うどんが明らかに浮いています。あるいは2:2に分けるという手もあります。
選択肢の組み合わせを調整することで難易度を変えることができるというのが、4択クイズにおける理論の本質です。当てずっぽうで答えが導かれるのを防ぐために、選択肢の作り方には常に気を配っています。
――選択肢も理論立てて作っているわけなんですね。
朝森氏:
これが意外と難しいし、1つの問題につき誤答の選択肢を3つ作るのってけっこうしんどいんですよ(笑)。これが感覚的にできるようになるまでには、1000問とか2000問といった規模でクイズを作り続けないといけないと思います。それができる人は日本にわずかしかいないでしょうね。